ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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異端なる者達

 物心付いた頃から働かされていた。

 とはいえ、働けない子供にあのクズな両親は見向きもしなかった。子供達を育てたのは、ソーマだ。

 そのクセある程度育つと、私達の子なのだからとダンジョンで金を稼ぐ手伝いをさせられた。

 

 最初は荷物持ち。恩恵があろうと立つことを覚えたばかりの子供には到底持ちきれぬ量の荷物を持たせ、転べば早く立てと蹴ってくるクズどもだった。

 酒の魅力に取り憑かれた憐れな生き骸。

 

 その暴力がいつしか■■■■に向き出した。だから殺した。

 ステイタス更新のための金を神酒(ソーマ)に使い、更新するとしても自分達だけで息子や■には食い残ししか与えない両親だったが、そんなクズを何時か殺すために彼は考えた。考えて、モンスターに食わせることにした。

 

 ルートを記憶し、他の冒険者達の活動時間を記憶し、両親の性格、その時期、その時間に訪れる冒険者の性格を利用した。

 

 両親に悟られぬようそこそこの冒険者の後に誘導し手に入る金の量を調整した。神酒(ソーマ)が飲めず焦れる両親を言葉巧みに唆し、普段より深い階層に潜らせた。

 

 思っていたより生き汚く■■■■をモンスターに向かい投げようと向かってきた母親の腹を蹴り、モンスターに足を食われながらこちらの足を掴んでくる父の鼻を踏み潰した。

 

 後は予定通り冒険者の帰路………モンスターが生まれる速度の遅い上層においては一時的な安全地帯とも呼べるルートを全力で駆けた。

 

 こうして地上に戻った彼は両親から奪っていた倉庫の鍵で金を手に入れ、溜まりに溜まったステイタスを更新した。最初の更新。これで少しは戦える。

 

 だけど■■■■は、彼が眼の前でモンスターに食われた両親のように死ぬのを恐れた。■■■■は彼が生きていてくれるならそれでいいからと、現状に甘んじた。飢えていても、嬲られていても、蔑まれていても、生きているなら良いじゃないかと、先に進もうとする■の袖を引き続けた。

 

 だけど彼は知っていた。弱い奴は何時か全てを奪われることになると。強者の気まぐれで何もかもを失うと。

 他の冒険者を作戦に組み込んだからこそ、逆に言えば力さえあれば自分だけで出来たという確信がある。だから力を手にするべきだと説得した。

 

 ■■■■は小人族(パルゥム)である自分達に出来るはずがないと諦めていた。奪われることを良しとし、命さえあれば未来があると戯言を吐く。そのクセ何処か希望を求めている。救われる事を願っている。都合の良い夢を見ている。

 

 邪魔だった。不用だった。不快だった。不愉快だった。一人で堕落するなら勝手にすれば良い。だが、ならば足など引っ張るな。

 

 彼は飢えを満たすだけの、奪われないための力がいる。

 彼は■■■■を■■るだけの力が欲しい。

 

 そういえば、自分は■■■■をどうしたかったんだったか………………。

 思い出せない。腹が減った。底無しの飢えに頭がうまく働かない。

 何か、何か食わねば…………。

 

 

 

 

「フィア! 貴様、ドウイウツモリダ!」

「だ、だっテ、こんなニ怪我をしていルんデスよ!」

 

 言い争う声が聞こえる。何処かたどたどしい女の声と、人間ではない何かが人間の言葉を話しているかのような声。

 

「…………………」

 

 目を開けるとこちらに背を向けるモンスター(ハーピィ)の姿が。闇派閥(イヴィルス)構成員を喰って動ける程度に回復したが、その後中層下部のモンスターに襲われ怪我をしている。傷を癒やすために()がいる。

 

「あう!?」

「フィア!!」

 

 ハーピィの首筋に齧り付く。思っていたより硬い………強化種? 寧ろ都合がいい。

 

「クソ、ダカラ人間ナド信用出来ヌノダ!」

 

 新たな影が襲いかかってくる。強化種は魔石を喰らい力を手に入れたモンスターの総称。魔石……同族を喰らう特性上群れるのは稀で群れるとしても同族を支配する。だのに、襲ってきたのはガーゴイル。

 ………ん? というか今喋った?

