ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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蠱毒の坩堝

 目玉から食うとは言ったが、元気に動き回る2つの竜の顔に簡単に近付けるとは思っていない。まずは弱らせる。

 ()()()の件もある。あれが効果を示すとすれば、鱗が邪魔だ。

 

「オオオオオオオ!!」

「はは! そうくるよなあ!」

 

 アンフィス・バエナはグルリと回転して尾を振るう。

 アンフィス・バエナが持つ強力無比な焼夷体液(ガソリン)は使わない。体内の龍胆で生成され続けるとはいえ、魔力ではなく体液を使用する以上たった一匹の小さな獲物に使うのは勿体無いと判断したのだろう。

 

 

「なめやがって蛇風情が」

 

 強喰増幅(オーバーイート)の発動中、能力値は上昇するが、器を大きく超えることはない。

 Lv.4級の動きができるようになったとはいえ、それ以上の力は出ない。正確には、出そうとすると器が砕ける。

 

 足りない部分は技術(センス)で補う!

 

「────!?」

 

 鈍い痛みに目を見開くアンフィス・バエナ。尾の鱗が、一部剥がされていた。斬られていた訳ではない。

 深層に到達できる冒険者の持ち物と言っても、階層主の、しかも竜の鱗に傷を付けられる程の業物ではない。

 

 より正確には鱗を叩き切る鋭さはあってもリリウスの膂力が足りないし、汚れを拭く程度の手入れしかされていない剣では長く持たない。

 

 だから、剥がす。鱗と鱗の僅かな隙間に刃を通し、鱗を剥がす。鱗に守られていない、それでも強靭な肉体。だが、斬れる。斬れるなら喰える。

 

「オ、オオオオオ!!」

 

 怒りに声を震わせ、2つの首を持つ竜が一方的に潰すはずだった小虫を毒虫と認識する。

 

 餓獣もまた、推奨討伐位階Lv.5の肉を前にただの餌ではなく強力な糧と認識した。

 

 人を殺す怪物。万物を餌とする獣。生き残るのはどちらか一匹。

 

「────!!」

 

 ただ踏み潰す小虫ではなく、毒虫ならば容赦は不要。蒼眼の左首の口内に光が灯る。

 

「っ!!」

 

 吐き出される蒼い炎。

 焼夷蒼炎(ブルーナパーム)が床を、壁を、水晶を青い輝きの中に鎮める。

 蝋燭のように溶けた。汎ゆるものを焼き尽くす超高温のアンフィス・バエナの必殺。

 

 水の上ですら燃え、川の流れに従い流されていく。

 

「ギャアアアア!!」

 

 水温の上がった水から慌てて飛び出してくるモンスター達。その中のマーマンの群を見つけると首をへし折り、水晶のメイスを奪い取る。

 

「お返しだ!」

 

 未だ燃えてる地面をメイスで殴り、火を飛ばす。それだけならアンフィス・バエナからすれば何の意味もない攻撃。本来なら装甲板(プレート)の如き竜鱗に防がれて終わり。だが、今はその鱗の一部が剥がされている。

 

「!!!?」

 

 反射的に尾を払う。だが、確かに感じた高熱。リリウスは、それを確認した。

 出来るかは兎も角、全身の鱗でも剥がせば近距離で焼夷蒼炎(ブルーナパーム)は使われない。

 

「…………………」

 

 リリウスは水の中に飛び込んだ。瞬間、水面が青く輝く。水温はたしかに上がったが、熱湯とはとてもいえない。恐らく先程のモンスター達はアンフィス・バエナのおこぼれを狙い水面近くに留まりすぎたのだろう。

 

 だから、水底の方にはモンスターが残っている。

 喰らいついてくるレイダーフィッシュ。純水棲でありながら地上の獲物にすら喰らいつく貪食な160C(セルチ)の肉食魚は自身より小さい肉に食いつこうとして鉄を噛まされる。

 

 そのまま頭蓋を噛み千切られた。

 

「?………??」

 

 脳の大部分を失いフラフラと泳ぐレイダーフィッシュを食いながら、リリウスは目当てのモンスターを探す。

 

 血の匂いに誘われやってきたそれを見つけ、レイダーフィッシュの残りが爆散する威力で蹴り飛ばし大口を開けるアクア・サーペントに向かう。

 

 

 

 アンフィス・バエナは2つの首で川を睨む。何処に逃げた?

