ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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殺戮を許される者

「後はタイマン。お前達は備えてろ」

「クゥ」

「キュウ」

 

 リリウスに頭を撫でられ、そのまま立ち去るシャバラとシュヤーマ。互いにアビリティを補正しあうスキルを持つだけあり、その動きはLv.2の上がりたてとは思えない。

 

 2匹を見送ったリリウスを踏み潰そうと迫る超大型の足。対してリリウスは、足裏を殴りつける。

 片足立ちで不安定とはいえ、150M(メドル)の巨体が引っくり返る。

 

「さっきは良くも踏み付けてくれやがったな、()()()()が」

 

 高く跳んだリリウスはドゥルガーに巨大な剣を作らせ、それを蹴り加速し超大型の胸を踏み付ける。

 轟音と共に超大型が地面にめり込む。

 

「なんじゃ主様、そう言うの気にしておったのか? しかしいいのか、中身が潰れるぞ?」

()()()()()()。この程度で潰れねえように出来てるだろ」

 

 ガンガンと胸のプレートを踏み付けるリリウス。その姿はさながらチンピラのようだった。

 

「………何故、邪魔をする」

 

 超大型巨人が顔だけ持ち上げ、中からマルスが問いかけてくる。リリウスは踏み付けながら視線を向ける。

 

「こんな国に、守る価値があると思うのか!!」

 

 

 

 

「昔の話さ………」

 

 唐突にデイモスが語り出す。

 

「マルスはこの国のために戦地に赴く戦士だった。強かった、それこそLv.4になれるほど」

 

 人々がモンスターに生存圏はもちろん、それ以上に数が喪われていく時代ですら、人々は争い合っていた。

 当然嘗てより生息域が増えても、その性質は何ら変わらず争う。

 

 マルスはそんな戦争を続ける国で生まれた。

 兵の命を数で扱い、後方で命令できる地位に生まれながらも、彼は剣を取り祖国のために戦った。

 

 周りの反対も押し切り、結婚したのは貴族ではない平民の女性。家との縁も半ば切り捨て、彼は一軒家を買って平民と同じように過ごした。

 

 民からの信頼厚き英雄に、貴族達は忌まわしく思いながらも手を出せなかった。

 

 故に彼の幸せを奪ったのは腐った貴族でも、敵国ですらなかった。

 平民の酔っ払い。それも悪党として有名な奴でなく、ごく平凡な。

 

 戦勝の噂を聞き、凱旋前にちょっとした宴がおこなわれた。

 昼間っから酒を飲み、酔っ払い同士の喧嘩が起こり、喧嘩に負けて苛立った酔っ払いがナンパしてあしらわれムキになり路地裏に引っ張り、勢い余って殺した。

 

 酔いが覚めても混乱していた男は、目撃していた娘の口を防ごうとして、また殺した。

 彼の妻が路地裏に連れて行かれるところは多くの者が目撃した。誰も止めなかった。衛兵こそ呼んだものの、巻き込まれるのを恐れて。

 

 そのくせ、戻ってきたマルスを哀れんで、犯人に憤る。

 そのくせ、また敵国が攻めてくれば、誰もが戦いに向かえと訴えた。

 

「怒りを覚えるのも当然だ。だから神の手を取った。哀れだよな、可哀想だよな。圧倒的な力で黙らせるなんて、あんまりだろう?」

「…………………」

 

 

 

「だから、邪魔をするな! 間違っていることなんて解っている。望まれない事も知っている。それでも、解らせてやりたいんだ! 平穏を享受する、彼奴等に」

「…………………」

 

 

 美神も、小人も、奇しくも同時に過去を語る神と眷族に対して、彼女達もまた同時に答えた。

 

 

「でも、それ嘘なんでしょう?」

「それ、嘘だろ」

 

 

 

 リリウスの言葉に、マルスは兜の奥で固まる。腐肉に浮かぶ目だけがグチュグリュと不快な音を鳴らしていた。

 しかし、すぐにクッと笑い声が聞こえた。

 

「…………英雄に、憧れた」

「……………?」

 

 唐突に妙なことを言い出すマルスに首を傾げるリリウス。

 

「何故、多くの子供が英雄に憧れると思う。正しさも、悪も、モンスターの狂気も知らぬ幼子が英雄の活躍を心待ちにできると思う?」

 

 蹴りつけすぎて頭でもイカれたか?

