ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「グオオオオオ!!」
「ガア!!」
ベヒーモスの子供達を喰らい押し上げた
規格外の『英雄』の斬撃がベヒーモスの皮膚を切り裂く。しかし、その巨体にはあまりに小さな傷。生物を超越した生命力が傷を癒そうとするが、リリウスの蹴りが肉を吹き飛ばし皮膚を剥がす。
「ゴアアアアアア!?」
ささくれを剥かれるようなダメージ。だが、痛いものは痛い。竜種を素体とするベヒーモスは【
ただ振るうだけで
「カハァ!」
「ッ!?」
吐き出されるのは漆黒の吐息。山を吹き飛ばした光線の如き
リリウスの視界を黒く染める。夜闇よりなおも黒い漆黒の空間に、ベヒーモスは両足を振り下ろした。
「っ!! 衝撃に備えろ!!」
ベヒーモスが上体を持ち上げた瞬間、フィンは叫んだ。直ぐにリヴェリア達魔導士に障壁を張るよう指示する。
あの質量を持ち上げる? そんな理不尽、【
いや、或いはする必要がなかったのか…………。まあ、たとえ目の前のベヒーモスが嘗ての【
「「「───────ッ!!?」」」
ベヒーモスの前脚が大地を叩く。瞬間、世界が揺れる。吹き荒れる砂嵐………否、
それそのものが大規模魔法の如き殲滅力を持って障壁にぶち当たる。フィンに回収されたアイズは、砂の津波の向こうをなんとか見ようとするが、暗幕の如く結界を覆う砂のせいで見ること叶わず。
「な、何だよこれ! こんなの、どう勝てっていうんだよ!?」
その理不尽としか言いようのない光景に冒険者の誰かが叫んだ。ただ足を振り下ろしただけ。それだけで、魔導士の結界がなければオラリオの【ファミリア】は半壊していたかもしれない。
「でも、あの人も、戦ってる!」
リヴェリアの治癒魔法を受けながら、ポーションを飲んで体力を回復させアイズは叫ぶ。
「私達も、戦わないと……!」
脳裏に過ぎるのは、絶望に挑み、帰ってこなかった両親。そんなのは、嫌だ。だから………
「ふ、ふざけんな! あんなバケモンみてぇな奴と戦えるか!!」
「ついてけるかよ!」
だが、あの場に飛び込めるのは選ばれた一握りだけ。多くの冒険者は、手足に纏わりつく前に消し飛ぶだろう。
「それに、それにあの姿………あの力!」
「ベヒーモスと、同じ………!?」
やはりこうなったかと、フィンは歯噛みする。ただでさえベヒーモスの脅威を目の当たりにしたのだ。
それを模倣した力を目にして、リリウスを恐怖しないとは思えなかった。
冒険者達に混乱が広がる。『怪物の力を振るう冒険者』に、恐怖が集まる。
「収まったか…………」
砂の津波も漸く収まり、障壁を解除する。ザァ、と積まれていた砂が流れるが、アイズはその流れに逆らうように飛び出した。
「くっ、そ…………」
ただの踏み降ろしで馬鹿げた破壊と衝撃波を齎したベヒーモス。暴風に絡み取られ、砂の津波に飲まれ遥か彼方に吹き飛ばされたリリウスは砂を
「──!!」
ベヒーモスの足が迫る。即座に飛んで回避。大地が悲鳴を上げる。
流石に両足の踏み込みは隙が多く二度目は通じないと判断したのだろう。知能が高い。
「
だが、リリウスが吹き飛ばされた方向に山すら吹き飛ばす
避けられると思ったから? もちろん避けるつもりではあった。確信は自分でも持てないが…………
「ああ、毒の生成………それ自体は
『毒の生成』と『毒の
さて、節約とは言ったが本当に節約してるのかもう撃てないのかは不明。取り敢えず後2、3発撃てる前提で考える。
性格は、悪辣だが考えなしの部分もある。冒険者に囲まれた状態で、一発を遠く離れた避難所というこの戦いの趨勢に関係ない場所に撃つのだから。
「グオオオオオオ!!」
「チっ!!」
斬撃は大したダメージにならない。打撃は厚皮に阻まれるから、まずは斬ってから殴るか蹴る………。
お互い毒は効かないので、
「いや………」
黒い砂漠を形成する【
「死ね」
ベヒーモスとリリウスが使う
「グオオオオオオオ!?」
人間で例えるなら擦り傷程度。だが、いける。このまま削り落とし………。
ゴウッと突風が吹き荒れた。
「次から、次へと…………!」
突風の正体は
空は飛べない、飾りの如き翼でもその巨大な翼は振るうだけでリリウスの
精霊の力なら或いは………いや、【
「…………【月を喰らい太陽を飲め暴食の化身】」
「!?」
紡がれる詠唱、放出される魔力にベヒーモスは目を見開く。
それは竜としての記憶ではなく、巨獣としての記憶。
「【首となっても歯を突き立てろ】」
嘗て己を滅ぼした恐ろしき炎の牙。あれを放った男も、同じようなことをしていた!
