ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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破壊者

 怪物の速度は規格外。攻撃も、防ぐのはリリウスのくれた鱗を加工した武具防具以外では出来ない。

 かといって範囲攻撃の魔法は反射される。

 

 リリウスや【猛者(おうじゃ)】のように薙ぎ払うだけで範囲攻撃になるような圧倒的な力は、残念ながら無い。

 

「マリュー!」

 

 ネーゼがマリューに回復薬(ポーション)をぶっかける。傷が塞がったマリューは立ち上がり、【ルドラ・ファミリア】を襲うモンスターの背を見つめる。

 

 文字通り食われかけた彼女の恐怖、この場の誰よりも強いだろう。

 

「だ、大丈夫よ…………」

 

 それでも、気丈に睨む。切られた足の断面をつなげ、回復魔法で一先ず形だけ繋げる。

 ネーゼは無理するなよ、と背中を叩く。

 

「クルルルル」

 

 モンスターは【ルドラ・ファミリア】のあらかたを殺し、再び【アストレア・ファミリア】に目を向けた。

 

 冒険者にとって最大の脅威とは『未知』。起こること、出来ること、通じないものを知らぬこと。

 未だ先人達の後に続くだけのオラリオの冒険者にとって、適正階層のモンスターや階層の情報はギルドで調べられる事。

 

 2年前の神の触手(デルピュネ)の件を除けば、アリーゼ達はオラリオでも数年ぶりに、ダンジョンの未知に挑む冒険者である。

 

「今わかってんのはアホほど速くて、馬鹿見てえな切れ味の爪に、魔法を跳ね返すクソ防御ってことだけだ!」

「あのなっがい尻尾の攻撃にも気を付けたほうが良さそうね!」

「物理に関してなら、高い耐久があるわけではなさそうだ」

 

 防がれただけで欠ける絶爪。確かに、そもそも攻撃など当たらぬ速度を有しているとはいえあまりに脆い。

 再生する様子も見られない。

 

「でも、明らかにダンジョンが()()()()()()()()()()()()はずよ」

 

 それこそ、神に中に入られ怒り狂い生み出した神の触手(デルピュネ)のように高い不死性を持っている可能性もある。

 

「絶望的になること言わないでほしいぜ」

「怖気づいたのなら、そこで震えていればよろしいのでは?」

「ほざけ」

 

 と、輝夜の軽口に笑うライラ。

 

「ちょうどいい。あたしはここで、Lv.4になってやる!」

 

 怪物が駆ける。

 アリーゼと輝夜が反応し、その斬撃を弾く。

 

「………!」

 

 その速度故に弾かれ遠くへ飛ぶ怪物は巨大な木に着地する。爪に走る亀裂が深くなった。

 やはり脆い。妙な評価だとは思うが、あの怪物は生存する前提で作られていないような気がする。

 

 短期決戦………いや、()()()()

 命尽きるまで殺し尽くす事が目的の、モンスターでありながらモンスターとも言い難い機構。

 恐らくはジュラ達の大規模破壊によりダンジョンが放った刺客。

 

「オオオオオオ!!」

 

 苛立つように吠える怪物。殺す為に生まれた彼は、殺せぬ事を怒る。

 

「ねえ、オブシディアン・ソルジャーっているじゃない?」

 

 アリーゼは唐突に魔法を減衰させる体を持つモンスターの名を出す。

 

「あれで鎧作ったとして、中身まで魔法耐性があると思う?」

「中まで鎧の素材の可能性は?」

「ないわね。だって、動きが速すぎる。殻の下は速度を支える筋肉があるはずよ」

「確証がねえ。 まずは剥がしてからだ。できるならな」

「オッケー! リオン、マリュー、詠唱開始! セルティ、リャーナ、短文詠唱で目眩まし! 前衛は、後衛を守って。行くわよ、輝夜!」

「「「了解!!」」」

 

 アリーゼの指示を受け、各々陣形を組む。ライラはアリーゼの背中に何かを投げ、アリーゼはそれを受け取った。

 

「おおおおおお!!」

「っ! こいつ!」

 

 怪物が再び狙ったのはマリュー。ネーゼの傷を癒すのを見て、生存手段を少しでも奪いにかかったのだろう。

 

「────ぁ」

 

 迫る牙を見て魔力の手綱を手放しそうになるマリュー。仲間の回復手段として魔法を待機させなくてはならないのに、今にも暴発しそうな程魔力が張り詰める。

 だが、寸前で取り戻した。

 

「おらあああああ!!」

「ギッ!!」

 

 ネーゼの漆黒の短剣が怪物の下顎を斬りつける。階層主程ではなくとも、並の大型級を優に超える体躯だ。

 体全体からしたら小さな傷。だが、顎を動かす筋肉が斬られた。

 