 ここが滝壺の湖なら、焼夷蒼炎(ブルーナパーム)は流されず水面を覆えるのだが……。

 己の巨体で辺りの川を破壊し尽くすべきか?

 

 と、水面からアクア・サーペントが飛び出してくる。その頭部には、リリウス。

 

「ほら、あっちだ!」

「〜〜〜!!」

 

 グチリと脳にまで達する剣を捻られ、激痛から逃れるようにアンフィス・バエナに向かうアクア・サーペント。

 目玉を切り裂かれた同胞たるモンスターに、アンフィス・バエナは同情など覚えない。

 

「オオオオオオッ!!」

 

 放たれる蒼炎………に、向かいアクア・サーペントの頭蓋を踏み砕きながら飛ぶリリウス。

 

「!?」

 

 1000℃の溶けた鉄に触れても、火傷しない方法がある。それは熱源に一瞬だけ触れること。体の水分が蒸発し、一瞬だけ断熱効果のある膜が生まれるのだ。

 ましてやリリウスの体は濡れていた。僅か一瞬、焼夷体液(ガソリン)を寄せ付けない蒸気の鎧を纏い炎を突破する。

 

「おお、らあああ!!」

 

 炎から飛び出しアンフィス・バエナの蒼眼を斬りつける。そのまま角を掴み減速すると、蒼眼の竜頭を支える首の鱗を剥がしていく。

 

「ハアアアア!!」

 

 赤眼の竜頭が紅い霧を吐き出す。紅霧(ミスト)と呼ばれるそれの本来の役目は魔法の拡散。されども気体だ、この距離なら人一人など容易く吹き飛ばす威力になる。

 

「オオオ!」

 

 吹き飛ばされただけのリリウスだが、直ぐに尾が振るわれる。体を丸め衝撃に備えるが、吹き飛ばされた。幾つもの巨大な水晶を砕きながら壁に激突する。

 

「う、ぷ………かは!」

 

 アンフィス・バエナがその蒼眼に怒りを含ませ焼夷蒼炎(ブルーナパーム)を吐き出す。リリウスは剣についたアンフィス・バエナの血液と房水、硝子体を舐め取る。

 

「!?」

 

 瞬間、消えた。実際は迫る炎に照らされた場所から暗いところへの高速移動なのだがタイミングが完璧だった。歩法が完全だった。

 

 アンフィス・バエナは消えた敵を探すべく首を動かす。無意識に、リリウスが消えた近くの場所を候補から外して。

 

「──────!!」

 

 鱗が剥がされた箇所の肉が切り裂かれる。この毒虫、先程よりも疾い!?

 

 困惑するアンフィス・バエナに更に刻まれる切り傷。

 目や鼻から血を流しながら、リリウスは牙を剥き出しに笑う。環境を加味しなくとも推奨討伐位階Lv.5の階層主。第一級冒険者がいようと全滅する可能性すらある怪物の血肉に、リリウスの【狂餓禁食(プレータ・ナンディン)】が嘗て無いほどの強化を与える。

 

「ハァ、ハハハハハ!!」

 

 骨が軋む、筋肉が千切れる、毛細血管が破裂し、血の涙が流れる。過剰な強化に肉体(うつわ)が悲鳴を上げる。

 すぐにでもスキルを解除しなければ死ぬ。

 

「ギュアアア!!」

 

