ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
神々に対しては不死身でも人間には殺される。
てか殺せない相手をブチギレた結果ボコって戦闘不能にするゼウスさんやばいな。ブチギレた理由が妻に手を出されそうになったからと言う、愛妻家で素晴らしいんだけど普段のお前を振り返れと言いたくなる理由だけど。
「ゴアアアアアア!!」
「ガルアアアア!!」
巨体故にただの動きが、遅く見えるだけで実際は速い巨獣と、純粋に速い矮軀な獣。
ぶつかり合う度に轟音が響き、衝撃波が吹き抜ける。
巨獣の皮膚が弾け、獣の拳が砕ける。
獣は
命に決して届かぬ捕食は、しかし獣の傷を癒す糧には十分。巨獣は虫を払うように体を動かし吹き飛ばす。
空中に放り出された獣は
光を飲み込む漆黒の球体は、圧縮された
「ルミノス・ウィンド!!」
人間の言語ではなく、だが確かにモデルとなった名を叫び放たれる風弾。
着弾と同時に爆発を起こす。
「グルルルルル!!」
だが、巨獣は健在。多少のダメージなら治癒していく。
治癒力、破壊力、耐久力、攻撃力は圧倒的に巨獣が上。速さでは勝る獣は、決定力に欠ける。
このまま時間が過ぎれば不利になるのは獣の方だ。
「オオオ…………!!」
巨獣は翼を持ち上げる。
巨獣にとっては、ただの羽搏き。だが、その巨体故に何かも吹き飛ばす。
矮軀な獣を吹き飛ばそうとした、その時だった。
「【星屑の光を宿し敵を討て】!!」
「【ルミノス・ウィンド】!!」
放たれるは緑風を纏いし星の光。翼の付け根を狙った無数の流星は、翼を断つことは叶わず、しかし放たれようとしていた暴風は明後日の方向で灰の砂漠から灰を巻き上げた。
「よっし! 効いてる効いてる! 効いてるわよね?」
「ちょっと痛えって感じだなあれ………」
「あらあらぁ、第一級になって『魔導』を手に入れても大して役に立ちませんねえ」
「うるさい輝夜! 今のはあれだ、その………初めてだからだ!」
「まあ私達、ステイタスあまり極めてもないしね!」
現れたのは冒険者達。巨獣は鬱陶しそうに目を細め、逆に獣は目を見開く。
「ほらリリウス! こっちいらっしゃい! あ、待ってやっぱり来ないで、死んじゃうからこの距離で!」
ギャイギャイと騒がしい冒険者達に、獣は猛毒の風を抑え近くに移動する。瞳は赤紫から紫に変わっていた。
「状況は?」
「
「オッケー! アーディ、リオン、回復魔法! 【
「
「成る程。皆! 【
「「「了解!!」」」
なんで解るんだよ、とは誰も聞かない。「お姉ちゃんだもん」と満面の笑みを返してくるに決まっているからだ。
「そっちの状況は?」
「【
再び翼を振るおうとした巨獣の翼に、片方には白い雷の弾幕、片方には銀の軌跡が襲いかかり皮膜を引き裂く。
「ゴアアアア!!」
【
それでも、やはり傷は治り始める。アイズがつけた傷が治るのも時間の問題だろう。
「毒をまた作られたら厄介だ。もう一度生成器官を潰す………」
「素直に近づけるかしら?」
「俺か猪、どちらかが辿り着けばいい」
「そうか」
と、リリウスの言葉にオッタルは巨獣を『獣』の瞳で睨む。リリウスもまた、再び捕食本能を呼び覚ます詩を紡ぐ。
「【傲慢なる悪意の王。血の河を啜れ、肉を貪れ】【ラーヴァナ】」
理性は完全には手放さない。手放せば辺り一帯を毒で包んでしまうから。そうなれば一人で戦わねばならない。
1人では勝ち目はない。だが、今は下界を救う『英雄候補』と称えられる者達がいる。
「ガアアアアアアアアアア!!」
「うおおおおおおおおおお!!」
「グオオオオオオオオオオ!!」
3匹の『獣』が吠える。未だ意思統一のなされていない冒険者達の殆どと、弱いモンスター達が恐怖で身を竦ませる。
「今のは、オッタルか?」
「……都合は良いかな」
ガレスが振り返る横で、フィンは誰にも聞こえぬ小さな声で呟く。
今動ける者は、第一級を除けば恐怖に竦まなかった者達である。
「動ける者は剣を持て! 歌える者は杖を持て! 疑問に思うことはあるだろう、だが! 何よりも成すべきは、あの巨獣を打ち倒し、世界を救う!! 守るべき誰かを守る、そうだろう!?」
「「「────!!」」」
疑念も葛藤も今は捨てろと、言外に言う。理想としてはアイズを引かせてリリウスを含めた第一級と冒険者達で削り切ることだったが、最早その作戦は不可能。