 鬱陶しそうに破爪を振るわんとする怪物。ネーゼの足は本調子ではない……仮に本調子であっても躱せないであろう斬撃がネーゼへ照準を合わせるように持ち上げられ………。

 

 怪物の視界に映る、魔法の光。

 

「────!!」

「………………」

 

 当然魔法は反射されるが、目の前を一瞬覆う。固まる怪物に、目を僅かに見張るアリーゼ。

 怪物は不自然な体勢のまま爪を振るい、感じたのは『壊せない武器』の感触。不快そうに唸る。

 

「つぅ!」

「ネーゼ!」

 

 短剣を握っていた手が砕かれ、爪の隙間から血が流れる。すぐにマリューの魔法が傷を癒す。

 

 怪物は反射した魔法で敵の数が減っていない事を()()()()()()()()()()()()、今度は魔導士達を狙おうとする。

 

「させ、ない!!」

 

 突進するのはドワーフの少女。種族による『力』に任せた盾の突撃(シールドバッシュ)

 如何に速くとも、当たり前だが動かなければ速いもクソもない。

 

 気配で獲物の位置を察知できても、獲物の種類は見て判断するしかない怪物が、視線を彷徨わせた瞬間を狙う不意打ち。

 

 邪魔にはなるが脅威とまるで判断していなかった小柄な少女の突撃を逆関節の後右足に喰らい、亀裂が走る。

 

「キシャアアアアア!!」

 

 わざわざ近付いてきた獲物に爪を振るいながら、同時に尾を振るう。

 長い尾を持つ大型のみに許された一匹による挟撃。

 

 爪を盾で防ごうと、その尾は容易く鎧ごとアスタを貫くはずだった。

 

「この!」

「大人しくしろ!」

 

 その尾を押さえつけるイスカとノイン。

 守るべき魔導士から離れてしまったので、怪物を決してこの場から逃さぬ為に大蛇のように暴れる尾を握り掴む。

 

「ナイス、二人共!!」

 

 アリーゼが駆け出す。

 

「【華開け(アルガ)】!!」

「!!」

 

 炎の付与魔法(エンチャント)に対して、怪物が行うは『魔力反射(マジック・リフレクション)』。

 炎を纏ったまま突っ込んで来る様子に、怪物は物理と魔法同時に来ると察し、その上で回避ではなく防御を選んだ。

 

 どのみち、尾を掴んだ二人を引き剥がせるか解らなかったからだ。

 紫紺の体が妖しく光り、炎が爆ぜる。

 

「──────!!?」

 

 『殻』が()()()()怪物は激痛と混乱で思考が真っ白に染まる。

 

「アリーゼ!?」

「大丈夫よリオン! 正義の炎は、こんなところで消えたりしないんだから!」

「思っきり髪が燃えてるぞアリーゼ!」

「え? あわわ!!」

 

 爆炎の中から笑顔で現れるも、艷やかな馬の尾のような赤髪の先端が燃えているのに気付き慌てて消火するアリーゼ。

 

 何をしたかといえば、簡単だ。直前で剣に纏わせていた炎を消し、ライラの爆薬を剣と共に叩きつけ爆炎は炎の鎧で威力を殺した。

 

 魔法ではない、純粋な物理的攻撃に怪物の殻は大きく剥がされ、肉が露出する。

 

「セルティ!」

「うん!」

 

 セルティの魔法が怪物の剥き出しの胸を破壊する。反射は、されない。ついでに胸に魔石がないことも解った。

 

「ガアアアアアアア!!」

 

 鎧を一部とはいえ失い、魔導士が『脅威』へと変わった怪物はセルティとリャーナへ狙いを定め、自らの尾を切り裂く。

 

「な!」

「わっ!!」

 

 綱引きで突然綱が切られればそうなるように、イスカとノインは転がる。2人を蹴り飛ばすように後ろ足で地を蹴る怪物。

 衝撃と無数の石の破片が2人を襲う。

 

「「っ!!」」

 

 迫りくるモンスターに、2人は避けない。避けれないのではない。待機した短文詠唱の魔法を、僅かでも威力を落とさないためだ。

 

「いかせるかよ!!」

 

 Lv.3の膂力で無理やり持っただけの、不格好な盾の防御(シールドウォール)。邪魔だと盾ごと吹き飛ばすが、僅かに速度が落ちた。

 

「はあ!!」

 

 極東の奥義、居合が怪物の後ろ足を切り裂く。バランスを崩し倒れる怪物に、輝夜は笑う。

 

「ついでだ、あのちびの魔法を受けておけ」

 

 地面が爆ぜた。魔力の起こりを感じ、咄嗟に『魔力反射(マジック・リフレクション)』を張るも意味はない。

 