 剥き出しの肉を食い千切られ叫ぶアンフィス・バエナ。リリウスの傷が癒え、しかし直ぐに破壊される。

 リリウスの【狂餓禁食(プレータ・ナンディン)】は回復力を上げるスキルではない。喰った分を再生に回すだけだ。

 山程飯を食おうと喰った後に傷つけば治らない。常に身体が壊れるほどの強化を使用するには、常に食う必要がある。

 

「ガアアアアアアッ!!」

 

 天井を、床を、壁を、水晶の柱を爆散させる勢いで跳ねる。拷問によるストレスで色が抜け落ち白くくすんだ髪、自壊による内出血で赤く染まる目。まるで兎だ。

 

 嬉しい誤算。肉体の損壊を気にしなければ、力を制限なく高められる【狂餓禁食(プレータ・ナンディン)】の安全措置(セーフティー)のなさ。

 大誤算は、痛みに鈍くなりすぎたこと。

 

「────!?」

 

 足の骨が砕ける。砕いたのは、リリウスの筋肉。筋肉を引き千切ったのも同様。

 

「あー………」

「オオオオオオッ!!」

 

 天井から落ちるリリウスをアンフィス・バエナの尾が叩く。先程の再現のごとく壁に吹き飛ばされるリリウス。

 目から、耳から、鼻から、口から、顔中の穴という穴から出血。心臓が早鐘を打ち、全身の傷から流れる血も止まらない。

 

「クルルル………クオオオオオオオ!!」

 

 動けなくなったリリウスに目を細め、アンフィス・バエナは大口を開けて迫り………

 

「──!?」

 

 緑色の障壁に激突する。

 

「………あ?」

「ポーションを急げ!」

 

 赤く、黒く染まる世界に響く凛とした声。身体にかけられる液体。傷が癒えていく。

 スキルが切れた。ステイタスが本来の値に戻る。

 

 

 

「要救助者保護! 撤退するぞ!」

「はい!」

 

 リヴェリアは大樹の迷宮まで響く階層主の咆哮にまさかと思い向かい、リリウスを発見した。髪の毛が白く染まっているが、あの顔立ちは良く覚えている。

 

 まさか階層主と戦っているとは………。

 救助班のエルフに運ばせ撤退しようとして……

 

「がっ!?」

 

 リリウスが自分を抱えようとしたエルフが固まった瞬間、殴り飛ばした。

 

「き、貴様何を!?」

闇派閥(イヴィルス)に与したか!?」

 

 騒ぐエルフ達を無視して階層主を睨むリリウス。

 アンフィス・バエナも結界の外からリリウスを睨む。

 

「あれは俺の敵だ。俺が喰らう。あれを殺して、俺は力を手に入れる…………!」

 

 上位の自己治癒スキルと高価なポーションにより傷は癒えた。まだ動ける。

 アンフィス・バエナも、その巨体故にリリウスが与えた傷はそこまで深いものではない。それにたった一人で挑もうとする子供に、リヴェリアが叫ぶ。

 

「いい加減にしろ!」

「………あ?」

「お前も、あの子も………まだ、子供なんだぞ! なのに、どうしてそんなに力を求める。何故、自分の命を顧みない!!」

 

 悲痛なリヴェリアの叫びに、何名かのエルフが顔を歪める。リヴェリアにそんな顔をさせてしまう誰かを知っているのだろう。

 その眼差しは、その声色は、子を思う母のもの。

 

 だからリリウスには理解できない。

 

「さっきからやかましいんだよエルフの女王」

 

 リヴェリアの襟を掴み引き寄せる。

 

「俺に向けねえ言葉で俺を説得してるつもりか? てめぇの言うガキが力を求める理由なんざ知らねえが、俺が力を求める理由は一つだ。強くなきゃ潰される……そして、今をそんな時代にしたのはてめぇ等ロキとフレイヤの眷属共だろうが」

「────!!」

 

 ゼウスとヘラ(千年の最強)を終わらせたロキとフレイヤ(今の最強達)が、どんな関係だったかなど知らない。どんなやり取りがあり追い出すに至ったかなど興味はない。

 

