ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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美醜

 オラリオで二人しかいない小人族(パルゥム)でLv.6へと至った冒険者。当然有名人で、何かとフィンと比べられる。

 

 強さはもちろん、人格面の噂も。

 

「【捕食者(ラーフ)】………?」

「彼奴も、行ってたのか?」

「Lv.6………だったよな」

「じゃあ何で………!」

 

 良くない流れだ、とライラは顔を歪める。今回の件に、誰に責任がなんて本来ない筈だ。闇派閥(イヴィルス)が悪い。それで片付くはずの出来事。だが、時として民衆はそうは思わない事を、ライラ達は知っている。

 

「エルフの少女なんだ。何か知らないか?」

「知るか」

 

 しかもリリウスは取り繕うなんてまずしない。一言……たったそれだけの言葉に、集まった者達から敵意が滲み始める。

 

「何でも良いんだ。黒髪で、白い服の………」

「………やたらつっかかってきた奴か」

「つっかかった、かは知らないが………その子は?」

「そいつは死んだ」

 

 まだ神血(イコル)が繋がっていると言うなら、別人かとライラはリリウスを見る。リリウスの視線が、一瞬群衆の中のエルフに向いた。

 

 リリウスをよく知るライラは特に違和感を覚えることもなく、エルフの話をしたからだろうとすら思わなかった。

 

「そうか、誰か生き残りを見てないか?」

「アリーゼ達が探してる。そっちに聞け」

 

 群衆を邪魔だと言わんばかりに睨み付けるリリウス。Lv.6の苛立ちに正面にいた者達は怯み、しかし数というのは時として冷静な判断を奪う。

 

「何なんだよ、その態度は!」

「…………あ?」

「さっきから、黙って聞いてりゃ! お前のせいで、多くの冒険者が死んだんだぞ!」

「何を平然としてやがる!」

「お前だけ先に帰ってきて……本当はお前が殺したんじゃないのか!?」

「功績だけは独り占めしたかったのか!?」

「いいやそうじゃなくても、お前が殺したようなものだ!!」

「責任をとれ!」

「今すぐ生き残りを助けてこい!!」

「金払えー!」

「彼奴は、もうすぐ結婚するはずだったんだぞ!」

「どうしてくれるんだ!」

 

 愉快神の野次もあれど、それを掻き消す怒りの声。この中の一人でも手を出した瞬間、間違いなく辺りは血に染まる!

 

「なんで俺が責任なんざ取らなきゃならねえんだよ」

 

 と、リリウスが返し周りが固まる。リリウスの次の言葉次第では、すぐに爆発するだろう。

 

「死んだのは闇派閥(イヴィルス)共のせいだろうが。冒険者(こちら)側に責任があるとしたら、面倒なリーダー役押し付けておいて、罠にかかっても俺の撤退の命令無視して機会を逃した馬鹿共のせいだろ」

 

 神々はその言葉に嘘がないのを見抜く。

 リリウスは功績も何も興味なく、冒険者達に戻るよう指示した。それを無視した結果、彼等は死んだのだ。

 

「俺が責任を持つとしたら、俺の命令に従った結果死んだ奴だけだ。まあ一人もいなかったがな」

 

 リリウスはその時のことを思い出したのか、舌打ちした。

 一人の暴走から始まり、それに続き、残りも混乱して棒立ちという役立たずぶり。

 

 リリウスの指示で24階層で待機していた奴等から死者が出たならまあ責任の一つ二つは感じてやってもいいが、そいつ等全員の無事はリヴィラで確認している。

 

 だからリリウス・アーデは責任など取らない。命令無視して死んだ間抜けが、どうして死んだ責を背負ってもらえるというのか。

 

 もちろん、そんな正論で納得出来るならそもそも子供に責任を押し付ける筈がないのだが。

 直ぐに口々に罵声を叫ぶ群衆達。煩わしそうに顔を顰めるだけのリリウスに、憎しみすら込めた目を向ける。

 

 一人の冒険者が腰に差していた剣に手をかけリリウスが目を細め………

 

「落ち着いてくれ!!」

 

 最初にリリウスに眷属の安否を確かめた神が叫ぶ。

 

「落ち着いてくれ、皆………彼に責任はないはずだ」

「ディオニュソス様…………」

 

 今まさに己の眷属をぞんざいに扱われたというのに、リリウスを庇う彼の姿に人々は心打たれる。

 

「あの子達は冒険者だ。ダンジョンに潜るという事が何を意味するか、知っている。覚悟だってしていた………していたん、だ………う、うぅ…………!!」

 

 涙をこらえ、嗚咽を漏らすディオニュソスに同情の視線が集まる。神の中には『うんうん悲しいね〜』『ヨヨヨ』など泣き真似をしている連中もいるが、冒険者も民衆もただただ己を恥じる。

 

 ではリリウスを恨まないかと言えばそんなことはなく、寧ろリリウスがディオニュソスの眷属を殺したとでも言うようにより怒りを込めた目を向ける。

 

 気持ち悪いと、リリウスは思った。

 神の演技を見抜けるかと問われれて勿論などと豪語するつもりはないが、観察眼はあるつもりだ。

 その上で()()()()()()()()()()()()()()

 

 本気で悲しみ、心配して、リリウスをも案じている。少なくともそう見える。それが気持ち悪いのではない………その結果変化した()()………。

 

 敵意が強まる。だからどうということはないのだが、何故か感じる異質感。この違和感は何だ?

