ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
辿り着いた峡谷からは、稲妻に焼かれた大気が発する独特の匂いと、竜種の匂い。
ただし、肝心の竜本体がいない。
恐らくは食事に出かけたのだろう。
「この焼け焦げた死体は…………」
「事前に情報を掴んだ連中だろうな。正規軍じゃない、フリーの傭兵か、或いは戦力補充が目的の
どちらにしろ、『竜』の噂を聞いて訪れたならそれなりに実力に自信があったということ。過信とはある程度の力がなければ行えない。
Lv.2が複数はいたと見るべきだろう。
「あの『竜』は?」
「雑用だろ。集まる人間が鬱陶しくて、代わりに戦わせるために生かしただけ。見ろ、竜の誇りも失って怯えてるだけだ」
雷の竜は存在せず、代わりに隅で震えているのは一匹の
何が峡谷の主の怒りに触れるか分からないから、なるべく戦闘の跡を残したくないのだろう。
「グオオオオオオオオッ!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!」
侵入者に威嚇する様に咆えるワイヴァーンだったが、リリウスの咆哮にすっかり萎縮する。
恐怖により支配された番人は、突然恐怖で黙らせられる。と…………
「────!!」
「…………戻ってきたか」
雷鳴が轟く。自身の住処に侵入者が現れたことに気付いたのだろう。
「お前は他の連中の下に戻って村の避難を手伝ってこい」
「………ああ」
レトゥーサは頷くとその場から離れる。『竜』の強さは未知数。万一に備えて周辺の村々を避難させているのだ。
ズウゥン! と落雷が落ちる。焼け焦げた岩肌がさらに焼け、砕け、死体が跡形もなく消し飛んでいく。
落雷の衝撃だけでなく、大地を揺らすのは超重量が落下した衝撃。
「コロロロ…………!」
2対4枚の翼が土煙を払い、その姿を顕にする。
丸太の如く太く長い胴体。全長は12
濁った翡翠の鱗に、黄金の鬣。深層域の
「
数多の英雄譚に登場する『竜』とだけ記されることの多い『竜』の中でもバジリスク同様、種族名を記される怪物。理由は単純、強いから。
「…………………」
「………!」
ワイヴァーンを睨み、震え上がるワイヴァーンからすぐに興味も失せたリンドヴルムはリリウスに向き直る。
この住処を見つける道中、幾つか滅ぼした巣の中に居た動物。同族の魔石の味を覚えてからは興味も湧かなくなったが、手に入れた住処に数十匹ほど押しかけてきたその生物に良く似た生き物。
その生き物を前に、リンドヴルムは笑う。見縊ってなど居ない。これは、故郷の奥より感じる姿も知らぬ絶大な気配の主には遠く及ばぬまでもリンドヴルムが直接見た中では間違いなく最強!
リンドヴルムは『力』を求める。なんの為に? 知らない。興味も無い。魔石が齎す力に、万能感に酔えればそれで良い!
だが力は、振るわなければ意味がない。そして、なまじ誇り高い竜は振るうべき相手を選ぶ。
弱者の蹂躙に向かなかったのは、この辺の村々や国々にとって幸福であったろう。それ故にその存在の発見が遅れ、それ故に良質な魔石を喰らい、 地上において規格外の力を得てしまったが。
「オオオオオオオオオオオッ!!」
リンドヴルムは雷を纏う、とは言うがそれは最早纏う程度には留まらず全方位に放たれる。
シャバラとシュヤーマに向かう稲妻を叩き切り、リンドヴルムを睨むリリウス。
「…………………」
リリウスがシャバラ達を庇うのを見て、リンドヴルムは離れていたため無傷のワイヴァーンを睨む。弱い奴の相手ぐらいはしろと命じているのだ。
「…………ゴアアア!!」
見たところ、Lv.3。シャバラ達には荷が重い………。
「……………」
さくっと殺して、とワイヴァーンに視線を向けたリリウスの服の裾を掴むシャバラ。シュヤーマもリリウスの前に出て、ワイヴァーンを見つめる。
「…………そうか」
リリウスが強さを求めるように、リリウスと共に歩もうとしているシャバラ達はある意味リリウス以上に力を求めている。
Lv.2ならば、リリウスに必死についていけばアビリティは上がるだろう。だが、足らない。
「死んだら食い殺す」
「ワフ!」
「ガウ!」
リリウスとシャバラ達は互いに背を向け、お互いの獲物へと目を向ける。
「オオオオオオオ!!」
「ガアアアアアア!!」
鳴り響く2匹の捕食者の咆哮に、渓谷が震える。リリウスが駆け出し、リンドヴルムへと迫る。
