ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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ダンまちには写真は例外を除き存在しないので、ひおにゅひょすの部屋のポスターは精巧な絵です。数も多いと流石に高いので壁一面サイズを個神資産で買いました。
リリウスは容姿が良くて口が悪く、スキルの影響でギザ歯という神々が興奮する要素の塊なので眷族達からはこの人も同じなのか、普段は紳士なのに、と思われてます


人と怪物の親愛

「…………殺してくれ」

 

 フィルヴィスが項垂れている。酔った時の記憶は失わないタイプらしい。

 

「私は何故あんな! 誰か、誰か殺してくれ!」

「落ち着きなさいな。フィルヴィスと言ったわね? 酔った痴態なんて笑い飛ばせばいいのよ」

「ううう…………」

 

 リリウスにはどうでも良かった。

 

「それよりだ。あのトロールが国に従う理由を見つけねえと。またカイトースタイルはゴメンだがな」

「カイトースタイル?」

 

 何だそれは、と首を傾げるフィルヴィス。

 リリウスは無意味な格好をさせられただけだと返した。

 

「安心しなさい、今回は情報収集。つまり、潜入調査よ!」

「?」

「どうせあなたのことだもの、私がただ騒ぐだけで何もしていないと思っていたんでしょうね」

「ああ」

 

 即答されムッと頬を膨らませるアフロディーテ。まあいいわ、とすぐに切り替え胸を張る。

 

「どうも、あの騎士舎、新しいメイドを募集してるみたい」

「メイド?」

「だから貴方達、メイドに扮して潜入しなさい!」

「「………達?」」

 

 

 

 

 

「ほほお、君達のような美しく、愛らしい志望者が現れるとは」

 

 屈辱で震えるフィルヴィスと、腹減ったな~と綿菓子のような雲を見つめるリリウス。

 リリウスの横には犬用執事服を着たシャバラとメイド服を着たシュヤーマもいる。

 

 リリウスとフィルヴィスもまたメイド服を着ている。

 フィルヴィスはロングスカートの正統派、リリウスはミニスカートの邪道派だが。

 

「では、まず志望動機を」

「金のため」

「ワフ!」

「アン!」

「お、おいリ………リリィ!」

「ははは、構わないよ。むしろ、それぐらいの方が信用もできるというもの」

 

 と、面接官の騎士は立ち上がる。そのままリリウスのむき出しの白い肩に触れた。

 

「個人的にも、お金を渡してあげてもいいんだよ?」

 

 リリウスの蹴りが男の脛を弾いた。男は倒れる!

 リリウスは膝を男の顎に叩きつけた。男の体は浮き上がる。

 リリウスは男の頭を踏みつけた。男は床にめり込む!

 

「リ、リリィーー!? おま、お前! 何を、すいません、すぐにどかし──!」

「お構いなく!」

「…………は?」

「お構いなく! はぁ、はぁ、もっと強く!」

「……………酒と飯もってこい」

「ははあ! 只今ー!」

 

 酒持ってきたから約束通りもっと強く踏んでやった。具体的には気絶するぐらい。何故か採用された。

 

 

 

「で、どうやって情報集めるつもりだ?」

 

 モップ片手に酒瓶に口をつける不良メイドのリリィは同期メイドのフィールに尋ねる。戦争はほとんどモンスター任せ。騎士達の主な役目は町の警邏だが、それすら行わず昼から酒を飲む騎士達。

 

 そんな連中がメイドを新しく雇う理由なんて、セクハラして辞められたという解りやすい理由だ。

 エルフのフィルヴィスにはぶん投げられ、リリウスには踏みつけられ、おかしな趣味に目覚めた騎士達はリリウスの酒買ってこいの一言で全員飛び出していった。

 

「そもそも騎士どもを当てにするかよ。素直に話すわけもねえ」

「それは、そうだが…………」

「モンスター共の畜舎に向かうぞ。調教師(テイマー)共が残ってるだろうが………」

 

 リリウスは裏にある畜舎を見る。トロルは、いなさそうだ。カン、とモップで床を叩く。

 

「……………地下があるな」

「…………今のは、レイの反響定位(エコーロケーション)か?」

「便利そうだからコツ聞いた。慣れれば案外簡単だ」

 

 とはいえ、如何にランクアップしスキルもあるリリウスといえど、生来の力には及ばない。地下は見つけたが、入り口は………。

 

「まあ俺等が入れない区画だろうな。夜に向かうぞ」

「リリィ様! お酒買ってきました!」

「部屋運んどけ」

「「「はい!」」」

「それと、代わりに掃除しとけ」

「「「わっかりましたぁ!!」」」

 

 メイドって何だっけ? 極東の冥府の呼び方だったけな?

