ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
その蛇は飢えていた。
産まれた時から、ずっと。
同胞の砲台の如き地を踏みしめる足を持たず、階層間の幾つもを消し飛ばす炎弾の息を持たず、何より同胞にすら襲われる異形のヴァルガングドラゴン。
ダンジョンの岩壁すら蒸発させる高温の炎を、その身に纏うという異質なる炎の蛇竜。
襲い掛かる同胞を殺し、喰らう。それでもずっと、満たされなかった。
形のない憧憬。抜け落ちたそれを叫び続けたある日、下から上に向かう緑肉の塊を見つけた。
上、上だ。そこに己の渇きを潤す何かがあると本能で理解した蛇は、炎を纏い岩盤を焼き消しながら同様に上に向かい、そして見つけた。
白い毛並みの生き物! これまで食らったどれよりも矮躯な獣!
胸の中に抜け落ちた憧憬そのものの形。
胸の穴が埋まる。だが、まだ満たされない。
「オオオオオオオオオオオオオッ!!」
殺し、喰らう! 今度こそ、自分が…………!
容姿は蛇のそれでありながら、その威容は正真正銘竜のそれ。咆哮が階層を揺らし、体からこぼれ落ちた火の粉が撒き散らされた。
推定レベルは……『
あの目に既視感………確かな渇望を宿した、怪物ならざる目。異端の怪物………ダンジョンの転生児、漂白から免れ生まれながらにして憧憬を備えた
「俺が殺したどれかか?」
あの目、
「──────アンフィス・バエナ?」
つい先程食われたアンフィス・バエナではない。リリウスがLv.4になる時に食らった、あの時のアンフィス・バエナの目を思い出す。腹が減ってきた。
「──────!」
リリウスが気付いたことを察したのか、捕食者の殺意を感じ取ったのか、ヴリトラが僅かに震える。
「カア!!」
「っ!!」
吐き出されるのは炎の吐息。
即座に回避し、高温の熱風に吹き飛ばされた。炎が舐めた泉の水が一瞬で蒸発したのだ。
デルピュネのような貫通力は持たないが、熱量という点ではそれ以上。魔力と
『精霊の炎』で身を守って尚、向こうの火力が上。
存外、天敵。なら、どうする?
「食い殺す」
「オオオオオオオオッ!!」
髪が黒く染まり、角が生え、漆黒の風を纏う。
対してヴリトラも全身から吹き出す炎にも魔力を込めた。
【
足場にしていた壁を蹴り、突っ込む。
オリジナルはただの攻撃手段として使っていたそれも、人間サイズなら動きの補助にも使える。
黒い疾風となったリリウスの斬撃が、炎を散らしながらヴリトラに迫り………響き渡る金属音。
「…………硬いな」
竜鱗を僅かに砕くも、血管にすら到達しなかった。
炎を纏う力といい、近接戦のみで言えばその脅威はデルピュネより上かもしれない。
リリウスは落ちていた魔剣を拾い、その魔力を食い切る前に込められた魔法を放つ。狙いは、背後から迫った緑肉。
「グルアアアアアア!!」
自らの獲物を喰らおうとした緑肉に怒りの咆哮を上げヴリトラが炎を吐き出した。
体内の水分が蒸発し、ポップコーンのように弾け、それでも吹き飛ばなかった炎が纏わりつく。
「──────!!?」
のたうち回りながら何かを吐き出す緑肉。何だあれは? 蠢く、肉の塊?
この匂いは…………人間? モンスター?