 地雷原を設置する小狡い魔法は地面を爆発させ、その魔法を地面に返したところで地面が爆ぜるのは変わりなく、先程の前衛2人への借りは返したとばかりに、盾の影から笑うライラ。

 

 爆ぜた石塊が殻を更に剥がす。

 魔導士2人の魔法が炸裂した。

 

「…………!!」

 

 ご丁寧に残った殻の近くを狙った魔法の衝撃が、肉から殻を剥がしていく。

 

「全員、離れて!!」

 

 長文詠唱、『魔導』、そしてLv.5。あらゆる要素による、【アストレア・ファミリア】最強の火力を誇る魔法は既に装填されていた。

 

「【ルミノス・ウィンド】!!」

 

 降り注ぐは流星群の如き疾風纏いし光玉の雨。一部を反射するも、その倍が剥き出しの肉体へ殺到する。

 

「やべぇ、少しこっち来た!」

「やりすぎた馬鹿!」

 

 本来なら放たれた方向に返す筈の『魔力反射(マジック・リフレクション)』だが、怪物が吹き飛ばされながらだったのか四方に飛び散る。

 味方の魔法に殺されてたまるかと回避していく正義の乙女達。

 

 砂煙が晴れると、頭部を失い、四肢の内3つを失い、尾も千切れた怪物の体。

 普通なら死んでるはずのそれは、しかしまだ敵を殺さんと蠢く。

 

「冗談だろ! 不死身かよ!」

 

 片腕を地面に叩きつけ跳ねる肉塊。爪を壁にめり込ませながら、縦横無尽に駆け回る。

 怪物は、全身が完全に粉砕されるまで止まらない。僅かにでも戦う力があるなら、最後まで戦う。

 

 リューは精神力(マインド)を使い切った。アリーゼは、爆発を完全に防げたわけではない。

 先程より身軽になった怪物に追いつけるのは、輝夜だけ。

 

「ゴキブリでもまだ潔いぞ! クソ、来るがいい!」

 

 幸いにも目を失った怪物は、魔導士、治癒士(ヒーラー)を判断するすべを失った。故に、かけてくる輝夜へと襲いかかろうとして…………地面が炎を噴き出した。

 

「!!」

 

 第1級冒険者の輝夜の肌を触れずに焼く高温の炎が噴火の如く地面から飛び出した。

 否、それは()()()()()()()()()()()()()()()()

 そしてそれは、炎では無かった。

 

 

「…………蛇?」

 

 峡谷の木々が自然発火していくほどの高温の炎に身を包んだのは、階層主に迫る巨大な黒い蛇。

 暴れる肉塊が切り裂こうと爪を振るうも、その鱗には傷一つつかない。

 バキリ、ボキリと噛み砕かれ、やがて爪も口の中に消えていく。ゴクリと喉を鳴らした蛇は、【アストレア・ファミリア】に目を向けた。

 

 より厳密には、彼女達の持つ黒い装備。

 笑った………ように見えた。蛇の表情などわからないが、そう感じる。

 

 敵意とも違う、歓喜にも似た気配を感じる。なのに、この怪物はこちらを殺す気だ。と…………

 

「こらー!」

 

 バサリと羽ばたく翼の音。現れたるは、遠くて良く見えないが間違いなくハーピィ。

 炎に近付けないモンスターはバサバサと炎の蛇の周りを飛ぶ。

 

「勝手なことをしない! 彼女達は、リリウスの仲間です! 傷つけたりしたら、リリウスに二度と戦わないよう頼みますよ!」

「……………………」

 

 炎の蛇は、鬱陶しそうに目を細めると再び階層間の大地を破壊して地面に潜っていく。

 

「………階層移動。大蛇の井戸(ワーム・ウェール)の亜種か?」

「いや、明らかに竜種の類だろう、あれは」

「皆様、大丈夫ですか?」

「う〜ん、でもなんかあの鱗既視感。この武器の素材と同種かしら?」

「あの、皆さん?」

「何にせよ、ギルドに報告するべきだ。討伐隊を組むことになるだろうが」

「私達も参加するのかしら?」

「みなさーん!!」

 

 ハーピィはバッサバッサと翼を振るう。むぅ、と頰を膨らませた顔は、なんとも愛らしく、とても怪物には見えない。

 

「…………そうね。現実逃避はやめやめ! でもごめんなさい、少し叫んでいい?」

「? よくわかりませんが、話すために必要なら」

「ありがとう」

 

 アリーゼはにっこり微笑むと、大きく息を吸う。

 

「きえええええああああああ!! モンスターが喋ったあああああ!?」

 

 


 

 

皆が見たい、作者が描きたい、ほんの少しの未来より抜粋

 

 

