ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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リリルカ・アーデ

「てめぇ、待ちやがれ!」

 

 そんな怒号に、冒険者も住民もまたかと呆れる。

 冒険者同士の諍いなど珍しくもなく、恩恵を持たない一般人は巻き込まれたくないので、恩恵を持つ冒険者も大半が【ファミリア】間の問題がどうのと手を出さない。

 

 エルフなどは自分達が冒険者であることを棚に上げて、『これだから野蛮な冒険者は』と不快そうな顔をしている。

 

 まあ、昔ならいざ知らず今のエルフの冒険者の殆どは『偉大なるハイエルフであるリヴェリア様が世界を救う為に冒険者などに身を窶している。我等も力にならねば』と思って里を出てきた者が殆どである。

 

 冒険者になってやっているという選民思想がある彼等は、冒険者でありながら冒険者を見下す。故に………

 

「………あっ」

「……あ、ああ?」

 

 ボロボロのフードの人影が押し倒された拍子に露わになった尖った耳を見て直ぐに割り込んだ。

 

「貴様! 何をしている!」

「ぐっ!?」

 

 美しいエルフの女戦士が無精髭だらけの破落戸同然の男を蹴りつける。

 

「このような幼い子供を、よくも!」

「い、いや、俺が追ってたのは小人族(パルゥム)のオヤジで………!?」

 

 男も男で混乱していた。

 自分が追いかけていたのは卑屈な笑みを浮かべる小人族(パルゥム)のオヤジだったはず。断じて見目麗しいエルフの幼女ではなかった。

 

「ふざけたことを抜かすな!」

「ギルドに突き出してくれる!」

 

 男は慌てて逃げていき、同胞を傷つけられたエルフ達が後を追う。唯一残った女エルフが幼女エルフに手を差し伸べる。

 

「大丈夫か、幼き同胞」

「どうして…………」

 

 子供が大人に助けられる。そんな当たり前を享受してこなかったであろう事がわかる幼子の発言にいたたまれなくなる女エルフ。

 

「子供を助けるのに、理由なんていらない」

「………同族のをつけろよクソ女」

「? 今、なんと?」

 

 ポツリと弱々しく呟いた言葉は、残念ながらエルフには聞き取れなかった。

 

「ご、ごめんなさい! 私、早く戻らないと!」

 

 そう言うと少女は駆け出し去ってしまった。僅かに見えた【ファミリア】の紋章(エンブレム)を思い出しながら、エルフは目を細めた。

 

 あんなに幼いエルフの同胞が、まともな服も与えられず、時間を気にして、仲間にも守られない。

 一房の緑の髪からして、高貴な血筋を僅かながらでも引き継いでいるだろうにあのような扱い。許せるものではない。

 

 

 

「【響く十二時のお告げ】」

 

 詠唱が響き、魔素が霧散する。ふぁ、と欠伸をするのは()()()()()()()()()()小人族(パルゥム)の少女。

 

「しょっぱい儲けですねえ」

 

 自分を追っていた冒険者からがめた銅貨を見てはぁ、とため息を吐く。サポーターが居なければ大して稼げないくせに、ダンジョンに連れて行ってもらえるだけで感謝しろと金を要求しやがって。

 

 というかサポーターがいてこの程度とか逆に今までよく生きてこれたな。ああ、だから【ファミリア】内でも立場が低く少しでも金を稼ぎたかったのか。

 

 どうせ厄介事を運んできたとファミリアを追放されるだろうが。

 エルフ達もエルフ達で、存在しない団員を騙り抗争を引き起こしたと、ギルドの罰則(ペナルティ)は避けられまい。

 

「あ〜、今日はもう疲れました。とりあえず寝よ」

 

 ん〜、と伸びをする少女、リリルカ・アーデは【ファミリア】のホームへ向かう為………()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 【ソーマ・ファミリア】の殆どは反リリウス・アーデ派と言っていいだろう。前団長ザニスが自分より遙かに強者で、制御も出来ないリリウスを戻ってこれぬよう【ファミリア】の総意として主神に具申した。

 

 まあ『知るか』と返されたが。それでもリリウスを敵視する者は根強く残っている。

 その妹たるリリへの敵意も。

 

「…………リリルカ」

「チャンドラ様………」

 

 ()パーティメンバーのチャンドラ。リリルカの、数少ない【ファミリア】内の味方。

 

「…………戻って来る気は」

「駄目ですよチャンドラ様。現団長のあなたが、リリを擁護したら【ファミリア】が荒れますよ?」

 

 ザニスの時と異なり、今の【ソーマ・ファミリア】はそこまで金を集める必要はない。それでも神酒(ソーマ)が無限湧きするわけもなく、飲めていない団員はチャンドラに不満を抱いている。

 

「こっそり護衛をつけてくれてますけど、あれもいりませんよ。どうせ撒かれてるじゃないですか」

 

 リリはそう言うと主神室に向かった。ステイタスを更新するのだろう。

 

 

 

 

【リリルカ・アーデ Lv.1

力∶H192→G201(+9)

耐久∶G252→G258(+6)

器用∶E410→E412(+2)

敏捷∶E482→E492(+10)

魔力∶C629→C642(+13)

《魔法》

【シンダー・エラ】

・変身魔法

・変身像は詠唱時のイメージに依存。

     具体性欠如の際は失敗(ファンブル)

・模倣推奨。

・詠唱式【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】

・解呪式【響く十二時のお告げ】

《スキル》

縁下力持(アーテル・アシスト)

・一定以上の装備過重時における能力補正。

・能力補正は重量に比例。

鳩嘴抉目(サンドリヨン)

