ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「魔眼に呑まれるとは、不覚」
「まだ手に入れたばかりなんだ。よく抑えている」
「
「それこそ、他者の怒りが故。お前の魔眼の複製は純然たるお前の衝動だ」
過去が過去だ。リリウスだって何度世界を滅ぼしてやろうかと妄想したかは自分でも覚えていない。
「うふふ。だからこそ、いい子ね、リリウスちゃん。ほら、よ〜しよし」
「でっか………」
「先輩? 何処を見ていっているんですか!」
「い、いや! 背だよ、背が、この世界であった中で一番でかいなぁって!」
古城が慌てて目を逸らし言い訳するが女達の視線は絶対零度。
「そんな事言って女の人と見ればすぐに鼻を伸ばして値踏みしているに違いありません!」
「そうよ! いっつも雪菜や他の女の子達侍らせてニヤニヤしちゃって! 雪菜、離れて! 貴方も近づいちゃ駄目よ、欲情した視線で孕ませてくるんだから!」
「まあ、この年で新しい子供を授かれるのは嬉しいけど、そういうのはお互いよく知ってからじゃないと駄目よ。貴方はまだ若いのだし、子育ての大変さも知らないでしょう?」
「吸血鬼の繁殖方法って変わってんだな」
楽そう、と思うリリウス。
「そんな吸血鬼存在するか! だいたい
何故いつも余計な言葉を足すのだろうか。ここにはいない古城の友人が見たらきっとそう思ったに違いない。ピシリと固まる雪菜。ピャッと毛を逆立たせタロスの鎧の隙間に入り込むリリウス。
「私、なんか………ですか。そうですよね、私なんかですよね。エウロペさんみたいに綺麗じゃないし、む、むむ……むね、胸だって大きくないし」
「おい
「そうですね。先輩は私『なんか』に欲情したりしませんよね。胸の小さな私『なんか』に」
「お、おい
リリウスはタロスの鎧の隙間の奥に潜り込んでいく。タロスは擽ったそうに身を捩った。
「あの子はどうしたのでしょう?」
「彼奴はああいった手合いが苦手なのだ。人の感情を五感で感じ取れるから、好意と敵意や殺意が一緒くたになる感情を前に理解出来ず混乱する。あと純粋になんか怖い」
因みにツンデレはなんで好きなのに敵意があるふりをするのだろうかと疑問に思うだけで、本心で間違いなく好意しかないと解るので問題ない。
「とりあえず、みんなボロボロだから、これ………」
と、ナァーザが皆に瓶を渡していく。
「私が作った
「俺は必要ない」
僅かに残っていた傷も回復していっている。その光景にあれ、と疑問に思うベル。リリウスの回復スキルは食事を取って発動する。取り込んだ栄養はストック出来ず、食ってから数秒しか効果は現れない筈。
まあリリウスだしランクアップ時にスキルか発展アビリティでも目覚めたんだろう。だってリリウスだし。
「わわっ、なにコレ……! 傷口は塞がるし、体力ももとに戻るんですけど!」
「
「
驚愕する
「ナァーザさんの言う通り、まずは回復を済ませましょう。体を癒さなければ、本来出来ることも出来ません」
「えっと、1本あたりは──」
「ちょ!? お金取るの!?」
「それで生計立てている」
「私達の世界の金銭で立て替えられるでしょうか? 無理なら
「なんでですか!?」
「やっぱ全快には程遠いな。フィルヴィス、おんぶ」
「うぇ!?」
「あら、私が抱っこしてあげるわリリウスちゃん」
「息苦しいからやだ」
そんな周りの喧騒の中、ヴェルフが何も言わずに砕けた魔剣を見つめていた。そんな彼を心配そうな視線を向けるベル。
「………ヴェルフ、大丈夫? 魔剣が」
「いや、いいんだ。こんなの、俺のただの感傷だ。お前達を助けてやれないと、砕けた
しかしそれでも、使い手を置いて砕けた魔剣を生み出した者として目を伏せるヴェルフ。かける声を持たず手が虚空を彷徨うアリシア。リリウスはなるほど、と頷く。
「ヴェルフ君!」
「悪い………助かった。お前がいなかったら危なかった」
と、ヴェルフに声をかける暁兄妹。
「気にするな。お互い様だ」
「ちょっとそれよりも! 貴方達の力、なんなの!? アルデアル公と渡り合うし、2度も眷獣を吹き飛ばすなんて!」
「俺最強だから」
「体質的に魔力とか吸収するから眷獣と相性がいい」
尤も、無限に餓えている伽藍堂の肉の胃の腑と異なり魔力等を飲み込む器としては限界があるが。ただでさえ弱っているのだから。
「取り戻したと思った力もすぐこれだ。あれ以上の戦闘は弱体化の期間を延ばすな」
「……………本当に、あれで弱体化してますの?」
「全力だったら俺が『蛇』に負けるかよ。尤も、彼奴も本気出してなかったが」
リリウスの言葉にヴァトラーはニコリと笑う。カッと牙を剥いて紫電を纏うリリウス。エウロペがあらあらと落ち着かせるために抱えて頭を撫でる。母性に埋まりそうなリリウスはシャッと離れるとエピメテウスの肩に乗る。偉丈夫のエピメテウスの肩に乗ればリリウスだってエウロペを見下ろせる。
「力を取り戻した、というのは?」
「……………神々は俺達がランクアップする事を器を超えるとか言うから、それに伴い例えると冒険者という『存在』は器が大きくなるごとに蓄えられる力が増えていく。当然、それ以上の力を込めれば溢れる」
