ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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神に抗う者

 遠近感が狂いそうなほど巨大な体躯。150M(メドル)という規格外の巨人は、片足を後ろに振り上げる。

 

「チッ!」

 

 リリウスは髪を白く戻すとアフロディーテを抱え、シャバラがデイモスの服の襟を咥える。

 

「ぐえ!」

「きゃああああ!!」

 

 Lv.7の跳躍力とLv.1とはいえステイタスを極めた肉食獣の跳躍にアフロディーテが叫びデイモスが締まった首から何とか声を漏らす。

 

 瞬間、轟音。子供が蹴った砂場の砂のように家だった瓦礫が飛び散る。

 降り注ぐ人より大きな瓦礫の雨は街並みを蹂躙した。

 

「ただの蹴りで…………」

 

 ただ地面を蹴った。それだけで第一級の魔導士の長文詠唱にすら匹敵しうる殲滅力。

 特別な力は感じなかった。ベヒーモスと同じ。ただ巨体で行う破壊。

 

「素晴らしい! 素晴らしい! 流石アレス様の鎧! これで、地上を蹂躙できる! 1000年前より甘美な恐怖が大地を包む!」

「1000年前より?」

「こいつは戦神(アレス)の信者よ。当然、戦場で生まれる恐怖が好きなの」

 

 神って本当に面倒なのが多いわよね、と自分を棚に上げるアフロディーテ。

 

「シュヤーマ、アフロディーテを頼む」

「ワン!」

「へ? うぎゃ!」

 

 リリウスがアフロディーテをシュヤーマの背に投げ、アフロディーテは女としてはあまり褒められない悲鳴を上げる。

 

 リリウスは巨人を睨む。

 

「あちらも巨人、そちらも巨人。紛らわしいなあ」

「小型巨人と超大型巨人でいいだろ」

「巨人なのに小型とは」

 

 と、ドゥルガーがケラケラと笑う。だがオラリオにも【小巨人(デミ・ユミル)】という二つ名を持つ女傑が居たりする。

 

「とりあえずあのでかいのだな」

 

 建物の屋根をかけ、ある程度の距離に近づいた瞬間、一気に加速。

 巨人の体に飛びつき駆け上がる。

 

「おおっ──らあ!!」

 

 ドゥルガーに顕現させた巨大な剣を叩き付ける。

 詠唱なしの張りぼてとはいえ、超重量、超硬度の剣の一撃を、超大型巨人は片手で止める。

 

 リリウスは即座に剣の柄を足場に蹴りつけ巨大な兜にマーダで斬りつける。

 

「………………っ!」

「………………」

 

 小動もしない。兜の隙間から覗く巨大な目がリリウスを睨む。やはり中身は過剰回復で巨大化させたモンスター………いや、この匂い。

 

「お前、あの時の男か………」

 

 腐肉に混じる、人の匂い。

 超大型巨人は虫でも払うかのようにリリウスに掌を叩きつけようとする。

 

「そういうお前は、あの時の踊り子か」

 

 喋った。

 中身の腐肉は鎧を支える為だけに存在して、操ってるのは彼奴なのだろう。

 

「オオオオオ!!」

「チッ!」

 

 と、屋根に着地しようとしたリリウスへと襲いかかるのは30M(メドル)級の小型巨人の群れ。

 リリウスを何棟もの建物をぶち抜く砲弾に変えるほどの腕力を持つ豪腕に対し、リリウスが取り出すのは巨人達に対してはあまりに心許ない太さの鎖。

 

 だがそれは、深層の階層主のドロップアイテムとミスリルの混合物。薬で無理やり巨大化させた巨人の力で引き千切れるものではない。

 

 リリウスは一匹の体を縛り付け、兜を蹴りつける。一部が砕けた先程と違い、今度は完全に兜が吹っ飛んだ。

 

 そのまま手頃な長さで噛みちぎると別の小型巨人の鎧の手首に巻きつける。

 

 小型巨人はリリウスへ拳を振るおうと腕を上げるが、その勢いを利用して巨人の後ろに移動したリリウスは背後の小型巨人の鎧の留め具をマーダで切り裂いていく。

 

 やはり壊せないのは神の鎧だけ。形だけの模造品なら壊せる。

 なら、超大型の()()()()()()だろう。

 

 匂いが違う。形だけ整えられているが、あれはただの分厚い青銅で作られた腕。本来の物は壊されたのだろう。アフロディーテの言う、神の力を無効化する力ある古代の怪物に。

 

「…………ん?」

 

 超大型の掌が光る。掌から漏れ出した光は巨大な槍の形を取った。

 

 

 

「アレスって槍使いだったかしら?」

「お前、元恋人だろ…………アレス様は両手に槍を携えた戦神だ!」

 

 デイモスの言葉にアフロディーテはだって顔しか興味なかったし、と呟く。アレスを信奉するデイモスにとって、浮気でアレスと付き合うアフロディーテには色々思うところがあるのか忌々しそうに睨み付けた。

