ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
本来は
あくまで【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】のイメージ、ひいては冒険者のイメージを下げない為の措置だから、準備期間があまりなかった。
そもそも、皮肉な話だが決行出来るようになったのは27階層の悪夢と名付けられた事件で
だから時間はとても少ないのも当然。
それでも決行したキルドの豚に罵声を吐きながら【ガネーシャ・ファミリア】幹部達は当日の巡回シフトを作り出してみせた。
団員を遊ばせる暇はなく、当然Lv.4へと至ったアーディも他の団員より忙しい。が………
「アーディ、まだ準備は終わらないのか?」
「大丈夫! 今終わったよ。変じゃない?」
薄く化粧した妹の姿に、シャクティは微妙な気分。別にこれからアーディが会いに行く相手を嫌いというわけではない。妹の命だって助けてもらったし………でも妹の腕食ったんだよな、と思うところはあれど凶暴でも性質は善性よりだと思っている。
年齢はアーディより5歳も下。神々曰く『コーコーセーがショーガクセーを狙っている』らしい。意味は解らないが、時折神々が使う『ショタコン』という単語に近いのだろう。
「しかし、本当に来るのか?」
「来るよ。リリウス君は約束破らないし、それに…………」
「それに……?」
「…………ご飯奢るって言ったし」
つまりリリウスの目的はアーディではなく飯の方か。アーディも自覚してるのかちょっと落ち込んでいた。
「♪」
とはいえ久し振りに会えるのは確か。見回る関係上、あまり列をなす屋台の料理は食べられないがそもそもリリウスは早く食える飯を求める。
「あ、でも待ち合わせの場所決めてなかった!」
どうしよう、香りの強いご飯たくさん買えば見つけてくれるかな? と………
「「グランド・デイ限定ブラックジャガ丸くん一つ…………ん?」」
「あ、リリウスさん」
「アイズか」
居た。屋台でジャガ丸くん頼んでいた。
アイズも一緒に頼んでた。
「【
アイズと祭りを回っていたであろうリヴェリアもリリウスに気付いた。
「一緒に回らない?」
「!? あ、待って──」
「今回は彼奴と回る」
と、アーディを指差すリリウス。
「行くぞアーディ。待たせたか?」
「あ、えっと………」
「それとここの金頼む」
「…………あ、うん」
オラリオ市壁の上で、【ガネーシャ・ファミリア】の団員ははぁ、とため息を吐く。
「俺も市内の見回りが良かったなぁ」
「文句言うなよ。午後からは市内回れるだろ?」
「だけど、アーディたんが回ってるって!」
「狙ってんのか? よせよせ、団長にぶっ殺されるぞ」
二人の男は脳裏に『私より弱い男など認めん』とこちらを踏みつけるシャクティを思い浮かべ、そのままアーディに治療されるところまで妄想する。
「おいお前達! 油断するな。まったく、まだ
と、真面目な性格故に祭りに反対だった団員はブツブツと文句を垂れる。
「いいじゃねえか。ほら、街の連中も笑ってる」
「『27階層の悪夢』なんてのもあったばかりだ。民衆が元気になるなら、
「…………はぁ、兎に角集中しろ。外部勢力を使った襲撃も………………」
「どうした?」
唐突に、街の外を見て固まる団員に声を投げかける。何事かと視線を送れば、そこには天に伸びる巨大な柱が幾本も存在した。
「黒い、柱? 神が、送還されて? だが、あの色は?」
その光景は約1年前のオラリオ最悪の1週間の始まりを告げた神の一斉送還に似ている。だが、天に弓引くかの如く聳える柱はこの世で最も神々しい力の奔流たる光の柱等ではなく、世界を抉り取ったかの如く光を飲み込む漆黒。
「違う………違う違う違うっ!! 動いてる!? こっちへ近づいてっっ──!!」
「退避! 退避ー!!」
少し時間を遡り、それに気付いたのは『風』に関わり深いアイズと………アイズとは異なる『風』に関わり深いリリウス。
「…………!」
「どうしたアイズ、ジャガ丸くんなら取らんぞ」
