ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
【アストレア・ファミリア】とアーディ、フェルズは猛毒の嵐に突っ込む。
リリウスの炎、フェルズから渡された毒除けのおかげで、毒自体は防げるが体を叩く風は強く、第二級冒険者であっても油断すれば吹き飛ばされかねない。
「これ、終わりはあるのか」
「なければここが我等の墓場となるだろうな」
轟々と吹き荒れる風に声が消されそうになりながらも、お互いの声が聞こえる距離を保つ。
太陽の光すら遮る漆黒の暴風の中、草木が朽ちた暗闇の荒野を歩く………。果ての見えない闇は、まるで永遠に続くかのような錯覚を受ける。
「抜けた!」
だが、分厚い
「中心のモンスターは…………………は?」
それらしき影を探そうとして見当たらず、巨大な柱のようなものを見つけ、目で追いながら上を見上げ漸く気付く。
「グオオオオオオ………」
ただの唸りが、しかし並のモンスターの咆哮よりも大きく響き大気が揺れる。
「いや、いやいやいやいや! 待て待て、待てよ! ふざけんな、デカすぎんだろ!!」
階層主を遥かに超える巨体。歪に捻れ曲がった角を持つ獣が侵入者に気付き歩み寄るだけで、大地が揺れる。
「グオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「くっ!?」
「
世界そのものを震わせるかの如き大音響。リリウスのように指向性を持たせていないというのに、それそのものが破壊力を持ち、大地が罅割れる。
「こんなん、あたし等だけでどうしろってんだよ!」
「弱音を吐くなネーゼ! 来るぞ!」
ズゥゥン! ズゥゥン! と大地が悲鳴を上げる。この距離では詠唱は間に合わないと長文詠唱のリューは後衛を守るために動き、セルティ達は短文詠唱を唱える。
「【
「しっ!!」
「はぁ!!」
超短文詠唱のアリーゼの魔法。攻撃時に
それら全てをまともに受け、怪物は
「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
埃を払う程度の感覚から、虫を払う程度の感覚で放つ
「く、ぁ………」
ただの咆哮で諸共吹き飛ばされたフェルズ………そう名乗ったフィルヴィスは何とか立ち上がろうとする。
文字通りの人外じみた回復力に救われた。ただのLv.2冒険者だったら潰されていたかもしれない。
「!?」
ガクリと、体から力が抜ける。見れば毒除けのアイテムが砕けていた。
【アストレア・ファミリア】の身を守っていた『精霊の炎』も消し飛ばされていた。
足音は、遠ざかっていく。冒険者を見向きもしない。ここで息を潜めていたくせに、冒険者という脅威を確実に殺すよりも村々を狙う。
弱者の蹂躙を優先する悪辣な獣。だが、そのおかげで死なずに済む…………そんな事に安堵できるような性根のものは、ここにはいなかった。
「……ま、は遠き……りの…………ら」
歌が聞こえる。
妖精の奏でる歌。正義の歌。
「皆、立てる………?」
「あたり、まえだ。弟を、持っただけで大人ぶる元末っ子が戦おうとしているのだ………」
アリーゼの言葉に、輝夜が立ち上がる。
「まあ、その末っ子もそろそろ、辞めちまうがな」
「このまま残ってくれないかな〜」
ライラの言葉にマリューが笑いながら起き上がる。
「【……無窮の、夜天に
「私は、いっそ【ガネーシャ・ファミリア】に来て欲しい、けど」
「う〜ん、アーディちゃんならちゃんと育ててくれそう」
1人、また1人と立ち上がる。リューの詠唱が続き、高まる魔力。
怪物はやはり振り返らないが、今はむしろ都合がいい。
「【汝を見捨てし者に光の慈悲を。来れ、さすらう風、流浪の
迸る魔力。魔導を持たぬリューは、しかし【
「【星屑の光を宿し敵を討て】!!」
「【ルミノス・ウィンド】!!」
「!?」
猛毒の嵐が内から膨らむ。飛び出してくるのは、緑風纏った星の光。
「リューか………」
竜巻の内側から攻撃したのか。
嵐を完全に消し去るほどの力はないが、それでも、その光景を見た冒険者達に闘志が戻る。
「てめぇ等あ! 遅れを取るんじゃねえぞ!!」
「「「おおおおおおお!!」」」
ベートの言葉に【ヴィーザル・ファミリア】達が叫ぶ。獣人達が多い彼等の叫びはモンスターの咆哮にも竜巻の唸り声にも負けず戦場へ響き、他の冒険者達を高揚させる。
天へと響かせる、勝利を約束する遠吠え。
より強い個体の命令に従う……それだけだったはずのモンスター達が怯む。
