ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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異端との邂逅

「………ふぅ。よし! 私は落ち着いたわ! 皆もどう?」

「………いや、やらねえよ」

「おかげさまで冷静になれましたので」

 

 アリーゼの言葉にライラと輝夜が呆れながら肩を竦める。

 他の面々も、とりあえず正気に戻ったようだ。

 

「お話しても平気ですか、地上の方々?」

 

 コテンと首を傾げるのはどう見てもハーピィ。いや、それには語弊がある。本来のハーピィは醜悪さが滲み出る悪辣な老婆より醜い顔をして、その体臭は糞尿のようで思わず顔をしかめたくなるモンスター。後もっと上の階層に生息してる。

 

 目の前の『少女』はヒューマンはもちろん獣人やエルフとも異なる耳をしているが、その顔は端正なものだ。

 

 元々美少女揃いの【アストレア・ファミリア】にも劣らない。

 おしゃれが好きなのか、耳にはピアスをつけている。

 

「貴方達のことはリリウスから聞いています! 真面目で融通の利かない、リオン!」

「え、私、セルティ…………」

 

 エルフ違いだ。ハーピィはむむ、と首を傾げる。今度こそ、と言うように次の相手に目を向ける。

 

「実は身長を気にしてるアスタ!」

「あたしはライラだ」

「あれ〜?」

 

 身長、気にしてるんだという視線に晒されさらに小さくうずくまるアスタ。ハーピィはウンウンうなりながら、また別の相手に目を向ける。

 

「貴方はカグヤですね! 一番大人っぽいけど、一番性格が悪いと言ってました!」

「私はマリューだけど。えっと、大人っぽいって思ってくれたのよね?」

「あのガキ…………」

「はいはーい! 私、私について何か言ってた!? 一番頼りになるお姉ちゃんとか!」

 

 と、アリーゼが自分から手を挙げる。

 

「一番、頼り………姉? わかりました!」

「うんうん!」

「貴方はシャクティです!」

「……………………」

 

 リリウスの知り合いで姉といえば彼女ぐらいだからだろう。断じて自分達より頼りにしているわけではないはずだ、とアリーゼは己に言い聞かせる。でも、確かにシャクティ頼りになるからなぁ。

 

「それで、貴方はリリウスの知り合いなのよね?」

「はい! それはも──」

「フィ〜ア〜!!」

 

 と、突如現れた黒い影がハーピィへと襲いかかった。

 

「何をしているんだお前は! 馬鹿か!? 馬鹿だな! 馬鹿だった!!」

「あわわわわ!? フィ、フィルヴィス! 落ち着いててててて!!」

「本名で呼ぶなああ!」

 

 ガクガク揺さぶられ目を回すハーピィ。黒衣に仮面という怪しさ満載のフィルヴィスと呼ばれた人物は、きゅ〜と唸るハーピィを担ぐと【アストレア・ファミリア】に顔を向けた。

 

「これは良くできた腹話術人形だ。ファミリアの飲み会の練習でな。では!」

「無理があんだろ」

「後、さすがに怪しすぎてはいさようなら、は出来ないわ!」

 

 と、不審人物を囲む【アストレア・ファミリア】一同。強行突破しようかと、魔力を迸らせる。

 第1級にも匹敵する魔力に、【アストレア・ファミリア】に緊張が走る。

 

「そこまでにしましょう、フィルヴィスちゃん」

 

 と、張り詰めた空気の中に響く優しい声。

 現れたのは黒い犬型モンスターの背に座る、白い髪の牛人(カウズ)

 

「でっっか………」

「…………?」

 

 一部を見て思わず呟くアリーゼの言葉に、女性は首を傾げる。なんとも可愛らしい仕草に、庇護欲を唆られる。

 

 凄い美人だ。女神すら超えると言われるリヴェリアにも引けを取っていない。

 

「はじめまして、私はエウロペ。あの子、リリウスのお友達よね? 話は聞いているわ」

「あ、はい。えっと、リリウスのお母様ですか?」

 

 その雰囲気に押され思わず尋ねるリュー。

 確かに髪の色とかは似てるが、亜人(デミヒューマン)が他種族の子を産めるわけないしリリウスは本来栗色の髪だ。

 

「うふふ。お母さんだなんて、あの子はまだ12歳でしょう? 私、そんな小さな子がいるほど若く見える?」

「見える」

 

 即答だった。

 

「あらあら〜」

 

 頰に手を当て微笑む姿は、何処かデメテルを思わせる。女好きな神々の前に出したら攫われてしまいそうな危うさがある。

 

「嬉しいわね。タロス、私はまだまだ若く見られるみたい」

 

 と、彼女の後から現れたのは青銅の鎧を身に纏った人影。人影と言ったが、人間の形をしているが大きさは明らかに人ではない。

 巨人型の大型モンスターだろう。武装しているが。

 

