ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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ちょい出し情報
【ドゥルガーちゃん】
リリウスの契約精霊。
フィネガス同様、目的は下界救済や英雄補助ではなく神の趣味。
リリウス以外と契約する気なし。
実は神に与えられた役目を放棄している。
リリウスにだけ特別に『英雄の一撃』を授けてくれる献身的ヒロインだぞ!
何かと争いごとの気配を感じると「鏖殺か?」とか「殺戮だ!」とか言うけど。


悪辣なる巨獣

 一先ず、目下の脅威は駆除出来たとして冒険者達は予定通りデダインの村にて合流した。

 

 怪我人は【ミアハ・ファミリア】や【ディアンケヒト・ファミリア】が対応する中、リリウスはフィンやヘディンなど都市トップがいる場所で、【毒獣王牙(ヴェノム・ベヘモット)】を発動していた。

 

「………この辺りにはもう【大型】も【超大型】はいないな。【中型】や【通常サイズ】は何体かいやがるが」

 

 【毒獣王牙(ベヒーモスの模倣)】を持つリリウスはある程度の距離ならばベヒーモスの子供達の気配を察する事が出来る。

 スキルを発動すれば、その範囲も広がる。その上で、近くに隠れている脅威になりえるだけの伏兵はいないと判断した。

 

「そうか、ありがとう」

 

 髪の色が白く戻り、側頭部から生えた角が崩れる。リリウスは机の上に用意されていた飯を食う。

 

「とは言え、また生み出される可能性はあるがな」

「だからこそ、【黒雲】に潜むベヒーモスを早急に退治しなくてはならない」

「……………この戦力で?」

「それは女神の威光を侮るという意味でいいか、クソガキ」

 

 と、眼鏡をクイッと上げながら白妖精(ホワイト・エルフ)が殺気を飛ばし、黒妖精(ダークエルフ)が無言で腰にさす剣に手をかける。

 

 ちなみにリリウスと相性の悪いアレンやガリバー兄弟はいない。居たらとっくに手を出していたことだろう。

 

 同じLv.6の魔導士と戦士が1人ずつ。今のリリウスが能力値(アビリティ)をほぼ極めかけている状態とはいえ、対人特化の同格2人に勝てるかと言われると本人も断言はしないだろう。まあ………

 

「ああ? やんのかてめぇ………」

 

 じゃあ引き下がる、なんて大人しい性格はしてないのだが。

 

「まあ、事実として僕達の総力はかつてベヒーモスを討った【ゼウス】と【ヘラ】に届いていない。そうだろう? オッタル」

「ああ」

 

 ヘグニとヘディン………今の【フレイヤ・ファミリア】の幹部陣は、嘗ての時代を知らない。ヘラにより都市に縛られていたフレイヤが自由になってから手にした戦士だからだ。

 

 だが、オッタルは知っている。2つの派閥に泥を味わわされた数少ない、『当時』の冒険者だからだ。

 

「俺達はより強くならねばならない。嘗ての最強の女神の威光を超え、フレイヤ様の名を真の最強として轟かせるために。ならば、否定するのは今ではない」

 

 より強くなり、嘗ての威光に劣るという言葉を否定できるだけの存在になれば良い。今それをするのは、自分達の弱さに目を背けている事にほかならないとオッタルは言う。

 

 ヘディンは舌打ちしながら杖を握る手に込めていた力を抜く。

 リリウスは役目は終わったとばかりに窓から出ていく。

 

 

 

 

「あ、お〜い、リリウス!」

「……………………」

 

 食料を配膳している場所に向かおうとすればアリーゼに見つかり、抱きつこうとしてきたので回避する。

 

「お〜い、リリウス君! こっちこっち!」

 

 アーディが鳥のもも肉片手に膝をポンポン叩くので、リリウスはアーディの膝に座り肉を受け取る。

 アーディの義腕は戦闘用。それでもかなりボロボロになったらしく、今は外している。リリウスに鳥肉を渡して頭を撫でる。

 

「ご飯!? お姉ちゃんよりご飯なのねリリウス!」

「極東には花より団子と言う言葉がありますが、まさにそのとおりですねえ」

 

 ショックだわ、と項垂れるアリーゼに輝夜がクスクスと笑う。【アストレア・ファミリア】が笑いに包まれた。

 

「それでも私は、『お姉ちゃんすごい』と言わせてみせる! 聞きなさいリリウス、私は──」

「そうそう、私や団長、そこのクソ雑魚妖精は第一級になりました」

「輝夜ぁ!?」

 

 流石に全員ランクアップ、という1年前の再現は出来なかった。だがリリウスというLv.6と共に深層まで潜り鍛え上げられたステイタスは、格上との戦いにて【アストレア・ファミリア】の主力とも言える3人を昇華させるに至った。

