ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
ベルテーンに向かう道中もモンスターは襲ってくる。後、浮浪の民の噂を聞いたのか襲ってきた野盗
Lv.2でも精鋭と呼べる【アルテミス・ファミリア】や【アルテミス・ファミリア】にも劣らないベルテーンの騎士、Lv.3のリダリ達に返り討ちにされたが。
リリウスはモンスターの時ぐらいしか参加しない。
ベルテーンの民を助ける気はないという意思表示だろう。
ベルテーンの民は何か言いたげでも文句を言えない。
【アルテミス・ファミリア】は主神ともども口を挟まない。
アフロディーテはその在り方を良しとする。
「……………」
食事の時間もリリウスはベルテーンの民に近付かない。狩ってきた獲物をシャバラ達と分け合い食っている。
「ん、中々美味しいじゃない」
アフロディーテはベルテーンの料理に舌鼓を打っていた。一応彼女の眷族が嫌う相手で、アフロディーテも結構詰っていた筈だが。
「ベルテーンはね、豆料理が多いの。あ、でもリダリは沼の魚を食べてたっけ?」
「其奴は『耐異常』を持っているからです。真似してはいけません」
「『耐異常』ね。次のシャバラ達の発展アビリティはそれにしてあげましょう」
何時かオラリオへ戻るリリウスと共にダンジョンに潜るのなら、必要だろう。それまで生きていれば。
「リリウスってば厄介事に巻き込まれる体質よね。私心配。いや、都合はいいけど」
「…………………」
リリウスという言葉にベルテーンの民達が肩を震わせる。言い合った時こそ反発していたものの、冷静になれば随分己を客観視しているらしく、怒りより、屈辱より、無力感に苛まれているようだ。
「気にしなくていいわよ。リリウスは強いから、貴方達の気持ちなんて解らないのよ」
「…………はっ。あの年でLv.7だもんな。有名な才禍の怪物よりも立派な才能持ってりゃ、俺達弱者の気持ちなんざ理解出来ねえか」
「は? 何言ってんの? リリウスが弱者の気持ち理解できないわけ無いでしょ。ふざけたこと言ってるとぶっ飛ばさせるわよ」
「ぶっ飛ばすじゃないのか………」
と、呆れるアルテミス。
「矛盾してるじゃねえか。強いから、俺達を理解出来ねえんだろ………」
「違うわよ。だってリリウスは、誰よりも弱かったもの。虐げられ、嫐られ、奪われて………でも現状を受け入れなかった」
リリウスは己の過去を語らない。語りたくないのではなく、語るようなものでもないと思っているだけ。聞けば教えてくれるし、フィルヴィスにも話させたのでアフロディーテは良く知っている。
「貴方達、オラリオをどんなところだと思ってるの? いずれ世界を救う英雄に溢れた栄光の都市。民はモンスターの脅威に怯えることなく冒険者を讃え、笑顔と幸福に溢れた場所とでも思ってるのかしら?」
「暗黒期ならともかく、今はそのような都市では?」
「違うってのか………」
「違うに決まってんでしょ」
これもギルドの豚の成果の一つだろう。オラリオを英雄の都市として喧伝する。何一つ不可のない完璧な国。次代の英雄は順調に育っている。少なくとも、世間にはそう広める。
夢破れて落ちぶれる者達? 知らん。そんなことより戦力増強が必須。そして、それは実際間違っていない。
「光が強ければ当然影も生まれるものよ。ましてや、村落レベルならともかく小国を凌駕する人数ともなれば。強さという解りやすい指針で優劣を決め、優劣は差別を生む。差別は何時だって、暴力を生むわ」
誰かより優れたい。それは誰もが持つ、生き物の本能であるが故に、必ず下を見て安心する者が現れる。
リリウスはそんな下を作り、それを見ていなければ己を保てない、そんな奴等の溜まり場に生まれた。
「暴力に怯え、逆らったって死ぬだけだからと諦めるのは簡単。でもそれって、自分の命を相手に委ねるってことじゃない。どれだけ媚びても、そいつが『面白いからこいつ等から金を搾り取ってモンスターに食わせてみよう』なんて考えた日には逆らいようもなく餌にされる。当然、そんなの嫌だから、生きたまま死にたくないからリリウスは牙を研いだ」
リリウスからすれば、ベルテーンの連中の訴えなどまるで理解出来ない言葉だろう。最初に生贄を許容した連中は識らないが、その後も生贄に生きてほしいなどと望みながらも沼の王に屈し、捧げてきた。
沼の王という存在に自身の生存権を、意思を委ねておきながらいざ沼の王が手に負えなくなれば理不尽だなどと喚き散らす。
生贄を捧げたくなかったのなら、生贄が意味がなくなれば死ぬしかないのなら、何故その前に戦わない。
そもそも『巫女』の一族の献身に縋る意味が解らない。もし『生贄』となる前の代で『巫女』の誰かが恋に溺れ血の順序を違えたら? 周囲に時が来たら死ねと言われ続けた『生贄』が国を憎み役目を放棄したら?
