ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
神らしい神だと思った。
傲慢で高慢、豪胆で自己中心な考えを持ち、その結果国が乱れる事も是とする。
本人の語っていたように正義の女神でも掟の女神でも、慈愛に満ちた女神でもない。その気まぐれと身勝手な様はオラリオの愉快神に通じるものはあるが、そういうのを鬱陶しいと思うリリウスにしては、そういった感想は特に浮かばなかった。
街にたどり着くと住民はすぐにアフロディーテの『美』に見惚れる。
『魅了』ではない、『美の女神』の『美』とはそういうものだ。神の力ではなく、在り方。
リリウスが『魅了』はともかくイシュタルの容姿に特に何も感じなかったのは単純にタイプじゃないから。
まあ普通の人間はそれすらありえず見惚れるのが当たり前なのだが。
「3つくれ」
露店から肉を購入してシャバラとシュヤーマに分け与える。金は数日護衛していた商人から前払いで貰ったものだ。
「ワフ」
「ハフ」
リリウスから分けられた肉を食べる大犬達。
二匹とともに馬鹿騒ぎしている【アフロディーテ・ファミリア】から離れ、貴族の邸宅を探す。
「………臭うな」
「クウ?」
「………モンスターと、人の血の匂い」
リリウスの鼻はスキルとレベル、『
壁を駆け上がり、屋根へと登るリリウス。
恩恵を持つシャバラ達も、リリウスより拙くだが屋根へと登り、先に行っているリリウスの後を追う。
「……………闘技場?」
たどり着いた場所は、オラリオにも存在する闘技場にも似た施設。オラリオのものに比べるとだいぶ小さいが。
戦っているのは、人とモンスター。モンスターは弱い。地上のだろう。だが………
「ダンジョン産も混じってやがる」
売買しているのは何も
まあ、使い道などいくらでもあるだろう。例えば地上産の強さを散々見せつけた後、ダンジョン産を出して大穴を出させたり………。
「だけじゃなさそうだが」
「行くか」
「行くか、じゃなーい!」
闘技場襲撃して
付いて来ていたのは気付いてた。アフロディーテを運んだ眷族はぜぇはぁ、と肩で息をしている。
「貴方が何をするかはともかく、強さで実行したらすぐ終わってつまらないじゃないの!」
「………………だから?」
「だからあ、別のやり方にして☆」
神の我が儘、と言う奴だろう。それをして当然だという態度は、やはり神。
「ことわ──」
「そ・れ・に」
「…………」
「倉庫はここじゃないわよ?」
確かに、闘技場の大きさ的に見て
「まあ貴方ならこの街一つ簡単に制圧できるんでしょうね。でも、それだけの強さを持つ奴に、他の場所の誰かが狙われる可能性を残しておくと思う?」
「…………………」
アフロディーテとてリリウスの目的が何かは知らないだろう。全知の神であっても、未知は確かに存在するからこそここに居る。
ましてや
「身内でも剣闘奴隷にされたのかしら? それとも、闘技場が気に食わないだけ? まあ良いわ、面白くなりそうだもの。特別に、この私がコーディネートしてあげる!」
「コンセプトは、怪盗!!」
リリウスが着せられた服は、泥棒と呼ぶにはやたら派手な格好だった。顔を隠すのは目元を覆うマスクだけ。シャバラ達のも用意され、何故かアフロディーテもピッチリスーツを着て猫耳とマスクをつけている。
「カイトー?」
「貴方少し大人しすぎるわよ。着せられる前に疑問に思いなさいな」
「服を変えるのは、理にかなってるからな」
アフロディーテはまあそうね、と笑う。
「怪盗と言うのは、闇に紛れ宝を盗む者達よ! でも決してそこらの盗賊と一緒にしないで! 怪盗たるもの、華麗に、美しく、大胆に盗むのだから!」
「泥棒なのに大胆に? ただの阿呆か」
「あ、安心して。予告状もしっかり出しておいたから」
「………………………は?」
「………………」
本当に兵が控えていた。何してくれてんだ、この女神。
「狙いを知られるなってお前が言ってたよな?」