「奴の砲撃は、数多の国を吹き飛ばす! 多くの命を毒の闇で包む!」
避難民が死んだというのも、ショックを与えた。ならば今は、その失意を怒りに変えさせる。
「叫べよ冒険者! 怒りを力に変え、あらゆる種族、あらゆる【ファミリア】の垣根を取り払い、あの敵を討つ!! 世界を救え!!」
返答は待たない。ただ、飛び出す。
自分より遥かに小さなその体が、見上げる程の怪物が戦う戦場へと向かう。
「…………があああああああああ!!」
ビリビリと大気を震わす狼の遠吠え。金の瞳は敵を映し、駆け出す。
「遅れを取るな、てめぇ等!」
「「「おおおおおおおおおお!!」」」
「冒険者が………」
漸く集まってきたかと、巨獣の爪を避けながら地上を眺めるリリウス。魔法が、剣が、槍が、爪が、一つ一つは巨獣を殺すのに脆弱なはずのそれは、しかし傷を癒す
「グオオオオオ!?」
リリウスにばかり専念していたベヒーモスは冒険者達を煩わしそうに睨み、もう一匹の油断してはいけない『獣』を見失う。
叩き込まれる魔法に巻き込まれるのをものともせず駆け上がったオッタルの一撃が再生し始めていた毒生成器官を破壊する。
「グロオオオオアアアアア!!」
オッタルを振るい落としながらベヒーモスは吠える。
『巨獣』は叫ぶ。自らを殺さんと迫る群そのものを『敵』と認識する。
『竜』は苛立つ。蹂躙されるだけの筈の小さき者共が己を脅かす事を。
「………は?」
ベヒーモスが倒れる。倒された、ではなく、倒れる。
砂浴びでもするようにその巨体を冒険者達へと傾けていく。
「ふっざけんなあああ!!」
ただの寝転び。だが、その巨体はそれだけで数多の冒険者を押し潰す。理不尽なまでの、体躯の差。
人が蟻を踏み殺すのに入念な準備など不要なようにベヒーモスはただその体を動かすだけで数多の命を踏み潰す。
「させぬわあああ!!」
「オオオオオオオ!!」
振るわれるはドワーフの大戦斧に、猛猪の剛剣。
「「「……………はぁぁぁぁぁ!!?」」」
ベヒーモスも困惑しているのか暫し固まり、そんな隙を逃すはずもなく、大量の魔法がその体へと放たれる。
「ゴ、ガアアアアア!!」
ボロボロの翼を振るい吹き飛ばせる存在だけでも吹き飛ばそうと足掻くベヒーモスの背を駆ける黒い影。
「【
爆炎が翼の付け根の肉を大きく焼き滅ぼし、骨すら焼く。アリーゼがリューと共に放った紅炎の爆裂にも匹敵する破壊を以って、肉が大きく抉れた翼が自重で折れていく。
肉が千切れ、骨が砕けながら剥がれ落ちた片翼が地面を揺らす。
「く、くくく………これより紡がれるは、古い神話を塗り替える新たな神話(私達は女神の威光を示すために頑張らないとなりません)」
ベヒーモスの肩を焼いた
「巨獣の紛い物たる貴様に、女神の威光は穢せぬ。故に(本物に劣る貴方に負ければ女神の顔に泥を塗ります。なので)」
体力を吸う、所有者を呪う呪剣が妖しく輝く。
「ししし、死ね(死んでください)」
攻撃範囲を拡張した斬撃がベヒーモスのもう片翼に切り傷を生む。平時であれば大した傷ではないが、振り上げた翼はやはり自重で己の肉を引き千切り始めた。
「オオオオオオオオオオオオオッ!!」
『黒の砂漠』の外、散っていたベヒーモスの子供達や2匹の王に困惑していた者達もその号令にハッと冒険者達へと襲い掛かる。
かつての巨獣であったなら一対多の戦いとなっただろう。だが、今の巨獣は数に対抗するために数を呼び寄せる。
「うるせえ吠えるな」
「邪魔すんな」
「さっさと死ね」
「抜けると思うな」
4人の小人が蹂躙する。
「向かってくるなら好都合だ! 一匹残らず殲滅しろ!」
都市の守護者達が討伐する。
「皆、頑張ろう!!」
象神の眷属が叫ぶ。周囲の冒険者を文字通り元気付ける。
それを知ってか知らずか襲い掛かる【中型】の牙を躱し剣を振るう。
「オオオオォォォォ…………!!」
ワラワラと、鬱陶しい。苛立つ竜は大きく息を吸い込み…………
「「──そこか」」
それを見逃さぬ、2人の
「【ティル・ナ・ノーグ】!!」
Lv.および潜在値を含む全アビリティ数値を魔法能力に加算させるオラリオでも最高位の破壊力を誇る投槍魔法。
ベヒーモスの喉の一部へと突き刺さる。
「オ、オオオオオオオ!?」
厚皮、肉、無限に近い再生能力で
僅かに上回ったのはベヒーモスであり、槍を弾く筈だった。そうはさせぬと、投擲と同時に飛び出していたリリウスが