 知ってるのは、ゼウスとヘラの影に怯え闇の中に潜んだ闇派閥(イヴィルス)は新たな最強など脅威にあらずと動き出し、ロキとフレイヤは未だ派閥幹部の足元にしか届いていないという事実。

 

「力がねえから大人しくしてろってんなら、てめぇ等こそ黙ってろ。邪魔だババア」

 

 リヴェリアを乱暴に、放り投げるように襟から手を離すリリウス。結界が砕かれるのは同時だった。

 

「ハアアアアア!!」

 

 割れた結界から紅い霧が侵入してきた。魔力を散らし、脆くした結界を大質量の肉体で砕いたのだろう。

 

「クオオオオオオオ!!」

「聞こえてんよ蛇野郎!」

 

 リリウスは結界から飛び出す。アンフィス・バエナはリヴェリア達に興味も示さずリリウスの後を追う。

 

「………この時代を作ったのは、私達か…………」

「き、気にすることありませんリヴェリア様!」

「そうです! 卑屈で惰弱な小人族(パルゥム)の戯言など!」

 

 周りのエルフ達はリヴェリアの在り方を肯定する。【ロキ・ファミリア】も同様。フィンやガレスに至ってはそもそも共犯。

 正面からリヴェリアを罵倒するのは、彼が最初で、何時だって彼だった。そんな彼に、リヴェリアは………

 

「あの、クソガキ!」

 

 ムカついた。

 

「リ、リヴェリア様!?」

 

 確かに、こんな時代にしてしまったのは自分達だ。それについての罵倒なら甘んじて受け入れよう。だが、強くなるために己の命すら平気で危険に晒し、それを止めようとすることを邪魔だと!?

 

 あの子といい、どうして最近の子供は!!

 後………

 

「誰がババアだ!」

 

 

 

 

 リリウスは『巨蒼の滝(グレート・フォール)』の縁に立つ。アンフィス・バエナは逃げ場を作らぬよう左右の首を離して睨み付ける。

 

「ムカついてるかぁ、クソ蛇」

 

 言葉など介さないし、そもそも聞くまでもなくその目が雄弁に語っている。

 

「火を使わなかったなあ、お前」

 

 リリウスを壁に叩きつけた時も、リヴェリアの結界を壊した時も、アンフィス・バエナは焼夷蒼炎(ブルーナパーム)を使わなかった。

 

「ムカついてんだろ、俺に。食い殺したいんだろう、俺を!!」

「オオオオオオオ!!」

 

 階層主は、自らの肉を食い千切った眼の前の人間を食うと決めた。餌は己ではなく貴様であると解らせるために。

 

「来いよ、地獄はこっちだ」

 

 タン、と飛び降りるリリウス。アンフィス・バエナもその後を追う。

 落下中襲いかかってくるレイダーフィッシュやハーピィを足場兼餌にしながら落下速度の減速と能力値の向上を行う。後から降ってきたアンフィス・バエナはその質量から先に滝壺に落ち滝壺を掻き回した。

 

「オオオオオオオ!!」

 

 アクア・サーペントの死体と共に落ちてきたリリウスを睨み、吠える。それはリリウスに対する怒りの咆哮であり、この場のモンスターへの牽制。

 己の獲物であると王の号令。

 

「────!?」

 

 だが、それを無視してモンスターが襲いかかる。

 リリウスを無視してアンフィス・バエナへと。

 

「言ったろ、ここは地獄だ。お前のな」

 

 アンフィス・バエナに襲いかかるモンスター達は強化種。人の血の匂いが染み付いた同族の肉を喰らい、魔石を口にし自らの高め方を知った個体。

 強化種になったばかりのモンスターは、万能感に酔いしれ階層主の魔石を求める。

 

「オオオオオオオ!?」

「シャアアア!」

 

