ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
最初は変わった奴、程度の認識だった。
腹が減っているのに他人に施すお人好し。オラリオじゃ食い物にされるだけ。
案の定、宿でぼったくられてたらしい事を弟子にした後で知った。
そう、弟子にした。はじめはただの義理。新しい発展アビリティもあった。
どうせ長く続かないと思っていた。冒険者に夢を見る子供。畑仕事ぐらいでしか肉体労働をしていない、何の準備もなくオラリオに飛び込み食い物にされるか、運良く進んでも現実に打ちのめされる十把一絡げな子供…………現実は現実だ。どれだけ夢を見ても越えられない壁があって、それを越えるのは簡単ではなくて、だから諦める。
でもベルは諦めなかった。
ベートの暴言に打ちのめされながらも、下を向くのではなく前を向いた。
ミノタウロスの影に怯えながらも、最後には乗り越えてみせた。精霊の少女と精霊を助けようとする少女の為に、自分より強い誰かに任せず戦った。
ついこの前【ルドラ・ファミリア】の残党が【アストレア・ファミリア】から離れたリオンを狙って騒動を起こしたとも聞く。実力があってしまったが故に『厄災』の初撃から冒険者達を庇い傷を負ったリオンと、なんやかんやあって深層に落ちて戻ってきた。
片腕斬られて繋げ直したばかりなのにこの作戦に参加したのか。アミッドがブチギレてそうだ。まあ、どれだけ叱られてもそれで誰かを守れるならベルはまた飛び込むのだろう。それがどれだけ危険でも。
ああ、ならば…………師である己が折れるわけには行かないだろうよ。
メレンから離れた海岸。されどオラリオから響く鐘の音が聞こえる距離。規格外の聴覚を持つとはいえ、距離はそこそこ。今からでもリヴァイアサンはオラリオを蹂躙出来るだろう。
冒険者を殺し、バベルを破壊しダンジョンを解放出来る。だが、それはリリウスを倒せればの話だ。
【マハヴィーラ・トリムルティ】の反動で全身が砕けそうなリリウスと、大元の魔石を失い崩れそうな肉体を無理矢理繋ぎ止めるリヴァイアサン。
剣と竜の牙が、炎と水がぶつかり合う。
この戦いを見て、誰が死にかけ同士の戦いなどと思うのか。
岩をも穿つ水粒の散弾の雨を超える。
竜の命を絶つ残光を崩れ掛けの鱗を犠牲に逸らす。
巨大な肉体はそれだけで武器となる。ましてや遠心力を載せられた尾など、かするだけでもリリウスを吹き飛ばす。
「…………!」
尾の一部が黒い氷で覆われ激痛が走る。ただの氷ではない。意識が一瞬そちらに向いたリヴァイアサンへ、月光が振り注ぐ。
「!!」
矢の大雨。一本一本の威力は低く、平時なら傷一つ与えない。しかし崩れかけの今のリヴァイアサンの肉を削る。骨には弾かれた。
「オオオアアアアア!!」
「!!」
チュインと、規模こそ小さいがこれまでで一番高密度の光がリリウスの胸を貫く。肺の一部に穴が空きゴボリと血を吐き出す。
互いに死に近づく。決着の時が近くなる。
より死に近づいたのは、リヴァイアサン。
海竜の魔石などその身を維持するのにまるで足りない魔石を無理矢理稼働させていたのだ。光線を放ったことにより、最早その身を維持するのは不可能。ボロボロと灰に代わり骨が剥き出しになり始める。
自覚しながら、リヴァイアサンは思う。
最早己に
「────!!」
振り注ぐ光の雨。海の覇王の魔力の燃焼に耐えきれなくなった海竜の魔石の一部が砕け始める。生存可能時間が刻一刻と削れ………否、消し飛んでいく。
このまま逃げに徹すれば自滅する。それで終わり。終わり? それで、勝利などと誰かが認めて納得できるなら、リリウスはLv.9になどなっていない!
「【
溢れ出る魔力。削られていく
「【
未来を見る目を失ったリリウスは、脳を電気で覆う。脳細胞同士のやり取りなど待ってられないとばかりに直結された処理能力で振り注ぐ雨を避ける。
「【
しかし壊れかけの肉体が心に追いつかない。避けきれない光弾を『釣り針』の鎖で弾く。
「【
詠唱は止めない。
感じる。その背に刻まれた魔法に、新しく刻まれたそれを。
「【
それは怪物を打倒し、遙か強敵に逆転の一手を齎す『英雄の一撃』。
「【サンサーラ・マンダラ】……『
髪の色は変わらず、瞳は紅く。これまでのように何かが頭抜けて強く伸びたりはしない。ただその身を白い光が包む。
リンリンと響く鈴の音。やがてカランカランと鐘の音に、ゴォンと
リヴァイアサンの攻撃が止まる。崩れかけた鰭を広げ、残る魔力を全て捧げる。巨大な光を前に、リリウスは一言
「【
マーダが魔力を喰らい燃え上がる。
【
光り輝くその姿に、響く鐘の音にリヴァイアサンは過去を幻視する。肉体の崩壊を完全に無視。最大最期の一撃が放たれようとしている。
リリウスもまた、
「オオオオオオオオオオオ!!」
「
光と炎がぶつかり合う。切り裂かれる光弾。突き進む白炎の斬撃。
鱗を溶かし肉を焼く。死して尚も残り続けた強靭な骨の表面が赤く発光し溶けていく。既に絞りかす同然の魔石が完全に焼き尽くされ、散る灰すら炎に焼き尽くされる。
白き聖火に包まれながら、リヴァイアサンはただただこの時間の終わりを惜しんだ。