 

「ぎっ!!」

 

 ガーゴイルに吹き飛ばされ、左肩を踏みつけられる。

 石の身体の重量が小柄なリリウスを押さえつける。ハーピィの強化種の肉を食いそこねた。血だけでは、回復しきらない。

 

「死ネ」

「てめぇがな!」

 

 リリウスは左肩に指を突っ込み肉を貫き関節を外す。体を回転させ腕を引き千切りながらガーゴイルの横っ面に蹴りを叩き込む。

 

「グウ!?」

「つう!!」

 

 硬い。ガーゴイルと会うのは初めてだが、ここまで硬いか? まさか、此奴も強化種? 最近の強化種は知能まで強化されるのか。

 そういえば作戦だって動く強化種も居ると聞く。

 

「………ん?」

 

 構えようとして、その場から動けない。見れば足に絡みつくのは蜘蛛の………いや、恐らくアラクネの糸。希少素材だ。

 

「終ワリダ!」

 

 手頃な刃物さえあれば糸か足を切って拘束から抜け出れるが、粘着性の高い蜘蛛の糸では皮膚を捨てても数秒かかる。

 刹那の内にそう結論付けたリリウスは回避を諦め迎撃に移る。狙うは、目。

 右手の指を揃え槍のように構え、目から貫き脳を抉り出し喰らう。能力値を強化し傷を癒やし残りを………

 

「待っテマって! 戦いはダメー! 終わり、終わりデス!!」

 

 ハーピィが間に飛び込み、ガーゴイルが慌てて翼を広げ減速し、リリウスはそのままハーピィを殺し喰おうとして、止まる。その声に聞き覚えがあった。

 

「退ケ、フィア! ソイツハオ前ニ攻撃シタノダゾ!」

「グロスだっテ、起きテ眼の前に冒険者ガいたら攻撃するデしょう!?」

「…………………」

 

 これは、庇われている? この声、気絶する前に聞いた幻聴と同じ………いや、幻聴ではなく事実としてハーピィが喋っている。

 

「地上ノお方、どうかお待チを。今、同胞達が食糧ヲ取ってきてイます」

「…………………」

 

 振り返ったハーピィの顔は、モンスターに囲まれていた自分を攫ったあの美しい半人半鳥(ハーピィ)のものだった。

 

「……………無礼を詫びよう、ハーピィ。助けられた借りを返さず、牙を剥いた」

「知っていマす! 文字通リというヤツでス!」

「………………」

 

 その通りだが、何がそんなに嬉しいのだろうか? よくわからない。

 

「ほらほラグロス! この子、素直デいい子でスよ!」

 

 リリウスの背後に周り翼を広げるハーピィ。グロスと呼ばれたガーゴイルはそれでも忌々しげに睨みつける。いや、彼だけではなくリリウスに糸を吹きかけたアラクネもか。

 

「は! それヨリ、血を止めない卜! ええト、マリィの血ハ!?」

「おおい、飯持ってきたぞ! なんじゃコリャー!」

 

 新たに現れたリザードマンは千切れて地面に落ちている腕と今もボタボタ血を流すリリウスを見て叫ぶ。飯を持ってきたというだけあり、その腕にはダンジョン産の樹の実などが。

 

「おいおい、グロスか!? やりすぎだろ!」

「腕ヲ千切ッタノハソノ小僧ダ。何ヨリ、我々ノ姿ヲ見ラレタ以上殺スシカアルマイ」

「まだ言ってんのかよ。助けようとしたフィアの気持ちも考えろって………ええ、てかどうすりゃいいんだこれ」

「おい蜥蜴、腕取ってこい。後飯寄越せ。それで繋がる」

「へえ、人間ってそうなのか」

 

