ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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竜の誇り

 長距離からの高威力の雷撃。

 霧のように大地を覆う『雷雲』はリンドヴルムの気配と匂いを隠し、本物の雷雲の如く上空に溜まる『雷雲』と繋がりそちらにも雷を送っている。

 

 蓄電(チャージ)量次第では、Lv.7のリリウスすら殺し得る。

 とはいえ、砲撃威力と機動力を除けばリンドヴルムの潜在能力(ポテンシャル)はLv.6に迫るLv.5程度。

 

 攻撃が当たりさえすれば殺せる。問題は、やはり高速飛行に減速ほぼなしの方向転換。

 あの巨体でデッドリー・ホーネットやガン・リベルラよりも機動力に優れているのだから、『竜』はやはり怪物の王と称されるだけはある。

 

 降り注ぐ槍の如き雷轟を回避しながら、リリウスはリンドヴルム本体を探す。

 上空の雷雲に隠れたか地上の雷雲から奇襲してくるか。

 

 音……雷雲の内部の雷の音が反響定位(エコーロケーション)をかき乱す。

 匂い……全ての雲からリンドヴルムの匂いがする。

 目視は、当然不可能。

 

「!!」

 

 地上の雷雲から放たれた雷を回避すると同時に背後に迫る気配。竜の爪がリリウスの肉を切り裂く。

 僅かな硬直、瞬間雷雲全てが輝いたと錯覚するような、雷の一斉砲撃。

 

 引き裂かれる大気の断末魔が鳴り響く。

 

「「インドラ」」

 

 コンマ数秒にも満たぬ時間の中、たしかにリンドヴルムの耳が捉えた呟きと共に、リリウスから雷が放たれる。

 

 激しい雷光が衝突し、威力を相殺。

 リリウスの耳にチリンと澄んだ音を輝かせる鈴が現れた。

 

「キュルルル………」

 

 リリウスの健在を見てリンドヴルムは再び雷雲の中に隠れる。卑怯とは言うまい。それこそがあの竜の力で、戦い方なのだ。

 

「ドゥルガー。空飛べるのは?」

「ヴァーユだな」

「………そうか」

 

 性質の近い力なら同時使用は可能だが、風と雷は別だ。今『インドラ』を解けば、雷を防げない。

 リンドヴルムの雷は魔力によるものなので一応威力を落とせるが、完全ではない。

 

「一瞬でいい」

「ほう」

「【その力を“蛇の王(ヴァスキ)”に示せ、風の王。山の峰を居抜き海へ落とせ】」

「【祈りの声は捧げられた。ここに、風を授けよう】」

「「【マルト・シャルヴァ】」」

 

 

 

 

 さてどうしたものか。あれには自分の雷も通じない。雷雲の中を泳ぐリンドヴルムは考える。

 下手に近づけば斬られる。最初に尻尾、次に体を斬られた。後の傷の方が深い。

 

 元より機動力とそれを支える動体視力ならともかく、直線移動など、本来の速度勝負なら明らかに向こうのほうが疾い。

 

 仕留めきれなければ対応される。

 あれを食っても力が手に入る訳でもなく、不用意に命を危険にさらす無駄な行為。

 

 獅子ですら自分より弱いくせに必ず負傷させてくる凶獣から距離を取るように、意思も意地もない合理的な判断をする動物なら避けるべき戦い。

 とっとと逃げて『竜の谷(どうきょう)』の竜でも探して食ったほうが安全で、確実に力を得る。

 

「コルル………」

 

 だがこの竜は、そんな合理など無視する。

 元よりリリウスが推理した通り自身に挑む者のみを食らうというルールを課す偏食家。

 

 力を得るとか無駄に怪我をするだけとか、そんなことはどうでもいい。

 相応しき獲物と戦い、ねじ伏せ、喰らう。

 

 それこそが王の在り方!! 負けて死ぬなら、自分が王に相応しくなかったというだけの事。

 もっと強さを、力を手に入れ必ずや『竜の谷(こきょう)』の深奥に座す化物よりも………!