「嬉しいから、飴あげる。水晶飴(クリスタルドロップ)っていうらしいわ」

「ええ!? 高級食材じゃない! い、いいの?」

「ええ。あの子の友達だもの」

 

 わーい、と受け取ろうとするアリーゼの膝裏をライラが蹴り、肩を輝夜が掴みひっくり返す。

 

「ちったあ警戒しろ馬鹿!」

「流石に擁護できんぞ団長」

「おおう! 頭打った!」

 

 後頭部に手を当てゴロゴロ転がるアリーゼ。マリューが回復してやる。

 

「ふう。さて、それじゃあ色々聞かせてもらおうかしら?」

 

 

 

 

 

 

「もうなんか、色々忘れてベッドに飛び込みてえ」

 

 と、ライラ。理知を備えたモンスター、異端児(ゼノス)。その支援者がギルドの創設神ウラノス?

 知ったらまずすぎる新事実。

 

「へぇ〜、貴方もその異端児(ゼノス)なの? ていうか何処かであったような」

「わ、私は彼等の協力者だ。エウロペと同じ…………」

 

 しかも【ガネーシャ・ファミリア】の一部はその事実を知っていて、調教師(テイマー)はいずれ訪れるその時に地上の民からモンスターへの忌避感を少しでも減らす為らしい。

 

 そういえば、新しい目玉としてモンスターの調教(テイム)を見世物にした祭りを行おうとしていると聞いた。

 

 ていうかなんであの団長は気にしてねえんだ。

 

「おい、お前等はどう思うよ?」

 

 と、エルフ2人に話しかけるライラ。

 潔癖なエルフの中でも、特にリューはその傾向が強い。モンスターが喋り、モンスターと共にある人間にどんな反応を見せるのか………。

 

「モンスター特有の嫌悪感は抱きにくいです。戸惑いが強いのも、あるとは思うのですが」

「それに、あのフィアって人………人? 女の子、私達を助けようとしてくれたみたいだし」

 

 あの蛇は、友好的なフィアとは違う。こちらを警戒したままの鎧の巨人(アーマージャイアント)とも違う。

 

 強いて言うなら、闘争に酔うアマゾネスに似た気配。戦いそのものが目的で、相手が死ぬのも自分が死ぬのもその結果の一つとしか考えていない。

 

 まあ戦いに酔ってるアマゾネスも、そのほとんどは結局の所強さに酔っているだけの場合が多いが。

 

「ヴリトラですか? あの子は、ちょっと特別なのです。私達は輪廻転生を繰り返し憧憬を抱いて再び生まれます。理屈の上では、死んだ仲間達も復活出来るはずなのですが…………」

 

 それでも、しない。リリウスは『死』の恐怖や己を殺した者への怒りや憎悪が憧憬を塗りつぶしているんだろう、と言っていたそうだ。

 

「でもヴリトラは私が知る限りには二度、リリウスが知る限りなら三度記憶を引き継いでいます。そして、今回は前より頭が良いです。リリウスも、前回の時にも頭が良くなってると言ってましたし」

 

 ヴリトラは、死への恐怖がない。

 正真正銘、戦い続けることこそが彼の憧憬そのもの。

 

 恐らくはリリウスが死んで、人間は死んだら蘇らないのだと知るまで復活し続けるだろう。

 

「…………『不滅の蛇』か」

「今はリリウスとの再戦に向けて力を蓄えているのですよ」

 

 その過程で、あの怪物を食らったということか。魔石はなさそうだったが…………いや、案外全身が魔石の役目をしていたのかもしれない。

 だとしたら、あの強さ。強力な強化種となったことだろう。

 

「フィア、フェルズから連絡が来た。一先ず、先程の件も併せてギルドから使者として向かうそうだ」

 

 と、何処かに行っていたフィルヴィスが戻ってくる。

 

「ええ、『里』に招待しないのですか!?」

「リリウスと私の時は特別。エウロペは前例がある。だが、彼女達はまだそこまで信用できない」

「ま、モンスターと人だしな」

 

 フィアとアリーゼは何やら波長があったようだが、人とモンスターはそう簡単に相容れない。

 もしも異端児(彼等)が、モンスターを受け入れる下地が整っていない状況で存在を知られたら、その時ライラ達は選ばねばならない。

 

 そして、リアリストのライラや輝夜が選ぶとしたら……。

 

「ま、ほどほどに仲良くさせてもらうさ」

「そうか。だが………フィアもそうだが、一部除いて人懐っこく構ってくるぞ」

「………………そうか」

 

 

 

 アリーゼ達が地上に戻り数日。ギルド職員は今日も慌ただしく働いていた。新たなイレギュラーはギルドに報告する前に秘匿するよう怪しい黒衣の人物に言われていたが、その件を抜きにしても詳細不明の異常事態(イレギュラー)が起きたことは伝えられたからだ。

 面白がって聞き出そうとする神と、何も知らないギルド職員。少し悪いことをした。 

 

「や、ライラ」

 

