ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「ゴ、ガガ………!」
「ガギャアア!」
足の鎧を砕いてみれば、巨人の足は崩れ今は腹足の如き下半身に変化していた。
あの鎧は外骨格の役割も果たしていたのだろう。
「ギ、ギ、ギ、グギャアアアアア!!」
「チッ」
動きはゴライアスより劣るが、しぶとさだけなら階層主を大きく上回る。
硬い、訳では無い。死ににくい。おまけに……
腕の鎧が砕けた巨人が腕を触手のように伸ばしてくるので蹴りで破壊する。
飛び散った血液が周囲の建物に降り注ぎ、シュウウと音を立て木造の建物が腐る。
毒、とは違う。生物に対して害となるのは違いないが。
Lv.7で毒の王たるベヒーモスの力を喰らい得たスキルで『耐異常』を発現しているリリウスにとっては気持ちの悪い血液程度だが、一撃でぶち殺す程の力で殴ったら街への被害が計り知れないし、メイド服ももっと溶ける。
別に街の被害は無視してもいいがアフロディーテが文句言いそう。言わずとも、まあ自分がいる街がモンスターの体液で汚れるのはよしとしないだろう。
ならばと燃やしてみても治るし、凍らせても中まで凍りつく前に引き剥がして傷ついた分治す。さて、どうするか………。
『傷が治るの? なら傷口を
それはもうやった、と頭の隅に現れた正義の団長を追い払う。
『再生しなくなるまで叩き続けるのはどうでしょう?』
街の被害が面倒くさい、とやりすぎる妖精を追い返す。
『えっと、戦う………?』
具体案を出さない金髪幼女を無視する。
『一先ず街の人の避難をしよ!』
それなら騎士達にやらせてると、群衆の守り人の少女を安堵させる。
『そうだね、まずは民衆を避難させてから作戦を立てよう(悲願のためにはモンスターに苦戦する光景は見せたくないし)』
死ね。
記憶にある誰かに頼ってみたが対応策が出てきそうにない。
『別によお、殺し続けるのは何も斬る殴るじゃなくていいんじゃねえの?』
それもそうだ。卑怯、汚いなんでもありの小人の助言は冴えている。
ズルリとリリウスの右側頭部から角が生え、髪が2割ほど黒く染まる。
巨人達がビクリと震え、リリウスは己の歯を舌で圧し折り吹き矢のように放つ。
「ゴ、ガ………ガアアアア!?」
嘗ての英雄を零落せしめた陸の王者の猛毒………程の毒でなくとも、ポーションの原液程度で無効化できるはずもなく、巨人は倒れ鎧の隙間から腐肉を零す。
魔石を破壊すれば腐肉も消える。
「問題は数か」
歯などいくらでも再生するが、一々折って治してでは多少時間が…………。
「ん?」
と、避難所を襲おうとしていた巨人が吹っ飛ばされた。吹っ飛ばしたのは、二周りは小さな鎧の巨人。トロールだ
もう目覚めたのか、加減したとはいえ頑丈な奴。
「ウオオオオオ!!」
「ゴアアアアア!!」
別の巨人と取っ組み合うトロール。サイズ差にしては持ちこたえているようだが、如何せん巨人の方が力は上。
ドロリと鎧の隙間から垂れる血液混じりの腐肉がトロールの鎧を腐食させていく。
「何をしている?」
巨人を蹴り飛ばしトロールに尋ねる。トロールからすれば、この街を守る道理などないだろうに………。
「…………子供?」
トロールの後ろには、小さな子供が2人と母親らしき女性が1人。避難所として扱われている建物の扉は閉ざされている。避難が間に合わなかったのだろう。
「母サンハ、貴方ガ助ケテクレタ」
「…………………」
「ダカラ、ボクハ、彼等ヲ助ケル!」
トロールの憧憬は家族愛。その光景を見捨てることは、その憧憬を理由に理知を得た
「そうか。ドゥルガー」
「ああ」
リリウスの言葉にドゥルガーが現れる。
「剣を一つ、こいつに渡せ」
「なんじゃ、主様が妾の力を使うわけではないのか」
「もう少し強ければな」
「まあ良い」
と、ドゥルガーが片手をかざせば巨大な剣が現れる。見るだけでとんでもない重量だと解るそれをリリウスは片手で持ち上げ舌で猛毒の唾液を塗り込む。
「貸してやる。あの程度なら殺せる。問題は…………」
爆音が響き、建物がまとめて吹き飛ばされる。
