ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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満たされることを知らぬ者

 今の最強の冒険者が誰かと問われれば、この都市唯一のLv.6の【猛者(おうじゃ)】オッタルと言うだろう。

 素晴らしい冒険者といえば、【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナ。

 美しいといえば【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 一番の何かを指す冒険者はいる。それらは殆どが第一級冒険者。では、最恐の冒険者は誰か?

 それは第二級冒険者。【飢鬼(ラークシャサ)】リリウス・アーデ。

 

 最初のランクアップから半年で二度目のランクアップをしたという小人族(パルゥ厶)。最初は新たな英雄候補に喜んだ民達も、今では賛否両論。否定が多い。

 

 

 

 

 

「あ、ぐぅ………」

「殺して、もうごろじでぇぇぇ」

 

 早贄という行為をする鳥がいる。木の枝に獲物を指して保存しておくというものだ。

 闇派閥(イヴィルス)が吊るされていた。洗濯物を干すための縄、街頭、屋根から……。手足が斬られた状態で、五体満足で、死体で、生きたままで………。

 

 闇派閥(イヴィルス)が複数箇所で騒ぎを起こせば向かい、捕らえ、放置し次の現場に。住民が避難所から帰る前に回収するが、それでも避難中にその光景を見てしまった住民は恐怖を覚える。

 

 あの残虐性。あれは闇派閥(イヴィルス)と変わらないと恐れる者。いいや、あれは悪が許せぬからこそだと擁護する者。

 そして、そんな彼等の評価など気にせず食事をする者。

 

「またかい」

「あん?」

 

 食事中に声をかけられ不機嫌そうに振り返るリリウス。指の骨をパキパキと噛み砕きながら睨めば、【ロキ・ファミリア】の三巨頭。

 

「何度も言うけど、地上で()()はやめてほしいんだけどね。情報統制するこちらの身にもなってくれ」

「頼んじゃいねえ。それに、そもそもお前のためだろうが」

「同胞達の為だよ」

「民衆の眼の前ではなるべくやらねえようにしてやってんだろ」

 

 そう言って食事を再開する。

 【ロキ・ファミリア】団長フィン・ディムナの目的は一族の再興。フィアナという架空の女神の存在が否定され拠り所を失い凋落していく小人族(パルゥム)に希望の光を灯すこと。

 

 そのために【勇者(ブレイバー)】を名乗る。そのために栄光を欲する。そのために栄光を()()

 強い小人族(パルゥム)が現れるのは大歓迎だが、それが種族の名を貶めるようでは駄目なのだ。

 だから、半年でランクアップ、しかも最年少のLv.3という偉業を成したという眼の前の少年の悪評を出来る限り消そうとしている。

 

「同胞に示す光となるために、君にも正しく生きてほしいんだけどね」

「光がなきゃ立てねえカス共のために生き方を決められてたまるか。第一、お前の言う正しさってのはなんなんだ?」

 

 ブチブチと腕の肉を骨から引き剥がしていくリリウス。

 

「……そういう事をしない事かな」

「飯を食うなってか?」

「人を食うことだよ」

「もう死んでんだ。ただの肉だろ」

 

 新鮮な肉のために生かしていたが、食う前に殺している。だからこれは人の形をした肉だ。

 

「人として、生きていたんだぞ!」

「人を襲う奴を殺せと言ったのはてめぇ等だろうが。つまり人として扱うなって事じゃねえのかのよ」

 

 リリウスは民の安寧など微塵も興味がない。大して美味くもない低レベルの人間の集まりである闇派閥(イヴィルス)の構成員など、基本的に成長の糧にもなりはしない。

 

「ギルドの命令って形のてめぇの命令に従ってやってんだ。さっさと飯の種を寄越せ」

 

 モンスターや人が食えるからと言って、それが調理された食材に勝る美味な訳では無い。そういった料理を食うにも金が必要で、リリウスが従う理由があるとしたらそれだけなのだ。

 

「君は、傷ついている民を見て何も思わないのかい?」

「悲しむふりをするなよジジイ。民が苦しもうと栄光を得るためなら見逃すくせに、自分以外は民のために奉仕しろってか?」

「………………」

 

 リリウス・アーデは世界が嫌いだ。人間社会のシステムが嫌いだ。正義を嫌悪している。

 英雄を崇める者達は英雄しか見ない。そのくせ、自分達が見もしなかった者達の苦しみを自分達が味わう番になれば喚き散らす。

 

 正義の味方が救うのは何時だって真っ当に生きれる者達。飢え乾き、闇の中に生きる者に目を向けもしない。

 

