ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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狭間の者

 28階層でぶっ倒れるリリウス。ヴリトラがアンフィス・バエナだった頃戦った結果と同じ。限界を超えての戦闘。

 あの時と違うのは、意識があること。

 

 だから『安全階層(セーフティポイント)』とはいえ迷い込むモンスターを待つ。と………

 

「お、いました! 無事ですか、リリウス!」

 

 何時かの時のように、現れる翼の影。

 あの時より流暢に喋るようになったフィアがモンスターの死骸を抱えながら降りてきた。

 

「ええと、確か………! ご飯にします、お風呂にします?」

「風呂ねえだろここ」

 

 リリウスは立ち上がると巨大な魔石と鱗(ヴリトラの死体)に近づく。

 

「魔石の半分はお前等にやる。鱗は……」

 

 ガリっと噛んでぶえ、と口を離す。流石ただでさえ馬鹿げた耐久を持つヴリトラの最も発達した器官(ドロップアイテム)だけはある。心臓部や首を守っていたであろう鱗は、リリウスの牙を以てしても欠けさせるのが精々。その巨体故に、結構な数がある。

 

「大丈夫、皆来てますよ!」

 

 

 

 

「フェルズから? 仮にもギルドの私兵が、一派閥に贔屓し過ぎているな」

 

 と、リリウスは26階層に存在する『隠れ里』で異端児(ゼノス)達が下層の上部に来ていた理由を聞き出し呆れたように言う。

 

「まあそう言うなよ。元々はリウっち達が来ることは知ってたんだ。そしたら母ちゃんが怒ってて、フェルズに聞いたのは俺達なんだ」

 

 大規模な連合がダンジョンに来るのだ。見つかる可能性を減らすために連絡が行くのはまあ当然だろう。

 その後神の気配にダンジョンが怒り神殺しを生み出したのを察して慌てて登ってきたそうだ。

 

「大変だったぜ、途中幾つかの階層の通路がぶっ壊れてんだもん」

 

 ヴリトラと緑肉が通る時に壊したのか。

 

「ソレデ、アレハ何ダ」

 

 と、グロスがブツブツと呻くエルフに目を向ける。リリウスが持ってきた。暴れるからと気絶させ、目覚めてからはずっとあの調子だ。

 

 この『隠れ里』には水路があり、人魚(マーメイド)のマリィが水面から顔を出し心配そうに見つめている。

 

「知らん。だからフェルズに調べさせる。終わったら殺して食っていいぞ」

「食わねえよ!?」

「魔石の話だ。そいつの胸に魔石があんだよ」

 

 その言葉を聞いたのかエルフがビクリと震え、胸元を掻きむしる。皮膚が裂け、肉が抉れ、通常の魔石とは異なる極彩色を孕んだ魔石が剥き出しになるも、不自然に手が止まる。

 

 傷口の肉が盛り上がり、傷が塞がる。親指を嚙み千切り『マーメイドの生き血』を流していたマリィがおーと感心する。

 

「デモ、疲レテナイ? 私ノ血、飲ム?」

「っ! 私に近づくな化物!!」

 

 エルフの言葉にマリィが顔を歪め、グロスやラーニェ達が構える。

 

「マ、待ッテ! 大丈夫、大丈夫ダカラ! ゴメンネ、私、心配ダッタカラ……」

「っ!!」

 

 罪悪感を覚えるあたり、他のエルフよりマシか? あるいは魔石があるから自分の価値が下がっただけか………。

 

「だがどちらにしろ鬱陶しいな。手足ちぎって喉を潰すか」

 

 最悪生きてさえいればフェルズなら解析出来るだろうと立ち上がるリリウス。と、マリィが水から飛び出し両手を広げる。

 

「ダメー!」

「………………人間と仲良くしてえからって、相手は選べ」

「確かに、リリウスみたいに私達を嫌わない人とだけ関わるのはきっと簡単でしょう」

 

 と、フィアもエルフとリリウスの間に立つ。

 

「でも、それをしたら私達は人類と解り合うことなど永遠に出来ません」

「そうデスね。それに、私達ハまだ嫌われたダケですから」

 

 レイも混じり、リドも慌ててエルフを庇うように移動した。戸惑うエルフと彼女を庇う異端児(ゼノス)を見てリリウスは『モスヒュージの苔』で出来たクッションに座る。

 

「何故………何なんだ、お前等は………!」

「私達は異端児(ゼノス)………貴女達と同ジ言葉を使い、地上に憧レるモンスター」

「私、地上を見たことはないんです! でも、覚えてる。生まれ変わる前の、ほんの少しの記憶。地上の空を飛んだ記憶を………」

「俺っち達は、記憶の中にしかねえその光景をこの目で見てえんだ」

 

 モンスターが地上を目指している。それは地上に住むものなら怒り狂わねばならぬ筈なのに、彼等彼女等の目に浮かぶ光は、子供のように純粋で、敵意を向けていたガーゴイル達すら、地上への憧憬を隠せていない。

 