先ほど初めて食べた限定ジャガ丸くんを美味しいと叫んだ後取られたくないのか警戒したアイズをからかうように笑うリヴェリア。だが、普段なら頬をふくらませるアイズは険しい顔を浮かべる。
「………どうしたの、リリウス君?」
食い切れたらただと看板を掲げた店主が項垂れる横で、唐突にリリウスが丼から顔を上げる。
「「…………何か来る」」
二人の冒険者は、同時に別の場所で同じ言葉を呟く。数秒後、響く轟音。揺れる都市。
「きゃあああああああああ!?」
「っ! 何が……いや、それより避難を………」
「…………………」
慌てるアーディの横で、リリウスは言葉にし難い不快感に顔を歪める。
「なになに!? せっかくのお祭りに、何が起こったって言うのよ! 可愛い弟のデート日和でもあるのに、もー!」
「団長、怒るのは後にしろ!」
「それとデートではありません! そういうことは、まず文通を始めてから!」
「こんな時にエルフの潔癖出すな阿呆リオン!」
「風評被害! リオンはエルフの中でも極端だよ〜!」
「!? なぜ唐突に私がこのような扱いを受けねばならない!」
「はいはいリオンちゃん、怒るのは後々」
「納得いかない!!」
と、正義の眷属達も動き出す。
事態を真っ先に把握したのは当然【ガネーシャ・ファミリア】で、素早く動いたのはやはり【ロキ・ファミリア】。
「住民の避難、神の保護を優先! ギルドと連携して地下施設に避難させろ!」
「は、はい!」
「【黒い風】は、深層のモンスターと同等と考え対処しろ! Lv.4以下の冒険者は単身で挑むな!」
「「「了解!!」」」
親指が疼く。この程度では、終わらないと。
既に都市に被害が出始めたこの最悪な状況ですら、始まりに過ぎない。
快晴の空に似つかわしくない、吹き荒れる暴風。上級冒険者すら吹き飛ばす漆黒の風は、ただの風と言うのはあり得ないほどの破壊力を以て建築物を破壊し、瓦礫を吹き飛ばす。
「逃げろ! 逃げろおおお!!」
「どけ、邪魔だ!」
「てめぇ!」
「おさないで! 子供が、子供が!!」
大混乱。祭り故に人が密集し、自分だけでも助かりたいと我先に相手を押し退ける者、その姿に怒りを覚え掴みかかる者、我が子を庇う者など様々。混乱は伝播する。
「誰か、誰かあああああああ!?」
ギルド職員の声も届かず、恐慌が生まれようとしていた。人が人を殺しかねない狂乱。
「俺がガネーシャだああああああああああああああああ!!」
そして、混乱する者達の叫びを掻き消すような大声が響いた。誰もが唖然と力瘤を見せつけるガネーシャに視線を向けた。
「子供達よ! 俺を見ろ!! 何が起きようと、何も変わらない俺がここにいる! 目の前に立つのは『群衆の主』………お前達に、あえてもう一度聞こう! 俺は一体誰だ!? サン、ハイ!」
「「「貴方がガネーシャです!!」」」
「よし、落ち着いたな! 俺の団員達に従えば無事に避難できる!」
ガネーシャの言葉に落ち着きを取り戻した民衆は、急いで、しかし慌てず【ガネーシャ・ファミリア】の団員に従い避難を進める。
「ガネーシャ! 辺りの一般人の避難は終わった。しかしこれは、一体何が起きて」
「俺が知るものか! 今は他の【ファミリア】と連携して!」
周辺の一般人を避難させたシャクティは神の全知に何か情報を聞こうとしたその時、団員が慌てた声で叫んだ。
「ガネーシャ! シャクティ団長!!」
「む?」
「!?」
漆黒の竜巻が街を破壊しながら突き進んでいた。風の発生源は、あれだろう。
「なんなのだ、あれは………」
「黒い竜巻!?」
天にも届く竜巻でありながらその直径はそれ程でもない。冒険者の腕力を以て吹き飛ばそうとするシャクティだが、弾かれる。
「っ! 弾かれた!? この竜巻、自然発生のものではない!」
「こいつが災いの元か! 止められるか、シャクティ!!」
「止められるかじゃないガネーシャ………絶対に止める、それだけだ!」
「黒い………砂?」
竜巻を破壊しようとマーダを振るったリリウスは剣についた黒い粒を見て目を細める。