 

「……………?」

 

 ヒュッと何かが雷雲を通り抜けたのを、雷雲の中に流れる雷から感じ取るリンドヴルム。次の瞬間、何かが叩き付けられる。

 

「!? グオオオ!!」

 

 直ぐ様雷撃を放つが何かに当たることなく雷雲の中に走る稲妻に混ざる。

 リンドヴルムを襲ったのは実体なき空気の暴流。

 それは、止まらない。

 

「オオオオオオオ!?」

 

 本物の嵐の中を連想する乱気流。10M(メドル)を超す竜が、まるで虫螻のように飛ばされる。

 

「コオオ!」

 

 だがリンドヴルムは羽虫ではなく竜。4枚の翼で大気を捉え、乱気流をものともせず再び泳ぐ。

 自分をここから叩き出すつもりだったのか? だとしたら、この程度で………

 

「─────!?」

 

 ザンと体が斬られる。振り向けば、白い毛並みの敵!

 飛べたのか!? と距離を取り睨むと風に攫われるように飛んでいった。

 

「…………………」

 

 飛んでいるのではなく、吹き飛ばされている。

 翼を持たぬ身でこの嵐の中に飛び込むとは、傲慢が過ぎる。

 そこも良い!

 

 これまで食らった強者達も己の力を絶対としていたが、さすがに環境にまでは抗わなかった。

 

(らい)

「──!?」

 

 チリンと暴風の中に響く音色。雷撃がリンドヴルムを襲う。視界を遮るだけの、ダメージのない攻撃。ただの目眩ましだとしたら、この程度! と微弱な電気で周囲を感知するリンドヴルム。

 

「!?」

「チッ」

 

 すぐ近くに居た。回避が間に合わず斬られる。

 直ぐに距離を取った。飛ばされたのはフェイク? やはり飛べ…………いや、やっぱり明らかに風に振り回されてる。

 

 

 

 

「………気持ち悪い」

「お主がやると言ったのに!?」

 

 そう、リリウスは飛ばされているだけ。重心や、ポーズによる風に当たる面積の操作などで乱気流の中ある程度の移動を可能にしていた。けどとても揺れて気持ち悪い。素直にヴァーユの弓で黒雲を吹き飛ばせば良かったものを。

 

 確かにドゥルガーの力を使えばもっと楽に勝てるだろう。元々リリウスがリンドヴルムに劣るのは機動力のみ。

 

 風を操り自分に都合よく、リンドヴルムに都合の悪い風を吹かせればそれも殺せた。

 

異端児(ゼノス)の憧憬は色々あるからな」

「なに?」

「彼奴は解りやすい」

 

 感覚を掴んできたリリウスは、上に向かう風と重力をうまく釣り合わせる。

 風を受ける為に仰向けに寝転がるような妙な姿勢だ。

 

「遊んでやるよ。死んでも忘れねえぐらい楽しめ」

「オオオオオオオ!!」

 

 

 

 

 何故だ………!

 

「ゴアアア!」

「バウバウ!」

「ガァン!」

 

 何故、この程度の犬を殺せない!

 レーザーや主の電撃でもあるまいし、己の炎は大気に阻まれやすい。故に素早い犬共相手には爪や牙、或いは尾で攻撃する。それだけで十分だと思っていた。

 

「ゴアアア!!」

 

 ゴパッと吐き出される炎の濁流。2匹の犬は素早く避け、飛び立とうとしたワイヴァーンの背を蹴りつける。

 

「ゴルルル!!」

 

 制空権は決して譲らない。爪や牙は、確実にこちらの鱗に傷を与える。

 

 このまま無様を晒せば、主に殺される!!

 

 

 そのワイヴァーンは数多の竜が犇めく谷で生まれた。

 竜同士ですら食い合い、故にダンジョンにも劣らぬ魔境。そこで生まれたワイヴァーンは、自由を阻む結界の外の世界に憧れていた。

 

 竜の炎に焼かれ、竜の爪に引き裂かれ、竜の尾に砕かれた木々や岩が存在する限られた世界ではなく、果てのない空へ。

 

 やがてその時はやってきた。数匹の同胞と共に、結界の隙間から抜け出した。

 尤も安住の地を求めた彼等と異なり、彼は世界をその目で見る為に別れたが。

 

 視界を白く染める雲海を輝かせる太陽、果てなど無いと錯覚させる広い草原、緑に溢れた山々、巨大なモンスターの白骨(ドロップアイテム)

 

 高く高く飛ぶと見える果ての見えない巨大な湖。その奥には何があるのか。それが見たい、そう願い飛び立とうとした時、彼はリンドヴルムに見つかった。

 