何百年も続けていられたほうが奇跡の綱渡りに縋っていたから、その縄から落ちたのだ。
「リリウスは強いわ。這い上がるという強い意志でスキルに目覚めてしまうぐらい」
リリウスは、たしかに強い。人より優れているだろう。才能ではなく、心が。弱いから仕方ないって諦めるのは簡単。ほとんどの人間がそうしてる。リリウスはそれをしない。出来ない。
「だから、弱さを受け入れてあげられない。貴方達に苛立っているのはね、そんな自分も含めてなのよ。おかしいでしょ? でも、そんなあの子が私は大好き」
その笑みがとても美しかったのは、きっと彼女が美の女神だからというだけではないのだろう。
「連中はさ、もう諦めちまった。腐っちまったんだ」
一方、リリウスの下へはヴェーラが訪れていた。
霧の国たるベルテーンでは見られない星空を眺めながら、女神は独りごちる。
聞かせたいわけではない。ただの独り言。リリウスが何処かへ行っても続けるだろう。
「そのくせ、罪悪感は消えねえらしい。いつもしけた面して、タルヴィや巫女達に後ろめたい顔を向けて、平和だけを享受して何も変えようとしない。じゃ、あたしも別にいっかーって………」
「……………罪悪感か?」
「
神の下界への介入の一つ。精霊や
それがよりによってモンスターに穢された。ヴェーラが救おうとした民達を脅かす怪物が生まれた。
「責任感じたんだぜぇ、これでも。だから解決策教えてやった」
そのくせ、それ以外をしようとしないベルテーンの民を腐ったままだと思ってしまうのは、懸命に血を繋ぎ支え合った彼等を見守っていたヴェーラだからこそなのだろう。
「知ってるかぁ?
「………………………」
「まあお前は勇気づけるとか無理そうだけど、ケツを引っ叩くぐらい、してやれねぇかなあ。蹴り飛ばしても良いからさあ」
「無理だな。俺に『勇気』はない」
リリウスにあるのは強さへの渇望。誰にも何も奪われないための力を欲しているだけ。強者に挑めるのは、勇気ではなく、ここで死ぬならどのみち何処かで死ぬという、ある意味では『臆病』さ故だ。
まあ、その恐怖に抗う姿を人は勇気と呼ぶのかもしれないが、少なくともリリウスはそうは思わない。
「そもそも連中はどのみち『ベルテーン』という共同体で固まっている。奴等に勇気を教えるとしたら、それは……………」
「ねえ、ヴェーラ」
「あん?」
『姫様専用!』と書かれたテントの中。他のより豪華という理由でやってきたヴェーラにタルヴィが話しかけた。
「ヴェーラは、
「そいつは『質問』か? ならあたしは応えよう。『あたしはあの国の全部が嫌いだ』」
それはきっと、あの国の主神も含めてなのだろう。
「私は好きだよ。ヴェーラも、大好き」
「……………………」
「リダリ、私のお兄ちゃんだったんだね。なんか嬉しいなぁ……あ、別に寂しかったわけじゃないの! 罪悪感からだとしても、皆優しいし。でも、やっぱり憧れてたし」
「…………………」
もちろん普通の兄妹ではない。生贄になる『巫女』と、沼の王へ供物を捧げるため守り続ける『守り人』。それでも、自分に兄がいると知って、それがリダリだと知って、本当に嬉しかった。
「ヴェーラ、私のステイタス、更新してくれない?」
「はあ?」
「リリウスは、強い意志でスキルに目覚めたんだって。だから、もしかしたら成長出来ない私も………!」
「…………ま、無駄だと思うけどな」
【ベルティナ・ウィッカーマン】
・燃焼魔法
・■■■■■■■。
・詠唱式【■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■】
「…………お前、マジかよ」
「目覚めたんだ? 教えて、ヴェーラ。お願い」
タルヴィは、『正直者』のヴェーラに残酷な『質問』をした。