 

「人を救う? 正しく生きる? 悪を正す? 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!! 答えは一つ、暴力だ!!」

 

 超大型の鎧が勢いよく立ち上がる。近くの建物に着地するリリウスを叩き潰そうとする手を躱し、目を細める。

 

「正しさを知らぬ無知な子供も! 悪を理解しない馬鹿な子供も! モンスターの脅威を実感しない平和ボケした子供も! 誰もが憧れる絶対的な暴力性! モンスターを殺せる、モンスターと変わらぬ力を振るうことを許されるカリスマ! それは! 圧倒的な暴力が生み出す!」

 

 マルスは語る。英雄は騙る。

 人間そのものへの批判………ではない。人間誰もが持つ暴力への憧れを。

 

「そのくせ人は暴力を恐れる。絶対的な力が自分に向けられた時を常に怯える! だから、そいつを英雄ってことにするのさ! オラリオを見ろ! バケモンを叩き潰せるバケモンを、英雄だからと、自分達には手を出さないと思ってやがる!」

 

 怪物と同等。或いは凌駕する力を持つ迷宮都市(オラリオ)上級冒険者(英雄候補)達。彼等は自分達の守護者であり、傷つけられるとは思わない。

 それはリリウスも同意する。

 

「本当はただ力のまま敵を潰す姿に憧れているくせに、自分がその敵にならねえ安心が欲しいのさ。くだらねえ、実にくだらねえよなあ!? 本質は何も変わらねえ、モンスターを殺そうと、敵国の人間を殺そうと、これは結局暴力だ」

 

 暴力(英雄)を尊ぶくせに、暴力(人殺し)を恐れる人類の自己矛盾。それを嘲笑う悪鬼は再びデミアルカナムの槍を生み出す。

 

「英雄はかっこいいか? 裏切りの英雄に、悲しき過去がありゃ同情の一つでも向けるか? 答えは、イエスだ!」

 

 だから彼は『英雄』になった。どれだけ帝国の兵を殺そうと許されるから。

 だから彼は『悲劇』を求めた。本音を言えば貴族あたりに妻を殺されて、革命遊戯(レボリューションゲーム)で国民を暴力に酔わせてみたかった。

 

「理由がありゃ暴力を許すのさ! どうだ、俺は可哀想だろう? 国のために戦い、国に守られず、家族を失っても国のために戦わせられるんだ、国を滅ぼすのもやむなしだろう!」

 

 だから殺す。殺したい。

 巨人の振るう槍がリリウスの立っていた建物を貫く。

 

「いたぶりてえ訳じゃねえんだな」

 

 そういう匂いじゃないのに、闇派閥(イヴィルス)の何人かに似ている匂い。要するにこいつは、殺すのが好きなのだ。

 でも人殺しは犯罪だから、手段の為に目的を欲する。

 

 クソ面倒な性格してやがる。死ねばいいのに。あ、殺せばいいのか。

 

「いたぶる? それで逃げられちゃ殺せねえだろうが。俺は殺しがしたいのさ! 三年前、オラリオを襲ったゼウスとヘラの生き残りだって、どうせそうだろうよ!!」

「──────」

 

 横薙に振るわれる槍。建物も瓦礫も破壊する大槍に、リリウスは漆黒の竜巻を叩き付ける。

 

「おお!?」

 

 別に擁護するつもりはない。あの男も、あの女も、結局多くを殺した事実は変わらないし、あの時死んだ者達も、失った者達も、赦しはしないだろう。

 そんなもの自分には何の関係もない。ただ、本当に無関係なクズが語るのは、なんか…………ああ、そうだ、腹が立つ。

 

「【月を喰らい太陽を飲め暴食の化身】」

「魔法か!?」

 

 そうはさせぬと大振りな攻撃をやめ、建物を砕いて破片を投げつける。

 

「【首となっても歯を突き立てろ。肉親(だいしょう)を糧に我が身は千の姿を得る】」

 

 一つ一つが昇華(ランクアップ)を果たした冒険者の肉体すら抉る死の散弾。

 

「【貪り喰らえ、千変(かて)の傷を喰らい我が傷に】

 

 それでも、詠唱は止まらない。

 隙間を縫い、或いは礫を弾きリリウスは詠唱を紡ぎ、自らの魔法を完成させる。

 

「【我が牙を以て汝に傷を】────【()()()()()()】」

 

 否、終わらない。本来の詠唱に付け足される別の詠唱。『詠唱連結』にも似た、しかし全く別の秘儀。

 

「【雪纏う山より生まれし獣が来たる】」

「【争乱の炎が天を彩る。戦火の光に城壁の破壊者が来たる】」

 