「ええ、だから闘技場のお金って書いといたわ」
つまり金か。農民の村が滅びてもすぐ動かず、彼等が盗賊になっても暫く放置してた割に、自分の利益の為には直ぐに兵を動かすらしい。
「さあさあ、殺しはまずいから、華麗な手管で盗みに行くわよ!」
「いや、
「吠える?」
瞬間、街中に咆哮が轟く。兵も貴族も、街の民も奴隷も等しく意識を飛ばし、起きているのはリリウスとシャバラとシュヤーマ、あとアフロディーテ。
対象の選別はまだ種族で大雑把だが、その点人ならざるシャバラ達を神の眷族にしたのは良い判断だったかもしれない。
「み、耳が………こんなの全然華麗じゃない〜!」
「知ったことか」
一応はモンスターや冒険者という隔絶した存在に慣れてるオラリオの住民とは違うと気を使い加減はしたが、Lv.2程度なら意識を保てるだろうに、アフロディーテの眷族は泡吹いてぶっ倒れてた。
「まあ、でも良かったわね。殺さない理由ができて」
「………………」
「貴方はどうも、必要なら殺すタイプみたいだけど、不要なら殺さないに越したことは無いでしょう?」
リリウス・アーデは人を殺せる人だ。だが、
「彼等は職務を全うしているだけだもの、余裕があるなら見逃してあげなさいな。それも強者の務めよ」
リリウスは無言で立ち去る。門を切り裂き、扉を蹴破り中を歩く。
「じゃ、私は予告状が怪しまれないようにお金を取ってくるわね!」
「……………………」
と、スタコラサッサーと走り去る女神。本当、何なんだあの女神。
「ついて行ってやれ…………こっちか…………」
スンスンと鼻を鳴らしながら目的の場所に向かうリリウス。
やがてたどり着いたのは、闘技場の奴隷やモンスターが一緒くたにされた部屋。
気絶を免れたモンスターの殆どが震えている。
気絶を免れたのはダンジョン産だ。良くて中層。
「ああ、お前か」
モンスターの粗方を食い終えたリリウスは、一つの檻の前で止まる。他のより頑丈な檻。中にいるのは、最弱なれど最強種、上層唯一の竜種、インファントドラゴン。
翼を持たぬ竜はリリウスの咆哮にも耐え、気丈に睨み付ける。
「お前はリドと同じように言葉を話せるか?」
「…………リドを、知っているのか?」
「話せるな。じゃあ檻から出してやる」
「待て! あの男は………!?」
慌てるようなインファントドラゴン。考えてみれば、彼が大人しく捕まっているという事は逆説的に彼を従えるだけの実力者が居るということ。
それはリリウスの咆哮に見事耐えたインファントドラゴンよりも強いはず。
「おいおいおい、勝手は困るなあ………」
雄と雌の濃い匂いが漂う扉が開き、鞭を持った半裸の男が現れた。
「せっかくのお楽しみだったのに邪魔しやがって。何より、そいつは良い稼ぎになる。お前は知らねえだろうがな、蹂躙よりも勝てそうに見える試合が売れる時もあるんだよ」
「………………」
「だいたいなんだお前、そのレアモンスター達の存在知ってんのか? 何処の家に雇われた」
「家………そうとう多そうだな」
貴族の家、ということだろう。それが出るあたり、公然、とは言わなくとも多くの貴族が互いに喋るモンスターを所持していることを知っている。
「使い道はいくらでもある、か」
戦争、闘技場、見世物、マーメイドやセイレーンのような女性の特徴を持つ場合、今のところ全員が美女だからその手の使い方もあるだろう。
「そうさ! てめぇみてえなガキにゃ思いつかねえ使い方がな!」
ガコン、と男がレバーを引く。ゴリゴリと何かが動く音が響き、チャラチャラと鎖を引きずる音を鳴らし現れたのは巨大な雄鶏。
但し口元から毒の匂いを放ち、尾は蛇。
「コカトリス」
「そうさ! 生まれたての雛から育てた俺の自慢の子だ! オラリオの魔石製品から抜き出した魔石も食わせた特別製さあ!」
レベルに換算するなら2上位といったところか。中層でも稀な強者。上層種のインファントドラゴンよりも強い。
彼も強化種ではあるのだろうが、通常のインファントドラゴンより少し強い程度だろう。