 

 どちらかというと支援に回っていたアーディはあと少しかな〜と少し残念そう。

 【ヴィーザル・ファミリア】も副団長含めた何人かランクアップしたらしい。神々が眷族の為にオラリオからこのデダインの村に合流しているのだ。

 

「そういえば、あの毒って既存の毒消しだと効果なかったんだって。でも『聖女』ちゃんがリリウスのお陰で特効薬を用意出来て、お礼を伝えておいて、ってさ」

「そうか」

 

 やはりリリウスの血はベヒーモスの毒に対する特効薬の材料になり得たようだ。ついでに今は嘗てのベヒーモス討伐に使われていた解毒薬も作っている最中らしい。

 

 リリウスの解毒剤が何処まで通用するのか分からないので、当然といえば当然だろう。

 

「後はベヒーモスか…………」

 

 漸く正体について明かされ、冒険者の反応は2通り。

 『陸の王者』の再来に怯える者と、どうせ一度倒されたんだと甘く見るもの。

 更に細かく分けるなら再来に怯えながらも戦う意志を持つ者と持たない者、甘く見ながらも強い奴らに任せる気の者と手柄を求める者などだ。

 

「ところで、フェルズさんは? お礼言いたかったんだけど」

「帰った」

 

 

 

 

 デダインに合流した神の内、三柱。ヘルメス、ヘファイストス、ゴブニュ。

 目の前に用意されたのは腕輪とケープ。【ゼウス】と【ヘラ】が嘗ての『陸の王者』と戦うために用意した毒除け。現存する最後の2つだ。

 

「これで新しい毒除けを造ってもらいたい」

「う〜ん。もっと残ってなかったの?」

「これだけさ」

 

 ガレスの言葉にヘファイストスが尋ねると、ヘルメスは肩を竦めた。果たしてこれで、どれだけの性能を造り出せるか。

 

「……こういう『介入』の仕方、してもいいのかしら」

「む? 何か言ったか?」

 

 冒険者の耳でも聞き取れないような小さな小さな独り言。ヘファイストスは何でもないと肩を竦めた。

 

「確認だけど、一着でいいのよね?」

「ああ、装備する者は決まっておる」

 

 

 

 

「正気か、てめぇ…………」

 

 黒の砂漠、襲い来る黒いモンスター達の群を超え、【黒雲】の内部の最奥にて世界を抉り取ったかの如く漆黒に染まったこれまでの毒とは比べ物にならない【毒の風】を前に集う冒険者達。

 その場でフィンが説明した作戦にリリウスは苛立つ。

 毒除けの装備を纏ったアイズはオロオロと二人を見る。

 

「アイズ以外に、この風は抜けられない」

「…………………」

 

 リリウスは無言で【毒の風】に片腕を突っ込む。『悪食』とスキルによる『耐異常』………2つの毒に対する発展アビリティを持つリリウスの皮膚が、容易く爛れた。

 

「だがこの程度なら、俺のスキルを使えば突破できる」

 

 【毒獣王牙(ヴェノム・ベヘモット)】を発動すれば発現した『耐異常』の性能はさらに飛躍する。その状態のリリウスなら、【毒の風】の影響をほぼ無効化出来る。

 

「別に元凶を倒せと言う気はない。それは間違いなく不可能だ。ただ、毒の生成器官を破壊できれば良い」

「だから、俺一人で十分だろうが。たかがLv.4のガキに託して祈って、無様に腐った死体を増やすのを待てってか?」

 

 アイズの『魔法(かぜ)』ならば【毒の風】を弾ける。不完全とは言え、毒除けの装備もある。だが、増殖体の放っていた【猛毒】の砲撃はその威力だけでLv.7のアルフィアと同等の破壊力を持っていた。なら、大元はそれ以上と考えるのが妥当だ。

 

「私の心配なら、大丈夫だから」

「無駄な時間を取らせんなつってんだよ、こっちは」

 

 言外に無駄に死ぬと言われ、アイズは俯く。【ロキ・ファミリア】はともかく、アイズはリリウスを嫌っていない。むしろどんどん強くなる姿に憧れを抱いていると言ってもいいだろう。だから、本当は頑張れと言って欲しかった。

 

「僕はこれが最善と判断した」

 

 リリウス一人ではベヒーモスを倒せない。故にこそ、士気を乱すような姿を冒険者に見せるわけにはいかない。

 

「私、頑張るから。それに、彼奴を………許せない」 

 

 漸く平和になってきたオラリオを蹂躙した漆黒の風。アイズの瞳に、黒い炎が宿る。リリウスはチッと舌打ちする。

 

