ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
リリウス・アーデが戻ってきた。
眷族の声を集め、直談判したのに「知るか。嫌なら出ていけ」の一言で一蹴された。
【ソーマ・ファミリア】の連中は
彼等もまたリリウスを恐れ、戻さない策があると聞いたから協力した。それが果たされなかった今、ザニスの発言力は下がりかねない。
どうにかしなければと策を巡らし、リリウスが敵意を向けた相手に反撃しなかったのを思い出す。
あれは、そう、少女だ。そういえば、リリウスには妹がいた。
愛されてなどいない、むしろ嫌われているように見えていたが……………。
確かチャンドラの下でサポーターをしていた筈。
「おい、チャンドラ!」
「………ザニスか。なんだ!」
反ザニス派、というほどではないが【ソーマ・ファミリア】においてザニス派ではない数少ない集団の一つであるチャンドラ達は、突然声をかけてきたザニスを鬱陶しそうに睨む。
「お前のところの、妹の方のアーデを──!!」
「おい」
背後から聞こえる声にビクリと震える。振り返れば、そこに居るのは白髪の
「っ! は、はは! やはり、やはりか! 待て、動くなよ!! 勘違いするな、私はお前に金儲けの話をする為に、話を通してもらおうとしたんだ!」
「…………話?」
「そうだ、ある特殊なモンスター。お前なら、捕えるのも容易いだろう。なんなら、一匹、二匹なら食っても──」
瞬間、窓が割れる音が聞こえザニスとリリウスの姿がチャンドラ達の眼の前から消えた。
「!? あ、あああああ!?」
自分が空を飛んでいることに気付き、続いて腹が潰れるような激痛。服に刺さったガラスの破片………窓から外にぶっ飛ばされたのだろう。
「ぎっ!?」
肩に歪曲した刃………リリウスの『釣り針』が突き刺さり、復興中の瓦礫が散乱する区画の壊れかけの壁に吊るされる。
「お前、彼奴等を売ってたな?」
「か、ひ、はひゅ………!」
大声は、出せない。肺が痛む。何故、何故こんな目に!?
決まっている。実力差を弁えないからだ。
「酒の匂いに隠れてるが………彼奴等の血の匂い。
リリウスの言葉を、すぐには理解出来なかったザニス。しかしすぐに思い当たった。
「お前、彼奴等を何処に売った?」
「は、はは。化物どうし、馴れ合いか? 教えて欲しければ…………ぎぃぃ!?」
片足が溶ける。激痛に叫び、しかし肺の痛みですぐに悶える。
「答えろ」
「エ、エルリアの、貴族………彼処は、モンスター趣味の多い……ど、どの貴族までかは知らない…………」
「そうか」
ならもう良いな、そんな言葉が視線から伝わってくる。
「ま、待て!」
グチャリと、壁に赤い染みが生まれた。
「これがお前が持ってきた鱗で造った剣だ。加工に時間がかかった。【アストレア・ファミリア】の分は、まだ少しかかる」
翌日早朝、ゴブニュの下に訪れたリリウスは漆黒のマーダを受け取る。前のマーダは神の作品だけありかなりの名剣だったが流石に酷使しすぎてそろそろ限界だった。
「…………どうせなら、『エランの森』へ寄ると良い」
「? それはどういう…………」
ゴブニュはそれ以上応えず、工房へと戻っていった。
そしてザニスの死体が発見され、【ソーマ・ファミリア】の証言からリリウス・アーデが犯人と断定。すぐに調査が行われ、リリウスの身柄を押さえるべく多くの冒険者達が動く。
「アタシ等から離れた途端、騒ぎを起こしやがる!」
「一体その男は何をしたのだ!」
「ずる賢いって有名だし、喧嘩を売らずに怒らせたんだと思うけど…………」
一度、ザニスについて詳しく調べたほうが良いかもしれない。
色々やらないといけないこともあるのに、面倒事が増えていく。
「ちったあ勇者様も働かせんぞ。あの野郎がリリ坊の噂を邪魔しなけりゃ、少しはマシになった」
「一族の英雄をパシリ扱い………」
「彼奴にゃそれぐらいが丁度良いんだよ」
フィンもパシられそうと自覚するあたり、この二人の関係は存外魂レベルで決まっているのかもしれない。
「でもリリウスの奴、何処に行ったんだ? またダンジョンとかに潜られたら、あたし等じゃ探せねえぞ」
さて、そんなリリウスはオラリオから出ようとしていた。リリウスなら50
ならそこから出ていくかと思えば、正面から、堂々。
オラリオの正門に現れた。
「……………」
陣取るは【ガネーシャ・ファミリア】及びギルド傘下の【ファミリア】。第一級は、少し居るがフィンやシャクティの姿はない。
潜伏していると思ったリリウスを探しているのだろう。
「と、止まれ!」
脂肪で垂れた喉を揺らしながら叫ぶのはロイマンだ。働いているように見え、その上で安全そうな場所を選べばまさかの貧乏くじ。
「動機は後で聞いてやる。Lv.7のお前を、悪いようにはしない。だから、今は大人しく捕まれ!」
「…………どけ」
一言。それだけ呟き、一歩前に出る。集まった冒険者達は思わず武器を構えた。
敵意はあるが殺意はない。生け捕りが目的なのだろう。
「まさか隠れもしねえとは…………」
「ただ街を出るだけだ。コソコソ出る必要がどこにある」
隠し通路が壊れて連絡を行えなかったウラノスへのメッセージの意味もあるが、そもそもこのオラリオでリリウスを止められる奴は、まず止めようとしないだろうとバベルをチラリと見つめる。
「ま、街を出るだと!? それはならん、許可せんぞ!! 弱体化したとはいえ
「…………そうか」
リリウスは漆黒のマーダを抜き放つ。
小柄な
否、それは剣から感じる圧倒的な存在感。
「3度目はない。どけ」
死者はいない。だが、その日オラリオの正門は文字通りぶった斬られた。
「賠償金? まあ、良いけど。おいチャンドラ、ザニスの金庫から金を持って来い」
と、ソーマはギルドの要望に応えたという。
Lv.7の都市外流出。暗黒期も終わりが近づき、派閥ランクに応じた税を上げようとしていたロイマンからすれば二重の損失。
フィンはむしろ好都合と捉える。これでリリウス・アーデは噂でしか語られない。逸った誰かが噛みつき殺される、なんて実害がなければ、このオラリオという街は存外新しい、その場にいる英雄にばかり目を向ける。
【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】合わせてもLv.6が一人しか居ない時でさえ民に最強と謳われていたのが良い証拠だ。
「……………………」
リリウスを糾弾した女は間違いなくリリウスの殺戮をみていた。リリウスがモンスターを引き寄せたという男は………自分でも記憶が曖昧だったと証言している。
もし誰かがリリウスの噂を広めようとしているのなら………リリウスの不在中どうでる?