 フィルヴィスは現実から目を背けるように窓の外を眺めた。

 

 

 

 

 

 ほんの数年前、ダンジョンにてそのトロールは生まれた。

 自分が何故そこに居るのかも解らず、自分に似た姿をした者達や、違う姿をした者達からも追われ続けた。

 

 そして、自分より小さな体躯の者達に襲われ、捕まり、エルリアに売られた。

 だがトロールという怪力を持つ怪物であった彼は檻を破壊し逃げ出した。

 

 矢が刺さり、槍に貫かれ、森の奥へと逃げた。

 地上のモンスターは、彼の生まれた場所のモンスターよりも遙かに弱く、傷だらけの彼でもなんとか勝てた。

 

 だが、傷は深い。倒れ、意識を失いかけた彼が見たのは日の光。初めて見るはずの何処か懐かしい光に包まれながら、彼は短い生涯を終えるはずだった。

 

「きゃあ!」

 

 悲鳴が聞こえた。まだ動く顔を向ければ、怯えた目を向ける白い髪の牛人(カウズ)がいた。

 

 種族名も、何なら雌雄もその時の彼は良く解っていなかったが、解っていたこともある。

 あの生物は、群れて、こちらを害する生き物。殺さなくては殺される。

 

 怒りや憎しみを原動力に、無理矢理体を動かす。その女は持っていた籠を落として、木の実が散らばる。

 

 木の実を踏み潰し、後少しで手が届きそうな所で全身に激痛が走り倒れる。今度は、動けそうにない。

 

「ヴゥ………グ、ガ…………」

 

 直ぐにでも女は逃げて、仲間を呼ぶだろう。そうなれば、自分は殺される。こんな所で、そう思ったところで、体は動いてくれない。

 

 彼はそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

「………………」

「あ………」

 

 二度と戻るはずのない意識は、しかし戻った。直ぐ近くから聞こえる声に視線を向ければ、先程の女が傷口に何かをつけている。

 

 流れていた血は止まり、痛みが引いていく。

 手当、など知らずともその生き物が自分を助けてくれたのだと理解した。その程度の知能が、彼にはあった。

 

 彼が目覚めたことに気付き、女は逃げるべきか迷っているように見えた。逃げられたら、二度と会えない予感がした。

 

「ナ、ゼ………」

「え!?」

「何故、タスケ、タ………」

 

 彼は何故か、他の同胞がそうであるように誰に教わることなく言葉を知っていた。

 言葉を以て語り掛けてくるモンスターに動揺しながらも、女は真っ直ぐにその目を見つめ返した。

 

「もう、痛いところはない?」

 

 その日、モンスターは温もりを知った。ずっと、胸の中にあった渇き…………彼女は、そのものの形をしていた。

 

 

 

 

 傷が癒えた彼は彼女の近くにあり続けた。幸いにも彼女は森の奥の小屋に一人暮らし。

 怪物である彼を恐れず、木の実の種類、森の動物、言葉を教えてくれた。

 

 タロスという名を授けてくれた。

 

「………コノ石ハ?」

「お墓よ」

 

 彼女の、夫と息子が眠っているらしい。

 殺したのは、怪物。自分が憎くないのか聞けば、貴方はその怪物じゃないでしょう? と微笑みを向けてきた。

 

 だけど、彼がこれまであった人間は、怪物というだけで嫌悪してきた。なのに、何故優しく出来るのか、そう尋ねれば彼女はやはり笑った。

 

「貴方が、傷だらけの子供に見えたから」

 

 その日、夢を見た。夢の中で自分は燃える村にいて、多くの人間を叩き潰し、踏み潰し、殺していた。

 

 怒り、あるいは憎しみ、それとも使命感?

 それは自分より強い者が現れると止められ、また暗闇から這い出しては街や村を襲う。

 

 そして時折目に止まるのは、弱いくせにそれでも彼から子供を守ろうとする親の姿。不可解な行動。どうせ守れもしないのに、逃げられもしないのに、彼等彼女等は子供を抱きしめ、或いは抱え走り、時に子供だけ走らせ立ち塞がる。

 

 その光景を、彼は…………眩しいと思った。羨ましいと思ったのだ。

 

「そう。なら、私が貴方のお母さんになってあげる。だからタロス、もう人を傷つけちゃだめよ」

 

 しゃがまされて、頭を抱きしめられた。撫でられた。

 その日は、泣き疲れて眠るまで泣いていた。

 

 

 

 そうとも、彼女を守る。彼女が自分の心を守ってくれたように。たとえ、何が相手でも、彼女が望まぬ事をしても…………!

 

「よお」

 

 カツン、とヒールが石畳を叩く音が響く。目の前に現れたのは、二色の猟犬を引き連れた白い毛並みの強者。

 

「そこ、どけ」

 

 地下牢の入り口の前に立つ自分に一言言い放つ強者。この先には、母がいる。人に裏切り者と罵られ、処刑されるのを待つ母が。

 

 リョウシュは言った、自分のために戦い続ければいずれ解放してくれると。人類誰もが命を狙うであろう母を守ってくれると。母は、人類の裏切り者として、人に命を狙われ続けると。

 

「……………やる気か?」

 

 新たな棍棒を持つ手に力を込める怪物に、強者は目を細める。質問に対する返答など、決まっている。

 

「うおおおおおおおおおお!!」

「そうか…………」

 

 強者は目を細め、己のモップ(得物)を構えた。

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