ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「へぇ、君も参加してくれるのかい? いいねぇ」
「…………チッ。こういう輩か」
戦闘狂にもいくつか種類がある。戦闘と謳いながら一方的な蹂躙を楽しむタイプ、自分と同等の存在と命のやり取りを楽しむタイプ、格上との戦いを楽しむタイプ等だ。
リリウス相手に楽しそうにしていたから同格との戦いを楽しむタイプかと思えば、強者に挑むのも楽しめるタイプだったか。リリウスと2人がかりなら訳ないが、この場には他の冒険者もいる。下手に力を出し過ぎればリリウス以外が燃え尽きる。
「づぅ…………」
何よりリリウスが魔眼を解放し殺戮衝動に呑まれかけている。ダラダラと流れる涎は飢餓感と合わさり喰い殺さんとしているのだろう。あまり長い時間はかけられないな。
「さぁ! 楽しく、鮮烈に、踊ろうじゃあないか!」
「リリウス、どれだけ持つ?」
「10分」
「十分だな」
襲いかかる蛇の群。焼き切るエピメテウス。圧倒的な暴力で叩き伏せるリリウス。階層全体が激しく揺れる。
「な、なんなのよあの二人! “旧き世代”の眷獣相手に押している!?」
「はい!
「でも、なんか……動きが鈍い? 疲れてるのかな?」
ベルが誇らしげに叫び、アイズがリリウスの様子を見ながら首を傾げた。あれで全力ではない?
「一体どれだけの火力を持ってるのよあの男」
「あ、師匠はちっちゃいほうです」
カァ! と叫びその音圧で高圧水流を弾く白髪の子供を指差しながら言うベル。
「後、年上です」
「あんなにちっちゃいのに!?」
「まあ異世界ですし背の低い種族なのでしょう」
バチバチと雷を纏うリリウス。圧縮した雷の球体を片手で握り潰す。内包されていた莫大なエネルギーが四方に広がり無数の蛇で構成された体を持つ蛇の群れが消し飛んだ。
「まるで古城の
現れるは世界を覆う程と錯覚する巨大な黒蛇。輪郭が雲のように歪む。異質、異様な蛇を前に、リリウスは躊躇わず氷の槍を放つ。あっさり貫かれた黒蛇は、しかし穴が蠢き形を取り戻す。
「…………!」
周囲の木々が急速に枯れる。
「
「いいや
唇が切れて流れた血を舐め取るエピメテウス。
「黒い霧の眷獣!?」
「いや………」
空にあるか地上にあるかの違いでしかないが、あれは本質的には雲だろう。光を飲み込むほどに濃い黒雲。取り込んだ水分が氷結し、ぶつかり合いエネルギーを発生させ溜め込む。つまり、雷雲。
『オオオオオオオオオオッ!!』
何かが擦れ合う音を何倍にも拡音したかのような腹に響く低い轟音。バチバチと火花が弾け、次の瞬間極大の雷がリリウスへと落ちる。
「!!」
大気が焼き裂けジュール熱が周囲の枯れ木を燃やす。動きを止めたリリウスを飲み込む
「ヴァトラー! てめぇ!」
「ああ、古城! 君も混ざってくれるのかい!?」
「喜んでんじゃねえよ、気持ち悪いな!
