ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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小人の噂

 風呂で体を洗ったリリウスはそのままギルドに向かおうとしたが、服がボロボロだったのでまた止められた。

 丁度いい服がなかったのでライラの服の中で男物に見える服を借りた。ちなみに、男女でも年下のリリウスの方が小さいのでブカブカだ。

 

「…………これはこれで可愛い」

 

 うん、と頷くアリーゼ。リリウスは今度こそギルドに向かう事にした。

 団長のアリーゼも付いてくる。

 

 道中、オラリオの勝利に貢献した【アストレア・ファミリア】たるアリーゼにオラリオの民が感謝や尊敬の目を向けていた。

 

「…………?」

 

 が、リリウスを見ればその顔に忌避が浮かび、視線に反応したリリウスがそちらを見れば、直ぐに視線を逸らし去っていく。と、その時………

 

「お〜い! アリーゼ〜!」

 

 アーディが走ってきた。人混みの中でも美しく艶めくアリーゼの赤い髪を見つけたのだろう。

 

「アーディ!」

「おはよう。それと、お疲れ様。大変だったね」

「………そうね。大変だった。でも、そっちも………」

 

 【ガネーシャ・ファミリア】から、多くの戦死者が出たらしい。厳密にはオラリオ中の【ファミリア】の老兵(ロートル)の殆どが死んだらしい。

 

 オッタルとザルドの戦いの邪魔をしようとした闇派閥(イヴィルス)の差し向けたモンスターの群を止めるために戦い、最後には自爆した。

 

 新規精鋭、少数の派閥の【アストレア・ファミリア】は死者が出なかった数少ない派閥の一つだ。

 

「うん。でも、大丈夫だよ……」

 

 と、アーディは笑う。

 

「私達が悲しんでちゃ、せっかく喜んでるオラリオの人達が不安になっちゃうからね。だから、私は笑うよ!」

 

 ムニン、と自分の両頬を指で抑え口の端を持ち上げるアーディ。

 

「まあ、笑ってりゃ精霊や女神も微笑むらしいからな」

「そう! 『アルゴノゥト』の言葉! ちゃんと覚えてるんだね! って、あれ………リリウス君?」

 

 ただでさえ小柄な小人族(パルゥム)の子供。人混みに紛れて気付かなかったらしい。

 

「なんでアリーゼと一緒に? ………あれ、この匂い……リオンやアリーゼ達と同じ?」

 

 とても自然に抱きしめながら髪に顔を埋めるアーディは、リリウスからする匂いがアリーゼやリューと同じ事に気付く。

 

「それはそうよ。一緒にお風呂入って、同じ石鹸で体を洗ったんだもの」

「…………一緒にお風呂? お風呂!? なにそれ、ずるい。私も一緒に入りたい!」

 

 ほぅ、と神々が立ち止まり様子を眺める。『おねショタ』とか『逆ヒカルゲンジ』とか言ってる。

 

「また今度な。今はギルドに向かう」

「ああ、ランクアップしたもんね。ゴタゴタして報告出来なかったけど、もうLv.5かあ…………ちょっとは融通してくれるかな?」

 

 このオラリオ史上最悪の事件を乗り越え、ランクアップした者は多くいる。まだ心の傷が癒えぬ故に暫く引きこもる者もいるが、亡き先達を安心させたいのか殆どが報告に向かっている。

 

 事後処理もありギルドはただでさえ忙しいのに更に忙しくなった。後から来た者は果たして何日後になるのか………。

 

 ただ、ギルドとしてもオラリオに明るいニュースを齎したいはず。Lv.7到達のオッタルはもちろん、つい先日まで都市最強の証であったLv.6へと至った多くの冒険者………特に民衆の支持を集める【勇者(ブレイバー)】などの快挙などは優先している。

 

 リリウスはまあ、あまり民衆に慕われていないがそれでも新たな第一級冒険者が生まれたとなれば、ギルドとしても大体的に報じたいだろう。

 

「ふっふっふ。その情報、古いわ!」

「ん?」

「今やリリウスは、Lv.6よ!」

「……………………え?」

 

 言葉を理解するのに数秒を要するアーディ。

 

「ええええええええっ!?」

 

 そして叫ぶ。周りも神々が「へ〜、やるじゃん」や「いやありえねえだろステイタスの性質的に」と口々に呟く。

 

「そして【アストレア・ファミリア】所属にもなったわ!」

「「「ちくしょう! おねショタハーレムかよ!!」」」

 

 周りの神々が思わず机や壁を叩いた。

 リリウスはうるせぇなあ、と思った。

 

