ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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珍しい不幸な国の話

ちゃんとリリウスに正しく覚悟を示せたら『魔力』を共有するLv.2のシュヤーマに乗せて強化した魔法で沼の王に挑めた

 

 


 

 

「おいお前」

 

 と、リリウスは案内役を呼ぶ。

 

「さっさとベルテーンに案内しろ」

「え?」

「その女神の話を聞く限り、もう巫女に意味はねえんだろう? ただ一時的に弱らせるだけ。ならもういらねえから、さっさとてめぇ等の王の下に案内しろ」

 

 今更タルヴィが生贄になってもベルテーンを救えるかは解らない。弱らせるだけなら確実に出来るようだが、それだけ。

 

「いいの〜? お弁当代わりにして連れてって、能力値増幅(アビリティブースト)すればいいのに」

「アフロディーテ!!」

「何ようるさいわね。命を食べて未来に繋げることは、狩猟女神(あんた)の司る概念の本質でしょ?」

 

 アルテミスは狩猟を司る女神。人類より本質的にその神意を理解する動物達は、そんなアルテミスを恐れずむしろ懐く。アルテミスの神意が下界を乱すモンスターを狩ることにある以上に、アルテミスの司る狩猟は狩る側と狩られる側に加護を与えるが故に。

 

 生きる為の殺し合い。そこには正義も悪もなく、ただ食うためという理由だけがある。

 

「不死身の沼の王を食べるために少しでも力を上げるために食事を摂ることがそんなに悪いこと?」

「リリウスを抱えながら言うな。緊張感のない………」

「必要、緊張感(それ)? 私ぃ、未来を見てない人類(子供達)の為に私の可愛い愛し子(アドニース)が気を張り詰めるなんていやぁよ」

 

 ベルテーンの民を、アフロディーテは愛さない。愛の神であると同時に豊穣、春、転じて繁殖を司る女神であるアフロディーテは、繋ぐためではなく繰り返す為に生きるベルテーンを愛さない。

 

「何で、何でそんな事言うの!? 私は、私はこれでいいんだもん! あの国が好き、皆が大好き!私が生贄になれば、皆が助かるんだよ!? じゃあそれでいいじゃん! 貴方達には、関係ないじゃん! 私が嫌いなら、沼の王を倒すために私を使ってよ!」

 

 沼の王に、タルヴィの『毒』は効く。それは変わらない。弱らせて食わせるか、食わせて弱らせるか。どちらにしろ使い道はあるはずだと叫ぶ。

 

「黙れ。言ったはずだ、俺は勝手にやると」

「まあ、都合がいいんじゃない? リリウスが勝とうが負けようが、お得でしょ?」

 

 勝てば沼の王が死に、負けたとしても弱った沼の王にタルヴィという毒を食わせればいい。これは、つまりそういう話だ。

 

「そいつが勝てたとしても、生命の泉が壊れたら意味がねえんだよ。始祖達が見つけてくれた、神聖なる聖地を踏み荒らさせるか」

「もう踏み荒らされてんのにか?」

 

 沼の王と戦うことを諦めた時点で、踏み荒らされるのを許容しているだろうに。

 

宿痾(過去)に怯え、始祖(過去)に縋り、歴史(過去)を繰り返す。生きながらにして死んでるみたい。貴方達は、子孫に苦しみを引き継がせまいと頑張るベルテーンの始祖そのものね。そこからなぁんにも変わってない。当然、未来の苦しむ子供達は貴方達の姿そのものよ?」

 

 アフロディーテの言葉に、ベルテーンの民達は言葉に詰まる。

 

「ところでヴェーラ、沼の王って世界の危機?」

「『割と世界の危機』。黒竜程じゃねえけどさ、弱らせなきゃどんどん大きくなっていくんだぜ? そのうちマジで誰の手にも負えなくなる」

 

 恐らく、目覚めた今もベルテーンの周囲を飲み込んでいるだろう。無限の軍勢に、無限の腐肉。モンスターこそ弱いが死ににくく、広がり続けるダンジョンそのものと言ってもいい。

 

「ベルテーンの連中が抑えてなけりゃどうなってたか。そこは感謝してやってもいいんじゃね〜?」

「知るか。殺せねえならそこまでだ」

 

 と、リリウスはヴェーラの言葉を切り捨てた。

 

「まあ、生贄に頼り切り停滞して、そう育てた生贄も望んでるからとほざく奴らが勝てるとは思えねえがな」

「っ! なら、お前は………お前ならどうした!? 笑顔で、死ぬと言ったんだぞ! 夢はないのか、やりたいことはないのかと聞いても、皆を助けると、そう言ったんだ!!」

 

 リダリは叫ぶ。感情のまま。一度も振り返らなかったリリウスが、その言葉に振り返る。

 

「これまでの『巫女』もそうだった! ああ、お前の言うように、そう育てられてきたろうよ! でも、じゃあ、それが全部無駄っていうのか!? 無駄にして良いのか!」

「………………」

「ああ、してえよ。したかったさ! たった一人の、異母兄妹(いもうと)の為に、何もかも捨てたかった!」

「────え?」

 