 取り敢えず酒臭い男神には近づかないようにしよう。酒場の女とは違う意味で気持ちが悪い。

 

 

 

 

 

「フィルヴィスハ、綺麗! 目ガ赤クテ、髪モ真ッ黒デ、肌ガ白クテ綺麗!!」

「艷やかナ髪が、羨まシイです」

「綺麗綺麗!!」

「「何だこの状況は」」

 

 リリウスとフェルズが『隠れ里』に訪れると女性異端児(ゼノス)達がフィルヴィスを囲んで容姿を褒め称えている。

 

「あの女が自分を醜いと卑下して止まらんのでな、マリィが始めたらレイやフィア達も…………」

 

 と、ラーニェが呆れたように言う。

 

「彼奴の言う醜美は魔石の有無だろうが」

 

 容姿をいくら褒め称えたところで何も変わらない。今の自分のあり方を醜いと思っているのだから。

 

「おい死にたがり。殺してやるから、その前に体を調べさせろ」

 

 と、リリウスがフィルヴィスに声を掛けると異端児(ゼノス)達が庇うように間に立つ。だが今回は引かない。フェルズがここにいる以上、引く理由がないのだ。

 

「死にたいんだろう? 消えたいんだろ? 魔石を胸に生きていたくないのなら、砕いてここで殺してやる」

「ダメー!」

「それはそいつの望みだぞ?」

 

 マリィが水面から身を乗り出し手をブンブン振って抗議するが、そもそもリリウスはフィルヴィス本人から殺してくれと頼まれている。

 

「俺は死にたがる奴は嫌いだ。だが自分が原因で死にたがる奴はもっと嫌いだ。死ねば良い」

「ダメ! 私、フィルヴィストオ話シタイ!」

「どうせお前等が一方的に話してただけだろう………おい、目を逸らすな」

 

 自覚はあったらしい。

 

「でもでも、地上のお方なんてリリウスとフェルズしか出会えませんでした! 無視されても、お話したいです!」

「何故…………」

 

 フィアの言葉に呟くのは、リリウスではなくフィルヴィス。

 

「何故お前達は、私に構う………私に魔石があるからか? 私は、お前達の同族に見えるか?」

 

 自嘲するように笑う。つまりはモンスターである異端児(ゼノス)を嘲っているのだが、彼等は心配するばかり。

 

「私ハ、地上ノ皆ト仲良クシタイ!」

「私も、地上ノ方々と仲良くしたいト思っていまス」

「私もですよ〜!」

「私、人間ノ街ヲ歩イテミタイ!」

 

 その目は純粋で、穢れなど感じさせない。だからこそフィルヴィスは胸をかきむしりたくなるほどの惨めさを感じる。

 

 誇り高きエルフが怪物に身を窶し、自分などよりよほど綺麗な怪物達がこちらを心配する。人でも怪物でもない………誇りと傲慢、勇気と蛮勇を履き違え取り乱し何もできず食われ、汚された哀れな娘は、ただただ蹲る。

 

「リ、リリウス! 同じ地上の方として、何か元気の出る言葉をかけてあげてください!!」

「嫌だ」

「オ願イリリウス! 今度、水葡萄取ッテクルカラ!」

 

 マリィの言うそれは、水の都の流れが速く深い場所にのみ時折実るダンジョン産の水藻だ。場所が場所だけに今まで冒険者に発見されたことないそれを、マリィがたまたま見つけリリウスにあげたことがある。

 

「おいエルフ。こっちなんて元は整った顔立ちの人間だったらしいが今は骨だぞ骨」

「私を引き合いに出すのやめてくれないか………」

 

 とは言いつつフードを取るフェルズ。その顔には皮膚も肉もなく、スパルトイのような白骨の顔があった。

 

「まあ確かに、私も元は人間だ。この姿になった時は絶望もしたさ」

 

 この姿になったことというより、作った賢者の石が不完全だった事にだが…………。

 

「人間生きていれば、存外気持ちは切り替わるものさ。一先ず、生きてみてくれ。その後死ぬか決めれば良い。それに、君の体を調べれば元に戻す方法も解るかも知れない」

「…………………」

「安心してくれ。エルフは肌の接触を嫌うと言うが、私に肌はない」

 

 と、スカルジョーク。

 

「彼奴自分でギャグを言うくせに俺っち達が骨扱いすると怒るよなあ」

「他人に改めて言われたくないんだろ」

「面倒ナ………」

「五月蝿いぞ外野ー!」

 

 

 

 

 

「うん。無理」

「「「結論早ッ!!」」」

 

 一通り調べたフェルズは戻せないと断言。

 

「そもそも彼女は死んでいる」

「ああ()()()か…………」

 