「眠れ。今度こそ、
いずれまたダンジョンが新しく生むのだろう。此奴ではないリヴァイアサンを。どれだけの
轟音を立て大地を揺らす巨大な骨。漆黒の骨は煤が剥がれるように表面が剥がれ、レオンの剣に似た蒼が月光で輝く。
「あぁ…………なんどか、勝てたか………うぶ、えぇ!」
ベッと肺に溜まった血を吐き出す。アミッドに切り替えて回復魔法。
「…………よく勝てたな」
無理矢理性能以上の力を引き出した【マハヴィーラ・トリムルティ】、レオン達の参戦、新たに刻まれた格上殺し………其れ等の要素を足して尚勝利に持っていけたのは奇跡に近い。最後だって、打ち合いなどせずリリウスのチャージを待たなければ道連れにされていた。
竜の誇りがそれを許さなかったのだろう。
そんな竜の誇りを汚した奴が、まだ残っていたな。
精霊の六円環………六体の
これは囮。本来の目的は円環の中央……そこに座す邪竜を模した七体目の
穢れた精霊の存在を知らせたのもこの布石。もし精霊の存在を隠したまま精霊の六円環を発動しても、その魔力による異常に気付いた冒険者に逃げられ、オラリオは再び再建される。
敢えて存在を知らせ、ヒントを残し、対処させることでこの日に戦力を投入させ、戦力を六方向に分けさせ本命に対処させない。オラリオの第一級が集えば都市を破壊する力を持つ
其れ等を正面から叩き潰せるであろうリリウス対策に用意したリヴァイアサン・オルタナティブが超強化されたのは誤算だったが後は概ね予定通り……………その筈だった。
「ば、爆発は………!? 爆破はまだかああああああ!?」
ニーズホッグは葬られた。Lv.4の第2級冒険者によって。半狂乱になりながらロキに襲いかかり返り討ちにされるディオニュソス。
「アウラ………そうだ、アウラ! 此奴らを殺せぇ! 何処にいる、役立たずめ!」
「………それが、貴方の本性ですか、ディオニュソス様」
「……………フィルヴィス」
だが現れたのはロキの眷族とフィルヴィス。此処にいると言うことは…………いいや、アウラはまだ生きている!
「…………アウラからの伝言です。『お望みを叶えられず、申し訳ありません。貴方に汚された。自ら汚れた。それでも、生きていきます』…………だそうです」
「っ! ふざけるな、どいつもこいつも! フィルヴィスゥ! 此奴らを殺せ! お前は私の眷族だろ!? そうだ、アウラに変わり、今度はお前を愛してやろう! 知っているぞ、お前達が私に惚れていたのを!」
「ええ、惚れて
しかしそれは、過去の話だとばかりに首を振るフィルヴィス。
「今の私はリリウスのものです」
「リリウス……………リリウス……く、はは。ははは! そうか、そうか!」
その名を聞いた瞬間、狂乱は失せ狂気を取り戻すディオニュソス。
「そうだ、何を慌てることがある! 私を打倒したところで、何も変わらない! ダンジョンは最早限界だ、『約束の刻』を待たずして下界は冥府に変わる! 最後まで足掻き、生き残り、責任を押し付けられるであろう彼の悲鳴は、そう待たずに聞けるだろうさ!」
そう嗤い己の胸に短剣を突き立てる。
「見ていてやろう! 天界で、彼の行く末を!」
無数の光球に包まれ、死なせまいと本能的に発動した
「……………あ?」
四肢を貫く蒼穹の如き輝きを持つ複数の杭。健を断ち切り骨を砕いて、ディオニュソスの体が糸の切れたマリオネットのように床に転がる。身を包んでいた光は消えていた。より厳密には何度も包むも、全身を覆う過程で杭に触れた瞬間パチンとはじける。
「な、なんだこれはぁぁぁぁぁ!?」
送還されず叫ぶディオニュソス。半狂乱で
「神殺し」
「リリウス!? そうか………かったんだな」
「フィルヴィスか……お前の方こそ…………まあ、後で聞くか」
フィルヴィスを見るリリウス。しかし直ぐに視線をディオニュソスに向け直した。
「リリウスきゅん…………!」
「きゅ? お前が…………ええと、ディ………まあ、この騒動の黒幕でいいんだよな? タナトスの眷属を踏みにじり、奴の誇りを汚し、アルフィア達の戦いを嘲笑った………」
「…………く、くく。なるほど、これは………だが少し嬉しいな。君がそこまで、私に感情を向けてくれるなんて」
「うるさい」
会話する気などはなから無いリリウスはその頭部に杭を突き立てる。
「さっさと死ね」
「…………あ?」
ゾワッと、四肢に刺さった杭から感じる痛みと、神ゆえに察したこの先を理解し冷や汗を流すディオニュソス。
「ま……まて、待ってくれ! 私は、まだ! こんなところで!!」
もう遅い。
「散々好き勝手してくれたんだ。無明の地獄を、何一つ思うことなく彷徨え」
グシャと杭を踏みつける。ディオニュソスの脳を巨大な杭が破壊した。
「それ、なんやねん………いやーな気配がするんやけど」
「リヴァイアサンの牙の一部」
神の力を無効化する古き強大な怪物。その遺骨の一部は神を天界に還そうとする力も傷を癒そうとする力も蹂躙する。杭が刺さってない場所は不滅の神らしく腐ることも無くこの地に残り続けるだろう。
「じゃあ俺は今から死にかけるから、アミッドかヘイズのところに運んでくれ」
「「「「は?」」」」
ゴボッと血を吐いてリリウスはその場にぶっ倒れた。