「グウウウゥゥゥゥ!!」
ダメージを負ったモンスターはギロリと【アストレア・ファミリア】を睨む。ここに来て、漸く飛び回る羽虫から毒虫と認識し直す。
故に殺す。蜂の巣を見つけた人間がそうするように、足元の針を持つ虫共を踏み潰すと唸る。
「詠唱、再開します! 私の全魔力を注ぐ!」
「了解………皆、詠唱を途切れさせるな!」
並行詠唱など行わない。僅かにでも意識が乱れれば暴発するほどの魔力を込める、リューの最大砲撃を支援すべくモンスターへと迫る。
「グオオオオオオオ!!」
「【今は遠き森の空。無窮の夜天に
ズシンズシンと先程より間隔の短い振動が響く。陸の王の化身は大口を開き冒険者達を食らわんと迫る。
「させねえよ!」
「大人しくしろ!」
ネーゼとイスカがリューの砲撃で傷付いた箇所に攻撃を放つ。厚皮に覆われていない剥き出しの肉への攻撃にモンスターの速度が緩む。
「グゥ………オォ!!」
鬱陶しい毒虫を払わんと放たれる風の砲撃。だが、漆黒の暴威は純白の障壁に弾かれる。
正面から受け止めず、斜めに展開された障壁は砕けながらも絶死の風を見事明後日の方向へと導いた。
「【愚かな我が声に応じ、今一度
「セルティ、合わせて!」
「はい!!」
炎の魔法が放たれ、モンスターの後脚の膝裏を吹き飛ばす。強制的に後脚の膝を地面につき、今度こそその足を止める。
「【来れ、さすらう風、流浪の
「オオオオオオ……………!!」
「させるかよ!!」
再び
「!?」
喉に張り付くような煙に咳き込むモンスター。その咳一つ一つが砂を巻き上げ小石を散弾の如く飛ばすが、ただ苦しんでいるだけ。狙われてはいない。
「【空を渡り荒野を駆け】」
「──────!!」
「あ?」
周囲を覆っていた猛毒の嵐が消える。
なんのつもりかと困惑したが、すぐに解った。
同族さえ拒む猛毒の嵐が消え、周囲に残っていたモンスター達が集まりだしたのだ。
「【ガーナ・アヴィムサ】!!」
「【ゴコウ】!!」
アーディの拘束魔法と輝夜の居合複合魔法が放たれモンスターを拘束、切り裂いていくが、一匹抜ける。
「【何物よりも
リューは、詠唱を中断せず漆黒の巨獣を睨み付ける。リューへと迫ったモンスターはドワーフのアスタが大盾で殴り付ける。
「【星屑の光を宿し敵を討て】!!」
「リオン、
詠唱の完了と共にアリーゼは既に走り出していた。そのままブーツの底で炎を爆発させ、跳躍する。
「【ルミノス・ウィンド】!!」
リューの残存
先程とは比べ物にならない威力でモンスターへと襲いかかり、前足を破壊する。
ズズウウゥゥン!! と前足の膝をつくモンスター。頭は先程より低い位置だが、まだ高い。
「リオン!」
アリーゼは、残った砲弾の一つを足裏で己の炎と共に爆発させ、空中跳躍。最後の一つは、ベヒーモスの額へと向かっていく。
「【
「【
【
戦闘時『力』の高補正。逆境時『耐久』『器用』の高補正。大敵交戦時『敏捷』『魔力』に高補正。3つの条件を達した場合、時間に比例して『力』『敏捷』『魔力』のさらなる補正。
【
近接戦闘時におけるスキル効果増幅。魔法発動時における魔法効果増幅。
全条件を満たした高火力が、アリーゼの肉体すら焼く高温の炎を生み出す。
「『
モンスターの額に叩きつけられる炎の剣。緑風纏う星の光を切り裂き、混じり、爆ぜる。
「オオオオオオオオオオオ!!!」
「う、ああああああああ!!」
大爆砕。劫火がモンスターの厚皮を焼き、肉を炭化させ血を蒸発させ骨を溶かす。
モンスターの断末魔の叫びすら焼き滅ぼす紅炎が、暗闇を焼き尽くしていく。
「………………あ、はは………綺麗」
焼き尽くされた暗闇に代わりに現れる青空。黒き灰となって崩れていくモンスターの体が風に舞うも、世界を照らす陽光を遮るには至らない。
「あぶね………」
リリウスがアリーゼの体を掴む。ただの跳躍だけで、魔法すら行使したアリーゼの跳躍より高く跳んだリリウス。
「あ〜………リリウス。えっへへ、どう。お姉ちゃんはすごい……でしょ、ふふん………!」
「ああ、良くやった。今は休め」
「そう、する…………」
「…………無粋な」
まあ、大きな怪物一匹倒せば他の怪物も消える、なんて訳はなく残っていたモンスター達が疲弊している【アストレア・ファミリア】達へ襲い掛かろうとしていた。だが………
「残ったモンスター達を殲滅しろ!」
【超大型竜巻】を目指していたであろうフィンやオッタル達も到着した。ただの【黒い竜巻】程度、あっという間に殲滅された。