「【アストレア・ファミリア】!? 何で!?」

「ここでは言えないわね」

 

 ダンジョンに入るという禁忌を犯したアストレアがステイタスを更新する為、とは流石に人前では言えない。

 アーディはう〜、と悔しそうに呻く。

 

「ねえリリウス君。今からでも………は、無理だから1年後に【ガネーシャ・ファミリア】に入らない?」

「駄目よ! リリウスは私達の末弟なんだから!」

 

 と、アリーゼがアーディの腕からリリウスを引っこ抜く。

 

「私も弟欲しい!」

 

 アーディがリリウスの足を掴む。リリウスは鬱陶しくなったのか体を回転させ二人の手を剥がすとギルドに向かって歩きだす。

 

「………まあでも、【アストレア・ファミリア】なら【ソーマ・ファミリア】より安心かな」

「まあ1年後に戻るんだけどね」

「…………え? どういうことなの」

 

 改宗(コンバージョン)可能になったら戻るという、実質入ってすぐ戻るという謎の行動にアーディは困惑した。

 

「後で教えてあげる。さ、いきましょうリリウス」

 

 

 

 

 

 リリウス・アーデが僅か1週間で第二級最上位から第一級上位になった。

 『死の7日間』を経て第一級になった者は居る。もとより第二級最上位を多く在籍させていた【ガネーシャ・ファミリア】などが良い例だ。

 リリウスもレベルを語らなければ第二級が第一級になっただけ。

 

 だが、真実は違う。オラリオの何処を見渡そうと………今どころかオラリオの歴史を見直そうと第一級になったばかりでその1週間後にLv.6になった者は居ない。

 

 『才禍の怪物』………『天災』の如き『天才』のアルフィアですら、健康だったとしても不可能だったろう。それ程の異質。それ程の偉業。

 

 故なのか、リリウスを称える声は驚くほど少なかった。

 

「…………本当に、ただの偶然か、フィン」

 

 最強の小人族(パルゥム)。Lv.6に至ったフィンにそう尋ねるのは、彼と長らく苦楽を共にしたリヴェリア。

 

 責めるような視線に、フィンは肩を竦めた。

 

「悪い噂を流したつもりはないよ。彼がアルフィアを超える天才だと、そう褒めただけさ」

 

 発信源が自分と特定させないよう小細工は弄したが。

 

「彼が天才だと称えられるのは、悪いことではないだろう」

「称える? 恐れるの間違いだろう………あの時の言葉を、掻き消すほどに」

 

 リリウスがアルフィアに向かい叫んだ、獣にならねば生きられなかった子供の本音。強くなったのではなく、ならねばならなかった幼い少年の言葉をあの場に居た多くの民が聞いた。

 

 それ以上の多くの声が、彼の境遇を無視して才能を羨み、讃え、嫉妬し………リリウスの過去を踏み躙る。

 

「彼を傷つけたつもりはないよ。事実、気にしているのは君達だけだ」

 

 別に民衆から敵意を持たれるような噂ではない。冒険者の嫉妬なら今更。確かに、彼の環境は別に変わっていなければ、彼としても変わって欲しいとも思っていないだろう。

 

 ただ、環境が変わる切っ掛けを知らずに潰されただけの話。

 

「どういうつもりだ、フィン…………! 小人族(パルゥム)の再興を願うのなら、何故あの子を貶める」

 

 

 

 

「俺じゃ小人族(パルゥム)の光にならねえからな」

 

 街に広がる『リリウス・アーデは天才である』と言う噂に難色を示して、何故そんな噂が流れたのかと、リリウスの叫びを聞いていた【アストレア・ファミリア】の面々が話し合う中リリウスが夕飯のスープを飲みながら答えた。

 

 視線が集まるのに気付くリリウス。どういう意味か、と尋ねているのだろう。アリーゼやライラは察したようだが。

 

「勇者様の望む名声は、『自分も頑張れば』と同胞が奮い立つ事であって、『俺には無理だ』と思わせる埒外の強者じゃない」

「でもそれは、貴方が頑張ったから………」

「努力なんて、知られなければ天才と変わらねえよ………」

 

 と、ライラが吐き捨てる。

 

「んで、そもそもリリ坊の努力も、境遇も、真似できねえししたくもねえ」

 

 リリウスの過去を露見させるということは、世界の縮図たるオラリオ内での小人族(パルゥム)の在り方を大々的に伝えるようなものだ。

 

 フィンやガリバー兄弟のように名声だけ広がるのとは理由が違う。殆どの小人族(パルゥム)はオラリオで一旗揚げようという気持ちにすらならないだろう。

 