皮膚を、肉を突き破り目的の場所にまで大穴を開けた槍は役目を果たしへし折れ
「リヴェリア!!」
「【
「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」
放たれる一条の吹雪。ベヒーモスの喉に空いた大穴へと突き刺さる。
「ゴ──!!」
残った毒が凍りつき、口から吐き出されたのは漆黒の死毒ではなく白銀の冷気。
「今度こそ、毒は完全に封じられた! このまま削りきれ!!」
フィンの言葉に冒険者達が殺到する。幸い途轍もない巨体だ。先程のオッタルのように魔法が着弾している場所をあえて突っ込まない限り巻き添えはない。
その血肉を食らったザルドが呪われたように、吹き出す血も猛毒には違いない。だが……
「【ディア・フラーテル】」
「【ゼオ・グルヴェイグ】」
銀の聖女と金の魔女が、片っ端から癒す。
解毒に特化させたアミッドの魔法。治癒力を捨てたその魔法の代わりにヘイズが爛れた肉体を癒す。
ちなみにヘイズはリリウスに【アース・グルヴェイグ】も施している。これは持続的に癒すので、今も尚臓腑を腐らせる毒よりも早く、治す。
「オオオオォォォォ!!」
「っ! また来るぞ!」
攻撃を被弾しながらも、ベヒーモスは再び前脚を持ち上げた。先程と同じ、振り下ろしによる大規模な吹き飛ばし。否、今度は吹き飛ばすのではなく踏み潰す気だろう。
「【
多くの者が撤退する中、【
「【ヒルディス・ヴィーニ】!!」
空間を薙ぐ斬撃が放たれる。ベヒーモスの足に当たり、弾かれた。
「おおおおおおおお!!」
続いて、
オッタルの【ヒルディス・ヴィーニ】は強化魔法。理屈上、何発だって強化された斬撃を放てる。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「ゴアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
放たれる無数の轟撃。黄金の連撃がベヒーモスの勢いを完全に殺し、どころか
巨体が地を叩く轟音。冒険者達は、襲い掛かる砂嵐から顔を守る。
「…………うっそだぁ」
ポツリと呟いたのは果たして誰か。全員自分かもしれないと思った。それほど現実離れした光景。
押し戻すどころか、
背中から地面に倒れ伏すベヒーモス。その上を駆ける、2つの影。
「合わせろリオン」
「こちらの台詞だ!」
影の周りを舞うのは満天の星々を思わせる星光の風と暗転の夜空を思わせる漆黒の風。
「「【ルミノス・ウィンド】!!」」
「グオオオオオ!?」
光と闇の流星群はあらゆる獣の共通する弱点である腹へと叩き込まれる。
骨もなく、肉を通して内臓へと響く爆発にベヒーモスは叫び、体を転がし立ち上がり……………
「…………なっ!
「ベヒーモスが、逃げるぞ!!」
逃亡した。残った僅かな己の分身達に足止めを命じ、脇目も振らずに逃げ出した。
臆病な竜は武器を失い、必殺の技も通じず、逃亡を選択した。
「……………オオオオオオオオオ!!」
「─────!!」
その咆哮は、簒奪者の咆哮。陸の王者のプライドが竜の足を鈍らせる。
「【グラリネーゼ・フローメル】」
瞬間分身達は
顎を地面に叩きつけたベヒーモスが見たのは血を吹き出し腕を折った戦車。忌々しげに睨み、しかし背後から迫る気配に気付く。
「【月を喰らい太陽を飲め暴食の化身。首となっても歯を突き立てろ】」
先程の己の一部を抉り喰った餓獣の牙。体を引きずり逃げようとするも、声はどんどん近づいて来る。
「【
自分の身を守る分身はもう居ない。
「【
「オ、オオオオオオオオ!!」
「【ラーフ・シュールパナカー】!!」
餓獣の牙が、ベヒーモスの魔石を『心臓』ごとこの世界から抉り喰らった。
ベヒーモス・オルタナティブの対処法
まずは竜種が変化した可能性を考えブレスを警戒しましょう。なまじオリジナルを知っていると成功率は低くなります。
元となった竜種の蹂躙の渇望がベヒーモスの精神を侵食する可能性を考えましょう。約6年後のモス・ヒュージ強化種を知らないとまず無理です。
ベヒーモス・オルタナティブの攻撃範囲を予測した上で、目の前の冒険者や毒の生成器官を潰した少女より民間人を優先することまで考慮しましょう。冒険者を続けモンスターを良く知るものほど失敗する可能性が高いです。
つまり誰にも無理です。リリウスですら放たれる直前に気づいた。