「地上なんざ碌なところじゃねえがな。ただ殺し合うだけのダンジョンの方がよっぽど健全だ」

「リリウスはオラリオから出たことないのでは?」

「リリウスモ一緒ニ地上ヲ見テ回ロウ!」

 

 クソみたいなオラリオ暗黒期生まれのリリウスが地上を貶すとダンジョン生まれの異端児(ゼノス)達が地上を擁護するという妙な光景。

 

「これは夢だ…………こんなもの、夢に決まっている! モンスターが、人の言葉など、ありえるものか!」

「現実逃避ヲ始メタナ」

「あれが、グロスに似てるだと?」

「相手を見ずに聞いた話やこれまであった同種族で決めつけるからな。そっくりだろ」

「………お前も地上の全てを見ずに非難してなかったか?」

「ああ、言われてみれば……俺にとって『地上』はオラリオだったからな」

 

 ラーニェの言葉に自分も存外視野が狭いと自覚するリリウス。

 と、不意に立ち上がるリリウス。

 

「捜索隊が来たな。俺は帰る。そいつの世話は任せた。暴れるようなら殺していい」

「ムゥ、リリウス! メッ!」

「……まあ、判断はお前等に任せるが、お前達の情報が伝わりそうなら殺しておいたほうが良いぞ」

 

 一旦地上に戻って、詳しいことは後でフェルズから聞けばいいかと『隠れ里』から出ていった。

 

「アノ、アノ………エット、名前、教エテ………?」

「………………フィルヴィス………フィルヴィス・シャリアだ」

 

 

 

 

 

「リリウス〜! お姉ちゃん達が迎えに来たわよ!!」

 

 25階層の入口が埋まってるわ、水の都が破壊し尽くされているわ、余計な時間を食ったがなんとかやってきた【アストレア・ファミリア】はリリウスを探す。

 

 アリーゼの声に集まってくるモンスターの群れは、しかしLv.4の集団の前に灰と魔石を地に落とす。

 

「冒険者と闇派閥(イヴィルス)の死体があまり見あたりませんね…………」

「モンスター共に喰われたんだろ。リリ坊も食ってる可能性もあるが………」

 

 リリウスならそうするという確信があった。

 

「あの子のイメージを下げたい勇者さんの策略かな?」

「やるかやらねえかなら、フィンならやるな。だがやるとしたら早すぎる。小人族(パルゥム)と彼奴は別物ですよって思わせるだけのイメージを広げねえと」

「リリウスの叫びを掻き消したのもその布石か?」

 

 団員の会話に、アリーゼはう〜ん、と首を傾げる。

 

「やる必要があるならやるでしょうけど…………不要ならやらないでしょあの人」

 

 どうにかイメージを分けても種族が変わるわけでもない。小人族(パルゥム)全体のイメージに少しでも影響があるなら、よほどの理由がない限りやらない。

 

「よほどの理由って、例えば?」

「う〜ん。リリウスが明確に人類の敵と認識される、とか?」

「それは人類()俺の敵になった時だな」

 

 と、何時の間にかリリウスが【アストレア・ファミリア】に混じっていた。背中にはバックパック。

 

「リリウス!」

 

 アリーゼが抱きつこうとするが避けられた。

 

「無事でしたか。他の冒険者は………?」

「さあな。殆ど死んでるだろうが」

 

 運が良ければ生き残ってるだろう。魔石が埋まってる可能性もあるが…………。

 

異常事態(イレギュラー)が3つもあったとはいえ、闇派閥(イヴィルス)が罠張ってること自体は忠告してやったんだ。それで死ぬなら、俺はもう知らん」

 

 つまり捜索には参加しないということだろう。アリーゼはう〜ん、と考え込む。

 

「じゃあ、ライラ。リリウスを地上に送ってあげて。私達はこのまま捜索!」

「おう。ところでリリ坊、そりゃ異常事態(イレギュラー)のドロップアイテムか?」

「硬くてなかなか食えねえがな。後でお前等にも分けてやる」

 

 ややもすればLv.7の一撃にも耐えうる硬度だ。まあ第二級冒険者では衝撃で骨が砕けるだろうが。

 

「お前にも食えねえものってあるんだな」

「頑張れば食える」

 

 

 

 

 地上に出ると、冒険者の家族や同派閥の冒険者がバベル周辺に集まっていた。

 ギルド職員や【ガネーシャ・ファミリア】にすがり付き叫んでいる。

 

 眷属の生死は神血(イコル)を通して神に知られる。一度に大量の眷属が死に、ダンジョンが震え、純粋に眷属を心配する神少しとお祭り騒ぎが見たい神大半からもたらされた情報による光景だ。

 

 ここに仮にも派閥連合最強だったリリウスが現れたとなれば目もあてられない光景になるのは火を見るより明らか。

 

 リリウスを連れてさっさとこの場から去ろうとするライラ。だが

 

「そこの君! 【捕食者(ラーフ)】だろう!? 私の眷属がまだ一人残っているんだ!! 何か知らないか!?」

 

 いっそ悪意を疑いたくなる最悪なタイミングで、その声は周囲の視線を集めた。

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