 マルスもまた、戦神に捧ぐ祝詞を謳う。戦神の鎧から禍々しき光が溢れ出す。

 

「【敬虔なる信徒、神の敵よ。偉大なる神が汝に不死を授けよう】」

「【訪れるは恐怖、敗走、殺戮、不和。流れ出る血の芳しさ】」

 

 同時に駆け出す。

 大地を揺する巨人の進撃。対するは大気を引き裂く小人の疾走。

 

「【天帝、雷轟、打ち破りて王となりし、天を手にし玉座に座る。その姿の何たる傲慢なりや】」

「【盃に血を満たせ。軍靴が踏み潰す大地を屍で染め上げろ】」

 

 槍とマーダがぶつかる。

 ドゥルガーに作らせた無数の剣を蹴り飛ばし、鎧の隙間に突き刺すも再生され、吐き出される。

 

「【汝の栄華は他ならぬ追放せし神々の祈りが打ち砕かん。見よ、あれなるは死の光。殺戮を赦されし女神(おんな)である】」

「【青銅の鎧を纏い両手に槍を携える。六の軍馬が蹄を鳴らし、戦神の戦車は狂乱を運ぶ。死と狂気に満ちた戦場にこそ誉れは宿る】」

 

 ドゥルガーの精霊として与えられた規格外の力がリリウスの体を発光させ、その光をダンジョンが生んだ神殺しの力が汚染する。

 

「【女神を運べ、山の獣。さすれば“水牛の悪鬼”(マヒシャ)の首を与えよう】」

「【死を神へと捧げよ愚かな兵よ。汝の栄誉を称えよう】!!」

 

 アフロディーテはその光景に目を細める。確信した。してしまった。リリウス・アーデは間違いなく、世界を救う可能性を秘めてしまった英雄候補。

 

「【簒奪者(いつわり)天王(おう)を喰らえ、飢えた猛虎。背に乗せる麗しき君と共に、喰らい、引き裂き、殺戮せよ】!」

「【勝利なき戦神(わがみ)が与える虚飾(誉れ)。享受せよ、狂喜せよ、血に狂いし英雄よ、偽らざる殺戮(えいこう)を示せ】!」

 

 

「【天の道を開け偽りの門】」
「【天の道を開け偽りの門】」  

 

 異口同音の祝詞が紡がれ、アフロディーテは住民達に衝撃に備えるように促す。

 

「【滅せよ軍勢。傲慢の報いに光が放たれた】」

「【滅しろ軍勢! 勝者なき殺戮をここに】!!」

 

 リリウスの体に光の痣が浮かぶ。それはさながら、虎の紋様。

 対してマルスが構えるはデミアルカナムで出来た2()()の大槍。

 

「【神敵(ギーガス)】」

 

 マルスは神の槍を、人の悪意で染め上げる。

 

「【神敵(アスラ)】」

 

 リリウスが持つ神殺しの欠片が精霊の力を黒く染める。

 

「【アレウス・カーネイジ】!!」

「【ラーフ・ドゥン】」

 

 国一つ容易く消し飛ばす神の双槍。常勝を約束された、死なぬはずの悪鬼を噛み砕く餓虎の牙。

 

 音はなく、衝撃はなく………つまり、牙が全てを食いちぎった。

 両腕を槍ごと失うアレスの青銅鎧。対するリリウスは、取り込んだデミアルカナムを纏い腕の断面から中へと入り込む。

 

「うえっ。クソマズ」

 

 偽りの神の力を以て既に破壊された神の鎧の背を貫き、腐肉を飲み込みながら出てきたリリウスの腕の中には巨大なカプセル。

 中には奇麗な顔立ちの人魚(マーメイド)

 

 マリィとはまた別の、人魚の異端児。

 この体から血を吸い続け、あの巨体を維持する回復力を得ていたのだろう。だが、それを失い崩れていく。

 

「ぎゃああああああ!?」

 

 少しでも栄養を摂るためだろう。マルスも襲われているらしい。砕くような音は、彼もまた取り込まれぬよう何かの中に入っていたのだろう。

 

「ォ、オォ…………!」

「ガ、パァ……」

 

 鎧の隙間から這い出してきた腐肉が、味を占めていたのかマーメイドに向かって触手を伸ばす。

 その触手は届く事なく焼き尽くされる。

 

「!?」

 

 リリウスは腐肉へ炎を放ち、完全に焼き尽くした。

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