 タルヴィはリダリの言葉に目を見開く。妹? 誰が? リダリが? だって、リダリの父様はそんな事言わなかった。私の母様が死んで悲しんだのは、国中の皆だった。

 

「リダリが、私の……お兄ちゃん?」

「『巫女』が生贄にならなきゃ国が滅ぶ! それを、あの優しすぎる娘が受け入れるかよ! 何を言っても、止まってくれねえ!!」

「ならお前等、生きてくれと言ったのかよ?」

「「「!?」」」

 

 国に縛られて、歴史に縛られてきたこいつ等が、歴史に逆らえるはずもない。生きたくはないか、したい事をしてもいい、逃げてもいい。そう訴えかけても、きっと生きてくれとは、死なないでくれとは言わなかった。

 

「国と、責務を、歴史を投げ出せってのか! 吠えるなよクソガキ!!」

「これまでの犠牲を、(ひい)様の母上を捧げた、その全てを無駄だと、お前は言うのか!」

()()()()()()

 

 リリウスは冷たく言い放つ。

 

「戦って死ね。誰かに己の命を譲り渡せば、その時がてめぇの死ぬ時だ。動く屍の分際で、苦しかった? 辛かった? でも、我慢して受け入れましたぁ? 笑わせるなよ、クソどもが。死んで欲しくねえなら手足引きちぎってでも沼の王の前に向かえねえようにしろ。止まらねえと言うなら喉を抉って詠唱(うた)を奪え」

「ワオ過激」

「アフロディーテ…………」

 

 アルテミスはふざけるアフロディーテをジト目で睨む。

 

「その苛立ちを俺に当てるんじゃねえ。歴史を捨てねえ、国を捨てねえ、妹も捨てたくねえ………なら沼の王を殺せばいい。命を懸けて、それこそがてめぇのすべきことだったろうが」

 

 ヴェーラはその言葉に目を細める。無理だ、そう無言で語っている。

 ヴェーラは確かにその言動、振る舞いは愉快神のそれ。ただ、彼女は優しい。

 天界に居た頃から短命に苦しむベルテーンの『始祖』よりも前の祖先を、凍える冬で僅かに抑制される宿痾から守ろうともしていた。

 

 ただの気休めにしかならないのに、神のルールに逆らい、夏の女神との喧嘩だなんて嘘を用意して。

 理由をとある小さいくせに胸のでかい女神に問われた際は『冬の方が冬の女神である自分に都合がいい』と『真実』を語った。彼等が生きてくれることが都合が良いと、バレないように。

 

 下界に降りたのも彼等の子孫、ベルテーンを救う為。全知零能な地上の神として唯一してやれる『時間稼ぎ』。その一時凌ぎを、ベルテーンの民は『繰り返す』事で永遠にしようとした。

 

 酒を飲み交わしたかった子供達が酒に溺れ見放したソーマのように、彼女は或いはベルテーンで一番諦念を持っていたのかもしれない。

 

「もういい。匂いを追ってベルテーンを探す。行くぞ、アフロディーテ」

「待って!」

 

 と、タルヴィが叫ぶ。

 

「……………私の事、食べていいよ」

「…………あ?」

「私を食べたら、少しの間強くなれるんでしょ? そしたら、国を救ってくれるんでしょ?」

「……………」

「私の全部をあげる。だから、救ってよ──!?」

 

 一瞬。神々やタルヴィはもちろん、ウスカリやリダリですら反応する間もなく、リリウスはタルヴィの前に移動した。

 

 その瞳がタルヴィを見据える。

 

「何で俺が、嫌いなお前の願いなんざ叶えてやらなきゃならねえ」

「っ!! でも、だってあなた………沼の王を、源泉ごと吹き飛ばしちゃうんでしょ!? それは駄目、国の皆の為に…………!」

「…………余計なことをしたら食う前に殺す。無意味に死なす。解ったな」

「………!」

 

 コクコク頷くタルヴィに、リリウスは踵を返す。

 

「あんな事言うからついてきちゃうじゃない。シュヤーマ達を食べずにしばらく様子を見たのも、兄妹だったから? 貴方って妹属性好きなの?」

「お前もベルテーンで食えばいいって言ってたろ」

「そういえばそうね」

 

 


 

 

アドーニス

アフロディーテがリリウスにつけた取り敢えずの二つ名みたいなもの。最初は旅の途中他の子供を留守番させたため、唯一の眷族だからつけた。読み方は変わらないが下の文字はその時の気分で変わる。

名前の意味は、調べればわかる。因みにリリウスは普通に猪を狩って食います。

 

 

Q.現状の沼の王にリリウス一人で勝てますか?

A.無理。良くて相打ち。毎ターンHP全回復とかクソボスですよクソボス。

 

Q.酒カスは何がしたいの?

A.リリウスを英雄にしたい。ちなみに最近の愛読書は古代の………おっと、誰か来たようだ。

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