 結界の外で出会った何よりも強い。彼女は自分に峡谷の番をしろと命じた。戦う価値もない侵入者を相手しろと。

 つまりは、彼女が満足のいく相手が訪れる時を死を以て伝えろと。

 

 逃げ出したとして捕まり、痛めつけられ、反抗する気も失せた。自分はもう今後、この谷から出ることはないのだと悟った。

 

 彼女は彼と同種の巣を襲ったらしい。その血の匂いは覚えが有った。共に結界を抜けた同胞と喧嘩した時に嗅いだ。安住の地など、何処にもなかったらしい。

 

 それからは侵入者を焼く日々だ。時折訪れる同胞の魔石を喰らい、力をつけても彼女に勝てる気がしない。

 

 逃げることも出来ず、空に焦がれる日々の中、それは現れた。

 彼女にも劣らぬ圧倒的強者の気配を持った生き物。戻ってきた彼女も察したのか、その生き物と戦うために邪魔な2匹の排除を命じた。

 彼等も自分と同じ様に、あの強者に従わされているのだろう。だとしても、痛いのも苦しいもの嫌だ。

 

 どうせ自分より弱い生き物。すぐに終わると思っていた。

 

「ハーッ、ハーッハッ!」

 

 火の粉混じりの息を吐き出す。

 炎を警戒し距離を取るも、彼等の足なら決して逃さぬ距離。そう、逃さぬ為の………。

 

 自分より弱いはずの生き物達は、強かった。こちらの爪が彼等を裂いた。こちらの尾が彼等を叩き付けた。

 

 それでも闘志は衰えず、向かってくる。苛立つように吠える。

 何故? 痛いのが、苦しいのが、死ぬのが嫌だから強い生き物に従っているのではないのか!?

 

 いいや、違う。あれは、違う。あの目は、恐怖に震える目ではなかった。

 恐怖を識らぬ目でもない。知りながらも挑む目。

 

 ワイヴァーンは自分より弱いはずの生き物に、恐怖を抱く。

 

「「「────!?」」」

 

 と、遥か上空で稲光が輝く。主と、あの生き物が戦っているのだろう。巻き込まれたくもない化け物同士の戦い。

 

「…………………」

 

 今なら逃げられるのでは? そう思うや否や、翼を広げるワイヴァーン。飛行の邪魔をされぬ様に犬達に視線を向け…………2匹の犬は、動かなかった。ただ真っすぐワイヴァーンを見つめる。

 

 その目は、逃げるなら追わないと伝えてきた。

 

「……………!」

 

 ズン、と大地を踏みしめるワイヴァーン。明らかに逃げるつもりだったワイヴァーンの行動に、2匹の犬は戸惑う。

 ワイヴァーンだって戸惑っている。

 

 主が負けて死ねば追手はなく、勝って生き残っても、あの様子なら気分がいいからと見逃されるだろう。

 

 だが戻ってきた。何故?

 解らない。どうして自分は………と、困惑しながらも唸る2匹の犬を見て、気付いた。

 

 ああそうか、彼等に対する苛立ちは、嫉妬だ。同じく強者に従いながらも、彼等は信頼されていた。だから殺す? 違う。

 

「オオオオオオオオオオッ!!」

 

 『外』を見たいと言う願望よりも優先する、不合理なその感情の名は、『誇り』。

 

「「────!!」」

 

 ああ──こんな俺を、恐怖から強者に従い、恐怖から逃げ出そうとした俺を、お前達は『敵』と認めてくれるのか。

 なら、ごめん。もう逃げない!

 

「オオオオオオオオオオオッ!!」

「「ガアアアアアアアッ!!」

 

 

 

 風が吹く。

 胸の肉を食いちぎられ、魔石を砕かれたモンスターの灰が飛んでいく。空高く、きっと大陸の果てまで。

 

 

 

 

 リンドヴルムは、傷つけられる度に思う。ああ、やはりこの敵は強いのだと。

 リンドヴルムは、傷つけるたびに思う。ああ、やはり己は強いのだと。

 

 漸く知った、己の願望。強さを求める理由。それは、強い奴が好きだから。そんな強者と、全力でぶつかり合いたいから!