 生きた人間が魔石を埋め込まれたのではなく、殺されてから死体に魔石を埋め込んだ………いわば動く死体。それが今のフィルヴィス。つまり一回死んでる。リリウスの想像通り。

 魔石を砕けば立ち所に死体に戻る。今ならまだ、死体が残るかもしれないが時間が経てば灰へと崩れる体になるだろう。

 

「ドロップアイテムはでんのか?」

 

 フィア達がリリウスをバシバシ叩いた。

 

「本当に、どうにもならないのですか?」

「フェルズ、昔ハ賢者ダッタンデショ!?」

「もう一度『賢者の石』を作れればあるいは…………あと、魔石(これ)は受信機の役目もある。頭の中に、声は聞こえないか?」

「…………言われてみれば」

「リリウス、上書きしてくれ」

「…………は?」

「それで少なくとも支配から逃れられる」

 

 リリウスは精霊そのものを取り込んだ下界有数の異端だ。だが、力の源流が精霊であることには変わりなく、恐らく今なら上書きが行える。

 

「断る。死にたがってる潔癖症に触れて殴られるなんざ割に合うか」

「ダメ?」

 

 とマリィが上目遣いで尋ねて来る。リリウスは勿論駄目だ、と返した。

 

「チッ………おい高慢ちきなクソエルフ。そもそもお前は、こいつ等が醜く見えるか?」

 

 リリウスは舌打ちしてからマリィ達を指差す。マリィのみならず、何人もフィルヴィスを心配そうに見つめていた。

 そこにあるのは、怪物らしくない友愛。魔石の有無も、本当に気にしないのだろうとリリウスとのやり取りを見ていれば解る。

 

 それを、魔石がある己の身を受け入れられず、受け入れない為に彼女達を嫌い続ける自分の方が余程…………

 

「私は、醜いな…………」

「ソンナコトナイヨ!」

「見た目の話ではない。私の心は、お前達と比べるべくもなく穢れている」

「彼奴今サラリと自分の容姿が美しいのは認めたな」

「人間ノ美醜ハ解ランガ、エルフト言ウノハ元々優レタ容姿ナノダロウ」

「周りはそう言うが、一般的な美醜なんぞ俺も知らねえよ」

 

 リリウスにとっては人は敵か敵じゃないか、その後は美味そうか不味そうかでしか判断したことがない。

 

「まあ自称美少女のアリーゼや、よく褒められる輝夜達の容姿を参考にすりゃ綺麗なんだろうが」

「フィルヴィスハ綺麗ダヨ! 中身モ綺麗!」

「何故、そう言い切れる!?」

「キラキラシテ、綺麗ダッタ………」

「!!…………………?」

「こっち見んな。多分魔石のことだ」

 

 リリウスはケバケバしいと思ったが。

 

「まあ、自分を醜いと思えんならマシだろ。穢らわしい人間ってのは輝夜達の判断でしか知らねえが、そいつ等は自分が穢れているなんて考えもしねえ」

「………………………」

「一先ずこいつ等と過ごして、魔石を胸に持つことが穢らわしいとしか思えねえなら改めて言え。今度は誰が止めようと殺してやる」

 

 そう言って、その場の全ての者の反応速度を超えリリウスはフィルヴィスの胸を貫いた。極彩色の魔石に触れ、指で撫でる。

 

 中の極彩色が消え、黄金色の光が浮かぶ。

 

「取り敢えず雷精霊でいいか?」

「うむ………繋がりは切り替えられた。必要であればリリウスがメッセージを送れるだろう」

 

 ただし受信機らしいので、リリウスに連絡は届かないだろうが。

 

「しかし、精霊か…………これも下界の未知、なのだろう」

 

 フェルズ曰く、相手は精霊を取り込んだモンスター。モンスターの破壊本能と精霊の力を手にした、仮称穢れた精霊とのことだ。

 ちなみにヴリトラとの戦いで見せた魔法の多様性から複数食ってる可能性が高いとのこと。

 

「大精霊を食う、ね。まず間違いなく自分を脅かして、しかも存在を塗り替えただろうに良く何度も食う気になるな」

「「「「……………………」」」」

 

 精霊を喰ったり古代の神殺しの獣の毒を喰って暴走したりしたリリウスに、事情を知らないフィルヴィスを除いたフェルズとフェルズから事情を聞いた異端児(ゼノス)達は『お前が言うな』と言いたげな視線を向けた。

 

「ま、まあ良い。一先ず、我々は地上に戻ろう」

「ああ、戻らねえよ俺は」

「…………は?」

「帰んのは2ヶ月後だな。ちょっとした家出だ」

「それは、大丈夫なのか?」

「置き手紙は残した」

 

 

 

 

「大変! リリウスの部屋の扉の隙間から、こんなものが!」

 

 ダンジョンに行ったきり御飯の時間になっても帰ってこないリリウスを心配して、もしやまた窓から帰って体も拭かずに眠ってしまったのかと様子を見に行ったアリーゼが手紙を持って戻ってきた。

 

 手紙には『2ヶ月後に顔を出す。探すな』とだけ書かれていた。

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