竜巻の異様な硬さと破壊力の正体はこの砂。ただの風では出せない威力を生み出している。
「助かりましたリリウス……」
街の異常事態にポーションを持って移動していた【ディアンケヒト・ファミリア】に襲いかかった竜巻。
Lv.6のリリウスに弾かれた後、警戒するように動きを止める。やはりこの竜巻には『意思』がある。厳密には、竜巻の奥に意思を持つ何かがいる。
「よくやった小僧! 急げお前達、ミアハのところよりも多くの怪我人を助けるのだ!」
「こんな時までミアハ様に迷惑かけないでください!」
「いえ、今は競争でもなんでもやる気をあげられるならそれでいい!!」
去っていく【ディアンケヒト・ファミリア】を見送りつつ、掌に冷気を溜めるリリウス。竜巻が襲い掛かってくると同時に放つ。
柱の如き竜巻は、身の程知らずに天へと届こうとしたことを裁かれるように砕けた。
「グルルルルルルル!!」
「黒い獣…………新種?」
大型種のモンスターに匹敵する巨躯を持った灰色の角に紫紺の瞳を持つ黒き獣。自らの『鎧』を剥がしたリリウスを警戒しているのか、低く唸る。
「グオオオオオオ!!」
「……………」
比べると余りにも小さな矮躯でありながら、リリウスは獣を蹴り飛ばした。自らが生み出した瓦礫の山に突っ込む獣。抜けないのかもがく。
「あ、あわわ…………」
「逃げ遅れか。酔っ払い共ですらとっくに逃げたのに何をちんたら………」
先程安否を確認したソーマと【ソーマ・ファミリア】の竜巻の対処も一般人の保護も全くしない惚れ惚れするほどの避難速度を思い出し舌打ちするリリウス。
瓦礫の陰で震えていた少女は、はっと目を見開き叫ぶ。
「後ろ!!」
「グオオオオ!」
「ああ?」
背後から迫る巨獣に片手を向けるリリウス。地上で行使される神の奇跡の欠片、精霊の炎が焼き尽くす。
「氷が最適だな」
建物も燃えたのを見て、市街地である事を思い出すリリウス。粒子だらけの竜巻を止めるのも、被害を出さずモンスターの心の臓を止めるにも氷の力が有効と判断。
腹が減ったので屋台から焼け焦げた肉を拾い食う。
「むぐ………おいガキ、さっさと避難しろ」
「は、はい!」
風の脅威がなくなり走り去る少女。リリウスは新たに現れた2つの竜巻を睨む。
周囲に人影なし。近くに人は居ない。
「こっちで行くか」
「「!!」」
モンスターの操る漆黒の竜巻より尚黒い風がリリウスを中心に吹き荒れる。2つの竜巻を一瞬で吹き飛ばし、中のモンスターすら吹き飛ばす。
……………吹き飛ばす?
「毒が………」
効かない? いや、効いてはいる。効果が薄い?
「…………………」
リリウスは【
スゥ、と息を大きく吸う。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
オラリオ中の竜巻が消える。
その咆哮の正体を知るアリーゼ達は困惑した。明らかに、怯み動きを止める程度の弱さではないモンスター達が一斉に動きを止めたからだ。
だが、それは勘違い。彼等は怯んだのではない。
声の発生源を掴むために、邪魔な風音を消したのだ。
ギリギリと歯を軋ませ、眉間にシワを寄せる。人類にはまるで怒っているように見え、まるでも何も怪物達は
「来たか」
そして何かに躓く。躓いたのは、黒い鎖だ。
新生した『釣り針』。『ウダイオスの根』という、倒した後わざわざ労力をかけ掘り起こさないと手に入らぬ未知のドロップアイテム。
階層破壊を行いウダイオスを喰いにヴリトラが現れ存在が明らかになった素材に、賢者の知恵を用いて作られた
機能はシンプル。
地下に伸び、
張り巡らされた『釣り針』の鎖に絡み取られたモンスターの大群。リリウスは伸びた部分を食い千切り、『針』という重りが付いた鎖を回転させる。
「ガルルル!!」
「グルアアア!」
絡み付く鎖を引き千切ろうと藻掻くモンスター達。当たり前だが、悠長に待つはずもない。
「死ね」
Lv.6の腕力で振るわれた深層階層主を素材とした鎖と刃が、モンスター達の魔石を破壊した。
黒い砂……通常のモンスターとは異なる異色の灰が撒き散らされた。