 リザードマンはすげー、と感心しながら素直に腕を持ってくる。リリウスは受け取った腕をくっつけながら木の実を食う。グジュリと肉が蠢き繋がった。

 

「…………お前ってあれか、痛みを感じないってやつか?」

「感じるぞ」

 

 ただし腹の中を食い荒らされる感触や目に針を突き刺される痛みに比べたらマシなだけ。要するに慣れだ。

 

「改めて感謝と謝罪を。命を救われた借りは、命を以て返そう。俺は何をすればいい?」

「え、いやいや! そんな大袈裟な!」

「では、私達ト友達になっテください!」

「フィア!」

「友達………?」

「ほら、気を悪くして…………!」

「友達………友?」

「…………これっテもしかシテ、友達が居なイのでは?」

 

 考え込んでいるリリウスの頬をツンツンと翼角でつつくハーピィ。名をフィア。と、リリウスの腹が鳴った。

 

「先に飯にするか!」

「ああ」

 

 リドというリザードマンの言葉に従い、リリウスはその場に座り食材に手を伸ばす。

 

「………オレっち達が怖くないのか?」

「あ?」

「いやほら、オレっち達モンスターだぜ?」

「今のオラリオは生きた鼠を人の腹に突っ込む奴等がいるんだ。それに比べりゃマシだろ」

「え、鼠?」

「言葉は通じるが話しの通じねえ人間()より、言葉も話も通じるモンスター()のほうがマシだろ」

「お、おお? よくわからねえが、仲良くしてくれるってことか? ニク?」

「敵対する理由がねえだけだ。敵対しねえやつは食わねえ」

 

 逆に言えば敵対するなら人でも喰うのがリリウスだが………少なくとも、リリウスにとってこの喋るモンスターは敵ではない。敵意を向けてくるガーゴイル、アラクネ、ユニコーンなどは微妙な所だ。

 

 まあ敵意など地上でも向けられなれている。行動に移さないのなら放置でいい。

 

「オレっちはリド。よろしくな!」

「………リリウス・アーデだ」

「私はフィアでス!」

「レイと申しマス」

 

 と、自己紹介をしていく人類と怪物達。それに不満そうな声が上がる。

 

「歓待ナド無駄ダ! 我々ノ存在ヲ知ラレタ以上、生キテ返スワケニハイカン………」

「大丈夫でスよグロス! 何故なら私達ハ友達になっタのですから!」

 

 と、フィアが飛び付いてくる。エルフにも劣らぬ美貌、フニョンと背中で形を変える柔らかい胸。鳥類が混じっているからかボロ布越しに伝わる高い体温。それらを無視して食事を続けるリリウス。

 

 そもそも精通前の子供だ。というか女を言葉の通り食えるものと認識している彼は、果たして女性にそういう感情を抱くのだろうか?

 

「…………なあリリっち、握手しようぜ」

 

 フィアに抱きつかれても気にした様子のないリリウスを見てリドが鋭い爪の生えた手を差し出してくる。リリウスは躊躇いもなくリドの手を取った。

 最小の人類。その子供の手は、リドの手にあっさり包まれた。

 

「お、おお…………これが人間の手! ありがとな、リリっち!」

「リリっちはやめろ。名前が似てる奴が居るんだ」

「ん? ええと、じゃあウス……ん〜、リウっち!」

「まあいい」

「リリウスさん、私も触っテいいデスか?」

「ミスターリリウス、私とも握手を」

「シャー!」

「食事の邪魔。後にしろ」

 

 しょんぼり落ち込むモンスター達。しかしフィアが抱きつき頬をグニグニしてくる。それを気にしてないのを見て、順番に触ったり舐めたり咥えたりしてくる。

 

「………………」

「お前達! 人間に気安く心を許すな!」

 

 と、アラクネが叫ぶ。

 

「ラーニェ、そんな事を言ワずに………ほら、髪の色とか同ジですシ」

「あ?」

 

 ラーニェというアラクネはどう見ても白髪だが、と自分の茶色い髪を見るリリウス。真っ白に染まっていた。ストレスだろうか?