 

「片手だけにしか見えないけど。ああ、右腕は模造品ね。それに、槍と言っても神器の再現じゃない」

「だが、それでもあれはデミアルカナム! 精霊の秘儀よりもなお神の力に近い絶大な力! この地上に、あれに耐えられる存在はいない!」

「……………居るでしょ」

 

 振り下ろされる槍が、しかし地面を貫くことなく弾かれる。

 

「……………は?」

「ああ、やっぱり。神の力に抗うのね………」

 

 

 

 

 【獣王化身(ベヘモット・アヴァターラ)】、完全顕現。

 漆黒に染まった髪、灰色の歪に螺子曲がった4本の角。皮膚の各所も、黒い厚皮が覆う。

 

「────ゥウオオオオオオオオオ!!」

 

 咆哮とともに広がる漆黒の風。建物を、大地を、集まっていた小型巨人を溶かし崩す。

 

「────!!」

 

 この完全顕現状態だと過去同様精霊の力は使えない。ただしそれは取り込んだ精霊の力。ドゥルガーの力は使える。

 

 槍を蹴り上げたリリウスはグシャグシャに潰れた足に顔を歪め、ドゥルガーに槍を顕現させる。

 高跳びのように飛びながら小型巨人に飛びつき殻を剥がして中身を食い漁る。

 

 

 

 

「ベヒーモス……()()()()……()()()()()()()()()か………」

 

 介入後と聞き、アフロディーテは目を細める。

 そう、とある神が反則を行った。下界の理を大きく歪める介入は、それこそ世界を絶望に突き落とす蛇とも竜ともされる怪物にすら勝るだろう。

 

 (まさ)ってしまったから、対応された。

 ダンジョンは神の力を無効化する怪物、陸の王者、海の覇王、そして黒竜。1000年もの間君臨し続けた人類を滅ぼしうる厄災や、秘境に封じられた魔蠍を含む漆黒の怪物達を生み出した。

 

 まさかその怪物の力を扱う人間が現れるなんて、全知の神々ですら予想しなかった事だが。

 

「だが、完全な無効化ではない! 軽減できるからといって、アレス様の鎧や巨怪(ギガース)の群れに勝てるとは限らない!」

「はあ? ギガースゥ? え、あんた正気? その名前をつけたの、マジで?」

 

 オリュンポス勢力において神の敵を指す代名詞。それをよりによって無理やり強化して鎧被せただけのモンスターにつけるとか、仮にもこいつもオリュンポス勢力なのに、どうしようもない馬鹿なの?

 

「神の眷族を殺し尽くす巨人だ! 相応しい名だろう!」

「……………あんた良くその格好で勝ち誇れるわね」

 

 と、アフロディーテは縄に縛られ転がるデイモスを踏みつけながら縄を引っ張る。キリキリ締め付けられ唸るデイモス。

 

「てか中身のあれなによ。泉って?」

「ベルテーンの、生命の泉さ。あそこに住まう沼の王を参考にした………」

「ふ〜ん。でもデイモス、あんたはそういうの思いつかないでしょ? 私達は全知であっても、発想力が無限ってわけじゃない。恐怖(あんた)に入れ知恵した、黒幕気取りはだぁれ?」

「ふ、ふふ! それは──────誰だっけ?」

「………………はぁ?」

 

 デイモスはこういう時、相手を庇うような性格ではない。むしろ『恐怖』なんて司っているからこそ、自分と仲良くしてくれる神は自慢するような性格をしている筈だ。

 

「あれ、ちょっと待って………ほら、彼奴だよ彼奴。天界から神友で………」

「……………………」

 

 『魅了』による記憶の改竄? いや、これは………何か違う。だが、どのみちこれでは情報を取れそうにはない。

 

「………あ」

 

 超大型巨人がリリウスの蹴りに揺らぐ。やはり神殺しの力を不完全とはいえ纏えば、神擬きとやり合えるようだ。

 

「………いっそ、敗走してくれたらいいのに」

「クゥ?」

 

 情報源になり得ぬと判断したデイモスに座り、リリウスの敗北を願うアフロディーテにシュヤーマはどう言うことかと尋ねるように鳴く。

 

「だって本当に神殺しの力を模倣して、神擬きを倒せちゃったら、私はあの子を巻き込まずにはいられないもの」

 

 個人より下界を優先してしまうだろう。

 だから、叶うなら負けて逃げてほしい。神の力に対処できないのだと、思わせてほしい。

 

「そうね。負けて逃げることになったら、抱きしめて慰めてあげましょう」

「グフ」

「ワン!」

「何よ貴方達。文句あんの? 『魅了』するわよ」

「………」

 

 シャバラとシュヤーマは無言でアフロディーテを見つめ、次に巨人の軍勢と戦うリリウスを見る。

 もう一度アフロディーテを見ると背中を見せる。

 

「……………そう。あの子が大好きなのね……全く、仕方ないわね」

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