「その点俺がただの天才なら、過去に苦しむはずもなく、追いつけなくても仕方がないからな………おかわり」

「仕方がないって……………」

「『自分(おれ)は彼奴とは違う』と『彼奴は自分(おれ)とは違う』………同じようで、全く違うからな」

 

 そして、フィンとしては同族達を奮い立たせる為にもリリウスという存在には後者の感情を向けてほしい。ただそれだけの話だ。

 

「なんてこと! 抗議してやるわ【勇者(ブレイバー)】!」

「抗議たって、『リリウスを褒める噂を流さないで』ってか?」

 

 と、再びライラ。

 そう、フィンはあくまで『リリウスは天才』と言う噂を広めているだけ。それにフィンが広めているという証拠もない。

 

 よく考えている。

 

「というかわたくし達ばかり怒っていますが、貴方はよろしいので?」

「何か変わるのか?」

「………………」

 

 別に変わらないだろう。そう、()()()()()()()のだ。

 

「んなことよりおかわり」

 

 と、リリウスは食器をアストレアに差し出した。

 

 

 

 

「貶めるつもりはないよ。ただ、彼を子供扱いするには、()()は遅すぎたし、彼は強くなりすぎた」

 

 リヴェリアの言葉に、フィンはそう返す。

 『僕達』と言う言葉に、リヴェリアが言葉に詰まる。

 

「そして僕は、同胞の再興のためならなんだってする。だけど、だからこそ、彼を苦しめようなんて思っていない。それは約束するよ」

「だが、救わない………か」

「救えないんだよ。僕達は、彼に気付くのが遅すぎた。だから、それは正義の乙女(かのじょ)達に任せようじゃないか」

 

 きっと彼女達なら救ってくれるだろう。

 『小人族の勇者(フィン・ディムナ)』では『異端の小人(リリウス・アーデ)』を救えない。無力感は覚える。罪悪感だって感じてる。

 

 その上で、無視する。これまでの歩みを、これまでの犠牲を、何より亡き父と母があの時見せた光を否定しないために。

 

 

 

 

 ああ、それは恋に似ている。

 一目見たその時から、私の心は君で満たされた。

 

 

 憤怒、憎悪、悲観、絶望、嫉妬、諦観、汎ゆる負の側面を孕んだその瞳。

 決して誰にも届かぬと、自ら喉を潰したかの如き無音の叫び。

 

 世界を憎まねば立ち上がることも出来なかったくせに、憎み続ければ心が耐えられない卑屈で、矮小な子供。だからこそ、奏でられる極上の『狂乱(オルギア)』。

 

 それを楽しみにしていた。していたのに、あの女!

 女神(くそびっち)の眷属、時代の残り滓め!

 

 嗚呼、アア! 違う、聞きたかったのはあんな縋る様な子供の声ではない!

 確かにそれも愛らしいとも。愛し、恋した子が奏でる悲痛な叫び。だが聞きたかったのは、世界を壊すような絶望の咆哮!

 

 あんなものでは愛せない。あんなものでは満たされない。

 数多の命を冥府へいざなう『始狂の白鹿(レアルコス)』になり得たと言うのに。

 

 しかも、しかもだ。その後『正義』などを崇める『星乙女(アバズレ)』どもの【ファミリア】に…………!

 

 なんて可哀想な! アレほどの狂気を、正しくないと消し去ろうとするに違いない!

 そんなことは赦されない。そんなことは許さない。

 

 とはいえ、今の自分が表立って動くのは難しい。あらゆる柵を捨てれば可能だが、彼のための箱庭を用意したい『親心』もある。

 

 一先ず、彼を孤立させよう。幸いにも何処かの誰かのおかげで、彼の叫びは掻き消された。可哀想な子供の噂は消え、人には理解し得ぬ新たな『才禍の怪物』が畏れられている。

 

「…………ふむ」

 

 遠目で見た、あの力。

 猛毒の風を操る、黒い獣の姿を思い出す。おそらくはベヒーモス。何故彼がその力を使ったのかは解らないが…………。

 

「1年後、再び君が改宗(コンバージョン)出来るようになれば、迎えに行こう。そのためにも、今から準備をしておかねば」

 

 『酒飲み仲間』にお使いを頼もう。

 向かってもらう場所は……『黒の砂漠』。

 あるかは解らない。全知たる神すら知らぬ、ダンジョンの齎す可能性。だが、あれば何が起こるかは、全知たる神には予想がついた。




お前達の次の感想感想は、ええ、男の娘を狙う酔っ払いがいるって!? と書く
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