リンドヴルムもまたリリウスへと飛ぶ。
牙と
「あ? ………っ!!」
否、リリウスの背後へと回ったのだ。
上に方向転換、からの直ぐに下降。そのまま巨大な体を鞭のように撓らせリリウスに叩き付ける。ご丁寧に雷を纏って。
「……………疾いな」
「……………!」
ブシュと鱗の一部が切り裂かれ血が噴き出す。故郷を出て、初めての傷。だが浅い。
リリウスも軽傷。
リンドヴルムは再び突撃する。リリウスの眼の前から、消えるような速度で飛翔しながらも再び背後に方向転換。2度も同じ手は喰らわぬと振り返りざまに後の気配に向かい振るうマーダは空を切り、上から叩き付けられる尾を躱す。
後ろに移動した後、直ぐ様上に飛んだ。
単純な疾さならリリウスが上だが、機動力はリンドヴルムが遥かに上。
オラリオを出て2年。近接戦で不利を被るのは初めてだ。炎も氷も、あれには当てられまい。
「なら
放たれる精霊の雷。詠唱すらなく、光属性を除けば最速の魔法攻撃は刹那の間もなくリンドヴルムに迫り………
「……!?」
その僅かな時間でリリウスはその場から飛び退く。精霊の雷がリリウスの立っていた岩柱を焼く。
その速度から魔法は当たらず、かといって最速クラスの魔法である雷は反射すると来た。
光属性の魔法でも持ってなければ攻撃も当てられないだろう。
古代の英雄達はよくあれ相手に戦えた。逆に言えば、戦い様はある。
「!?」
リリウスへと牙を向けたリンドヴルムは体に走る赤い線に目を見開く。
すれ違いざまの斬撃。十分警戒していたはずのに、避け切れなかった。
「まだ浅いな…………」
血管には届いたが致命傷とは言い難い。それに、警戒もされた。
「オオオオオオオ!!」
方向性を定めた、全方位放出よりも飛距離を伸ばした稲妻。回避し、ドゥルガーに剣を造らせ投げつける。
「!!」
高速で迫る数多の武具を回避するリンドヴルム。
夜空を駆け抜ける閃光の軌跡。さながら流星。急速な方向転換を行えば稲妻そのもの。
古代の人々は雷と流星が空に奔る度に、リンドヴルムに怯えていたという。
「オオオオオオオ!!」
「ドゥルガー。スーリヤ」
「おう。何処から?」
「目」
途端、一条の光がリンドヴルムの体を焼く。
「────カッ!?」
わざわざ手を向ける、なんて無駄な動作を省き、視線とともに放たれる不可避の閃光。神々が見ればテンション上がること間違いなしの、『目からビーム』。
ドゥルガーが持つ精霊の力の一端は、竜種の中でもトップクラスの飛行能力を持つリンドヴルムですら回避は不可能。
「威力弱いな」
「そりゃ、本来は全身から光放つ技だし」
エネルギーが収束される、なんて都合の良いことはなく、100のエネルギーの1だけを使うようなものだ。
鋼鉄などより遥かに硬い鱗を貫き肉を焼くも、内臓には届いていない。
「グギ…………ガアアアアアアアアアッ!!」
ゴバッと吐き出される漆黒の
ブルードラゴンやアンフィス・バエナを思わせる、異質なそれは、リンドヴルムの姿を隠し、なおも空へと広がっていく。
「目隠し?」
どれだけ吐くのか、空と大地の境目が漆黒の雲に塗り潰されていく。
毒など効かないが、念の為距離を取るリリウス。バチバチと、雲の中に稲妻が走った次の瞬間…………
「ガッ!?」
Lv.7の『耐久』を貫く埒外の砲撃。
威力が上がっている?
「っ!!」
体が固まったリリウスへと襲いかかるリンドヴルム。自身の身体に雷を流し無理やり動かし回避する。
痺れはすぐに取れたが、皮膚が焼けた。食らい続けるのは悪手。
リンドヴルムの
この強化種は遠距離の雷を放てるが、本来は纏う程度しか発電できないリンドヴルムが古代『雷はリンドヴルムが引き連れてくる』と信じられた所以である。
数秒の
ダンジョンという閉鎖空間ではまず見れない、弱体化した地上のリンドヴルムにはまず行えない、1000年ぶりの『悪意ある嵐の厄災』。
リンドヴルムの強さは間違いなくLv.5。よくて6と、確実な格下。だが、アンフィス・バエナが水辺においてはLv.6とされるように、リンドヴルムもまた環境で推奨レベルが変化する。
地上においてリンドヴルムの推奨レベルは1上がる。即ち、この個体はLv.7の領域に踏み込んでいる。
リンドヴルム強化種
Lv.7の領域に手をかけるとっても強い竜(♀)。アルフィアなら音で吹き飛ばしザルドなら剣圧で雲を散らす。
ただし果のない地上では戦士職の天敵といえよう。