これが所謂
「俺の魔法は器の限界以上に注ぐことが出来る。それは本来良くない」
「ペットボトルに2本分の水を入れちゃ駄目って事?」
「そのぺっとぼとるが器を指すならそう言うことだ。基本的に対価を払って器を補強したり、そもそも器の崩壊を辞さない方法もあるが」
前者はオッタルやフィン、後者は所謂
「俺は先日のリヴァイアサンとの戦いで、本来なら器を限界まで強化した上で壊れないギリギリのラインを注ぐ魔法を過剰使用し耐えきれないほどに力を先取りした」
「リヴァイアサン…………いや、なんでもねえ」
「そうか。その結果、俺という存在は壊れかかっている。ため込んだ力も罅から流れ落ちて、Lv.6の力を維持してる状態だな。俺は食えば食うほど一時的に力を蓄えられるんだが、今は本来の力に届く前に器が決壊する」
普通に考えれば、つい最近までLv.7がオラリオには一人だけの、そんな時代の中でLv.6級の力が弱体化状態というのはLv.6を間近で見てきたレフィーヤ達からすれば本当にもう、意味がわからない規格外っぷり。
「だけどアルデアル公に続き黒い
「ああ、この中だとお前が一番腹の足しになりそうだと思ったみたいだ。ごめんね」
リリウスは
「ま、まあ、あんたが滅茶苦茶強くて、それなのにまだ本来の力に足りないのは理解…………り、かい…………………理解、するけど!」
「してねぇじゃねえか」
向こうの世界では余程吸血鬼の力は絶大扱いらしい。尚普通にこちらの世界でも上澄みを超えた上澄みだが、その階位にいるリリウスを知る者達はあまり驚かない。これを神々の言葉で感覚麻痺という。
「貴方の方はなんなのよ。言い方悪いけど、この子ほどの理不尽さは感じない。なのに、あの眷獣を滅ぼす力………」
「
「『クロッゾの魔剣』です………」
アイズが答えようとする前に、アリシアがその言葉を引き継ぐ。エルフの彼女がクロッゾの魔剣について語ることに、こちらの世界の誰もが驚愕する。
「クロッゾの魔剣ですか…………」
「ええ。この世界において、最強の魔剣と言っても過言ではない。その威力は『海を焼き払った』とまで言われています」
「う、海を焼き払ったぁ!? そんなの魚が食べられなくなっちゃうよ!」
「凪沙、お前は黙ってろ」
「その魔剣量産出来りゃ古代はもっと戦えたんじゃねえの?」←空間を消し飛ばす雷を放てる
「あの時代でも、下手に強大な力は人同士の争いを生む。それだけあの力は人を溺れされる」←世界を焼き尽くそうとしてた人
リリウスとエピメテウス。何やらクロッゾの魔剣を褒めているのだが、なぜだろう? 素直に受け取れない。これはヴェルフが魔剣を嫌っているのとは別の理由で。
「それで、どうしてその最強の魔剣って奴をヴェルフが持っているんだ?」
「それは彼の血筋………『魔剣鍛冶師の一族』が生み出す剣こそを『クロッゾの魔剣』と、そう呼称するため」
クロッゾの一族は神時代に置いてラキア王国に仕えた。ラキアは侵略戦争の中で魔剣を用い、これを乱発した。戦場の全てを焦土に変えて。
「山は抉れ、湖は干からび、空は汚れ、私達エルフの里………沢山の同胞の森も、焼き尽くされたと聞いています。多くのエルフが忌み嫌うほどの、破壊の力」
「………………」
ヴェルフは苦虫を噛み潰したよう顔を歪めエルフ達から視線を逸らす。何とも言えない空気に
「……このナイーブな空気。もしかして触れちゃいけない話題だった?」
滅ぼした者と滅ぼされた者。直接的な関係は遥か過去なれどその血筋と、その同胞が今この場に集っている。特にエルフは自分達を特別視し排他的な分、同胞への慈愛がうざいぐらい強い。
「…………いいえ。同胞の森は確かに燃えましたが、それもかつての話。当時の事を預かり知らない我々がいがみ合う事に意味はない。いや、意味を持たせてはいけない。だって、子孫である彼が森を燃やしたのでは、ないのだから」
感情的になり、そんな当たり前の事実にすら気付けず食って掛かった事のあるアリシアは申し訳なさそうにヴェルフを見て、ヴェルフは気にして無いと言うように肩を竦める。無愛想にも見えるその態度に隠されたヴェルフなりの気遣いに気付いたアリシアは微笑を浮かべる。
「いいのかヴェルフ」
「何がだよ」
「お前女神と付き合うんだろ?」
「? それがいま関係あるのかよ」
「…………………ないな。お前にその意思がないんだもんな。で、その魔剣をヴェルフは量産可能」
「「「!?」」」
その言葉に異世界組が目を見開く。
「へぇ。眷獣をも貫く力を量産できるなんて、まさに無敵じゃないか。僕達旧き世代にも匹敵する代物だ」
「…………そんな便利なものじゃない。魔剣は必ず砕ける。今の俺の腕じゃあ、ニ、三発使ったところが限度だ」
「お前砕けない魔剣作ってなかった?」
「あれは持ってきてねえ。どのみち俺以外が使っても、威力は眷獣に届かねえ」
使い手の魔力に依存する、砕けぬ魔剣。ヴェルフが使うとヴェルフに流れる精霊の血が共鳴するのか威力が跳ね上がるらしい。使い手依存なので全快のリリウスが持てば更なる威力を期待できる。
「じゃ、昔話はここまで。この後どうするかについて、有意義に時間を使おうじゃねえか」