 たった数分とはいえ、大量に生まれた強化種達が喰らいあった蠱毒の坩堝。その生き残り達の牙は竜鱗を砕けずとも剥き出しの肉を食い千切るほどには鋭い。

 

「お前は俺のだ」

「ガギャ!?」

 

 隙だらけのマーマンの延髄を食い千切るリリウス。強化種の血肉に、リリウスの能力値が本来のマーマンを食らった時より強化される。

 

「グル………ゴアアアアアアアアッ!!」

 

 アンフィス・バエナは自らを食おうとするモンスター達を身震い一つで肉塊へと変える。多少育ったところで、竜の階層主の敵ではない。アンフィス・バエナにとってこの場の敵は、ただ一匹。

 

「チッ、満足に食事もさせねえか………」

 

 蠱毒の坩堝で生き残っていたモンスター()を喰らい力に変える蠱毒の王。

 自ら喰らうと決めた矮小な獣以外口にする価値なしと唸る怪物の王。

 

「はは! はははははは!! 喰い殺してやる!!」

「オオオオオオオオオオ!!」

 

 ハイになってるリリウスは楽しそうに叫ぶ。悪意ある人間の殺意に当てられたせいかもしれない。それともモンスターの、何かの怒りの代弁者たる敵意を向けられていからだろうか?

 

 ただ喰らう。喰らう為に殺す。悪意も善意も、敵意すらもない純粋な殺意にいっそ心地よさすら覚える。

 両者が思うことは、ただ一つ。眼の前の肉を殺して勝つ(喰う)。それだけだ………

 

 血の匂いに誘われたモンスター共の死骸を足場に滝壺を駆けるリリウス。尾を、首を叩きつけ水面を揺らすアンフィス・バエナ。魔石(ちから)を求め階層主に殺到するモンスターの群。

 

「邪魔だ足場共!!」

「オオオオ!!」

 

 モンスターの身体を蹴破り加速するリリウス。その死体を喰らい強化し、階層主に挑んでは殺されるモンスター。

 

「オオオオオオオ!!」

「!?」

 

 ゴパッと吐き出される液体。血ではない。リリウスは即座に距離を取る。雨のように降り注ぐ粘性の高いそれはアンフィス・バエナに喰らいつくモンスターや水面に落ちる。

 

 水との親和性が低く、混ざらずスープの油のように浮く。そう、油。

 

「オオオ!」

 

 放たれる焼夷蒼炎(ブルーナパーム)焼夷体液(ガソリン)と引火し、滝壺が一気に蒼炎(ほのお)に包まれた。

 

「────!!」

 

 突如発生した高温に、水は体積を膨張しながら気体へと変わる。水蒸気爆発と呼ばれる現象が、死体(しま)もモンスターも纏めて消し飛ばし焼き尽くす。

 

「つ、くぁ………」

 

 蒸気に肌を焼かれ爛れる。咄嗟に目を守ったが、痛みに慣れていなかったらのたうち回っていた。

 近くに肉は無い。

 

「コロロロロロ」

「丸焼きがお好みか………」

 

 アンフィス・バエナは封印していた焼夷体液(ガソリン)を再び使う。喰うには変わりないが、焼き殺してから喰うことにしたようだ。

 

「刺し身にしてやる」

 

 自傷覚悟の放火は、アンフィス・バエナの純白の鱗を所々炭化させ黒く染めていた。あの程度のダメージで済むとは、羨ましい限りだ。

 だが今なら、リリウスの膂力と深層に向かえるだけの剣で斬れる。

 ついでにもう一押し。

 

「【傲慢なる悪意の王。血の河を啜れ、肉を貪れ】」

「!! ハアアアアア!!」

 

 魔力を感じ取り紅霧(ミスト)を吐き出すアンフィス・バエナ。その赤い霧の壁を突き破り現れたリリウス。

 

「ガルアアアア!!」

 