 そんな事を考えながら、少し後ろめたさを感じつつも冒険者としてのその日の換金を行おうとキルドに入ろうとしたライラ達を呼び止める声。

 

「なんだよ勇者様か。リリウスの噂なんとかするまでそっちから話しかけてくんなつったろ」

「一応、それにも関わることだからね」

「じゃあそのガキ連れてくんなよ」

「……………ついてきたんだよ」

「…………ハッ」

 

 疲れた様子のフィンを笑ってやるライラ。アマゾネスの子供が睨んできたが気にしない。

 

「懐かれるのも大変だね勇者様。お前の目的にもそぐわねえのにな。今なら、あたしの言う事何でも聞くって約束すりゃ玉の輿してやってもいいぜ」

「ああん!? 調子乗ってんじゃねえぞチビ!!」

「うっせえガキ。相手に好意を押し付けるだけの独りよがりが一丁前に支えてますって顔すんな」

 

 恋人ですらない分際で強い独占欲を持つ少女に、そう吐き捨てるライラ。外のアマゾネス同様、種を共有する寛容さでも持てばハーフが生まれないから隠蔽も容易く、可能性があるというのに。

 

「ぶっ殺す!!」

「ティオネ」

「はぁい、団長!!」

 

 怒り狂った狂戦士は、フィンの言葉で発情しきった雌犬に変わる。

 

「ちょっと、離れていてくれないかな?」

「で、でも団長!」

「頼むよ…………」

 

 フィンが困ったような顔をすれば、ティオネと呼ばれたアマゾネスは渋々去っていった。

 

「で、リリ坊に関わる話ってなんだよ?」

「ああ、それは………」

「あー! いた、アリーゼ! リオン!」

 

 フィンが口を開く前に響く声。アーディだ。

 

「アーディ?」

「そうだよ! リオン達と同じ、Lv.5の第一級冒険者となったアーディ・ヴァルマだよ」

 

 誰に説明しているのだろう?

 

「そんなことよりみてみて、これ! リリウスが、外の世界で国を救ったんだ!!」

「…………………」

 

 世界の情報誌を差し出すフィンは笑顔のまま何も言えなくなり、ライラはちょっと同情した。

 

「なになに……『エルリアの王都に現れた、超巨大な青銅の巨人と、サイズは劣るものの、それでもなお巨大な巨人の軍勢。人々はもうこのまま踏み潰されるのかと絶望に沈みかけた時、白髪の小人族(パルゥム)が彼等を救うために現れた。民達を勇気づけ──』………勇気づける為に声を掛けるなら、リリウスじゃないわね」

 

 と、アリーゼ。

 

「でもほら、『巨人の王の槍を噛み砕き』って書かれてるよ!」

「じゃあリリウスね」

「待ってアリーゼちゃん。ここに『美しき女神の神意に従い』って書かれてるよ」

「じゃあリリウスじゃないわね」

「しかしアリーゼ『黒き風を纏いし』とも書かれていますよ?」

「ならリリウスね」

「もー! だから、リリウスだってば! 多少誇張されてるかもだけど、これはリリウスだよ!」

 

 と、アーディ。なるほど、リリウスはどうやら国を救ったらしい。あのリリウスが………人々を勇気づけるとかは絶対しないだろうけど、助けたというのは本当だろう。元気にやってるようで、良かった。

 

「良くないよ! だって、ほら、ここ!」

「?」

「【アフロディーテ・ファミリア】所属って事になってる!」

「あら本当。アフロディーテ…………アストレア様から聞いたことがあるわね。ちょっと考えが足りないけど、いい神様だって」

「アリーゼに似てるとも言ってたな」

「でも、でも美の女神様だよ!?」

 

 と、アーディは懸命に叫ぶ。

 

「リリウスが美味しく食べられちゃう〜!」

「「「…………いやあ、ない」」」

 

 『神の力(アルカナム)』へ高い耐性を持ち、権能たる『魅了』に至っては効かないだろうと、ソーマは言っていたらしい。

 

 いくら相手が美の女神だからといって、食事8割睡眠2割のリリウスがまさかそんな。

 

「あ〜でも、まだ子供なのよね。たしかにこれから性欲に目覚める可能性も?」

「たとえ女神様でも、そんなの駄目ー! 無垢なリリウスにつけ込むなんて!」

「そうね、許せないわ!」

 

 ライラは弟としてみてるアリーゼはともかく、思いっきり異性としてみてるくせに無垢なのをいいことに一緒に風呂に入ったりしてるアーディを胡乱な瞳で見つめる。

 

「しっかし国を救うねえ。フィンの言ってたのはこれか」

 

 この実績を使い、リリウスの悪い噂を帳消しにするつもりだろう。勇者を尊敬しつつも敵視もしている冒険者を完全に黙らせるのは無理だろうが、確かに一般人ならあるいは………。

 

「そういうことならとっとと動けよ勇者様。しっかし、なんでまたこいつは面倒事に巻きこまれてんだあ?」

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