「他種族のガキはともかく、
ピシッと鞭を叩くと同時にコカトリスが駆け出す。
低品質な鎧など容易く貫くであろうナイフのような爪が生えた足を振り上げ…………爆散した。
「…………………は?」
「あ………」
当然魔石は肉から離れ、灰になるコカトリス。多分この場所の中で一番美味いモンスターだったろうに……。
「は、はああああ!?」
強さはLv.2でもその毒性などを考えればLv.3にすら勝ち目のあるコカトリスが瞬殺された。男は目を見開き叫ぶ。
「っ!? ま、まさかオラリオの冒険者か!?」
直ぐに他のレバーも引くが、軋んだ音が響くのみ。恐らくリリウスがぶっ壊して中身を食った檻を開く予定だったのだろう。
「お前が知る限りの情報、話せ」
「結構多いな」
メモを見ながら呟くリリウス。
「お前は、同胞を食うのか………」
「お前だって同族の魔石を食うだろ」
と、リリウスはコカトリスの魔石をインファントドラゴンの口へ投げる。
「ふうん、それが貴方が助けたかった存在? いえ、助けたいというよりは、借りを返しているのかしら?」
「!!」
暗闇から響く声に、インファントドラゴンが振り返る。
そこに居たのは『美の女神』。美醜の感覚が異なるはずの竜である彼すらも、思わず見惚れてしまう『美』そのもの。
「はじめまして、なんて………モンスターに言うのは変な気分ね」
「……………神か」
「知ってるのね、神を」
「…………我等を捕らえた
「自らモンスターの前に現れるなんて、物好きな神も居るものね」
珍しそうに眺めるアフロディーテも大概だと思うが。
シャバラ達を見れば、金貨以外にもアフロディーテが気に入ったのか美術品を背負わされ何とも言えぬ顔をしている。
「貴方、この子達をどうしたいの?」
「…………そいつの仲間に命を救われた。その分の借りは返す」
「おかしなことを言うのね? 貴方、自分の命と他人の命を秤にかけられないでしょう? 命の借りなんて、貴方が返しきれたと思えないじゃない」
見透かすように笑う女神は、事実リリウスの本質をよく見抜いていた。
アミッドを攫おうとする輩に対して、力を得る代わりに理性をふっとばす魔法をボロボロの状態で使ったり、アーディを爆発から庇ったり………命の価値が、重くて軽い。
命を救われれば何でもしてやるくせに、自分はその命を大事に扱わない。
「まあ良いわ。なら、貴方は何かを願うのかしら? ああ、仲間がいるようだけどそこに帰りたいとかは無しよ。それは今だけの願いでしょう?」
「……………太陽の下を、仲間と共に歩きたい」
「それは、人類を滅ぼして?」
「いいや。叶うなら、人と共に歩みたいと、願っている」
「無理ね。『自分達は他とは違います、貴方達の仲間を殺してません。だから仲良くしてください』なんて、そんな道理を受け入れられるほど、貴方達の溝は浅くないの」
まあ、それはそうだろう。何時だったかリリウスが人という括りで見るくせに特別なモンスター扱いしてほしいのか、とグロスに皮肉を言ったが、殆どの人類は喋るだけでモンスターを特別扱いしない。どころか、嫌悪するだろう。
「…………………………」
「ところで貴方達って、『恋』をするの?」
「「………………は?」」
唐突な質問に、インファントドラゴンもリリウスも思考が停止する。
「……………わ、私は良く分からないが、レイは恋に憧れている」
「そ。なら! 何処ぞの貞淑を神聖と履き違えた喪女よりましね! 良いわ、このアフロディーテが、貴方達を認めてあげる!」
神の、それも大した勢力も持っていない美しいだけの女神の言葉などがこの世界にどれだけ影響を与えるというのか……そんな疑問を抱かせないほど、その姿は堂々としていた。
「え、コイ………鯉? 濃い? 恋で、認める? な、何だそれ」
リリウスは自分が未だ神というのを少しも理解していないのだと改めて自覚した。
シャバラ
毛並みは灰と白のイケメン犬
シュヤーマ
毛並みは白一色の美女犬