「死んだら次は俺が行く。無駄な時間を取らせたんだ、文句はねえな」

「ああ。だけど、無駄な時間にならないと断言するよ。僕は、アイズを信じる」

 

 フィンの言葉にリリウスはくだらねえ、と吐き捨てる。リリウスに期待されてない事に落ち込みながらも、アイズは【黒雲】の中心部を睨みつけた。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!!」

 

 吹き荒れる白い風。漆黒の【毒の風】を弾きながら、アイズは黒に呑まれていった。

 

 

 

 

「くっ……うううう!!」

 

 風が強い。何よりも、その猛毒。急拵えの装備が風に触れ、僅かに溶けた。少しでもアイズの風が弱まれば、立ち所に溶け崩れるだろう。

 

 装備と風、どちらか存在しなければアイズはとっくに死んでいた。

 

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

 風に押される。それでも、もっと先へ、中心地へ向かわねば。託してくれた皆のために。

 アイズの存在に気付いたのか、視線を感じる。

 

 やがて現れたる漆黒の影。世界を覆うと錯覚するほどの巨体。

 気持ち悪い……醜悪なのはもちろんとして、存在そのものが、受け付けない。

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 不遜にも自らの風を抜け辿り着いた矮軀な娘に吠えるベヒーモス。悲鳴だけで、全身が砕けそうになる。

 

「はあああああ!!」

 

 目の前に居るはずなのに遥か遠くにある毒の生成器官を狙うアイズ。煩わしい羽虫に、巨獣は吠えた。

 

 

 

 足が溶ける。腕が砕けた。

 額が弾けて血が視界を赤く染める。

 

 ()()()()()()()()

 何も考えず戦えるから。何も考えず怪物を殺せるから。

 

 許せないものがいる。存在を認められないものがいる。

 此奴のように、何もかも奪う最悪の怪物。故に………

 

「──【起動(テンペスト)】」

 

 

 

「【復讐姫(アヴェンジャー)】」

 

 

 

「────!!」

 

 リリウスが目を見開き硬直し、【中型】の前足に踏み付けられた。

 

「ちょ、リリウス!?」

「…………あの馬鹿娘」

 

 リリウスはモンスターの足を切り裂きながら忌々しげに【黒い風】を睨む。同時に、膨張する【黒い風】。

 

「全員退避! 風の直撃を浴びるなあああ!!」

 

 フィンの言葉に各々が動く中、リリウスだけが吹き荒ぶ風を睨む。おそらく、リリウスだけわかるベヒーモスの毒風(かぜ)とは似ているが異なる黒風(かぜ)が、【毒の風】を蹂躙する。

 

 四方に爆ぜる猛毒の嵐。

 

「グオオオオオオオオオッ!!」

 

 風音に紛れる獣の咆哮。やがて、風が止む。

 

 明瞭になった視界に映る小さな金色。

 

「…………アイズ!」

「やった、よ………」

 

 リヴェリアの叫びに、アイズが弱々しく微笑んだ。

 

「もう、毒は出さない」

 

「「「うおおおおおおおお!!」」」

 

 歓声が響く。最大の障壁が消えた。これで、勝ち目が見えた。誰もがそう思った、その時………

 

 ゲラッ、と笑い声のようなものが響く。

 勝機を手繰り寄せた少女がいる言葉に相応しくない、嘲笑。

 

 ゲラゲラゲラゲラ、暗闇に響き渡る。

 

「モンスターが………」

「笑って?」

 

 冒険者達が困惑する中、モンスター達は明らかに笑っていた。

 やがて黒い霧が晴れ、全貌を顕にする彼等の王。

 

「でかい………!」

 

 山脈の如き巨大な怪物。生物の範疇を超えた四つ目の巨獣。

 

「いや、やはり亜種だ………」

「姿形が違う、何より【原種(オリジナル)】より一回り小さい…………」

「ならば………」

「ああ、勝利を掴み取れる………!」

「馬鹿共が! 防げ!!」

 

 冒険者達が闘志を燃やす中、ただ一人リリウスだけが【毒獣王牙(スキル)】を通して、『悪意』を感じ取る。

 

 ベヒーモスが大きく息を吸い………猛毒の砲撃(ブレス)を吐き出した。

 

「…………え?」

 

 狙いはアイズではない。冒険者ですらない。

 ある山の麓、近隣住民の避難所。誰も止めること叶わず、轟音と共に山が砕け光線の如き漆黒は霧となって周囲を飲み込む。

 

 間違いなく、生き残りはいない。

 

 冒険者達が息を呑み、絶望する中漆黒の巨獣も己の眷属達同様にゲラゲラゲラゲラと笑う。大気を震わせる、悪意に満ちた嘲笑。

 