「【
それまで食らってきた魔法などと比べ物にならない威力。巨獣の記憶では、それ以前の魔法など歯牙にもかけなかった。だが、それに殺された。何より臆病な竜の記憶が叫ぶ。
「オオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
王の号令を聞き集まるモンスター達。【中型】が己の
だが………
「【我が身は千の姿を得る】」
詠唱、止まらず。
「【貪り喰らえ】」
襲いかかる牙が当たらない。振るわれる爪も、放たれる風も全て風に揺れる柳のように回避される。
「【
背後から迫ったモンスターが切り裂かれる。回避だけではなく、反撃も。見る者が見れば、恐らくその者は思わずこう呟くだろう。『アルフィア……?』と……。
「【我が牙を以て汝に傷を】」
下界における一つの『完成形』を参考に動き、ここに詠唱は紡がれた。
万物を噛み千切る、天体すら喰らう怪物の名を冠した魔法が発動される。
「【ラーフ・シュールパナカー】」
光すら喰らう純黒の牙が、漆黒の巨獣の肉体を喰い抉った。
「グオオオオオオオオオオオオ!!?」
大きく抉られた肉体。だが、重症ではあるが致命傷ではない。まだ戦えると、リリウスを睨み、変化に気付く。
「ご、ぐ………!!」
あの時より高まった毒耐性ですら吐き気を催す。内から噴火して弾け飛びそうな熱。意識が、飛びそうだ。だが………
「【傲慢、なる……悪意の王! 血ぃ、の河をす、すれ……肉、を、貪……れ】!!」
ズルリと新たに生える角。頭部片側にしか生えてこなかった筈の角が、左右に2本。合計4本。
皮膚の一部を黒い厚皮が覆う。竜の要素はない。ザルドの時と同じく、ベヒーモスの部分だけを力として顕現させる。
「【ラーヴァナ】」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
大気を揺らす咆哮に、アイズは勿論モンスター達も止まる。アイズは思わず竦み、だがモンスター達は、まるで困惑するように狼狽えている。
ゴォン! と打撃音が響き、砂煙の向こうから何かが飛んできた。
それは民家を容易く押しつぶすであろう巨大な牙だった。
「ガ、ア………グオオアアアア!!」
「グガアアア!!」
再び打撃音。衝撃波に、砂煙が晴れる。
アイズが見たのは、
「オオオオオオオオオオオ!!」
「ガアアアアアアアア!!」
巨獣の角が叩き付けられ、獣は吹き飛ばされまいと掴み爪を食い込ませる。地面に叩きつけられるも角を離さず、
「グッ、ギアアアアア!!」
巨獣は翼を振るい矮軀な獣を吹き飛ばす。アイズの近くに飛ばされた人の姿をした獣は、アイズに気付いたのか赤紫に輝く瞳を向けた。
「ヒッ………!!」
それは人の目ではなく、奪い、壊し、殺す、怪物の瞳。
黒い風を纏う怪物の姿にトラウマを刺激されたアイズは恐怖と
ちなみにこの状態のリリウスが勝てるかと問われると、まあ普通に無理。おら冒険者共、世界を救いに来てんだろあくしろよ