古城もまた眷獣を呼び出す。巨大な
「はは、はははは! あっはははははははは!!」
「チッ」
乾燥した森で火が燃え広がるのを危惧し純粋な剣技で眷獣と斬り合っていたエピメテウスよりも、力と力のぶつかり合いを好んだのか標的を古城へと変える。
「きゃああああ!?」
当然、近くに居た凪沙達も眷獣の圧倒的な規模の破壊に巻き込まれる。
「凪沙! クソ、許せ! お前を砕く!」
そう言ってヴェルフが構えるのは魔剣。クロッゾの血族にだけ許された、規格外の力を振るう特別な魔剣だ。
「
吹き荒れる暴風は燃え広がりかけていた炎すら消し飛ばし眷獣の一体を風の刃で切り刻む。
「へぇ………」
「眷獣を、吹き飛ばした!? なんなのよ、この世界の連中!!」
先程から真祖に匹敵すると言われた旧き世代の吸血鬼の眷獣が真祖や旧き世代以外にやられるというありえない光景に目が回りそうだ。
「この世界も中々に楽しめる。
「!!」
あの強力な雷が来る! 構える古城達だったが、
「……………ん?」
内包する
『!!?!!??』
「んぁ〜…………」
大口を空け雷雲を吸い込むリリウス。
「眷獣を、食べ……た?」
「本当になんなのよ彼奴ぅ!?」
「彼は
ヴァトラーの興味が己の眷獣を食らったリリウスへと戻る。万物を取り込む程に強くなるリリウス。それが、旧き世代たる己の眷獣を丸々一匹飲み込んだ。その強さは何処まで上がるのか。
「いけ!」
迫る蛇の眷獣。右腕を振り下ろすと同時に放たれた雷の豪雨が六匹消し飛ばす。
残り2匹が融合しながら紫炎を放ち、左腕を薙ぐと全てが凍りついた。再び魔力を与え傷ついた眷獣を癒し再召喚しようとするヴァトラーの頭部をリリウスの踵が砕いた。
「いやぁ、完敗だよ。もう少し遊びたいけど、負けておいて我儘は美しくない。とてもとても残念だけど、ね」
頭部もすっかり復活したヴァトラーはリリウスに熱のこもったウインク。カッ! と牙を剥くリリウス。フィルヴィスがそっと口を掌で覆う。
「それで、此奴といい、お前といい、妙な力を持っているが何者だ? 異界の住人なのだろうが」
エピメテウスが警戒を解ききっていない瞳を古城に向ける。
「あ、ああ。俺とそいつは、一応吸血鬼ってんだ。あの怪物は、眷獣って言ってな。俺達の世界で吸血鬼が最強と言われる所以だ」
「へえ、吸血鬼…………初めてみた。ん? 初めて?」
なんか、初めてという言葉にしっくりこないリリウス。
「地上の世間知らず、あれも吸血鬼だろう。眷獣とやらを使っていた」
「ああ、そうか……………そう、か?」
やはりまだしっくりこない。脳裏に浮かぶ、紅玉に金糸………しかしリリウスはそれを知らない。神々の言うデンパとやらでもジュシンしたか。
「え、地上にも吸血鬼が?」
「弱かったな。Lv.4程度。相性が良ければLv.3でも勝てる。そもそも呼ばせなきゃ良いって知ってりゃLv.1でも対応可能」
「あれはずいぶん若いのが紛れたようだからね」
と、ヴァトラー。曰く吸血鬼というのは血を啜り魔力を溜め込む。その為旧き世代程強く、若い世代程弱いのだと言う。眷獣さえ呼び出せれば破壊規模はLv.4…………それが凡百どころか若輩とされるのが吸血鬼という種族だ。
歩んだ歴史が長いほど強いと言う割には、と古城をみて不思議そうな顔をするリリウス。
「で、お前ら一緒にいるのは?」
「あ、うん。あのね、ベルが助けてくれたの」
「……………ウィーネ?」
「え?」
「いや…………」
凪沙の声を聞いて竜の少女を連想する。見た目も種族も異なり性別ぐらいしか共通点がないのだが。魂というか中の存在というか、生き別れた双子の姉妹とかなんか、そんな他人とは思えない存在。
「こっちの銀の私は、私が助けた」
「ん、そうか。偉いな」
褒められ心なしかむふー、と誇らしげなアイズ。ちょっと羨ましそうに見つめるベル。
「ベルも、ダンジョン中層で戦う力のない女を守ったな。良くやった」
「は、はい!」
「なんか嬉しそうねこの2人」
「彼は【
「うん。リリウスさんは、凄く凄い」
「アイズさんだって凄いです!」
他派閥の男を褒めるアイズにレフィーヤが叫ぶ。
話を纏めると、ベルとヴェルフは魔剣の試し打ちに中層に降り、そこで聞こえたウィーネの悲鳴に慌てて駆け出せばいたのは凪沙。