「此奴……()()か!!」

 

 

 

 一匹の竜がいた。

 とても弱い竜だった。竜の谷で生まれながらにして虐げられる者。逃げるように故郷から飛び出しても、ダンジョンもないオラリオの外の人間に簡単に捕らえられてしまう程弱かった。

 

 捕らえた男は調教師(テイマー)と呼ばれる存在で、竜が命令に従わなければ痛めつけた。

 男は闇派閥(イヴィルス)の外部活動員。

 

 魔石製品の魔石を食わせ力を与え、村々を蹂躙させた。力のない神の眷属達を食わせた。

 生きたまま男を焼かせ、泣き叫ぶ母を食わせ、絶望した娘を犯す屑だった。

 

 楽しそうに笑っていた。笑いながら殺していた。

 自分を痛めつける男に怯えるだけの竜は、笑うことなど出来なかった。

 

 ある日、男は竜を黒い大地に連れて行った。竜はそこが恐ろしかったが、何もしてこない大地より男が恐ろしくて従い、数日かけて探し出した近くにいるだけで押し潰されそうな威圧感を放つ肉を食うように命じられた。

 

 怯えながら、一口。不思議なことに、恐怖が薄れる。二口、三口と食らうごとに初めて魔石を食わされた時のような全能感が体を支配し、恐怖が消えていく。

 

 同時に、自分の中に自分ではない何かが生まれ………いや、入ってくるのを感じながら喰らい続けた。

 

 

 

 嘗て大地を歩き森を腐らせ国々を滅ぼした。そこに何かを覚えたことなどない。ただ、己はそうあるだけ故に。

 

 己の風を超え、体に傷をつけ、最後に己の一部を喰らい、炎の牙を以て我が身を滅ぼした男に覚えた感情を、結局理解できなかった。

 

 

 

 だが、その男に比べ我が主はなんと矮小な事か。これの、何処に怯えれば良いのかと踏み潰した。主の仲間達は目を見開き叫び、毒に侵され苦しみながら、此方に視線を向けた。

 怯えていた。恐れていた。ああ…………。

 

 

 己の分身を通し、世界を見た。

 蹂躙されゆく世界を眺めた。悲鳴を聞いた。絶望を見た。恐怖を味わった。

 

 なんて愛おしい。なんて愉しい。

 

 今まさに呆然と立ち尽くす人間達が、漸く此方に目を向ける。何人かは狂ったように自分が吹き飛ばした山を見て叫ぶ。

 

 お前達の絶望(かお)が、お前達の悲鳴(こえ)が、教えてくれる。

 己が強いという事実を。蹂躙の愉悦を!!

 

 

 亡き主に感謝しながら、ベヒーモスはアイズを見つめる。思っていたより凶悪な牙を隠し持っていたが、数分もすれば傷は癒える。

 

 この女は人間達の希望だ。毒に対抗する唯一の手段だった筈だ。それを、踏み潰してやったら……愉しいだろうなぁ。また、あの緑の毛並みは、泣き叫びそうだ。ちっこい金色は、気丈に振る舞いそうだがら最後に殺そう。

 

 人間を観察し続け学んだ観察眼を以て、ベヒーモスは人間達の反応を予言しながら、それを早く見たいとブルリと震え再び口内に毒を溜める。

 

 私は、お前達が大好きだ。だからどうか、無残に死んでくれ。

 

 

 

「っ!!」

 

 自分が狙われていることに気付き慌てて回避しようとするも、スキルの反動で悲鳴を上げる肉体。

 リヴェリアが慌てて魔法を発動しようとしてるが、間に合わない。風は………消し飛ばされるだけ。

 

「ぁ──」

 

 放たれる、『死』そのものを濃縮したような漆黒の息吹(ブレス)

 迫りくる猛毒の砲撃は………黒い風に阻まれた。

 

「!!?」

 

 ベヒーモスは瞠目する。その力は、己だけの物のはず!!

 

 

 

「失せろ、アイズ」

 

 黒い毛並み、灰色の角。【猛毒の風】を纏いベヒーモスを睨みつけるのは、リリウス。

 

「巻き込んで死んでも知らねえぞ」




ベヒーモス・オルタナティブ
闇派閥の外部活動員にテイムされていた。人間の悪意をふんだんに学べた超悪辣個体。
ドラゴン要素はほとんどベヒーモスに食われたが、残虐性とブレスなどゲーム版にはない仕様が存在するぞ。


実際アイズなら黒風使えばフィンの信頼通りベヒーモスの毒生成機能は奪えた。反動で動けなくなるとしても、Lv.6のリリウスが動けなくなり士気まで下がる可能性より毒がもう来ないならLv.4一人参加しないのは大した損にならない
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