 

「…………まあ良いか。おいそこのワイバーン、この肉の味する実を燃やせ」

「グ、グルゥ」

 

 自分にまるで気後れしないリリウスに困惑しながらもぼっと炎を吐くワイバーン。

 

「………肉みてえな味だったが、焼いても焼き肉にはならねえか」

「肉のドロップアイテムならあるぞ」

「じゃあこっち焼け」

「ギャウ」

 

 リドが出してきた肉を焼かせるリリウス。塩が欲しくなってきた。

 

「リウっちは本当にオレっち達が怖くないんだな」

「敵意を持たねえ奴を警戒するだけ無駄だ」

「ふふん。流石私の友達でス!」

 

 何故か得意げなフィア。

 

「人間ナド信用出来ルカ。奴等ニトッテ、我々ハタダノ怪物! 言葉ヲ幾ラ交ワラセヨウト、何レハ我等ヲ裏切ル!」

「自分達は普通のモンスターと違うのだから扱いを変えろと言う割には、お前は俺を人間という括りでしか見ないのか」

「………何ダト?」

「自分にできぬことを他人はやれなど………惜しい生まれだな。エルフの才能があるぞ」

 

 それが意味することはわからないが、 侮辱されたことだけは理解したグロスが立ち上がる。リリウスはリドの腰に差していた剣を抜く。

 

「おいおいグロス! リウっち、やめろって! だいたいグロス! こんな子供に大人気ねえぞ!」

「ふん、そいつは小人族(パルゥム)とやらだろう? なら、その見た目で何年生きているのやら。少なくとも、私達よりは長生きできているのだろう」

「ラーニェまで」

「何年? 9年ぐらいだな。そろそろ10」

「え、若!」

「本当に子供じゃないですか!?」

 

 仮にも命がけでダンジョンに潜る冒険者だと言うのに、まだ10にも満たぬ子供と知りまたくっついてくる。

 

「10歳、2桁………分かりまシタ! 人間は2桁ニなると大人でスね!」

「一般的には16ぐらいだな」

「じゃア子供なのニこんな危険ナばしょニ?」

「ここはただで飯が食えるからな」

「いや、探すの大変じゃ…………あ、いやまさか………モンスター喰うのか!?」

「今も喰ってんだろ」

「確かに」

 

 そういえば今食ってるのモンスターの死体(ドロップアイテム)だった。

 

「それに、強くなれる」

「強く?」

「ん〜、まあオレっち達もダンジョンで生きてくために強くなろうとはしてるけどよ………強くなるだけが目的なんて、つまんなくねえか?」

「じゃあ、お前は生き延びて何を叶えたい?」

 

 と、リリウスの言葉に何人かのモンスター達が目を輝かせる。まるでその質問を待っていたとでも言うように。

 

「地上に出るんだ! ユウヒ、だったか? 空が赤く染まって、光の塊が岩の向こうに消えてく光景をこの目で見たい!」

「詳しいな」

「前世の記憶、ってぇのかね。生まれる前の記憶があるんだ、オレっち達は。そんで、前世のオレっち達の未練とか、感動とか、そういうのを引き継いでるんだ」

「私ハ、果のなイ空を自由に飛ビ回りたい。そして、誰かを抱くこトを出来ない翼ノ代わりに愛した誰かニ抱キしめられタい」

「私はもっト人間の社会を知りタイです! フェルズから聞クだけでは解らない事ダラけなので!」

「太陽を見てみたい!」

「ニンゲンと遊びたい」

「山! 山ヲ登ッテ雲ヲ食ベテミタイ!」

「人間の武器が作られるところを見たい」

「原っぱを走り回りタい!」

 