 ベートの暴言より飛び出して行く白い影に、アイズは目を見開く。

 あの子だ。聞かれていたんだ。傷つけてしまった。

 外に出るも、もう人混みに紛れてあの白い影は消えていた。

 

 せめてあの子の知り合いに謝罪を、と彼が座っていた席に視線を向けようとした時だった。白と灰の影が【ロキ・ファミリア】のテーブルへと飛びかかった。

 

「ガルルルル!!」

「グヴヴゥゥゥゥ!!」

「うひあ!?」

「うわああ!?」

 

 襲われたのはクルスとラウル。Lv.4の2人が、ただの少し大きな犬に押し倒され今まさに頭を食いちぎられようとしていた。

 

「この!」

「こんにゃろ!」

 

 ラウルを襲っていた白い毛並みの犬をアキが、クルスを襲っていた灰と白の毛並み犬をティオナが追い払おうとする。

 白い犬はアキの蹴りを片前足で止め、足を登るように駆け上がり胸へ体当たり。

 

 灰と白の犬はLv.5の膂力に吹き飛ばされるも威力を受け流し床を滑りながら着地し唸る。

 二匹が睨むのは震えている第二級冒険者達。

 

「シャバラ、シュヤーマ、そこまでにしておけ。ミアに殺されるぞ」

 

 と、フードを深く被った子供、或いは小人族(パルゥム)が二匹の犬へ呼びかける。二匹の犬はこちらを睨んでいるミアに気づき尻尾と耳を垂れ、大人しく主人の後ろへ移動した。

 

 犬の主人は、そのまま何事も無かったかのように食事を続ける。既に塔のように皿が積まれているのに、凄い食欲だ。

 

「おうおうおう! いきなり何すんねんごらぁ! 躾のなっとらん犬やな! 誰に手を出したかわかっとるんか!」

 

 と、ロキが立ち上がり叫ぶ。アイズを除いた団員も犬と主人を睨む。

 

「? 手を出す? 笑い話を提供してやったんだろ。こいつ等は、俺の犬とは思えないほど優しいからな」

 

 俺、ということは男? 中性的な声の男は二匹の犬を撫でてやる。

 

「笑い話やと? その犬っころども、本気でウチの子食い殺すつもりやったろうが!」

「グゥルルルル!」

「『そうだな。だが、強い奴に殺されそうになり震えるだけの冒険者の姿は面白いんだろ?』と言っている」

「バウ! ワフ、クルルル」

「『それが自分達の失態ならなお面白いんだろうが、そこは我慢してほしい』と言っている」

 

 その言葉にリヴェリアに指摘された時同様に固まる者、リヴェリアじゃないので後ろめたさも感じず反省もせず睨む者に分かれる。

 犬と会話できるだろうか? と首を傾げるアイズ。彼女はとても素直なのだ。

 だが、そんな言葉を信じないものもいる。

 

「はっ! くだらねえ、何犬っころに責任押し付けてやがる! 怖くて噛みつけねえなら、隅っこで震えてろ雑魚が!」

「……………? お前、【灰狼(フェンリス)】か? 変わったな」

「…………ああ?」

 

 アイズや一部の冒険者には聞き馴染みのないベートの嘗ての二つ名を呟く彼に、ベートは訝しみながら睨みつける。

 

「俺が騙ったかはそこの神なら解るだろ。それに、怖い? お前等が?」

 

 何故、と言うように首を傾げる。

 

「臆病な卑怯者に率いられた烏合の衆の、何を恐れろと?」

「っ! てめぇ、今団長を馬鹿にしやがったな!」

 

 声を出したのはティオネだけだが、全員彼を睨みつける。彼が知り合いのために怒っていると思っているアイズは何とか止めようとするが、その前にティオネが飛び出してしまう。

 

「死にやがれええええ!!」

 

 上級冒険者すら容易く殺す一級冒険者の蹴りが、ムチのようにしなりながら彼の頭部へと向かい………

 彼が持つステーキナイフがティオネの足を貫く。

 

「……はっ!?」

 

 痛みより困惑が先に来たティオネは、しかしすぐにそのまま足を押し込もうと力を込めるもナイフが深く刺さりながら彼の手に足が触れた瞬間止められる。

 

 山でも蹴ったかのような、小さな体躯から想像もできぬ安定感。再び困惑する間もなく彼はティオネを引き寄せると未だ熱を持つペレットにティオネの顔面を叩きつけた。

 

「どうした、笑えよ。弱い奴が強い奴に甚振られる光景が、想像しただけで笑っちまうようなツボなんだろ?」

 

 

シャバラとシュヤーマのレベルは4だ。並のファミリアなら片方だけで殲滅できるぞ!

ご飯を分けてくれたベルを良いやつだと思っている。

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