「勘違いしてんじゃねえぞフィン・ディムナ。てめぇを小人族(パルゥム)の英雄と認めてんのは自分で何もしねえクズどもばかりだ。俺がてめぇの指示に従ってやってんのは、金のためだ」

「お主、フィンの努力を侮辱するか」

「するねぇ。聞けば最初からスキルも魔法もあったんだろう?」

 

 そんな冒険者は希少だ。そんな冒険者はまず大成する。

 

「てめぇこそ他の冒険者の努力を無視してんじゃねーよ」

 

 ガレスに対してそう吐き捨てるリリウス。

 

「才能に恵まれてる事を否定して努力家を気取るな。才能を持って努力が足りねえから、てめぇ等はゼウスとヘラ(最強)の後釜になれずこんな時代にしたんだろうが」

 

 ゼウスとヘラを恐れ闇に潜んでいた闇派閥(イヴィルス)達は、その2つの派閥が今代の最強とされるロキとフレイヤの派閥にとどめを刺され崩壊すると再び動き出し、オラリオに暗黒を齎した。

 

「俺に正しさを求める前に自分達の脆弱さをどうにかしろ、最強のユーシャ様。ああ、発情期で集中出来ねえのか」

 

 ちなみに発情期というのは、半年でランクアップした同胞の少女………と勘違いした少年を口説こうとしたフィンに対する皮肉だ。

 

「俺の力は俺のためだけに使う。俺に働かせたきゃ俺への対価を用意しろ」

「…………紹介が必要な小人族(パルゥ厶)専門の飲食店があるんだ。味も悪くない………人よりもずっとね」

「…………………」

 

 その言葉にリリウスは食っていた腕を捨て、死体の一つを掴む。

 

「それは持っていくんだ」

「Lv.3で強かった。これは俺の………飯だ」

 

 ステイタスの成長補正については黙っておくようソーマから言われている。面倒なことになると。面倒事は嫌いだ。

 

「食事なら僕の紹介した店で食べれば………」

「勘違いするな。俺にとって、料理は酒と同じ嗜好品。飯は金のかからない肉だ」

「我慢出来ないのかい?」

「する理由がわからねえ」

「節制は人の美徳だ」

 

 リリウスの飢えはスキルが目覚める前から味わっていたものだ。それを満たす為に生き続けた。

 節制? 人の美徳? そんなもので腹は膨れない。

 

「俺にとって食うことは奪うことだ。奪うことは生きること。甘ったれのエルフのお姫様が、味わったこともねえ飢えによくもまあ耐えろだなんて言えるもんだな。自分達の基準を疑わねえその傲慢な物言い、まさしくエルフだ」

「っ!!」

 

 エルフの王族としての地位を捨てた。常にそう言って崇めてくるエルフ達に辟易しているリヴェリアだが、だからといって王族でなくなるわけでもなし。

 王族(ハイエルフ)として生まれた恩恵は未だ彼女と共にある。彼女がもし飢えれば、即座にオラリオ中のエルフが自分の飯より優先して彼女に食わせようとするだろう。

 

「俺もハイエルフに生まれたかったぜ」

「私の気苦労も知らぬくせに………!」

「てめぇだって俺の苦労を知らねえだろうが。この話はそれで終わりだ」

 

 腹を割いてクソの詰まった腸を捨てる。胃の中身……ゲロは食えなくもないので捨てずに取っておいた。

 

 

 

 

 

「……………強喰増幅(オーバーイート)……前の所持者だって、あそこまでではなかったぞ」

 

 と、リヴェリアが嫌悪を滲ませながら言う。リリウス以前に存在した強喰増幅(オーバーイート)の所持者は確かにモンスター、獣、ダンジョンの採取物のみならず死した眷属の屍も食らっていたが、だからといって積極的に人食いを行っていたわけではない。

 

「彼に人食い嗜好はないと思うよ」

「なんだと? だが実際……」

「それは僕等が闇派閥(イヴィルス)の対処をさせているからだね。彼からすれば、手に入る肉が人なだけなんだろう」

「何故そんな……」

「それを異常と思わないからだろうね。命を奪うこと、肉を喰らうこと、モンスターと人間………その区別が彼には存在しない」

 

 

 

 

 

 ちなみにフィンが教えた店はその日一人の客に食糧を食い尽くされ、その日は何時もより早い時間に閉店した。

 

「俺は見たんだ。店の食糧を食い尽くした小人族(パルゥム)の子供が、そのまま冒険者にも人気な安くて量も多い店に向かうのを。しかも、その店も本日閉店の看板を出した。理由は、食材が食い尽くされたって…………時間操作とか超スピードとかそんなチャチなもんじゃねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ」

 

 と語るのはたまたまそれを目撃していた神だ。

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