 次々夢を語るモンスター達。そのどれもが無理だろうと思えてくる。それはつまり、地上への進出。モンスターの地上進行など殺されて止められるに決まっている。

 

 言葉が通じるならあるいは………? いや、無理だな。フィンが此奴等の存在を許さない。心を持つモンスターの存在なんて冒険者の剣を鈍らせるだけの存在の生存とこれからの冒険者の死亡率を秤にかけ、心を持つことを知られる前に()()()()()

 

 ロキ自身は面白がってもフィンを優先する。逆に【フレイヤ・ファミリア】ならフレイヤが一言望めば味方になるだろうが……。まあ、現状ロキと敵対して眷属を危険にさらしてまで彼等に味方することはないだろう。

 

「難しいのは解ってんだ。でもよ、リウっちと仲良くなれたみてぇに他の人間とも仲良くやってけたらと思うんだ」

「不可能ダ!」

「まあ、そのガーゴイルの言うとおりだな」

 

 と、リリウスはグロスの言葉を肯定する。

 

「俺にとってモンスターも人類も等しく脅威たりえて、どちらも肉だ。だが普通の人間は違う。人間に人間が殺されてる光景をどんだけ見ても、脅威はモンスターだけだと思ってやがる。幸せなこって」

「え、リウっち人も喰うの?」

「お前等も襲ってくるモンスター喰うだろ」

「んー、そうか………そう、なのか?」

 

 リド達もモンスターを狩り自らの糧としている。それはモンスターが自分達の脅威になるからだ。リリウスも多分襲ってくる人間だけ食っているようだが。

 

「まあ、フィアは命の恩人だ。何時か力をつけたら、お前の願いの邪魔になる人間全員食い殺してやるよ」

「発想が物騒!?」

 

 私達のために、駄目ですよー! と翼をバッサバッサと振るうフィア。リリウスは最後の木の実を食う。ハニークラウドだ。とても甘い。

 

「そもそも俺は異端児だ。俺を人間の基準に考えるな」

「異端児? 奇遇だな、オレっち達も異端児って意味で、ゼノスってんだ!」

 

 と、リドが人懐っこい笑みを浮かべる。いや、蜥蜴の表情などわならぬが。

 

「んじゃ、俺はもう帰る」

「生キテ返サヌト言ッタ筈ダ!」

「ああ? 食い殺すぞ石蜥蜴」

 

 歯をむき出しに唸るモンスターと人間。グロスに味方し臨戦態勢に入る数人のモンスター。リドとレイ、フィア達が慌てて間に入る。

 

「落ち着けよどっちも! なんでそんなに喧嘩腰なんだよお!」

「俺は俺を嫌う全てが嫌いだ」

「人間ナド信用デキン!」

「うう………じゃ、じゃあ移動! オレっち達が移動するまでリウっちにはここに居てもらう。贔屓しないようそれをオレっち………ああいや、グロスとレイで監視して、二人は飛んで移動だ! その、リウっちはそこまで強くねえからこれで隠れ里はここしか知られねえ筈だろ?」

「………里ノ一ツガ使エナクナルノダゾ」

 

 と、その言葉にリドはグロスに何やら耳打ちする。ムウ、と唸るグロス。

 

「ソレデモ可能性ハアル。賭ケタトコロデ、無意味ニシカ思エン」

「だとしてもだ、フェルズだって人間なんだぜ?」

「……………………デハ、里ノ場所ヲソノ人間ガ誰カニ話シタナラ、今後人間ヲ信ジルナ」

「っ、おいグロス………少しは」

「良いですとモ!」

 

 と、フィアが叫んだ。

 