 剣の腹で炭化した鱗を砕かれ、肉を食い千切られる。

 実に1年ぶりとなる理性全壊、本能全開の【ラーヴァナ】最大効力の発動。

 

 餓えた獣となったリリウスは跳ね回る。天井を、壁を、岸を…………一見無茶苦茶な動きに見えて水面には一度も落ちず、火にも触れない。

 

「オオオオオオオ!!」

 

 アンフィス・バエナは未だ燃える水上を尾で叩きつける。

 水と炎の壁がリリウスの前に現れる。しかも運の悪いことに、リリウスの進行方向に炎。被弾覚悟で突っ込みそのまま水の中に飛び込むか? 水上で燃えるとはいえ、水中で燃え続けるわけではない筈。と………

 

「グオ!?」

「!?」

 

 純白の光線。否、吹雪が焼夷蒼炎(ブルーナパーム)ごと水壁を凍り付かせる。それどころか、滝壺の水全てを凍らせ後から降ってくる滝の水が氷の上を這う。

 

「オオオオオオオ!!」

 

 アンフィス・バエナが動くだけで砕ける氷。だが、足場が出来た。リリウスは本能のまま氷の浮島に着地し、加速。

 アンフィス・バエナの蒼眼の口が炎を吐き出しそうと口を開け──口蓋に剣が突き刺さる。

 

「コア!?」

 

 ビクンと首を振り上げるアンフィス・バエナ。その首に着地したリリウスは首を駆け上がり潰れた蒼眼に辿り着くと食い破る。

 

「ゴギャ、グルロアアア!?」

 

 網膜を喰らい硝子体を飲み込み視神経を食い進み脳を食い荒らす。

 

「オオオオ!!」

 

 紅眼の竜頭が己の半身を切り捨て頭蓋を噛み砕く。凶悪過ぎる寄生虫の如き餓獣ごと噛み砕こうとして………

 

「ガギャ!?」

 

 舌を噛み千切られ口蓋に蒼眼の竜頭の()()()回収した剣で刺される。

 

「ガアア、バハァ!」

 

 紅霧(ミスト)を吐き出しリリウスを口内から吹き飛ばすアンフィス・バエナ。リリウスは一番大きな(うきしま)に着地し、剣を構える刺突の構え。力を込める脚が、再び軋みを上げる。

 魔法による最大狂化+スキルによる過剰強化。

 

「ガアア!」

「オオオ!!」

 

 喰らいつこうと大口を開けるアンフィス・バエナ。

 リリウスは浮島を爆砕させ、滝壺の湖を波立たせる。

 

 

 

 

 

 

「…………これは」

 

 邪魔なモンスター達を相手しながらリヴェリアが見た光景は、光の槍に貫かれるアンフィス・バエナ。

 勢い止まらず壁に激突したリリウスの剣が砕け、両手の骨を骨折し、足は最後の突撃でズタズタになり何なら意識も失い落下するリリウス。

 

「まずい!!」

 

 リヴェリアが慌てて飛び降りようとした時、ハーピィがリリウスに向かう。死にかけの肉を貪る気だろう。

 短文詠唱のエルフ達が魔法を放とうとするがあの距離ではリリウスも巻き込む!

 

「………逃げた?」

 

 このまま攫われるかと思いきや、ハーピィはリリウスを岸に下ろすと何処かに飛んでいった。魔力に気づき逃げたのだろうか?

 

「…………」

 

 今は、兎に角この無茶苦茶な事をしでかした少年の治療。この子は、絶対にあの子に会わせては駄目だ。あの子も他の人がやったならと一人で階層主に挑みかねない。

 

「力を求めなくてはならない時代………我々が作った時代か。ああ、だからこそ………早く終わらせてやる。こんな時代など」




Lv.4になって同じ事できるかと言われれば普通に死ぬ。今回は諸々運が良かった。

他の冒険者に出来るかって? 真っ当な冒険者は生まれたての強化種作って階層主襲わせようなんてまず思わない。
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