それは辛うじて人形を保っていた巨人達とは異なり、蠢く肉塊としか呼べない巨大な腐肉の塊。
腕を伸ばし他の巨人達を飲み込んでいく。そうやって巨大化したのだろう。
「はー、ぷー………はー、ぷー………アブゥ………」
あのサイズに毒を打ち込むと、まあ街が死ぬな。何よりも厄介なのは………。
「うわああああ!?」
「何だあれ、何だよあれええ!?」
「逃げろ、逃げろおおお!!」
モンスターを軍事力として利用しているとはいえ、一般人からすればモンスターなど遠い存在。それでも脅威に変わりなく、ましてや明らかに階層主すら優に超える巨大な怪物が現れたとなれば、容易く恐怖は伝播する。
自分達すら捕食する怪物に巨人達も恐れをなして狂乱する。
悲鳴が、怒号が、恐怖が臨界に達した笑い声が街中に響く。
「落ち着け! 落ち着いて、避難を!」
「状況は?」
「リリィ様!」
偶然見かけた騎士に状況を尋ねるが、騎士は恥じ入るように言葉に詰まった。
「あまり………このようなことは、初めてで…………!」
慣れていないのだろう。
逆説的に、あの
さて、そうなると街の被害を考え派手な攻撃は……………。
「貴方達、何を騒いでいるのかしら!?」
と、不意に聞こえた声に、人もモンスターも関係なく振り返る。
「この私を差し置いて、随分楽しそうじゃない!」
鐘塔の屋根の上に立つアフロディーテ。エウロペとシュヤーマがすぐ下から見上げ、シャバラは屋上。
アフロディーテが合流し、運ばせたのだろう。
「まあ、ここまでのモンスター見たことないものね。ええ、怖いのも仕方ないわ」
うんうん、と頷くアフロディーテは、その所作の一つ一つが人類を魅了する。
「でもね、
その美声は老若男女問わず人々の魂を掌握する。
「私の為に騒ぎなさい、
瞬間、弾けた。
「女神様あああ!」
「お綺麗です、女神様!」
「その御御足で私を踏んでええ!」
なんか変なのもいる。
「よくてよ貴方達! さあ、そんな離れてないで、もっと私に駆け寄りなさい!」
歓声が響き、何処に逃げるか混乱していた民達が一斉に同じ場所へと向かう。巨人は建物が邪魔して近づけず、建物を破壊出来るだけの肉塊はその重さ故にまともに進めない。
「私は楽しいのが好きなの。暇を埋めるために、下界に降りたのよ。ファンズや珍しいトロールはともかく、暴れるだけの
『『魅了』なんて嫌な事避ける時に使えばいいの。やりたいこと、知りたいことに使ってたら、
自分には効かぬからと、まだどこか『美の女神』というものを舐めていた。なるほど、確かにこれは、世界が楽しめなくなる訳だ。
「さあリリィ、私の可愛いメイド。
「…………了解、
街への被害は後回し。好きにしていいなら、好きにやる。
「ドゥルガー、喰い合ってちょっと強くなったみてえだぞ」
「そうかそうか。ならば、殺そう!」
精霊ドゥルガー。神の別名を拝命せし、大精霊。
だがドゥルガーは、どの属性にも属さない。
「派手だからなあ
「ああ、盛大に焼き尽くそうぞ!」
嘗て殺戮と戦を司る女神として天界で暴れていたカーリーは、数多の神々から受け取った武具防具を使っていたという。
「【大地を照らせ陽光よ。其の姿は瞳。其の意義は監視。法と秩序の神々は、裁きの時を見張らせる】」
詠唱、とは異なる。強いて言うなら、祝詞が近いだろう。先程トロールに貸した張りぼてとは比べ物にならぬ力を顕現させるための手続きのようなものだ。
「【夜闇を祓え暁よ。あれこそは大地に蔓延る悪なれば、炎を以て焼き尽くさん】」
「【祈りの声は捧げられた。ここに、光と炎を授けよう】」
現れたるは複数の槍。陽光を象徴するように円を描いて現れ、街をまるで昼の如く照らす。
「あら綺麗。ええ、戦と美を司るアフロディーテが命じます。消し飛ばしなさい!!」
「「【ジャータ・ヴェーダス】」」
放たれる陽光の槍。破滅の炎。
アフロディーテの美に酔いしれていた筈の怪物すら思わず見惚れる光の波濤。
通過点にあった建物や大地を消し去り、醜き肉塊と化したモンスターを焼き尽くした。
ちなみにドゥルガーはリリウスとの絆が深まるほど簡単に手続きを済ませられるようになる。