・魔法効果の向上。

・魔法対象の広域化。    】

 

「…………こんなものですか」

 

 荷物を持ってるがスキルに頼るところが大きく『力』の伸びはいまいち。後方だから『耐久』はもっと下でも良さそうだが、そこはまあ盾にされたり冒険者に殴られたり。

 代わりに薬剤を作ったり、最近では爆薬なんて作ってみたりするから『器用』などは高い。手慣れたものばかりで伸びはいまいちになってきたが。

 ダンジョン内を走り回ったり冒険者から逃げたりと『敏捷』も酷使するが、やはり魔力の伸びが一番だ。

 

「………ランクアップには、高位の経験値(エクセリア)が、足りない」

「はあ、具体的には?」

「………冒険、だったり………お前にとって、特別な経験」

 

 

 

 

「冒険なんてする訳ねーですよ」

 

 何せこちとら由緒正しきサポーターだ。

 そりゃ確かに街の住民からは減ってきたリリウス・アーデの悪口言う冒険者から金や装備を騙し盗ったり、見るからに環境に恵まれてるくせに夢見がちに冒険者になった世間知らずを死なない程度にひどい目に遭わせて笑い者にしたりするが、ただのサポーターに冒険なんて出来る訳が無い。

 

「身の程知らずの何処ぞの野良猫でもあるまいし」

 

 たまたま出会い、なんとなく気に入らなかった店員を思い出す。

 何で気に入らないのか、調べるだけ調べて解ったのは追い付けもしないくせに走って縋り、実の兄の足を引っ張って【ファミリア】から追い出されたという過去。

 

 そのくせその兄は今もオラリオに居て、冒険者達から畏怖と畏敬を集めてる。

 

 当然店にはいかないがたまに見かけるとお互いそそくさ離れていく。

 最近は店主の酒を保管していた倉庫をぶっ壊して働かされる事になったらしい3人の内、同種の黒髪の猫人(キャットピープル)とエルフの女と絡んで此方に気付かない事が多いが。

 

「…………?」

 

 今日も体の良いカモをと冒険者を眺めていると、見知った顔を見つける。はて、何処で…………ああ、思い出した。何時だったか兄を馬鹿にしていたクソ野郎だ。

 

「冒険者様、冒険者様。サポーターはお探しでないですか?」

 

 

 

 

 

「…………ランクアップできる」

「マジですか」

「マジだ。何をした?」

「ちょっとLv.2が複数いるパーティと中層潜って、パーティを壊しました」

 

 唐突だが、ダンジョンで用を足す時何処ですると思う?

 上層、中層なら実は案外決まっている。多くの冒険者が訪れるからだ。

 

 隙を晒すので、あまりモンスターが生まれないとされる場所でやる。そこに誘導して、クソ野郎をクソだらけにしてやった。

 

 後ついでに男女関係を引っ掻き回してやったので、地上でギャイギャイ喧しく言い合っていた。

 

「一人居なくなってるサポーターなんてだぁれも心配していませんでしたよ。薄情な奴等ですよね〜」

 

 ケラケラ笑うリリに、ソーマはそうか、とだけ返す。

 

「………お前の兄は」

「はい?」

 

 兄という言葉にリリは肩を震わせ目を細めた。

 

「お前を、守ろうとしていた」

「…………チャンドラ様と同じことを言うんですね」

 

 と、リリは笑った。しかしすぐに無表情になり窓の外を見つめる。

 

()()()()()()()。言われるまでもなく」

 

 だって冒険者は理由もなく暴力を振るうのに、兄は近づかない限り何もしなかった。

 【ファミリア】から逃げ出し、そんなリリを世話をした花屋を襲った【ソーマ・ファミリア】の団員を、兄は鏖にした。

 

 花屋の金が飲み代にもならないと笑ってるのを目撃した後だ。自分が花屋に居たことを知っていたのだろう。

 本人曰く理由は五月蝿かった、だけだが。

 

 その結果兄がいる間は騒がしさが減った。少なくとも兄がいる間、喧嘩はもちろん暴力すら存在しなかった。

 

 思えば兄の帰りが殆ど無くなり始めたのも、自分がチャンドラに『保護』されてからだった。

 

「だから、私は今でも兄様が大好きですし、好き勝手言って追い出した住民も冒険者も、最強なんて崇められてる勇者様も、皆皆大嫌いですよ」

 

 そう言うとリリは神室から出ていく。

 

 

 

 

 ベルテーン。生命の泉、源泉近く。

 一人の男が無限に湧き出るモンスターを蹴散らしながら、源泉へと向かう。人影は2つ。もう1人は何やら荷物を持っているようだ。

 

「ついたぞ」

「うん。ありがとう」

「全く、これに何の意味がある」

「彼は今アフロディーテといるからね。模倣元(オリジナル)であるこちらにもいずれ来るだろう」

 

 何処か面倒くさそうな男に反して、荷持持ちは楽しそうだ。

 

「そいつを殺したいのか?」

「いいや。舞台を用意するだけさ」

 

 荷物持ちの男が沼に落とすのは、数多の短剣。

 漂う微精霊を『不正』を以って無理やり武器化させた精霊武器。

 

 それを、ザラザラと砂でも撒くように沼に落としていく。と、沼が輝き、大地が唸るように震える。

 

「────────!!」

「ぐ、う!?」

「ふ、く………ふはは! 楽しみだなあ。この国に、彼が訪れる時が」

「…………………」

「さてオラリオに戻ろう。こちらはこちらで、準備が必要だからね」

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