広めようとしてくれるなら、探せるかもしれないが、考える頭を持つならしばらく身を潜めて探せないだろう。
「一先ず、噂の沈静化か…………」
「それじゃあリリウスたんの新しい二つ名はあああ! 【
と、
ソーマはふむ、と顎に手をやる。
「…………もし、その名前を二つ名にしたら、賛同した奴ら全員殺す」
「え〜、怖い怖い! でも出来るのかなソーマく〜ん!」
「俺がと言うより、俺達がだな………アスラの名を人につける。それを
神々の敵対者を指す言葉の一つ、アスラ。ヴェーダと呼ばれる神々の派閥での呼び名だ。
オリュンポスならギガース、北欧ならヨートゥン、極東に至っては荒神と呼ばれ、神の名を冠する程の存在。
「もし、その名を人に授けるなら、シヴァやスーリヤ辺りにチクる」
下界では神の力は使えないし、天界から神の干渉も禁じられている。だが例えばカーリーなどはオラリオにも匹敵する戦力を持っているし、世界勢力の中には木端なオラリオ派閥よりも強力な【ファミリア】も存在する。というかガネーシャもヴェーダの神だ。
その上で天界に送還された日には………名ただる大神が下界に降りた今、誰が彼らから守ってくれると言うのか。と言うかどう考えても「人間にお前たちと敵対できる存在の名前つけました、テヘ☆」とか抜かす神が悪いので一万年ぐらい消滅させられる。
「どうしてもと言うなら、イシュタルを振ったんだし、【
「ふざけるなよソーマ!」
と、イシュタル及び『アヌンナキ』の神々が睨みつける。
「つまりそういうことだ。戦争がしたいなら、アレスのところにでもいけ」
リリウス・アーデ、新たな二つ名【
傷つける者を意味する言葉だが、ソーマはまあ良いか、と納得した。
「【ソーマ・ファミリア】の団長が
「それを理由でぶっ殺すとも思えねえし、それがリリ坊にバレて焦って殺そうとしたとか?」
【アストレア・ファミリア】は新聞を読みながらリリウスがザニスを殺した理由を考える。けど情報が足りない。
「リリウス、戻ってくるかな?」
「戻ってくるわよ、きっと。出ていった時と同じく、正門から堂々「ただいま諸君」ってね!」
「誰だよそれ」
明らかにリリウスのキャラじゃない。
「まあ、そのためにも私達がすることは、強くなる事と、リリウスみたいな子供が生まれないようにすること!」
「アリーゼ…………そうですね」
「リウっちの奴、挨拶もなしかよ…………」
「お前達の仲間の密売情報を掴んだのだ。救出に向かったんじゃないのか?」
後は、オラリオのきな臭さを嫌ったか。
「きな臭さ?」
「ウラノス様曰く、噂の広まりに神の悪意が関わっている気がする、とのことだ。向こうも勘付かれた時点でこれ以上足取りを掴ませないだろうが」
そしてリリウスという対象がいない今、噂は噂にしか成り得ない。
「なあフィルっち、フィルっちなら地上に出れるだろ? 手紙とか届けてくれねえ?」
「それは私もぜひ頼みたい」
「フェルズ?」
フェルズはコトリと箱を置く。
「1年分の『
発明したものを説明する際やたらテンションが上がるのは、製作者の性なのだろうか?
「それと『
「……………ああ、解った。ところで、リリウスは何処に向かったのか解ったのか?」
「いや。だが、ここに来る途中モンスターに襲われて崖から落ちそうになった
「そうか…………まあ、お前達には恩がある。居場所がわかれば、手紙を届けるのもやぶさかではない」
と、フィルヴィスは仕方がないというように腕を組み顔を逸らしながら答えた。
「フィルヴィス! アリガトウ!」
「だから、毎度毎度抱きつくなマリィ!!」