 

 蟻と象が友に成れたとして、その2人は対等だろうか? そんなわけがない。象は常に踏み潰さぬよう気を使わなくてはならないだろう。

 

 だから、強者だけが自分と語り合える! 嬉しそうに喉を鳴らし、再びぶつかり合おうとする。と、2匹の獣はその並外れた嗅覚が同時にその匂いを捉えた。

 

「「────」」

 

 リリウスは嵐に僅かに紛れ込んだモンスターの灰の匂いから、猟犬達の勝利に気付きフッと一瞬だけ微笑んだ。

 リンドヴルムは寝床の番を任せた竜の敗北に、目を細めた。

 

 レベルが違えば次元が違うというように、正式な神の恩恵に数値化されたわけでなくとも、2匹の戦闘力には差があった。それこそ彼女が軽く抑えただけで骨を折ってしまう程度には。

 

 彼女にとってあのワイヴァーンは弱い。それでも、あの犬には負けないと思っていた。

 そもそも番を任せる時点で、彼女は彼の力をある程度には認めていたのだ。

 

「………オオオオオオオ!!」

「そうだな。続きといこう」

 

 2つの雷光が雷雲の中の暗闇を彩る。蓄電量の限界を超え、逃げ場を求めて空へ広がる雷を周囲の避難民は見た。まるで何匹もの光る竜が踊り狂っているかのよう。

 

「────!!」

 

 鱗が砕けた場所を雷が焼く。雷に対する絶対防御が剥がれ始めている。

 

「もう十分楽しんだろ」

「これ以上は楽しめんようだしな。お互いに」

 

 リリウスがドゥルガーに弓と矢筒を取り出す。突風が、雷雲をチリヂリに吹き飛ばす。

 

「オオオオオオオオオ!!」

 

 散った雷雲に飛び込むリンドヴルム。体に纏う雷が、蓄電(チャージ)した稲妻を取り込む。

 鱗が万全であっても、自らを焼くリンドヴルムの最強の一撃。

 

「…………弓を射るなら、それは必中」

 

 などと抜かす女傑(めがみ)技量()は未だ遠く、形すら見えない。だが一つ言えることは。

 

「少なくとも、この矢は当たる」

 

 弓矢を理解しているであろうリンドヴルムは、狙わせぬとばかりに方向転換を繰り返しながら迫る。それこそまるで、本物の稲妻の様に。

 

「だが、捉えた」

 

 放たれた矢は、見事にリンドヴルムの額を貫いた。

 

 

 

 

「おお、新しい同胞が生まれるとこ初めてみたぜ………」

 

 目を覚まし、覗き込んでくるのは赤い鱗の大きな蜥蜴。ぼんやりとする頭を振りながら、起き上がる。

 視線が低い。低い? 生まれたばかりで何故そんな違和感を?

 

 壁に手を添え、自らの足で立ち上がる。

 

「名乗りたい名前あるか? ねえなら、俺っち達がつけるけど」

「名前…………」

 

 と、自らの口から出た言葉に、思わず唇に触れる。

 

「どうした?」

「…………………」

 

 記憶によぎるのは、漆黒の雲の中を駆け抜ける雷と、雷を纏う生き物。

 

雷の友(タクシャカ)。私の名前は、タクシャカだ」

 

 


 

 

タクシャカ。インドラの友達のナーガ。

 

 

情報力の暴力の時間だオラァン!

 

アフロディーテ様との旅でやらかしちゃったと思うことは?

アフロディーテ「何度も一緒にお風呂に入ったせいで、リリウスったらたまにそのまま女湯に向かうようになっちゃったのよね」

 

アフロディーテ様はリリウスに恋人ができるのはどう思いますか?

アフロディーテ「愛の女神にする質問じゃないわね、それ。良いんじゃない? リリウスが選んで、リリウスを選ぶんなら間違いないでしょ」

 

リリウスが旅の中で穏やかだった時間は?

アフロディーテ「? あの子は割と、普段から穏やかよ。でも強いて言うなら、学区に短期入学した時かしらね。あの子、本当は本が好きなのね。物語とかは読むより読み聞かせるほうが好きみたいだけど……けどぉ! 下手って何よ下手って。私の美声より素敵な読み聞かせがあるっての!?」

 

リリウスは言葉を飾らないけど、アフロディーテ様はどう思います?

アフロディーテ「学区で「救う気もない俺に責任を求めるな。知ったこっちゃねえから何もしないのが俺で、救いたいとか喚くくせに何も出来てねえのがお前等だろ」って言った時は「ほんとにこの子は」って思ったわ」

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