兄と同じ声のヴェルフに混乱したりと色々あったが、兄と逸れた凪沙の為にベルが護衛を自ら買ってでた。そんなベルをかっこいいなと思いつつヴェルフの女をほっとけないという言葉に誤解した凪沙の
「なんかかっこいいなーと思ってたのに、女の子相手なら誰でもいいなんて古城君みたいなこと言っちゃってさ、最低だよ、さいてー!」
「げふぅ! だ、だからウィーネの声でそんなこと言わないで。言ってないし、誤解だから!」
レフィーヤとアリシアは、レフィーヤの鍛錬にアリシアが付いてきた形らしい。そこでモンスターに襲われている暁古城と姫柊雪菜と接触。因みにレフィーヤが雪菜の制服を着ているのはモンスターの大群に襲われた際、古城が眷獣を使おうとして制御を誤り服だけはじき飛ばしたらしい。
「あの破壊規模見た後に、制御誤っても服だけで済むって信じろと?」
「そーです! わざとに決まってます、このド変態吸血鬼! そうやってひん剥いた女達を視線だけで孕ませるんです!」
「暁古城! 他所の世界の女の子にまで手を出すなんて…………! この変態!」
「誰が変態だ!」
アイズとナァーザが接触したのはラ・フォリア・リハヴァインとそのペット達、そして
「何度聞いても、なんなのよって感じな薬品名よね」
「異世界だから、ね。そういう事もある」
「ええ、異世界ですもの」
リリウスはん? と首を傾げた。
「ペット?」
「!! そ、そうだ! オレっち達は、魔獣で、ご主人様のペット!」
「ダンジョン!? 冒険者!? な、なんだそれは知らんなぁ!」
「ご、ごろにゃ〜ん!」
リリウスの視線に慌てて叫ぶリドとグロス。ラ・フォリアに甘えるレイ。
「…………そういうこと、らしいよ」
「そうか」
「ええ、そういうことですわ」
事情を知らないナァーザに真実を隠すためらしい。それはそれとして、そういう種族とせずペットという扱いにして楽しそうなあたり………
「シルの同類か」
「シル?」
「ベルのストーカー」
そんな言い方、とベルは否定しようとしたがリリウスは訂正する気はないようだ。
「ダンジョンの異変について調べていたのだが、どうも吸血鬼の仕業らしいという話になってな。まあ、もう解決したようだが」
「そうなのか?」
「へぇ、真祖の破壊と見紛う破壊力を持つ眷獣か、見てみたいねぇ」
グロスがヴァトラーを睨みながら言い、リリウスは首を傾げヴァトラーは微笑む。
「!? 何を言っている! 下層に潜り、無差別にダンジョンを破壊しただろう!」
「そちらこそ何を言っているんだい? 僕はリリウスと遊んで、このダンジョンに叩き落とされたのはついさっき。無差別な破壊なんて心当たりがないなァ」
「まあ、そうだな。誰かと勘違いしてないか?」
ヴァトラーの言葉をリリウスが肯定。ベルはそういえば自分達を襲った蛇の眷獣がヴァトラーの操る眷獣の中には居なかったことを思い出す。
「ふむ、君の見た眷獣は……どんな姿だったんだい?」
「えっと………頭とおしりに2つの顔がある蛇で………」
「「!?」」
古城達の顔色が変わる。リリウスはピクッと肩を震わし振り返る。
「おい、待てっ! まさか、それって!」
「『蛇』ではなく………『
響く、轟音。揺れる階層。天井の水晶が不気味な赤い光を放つ。
「また眷獣なのか!? この男は何もしていないというのに………!?」
「だからァ、言ってるじゃないか。僕は君達が求める犯人とやらじゃない。『黒幕』がいるようだよ。とても愉快で、凶悪な………そう、あんな風な怪物が」
森の一角が吹き飛び、姿を顕にする眷獣。その姿にヴァトラー以外の異世界組が凍りつく。
「ちょっと、どうなってるのよ?」
「そ、そんな………どうして………」
「嘘だろう………あれは…………」
「
此方を敵と定めたのか獲物と定めたのか、睨みつけ森を破壊しながら迫るは漆黒の獅子。
「どういうことだ!? あれは貴様の眷獣ではなかったのか!?」
「お、俺は何もしちゃいない! 本当だ!」
「では、この状況をどう説明する!」
「俺が知るかよ!」
そんな古城達のやり取りなど無視して迫る漆黒の獅子に、リリウスが雷を放つ。膨大なエネルギーである雷に、獅子の動きが止まりリリウスに向かい唸る。
リリウスはスッと片手を獅子に向ける。2匹の獣の間にバチバチと弾ける黒と金の雷。やがてリリウスが不快げに顔を歪める。
「………………舐めやがって。いいだろう、その喧嘩買ってやんよ猫が」
「え、今のやりとりの何処に何があったの!?」