「私はリリウスを信じマス!!」

「…………おいリド、此奴警戒心なさすぎるぞ。最初に見たら蛇でも親と勘違いする雛鳥か此奴は」

「いや〜、そんだけリウっちを好きになったって事で納得してくれ。ま、なんだ。オレっちもリウっちを信じてみるよ」

「…………ヌゥ」

 

 条件が飲まれ、唸るグロス。しかしそれ以上文句を言ってくることはなかった。

 

「ミスターリリウス、私の装備をどうぞ。貴方にも合うようです」

 

 と、ゴブリンのレッドが防具をくれた。少し傷んでいるが中層で活動するには申し分ない防具。

 

「んじゃオレっちは剣だ! 人間達が深層って呼んでる階層で拾ったんだぜ!」

 

 リドは剣を渡してくる。

 そして、モンスター達は順番に去っていきグロスとレイが残る。グロスを見ればふん、と顔を逸らされレイを見ればニコッと笑顔を向けてくる。

 

 やがて二人だけが残り、飛んでいった。

 

「…………今頃フィンが探しに来てるな」

 

 少なくとも、この段階では見捨てられないだろう。あの勇者は暗黒期に戦ってくれる小人族を一人でも多く欲している。

 リリウスの悪評が広がらぬよう動いた費用分ぐらいは、働かせようとしてくるだろう。むかつく奸雄だ。

 

 それに逆らいきれないのは、弱いから。

 ヴァレッタ(イカレ女)ディース姉妹(クソエルフ共)に良いようにされた理由と同じ。

 

「……………」

 

 リリウスは歩きだす。地上(うえ)ではなく、下層(した)に向かい………。

 

 

 

 

 ダンジョンには迷宮の孤王(モンスター・レックス)と呼ばれる階層主(ボスモンスター)が存在する。

 同時に同種が複数存在する通常のモンスターと異なり、たった一匹しかおらず、新たな一匹が産まれるまで長い期間を有する強力なモンスター達。

 

 内一匹は17階層、嘆きの大壁に鎮座するゴライアス。これは18階層にある街の通行に邪魔なので定期的に殺される。一人で戦えば途中から街から増援が来た挙げ句、難癖つけられるだろう。

 

 が、それより下。下層の階層主は遠征に出る冒険者ぐらいしか相手にしない。最新の下層遠征に行ったファミリアは【フレイヤ・ファミリア】だ。時期は一ヶ月前。その一ヶ月の間に新たに下層に行けるだけの遠征に向かった派閥は存在しない。

 

「モグ、グチャ………」

 

 アクア・サーペントを喰らいながら、勿体無いと思いつつもその亡骸を巨大な滝に捨てる。

 巨蒼の滝(グレート・フォール)と呼ばれる25階層から27階層までぶち抜く巨大な滝だ。そこには竜が住む。

 

 英雄時代ならいざ知らず、ウラヌスの祈祷で押さえつけられた今のダンジョンにおいて己の産まれた階層から動かぬはずの階層主の中で、唯一の例外。

 

 毎秒数トン単位で水が流れていそうな滝を悠々泳ぎ、その竜は4つの目でリリウスを睨む。

 

「オオオオオオオオオオオォォォォッ!!」

 

 3階層全土を震わせる竜の咆哮。その竜の名はアンフィス・バエナ。討伐推奨Lv.5……水上という地形を考慮した場合は、Lv.6。

 

「ペッ………さて、目玉から食うか」

 

 食えるだけ喰った。上げられるだけ能力値を強化した。Lv.3最高位ぐらいにはなっただろう。或いはLv.4?

 だとしても、推奨Lv.は2つほど上のパーティーで倒すべき階層主。

 

「喰わせろ、蛇」

 

 リリウスは階層主に牙を剥いた。




その頃の勇者。
ヴァレッタとの遭遇場所から監禁場所を推測し探索中。幾つかのパーティーに分かれ、うち一つに足場製造機(リヴェリア・リヨス・アールヴ)が居る。
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