「アア、アアアア! 邪魔、私達ノモノダアアアア!!」
緑肉の芽が蠢き、泡立つように膨れ上がり女の顔が現れた。溢れ出す凶悪なまでの魔力。緑肉を覆う光の帯が、
「無詠唱? 違う、
おそらくこれは、触手。階層主すら超える巨躯は、本体の一部分。
何処かで詠唱をして、その魔法をこちらで発動させている。そう、詠唱をしている………これはモンスターではない。
「精霊? ダンジョンが生んだのか?」
リリウスという神の眷属がダンジョンの眷属たるモンスターの力を模倣したように、ダンジョンが神の分身を模倣した? 解らない。情報が足りない。だが、放たれるのは間違いなく英雄譚に綴られる人理を超えた魔法の波濤。
複数に増えた
それもリリウスの肉体を通して漸く中位精霊となった微精霊を遥かに凌ぐ大精霊。その魔法を喰らい、ヴリトラは…………。
「グオオオオオオオオ!!」
現在。炎の色が、青から赤に変わっている。
あの炎は
そのまま緑肉に自らの体を叩きつけ焼き尽くしていく。相性が悪いと悟ったのか、再び無数の肉片を吐き出し地の底に沈んでいく。
響く音からして、恐らく階層中で現れていたのだろう。
「グラアアアアアアアア!!」
邪魔者はいないとばかりにリリウスに向かい吠えるヴリトラ。
アンフィス・バエナを超える高温の炎に、魔法対策。あの体躯から繰り出される物理的な破壊力。
格上。発展アビリティの『強食』は格上との戦闘時に『力』と『耐久』を補正するが、さてどこまで通じるか。
「…………推定Lv.7、か」
自分で出した評価に、鼻で笑う。なるほど、確かにLv.6より格上だ。だが、Lv.7でも間違いなく最高位の【暴食】にも、【静寂】にも及ばない。
「がぁ!!」
「!!?」
不可視の音の砲弾で炎で熱せられ滝の水で冷やされ脆くなった岩盤が砕け、降り注ぐ。
同時に接近し、放つ蹴り。内部に響く打撃にヴリトラが呻く。
救助が来るまで、さてどれほどか。それまでに殺す。
そして、地上ではリリウスの予想通りフィンは今から救援を送っても手遅れと判断した。それは間違いない事実だ。
「【アストレア・ファミリア】、【ガネーシャ・ファミリア】に連絡。神フレイヤにも、出来るなら力を借りたい………」
彼の判断は正しい。この機を逃せば、闇は影に隠れ、再び力を蓄えるだろう。残酷なまでの事実。
故に、彼ならこうするだろうと、予想する事が出来る。
「団長! 【アストレア・ファミリア】は【
ラウルは、「そうか……」と返されると思っていた。一つの派閥が参加しない程度、この人の前では些事だと思っていた。
「…………なんだって? 何故、【
リリウス・アーデは雑兵の殲滅に向いている。
リリウス・アーデは『下層』上層部のモンスターなど相手にもしない。
【アストレア・ファミリア】の団長や副団長、参謀達は【
だから、誰も疑わなかった。『勇者』はそういう手を使う男だと思っていて、事実としてリリウスはその作戦に向いていた。
だから、誰も疑わない。
「お仕事、お疲れ様」
「ははは。簡単な仕事ですよ、【フレイヤ・ファミリア】に届ける奴等に比べたら」
ギルド職員として派閥の主神と深く関わってはいけないと思いつつも、ただ酒を飲むだけだしと続いている関係。こうして労ってくれるが、何かを要求されたことはない。
「じゃあ、
当たり前のように頼まれ、ギルド職員はキョトンと固まる。
「えっと、どうして、そんな…………あ、冗談ですか?」
「いやいや。君は家族が人質に取られ、
「あ、はい。そうでしたね」
そんなことも忘れるなんて、酒を飲みすぎたのだろうか?
男は自分で買った瓶を取り出しワインに注ぐ。そして飲んで、本当に死んだ。
「私の子供も、存外しぶといな。それとも庇われてるのか? 全滅してくれたほうが、私も憎めるのだけどね」
そして、『あんな良い神様でも憎むような奴』と認識してもらえるのだが………。
「全く。煩わしいな、さっさと死んでくれ」
そうしてオラリオに悪意が広がり、破格の勢いで強くなる英雄は都市を滅ぼす『悪』へと堕ちる。
「楽しみだなあ。世界を憎み、滅ぼす獣に堕ちた君はさぞ愛らしいだろう。君との睦言が、待ち遠しいよ」
リリウス「まあ彼奴ならやるか」
【アストレア・ファミリア】「まあ彼ならやるか」
勇者「いや、さすがに小人族全体に影響が出かねない」
ちなみに勇者はこの後…………なるべく早く済ませて自分も救援に向かうことで小人族のイメージだけは守るとまずは邪神送還を優先した。リリウスのイメージ? 犠牲が出る以上、もう無理だし。
ヴリトラ
物理に高い耐性プラス近づけない高温の炎。
魔法相手には魔法を燃料にする炎を扱う、防御力が半端ない怪物。