ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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アプサラス

「キシャアアアアア!!」

 

 デルピュネの吐き出す炎を回避するリリウス。殴りかかってきた50М(メドル)青銅鎧の巨人(アーマージャイアント)が殴りかかってくるが拳を蹴り砕く。

 

「……………………」

 

 オリジナルより弱い。規格外サイズのベヒーモス・オルタ本体やアレスの青銅鎧はいない。強さか、サイズに制限がある? 異様に強いルー・ガルーは、恐らくシャバラ達の記憶。

 

 再現可能な強さ内なら、実際の強さではなくイメージに強い影響を受けるのか。

 あのネズミの群は……腸喰われた時のだろう。見た目はネズミだが冒険者の肉すら食い千切るだろう。

 

「【■■(■■■■)】」

「──は?」

 

 現れた『悪夢』を観察していたリリウスは、聞こえてきた詠唱に固まる。

 次の瞬間には音速不可視の衝撃に吹き飛ばされた。

 

「…………ああ?」

 

 木々を巻き込みながら吹き飛んだリリウスは苛つくように声を漏らす。同時に、迫る影。鉄塊の如き巨大な剣を持った、顔の無い鎧の大男。

 

「■■■■■■■■!!」

「っ!!」

 

 裂帛の咆哮とともに振り下ろされる大剣。受け止めると同時に、沼が衝撃で吹き飛び剥き出しの地面が砕ける。

 

「【■■(■■■■)】」

 

 再び放たれる音の砲撃が鎧の男ごとリリウスを吹き飛ばす。

 姿勢を戻したリリウスをヴリトラとアンフィス・バエナの炎が襲い、漆黒の巨獣が踏み付ける。

 

 

 

 

「あれは、リリウスの記憶かしら? ていうか、あれって………」

「精霊とモンスターの融合だと!?」

 

 神の子である精霊の、ダンジョンの尖兵であるモンスターの融合。これも下界の未知が引き起こした可能性だろう。

 

「行くぞ、お前達」

「アルテミス様!?」

「感じる精霊の力が濃い。下位精霊を集めて、上級精霊に無理やり届かせたのだろう。あれは地上に於いて最も神々(私達)に近い大精霊そのものだ!」

 

 奇跡を行使する大精霊と同等の怪物。中には気に入った相手を壊してしまうような無邪気ゆえの厄災も確かにいるが、あれは明確な悪意を持って行っている。

 

「ガルル!」

「グルァアアア!!」

「っ! こいつ等は…………!」

 

 現れたのは大型の竜種。沼を纏っていない、魔法により生み出された実体持つ幻影。【アルテミス・ファミリア】でさえ苦戦した『竜の谷』の竜達。

 

「っ!! これ、は…………」

「力が………!」

 

 気を抜けば倒れてしまいそうな虚脱感。それに加え敵は強力。最悪な組み合わせだ。だが、たかが窮地。

 【アルテミス・ファミリア】は、何度だって乗り越えてきた。

 

「………………あそこ、かな」

 

 突っ込んで行く【アルテミス・ファミリア】を見ながら、タルヴィは急速に枯れていく植物と沼に侵されているだけの植物の境目を見つける。 

 

「………お嬢?」

(ひい)様?」

「リダリ、ウスカリ、皆…………!」

 

 タルヴィはベルテーンの民達へと振り返り、微笑む。その笑みを何人かは覚えていた。あれは、彼女の母が浮かべた顔。

 

「今日までありがとう。皆、大好きだよ! 本当よ? 本当なんだから!」

「お嬢………!」

「リダリ………お兄ちゃん。えへへ、なんだか恥ずかしいなぁ」

 

 嫌な予感がして叫ぶリダリは、しかし向けられたタルヴィの笑みに固まる。

 

「何、を………」

「『巫女の務め』を、果たしにね…………」

「っ! 待て、待ってくれ…………! もう、いいだろ! 確証はねえんだ、失敗するかもしれねえんだ。なら、彼奴等に任せても………!」

「でも、リリウスってば本当に源泉破壊しちゃうかもしれないし。あ、でもリリウスが私を食べないとどのみち破壊しちゃうのかな。でも、このままだと………」

 

 沼の王の力は、明らかに異常だ。そもそも精霊を食ってなかった状態ですら、成長を続ければ『世界の危機』とヴェーラは言った。そこに大精霊の力も加わったとなれば。

 

「ヴェーラ。私は、助けになれる?」

「……………『ああ』」

 

 あれが精霊の力を持ってるのは予想外だった。精霊の奇跡は呪いや毒、怪我を消しされる。だが、『巫女』の毒の結界は特別製。()()も合わせれば、仮に沼の王が癒やしの奇跡を扱えたとしても、必ず隙は生まれる。

 

「ほら、ならこれが、私のするべき事なんだよ」

「っ! するべき事とか、そんなのはやめろ!」

「リダリ?」

「なんで、お前は………生きたいって、言ってくれないんだ」

 

 

 

 

なかないで、リダリ

 

 幼い巫女()は、何時だって誰かを心配していた。

 生まれる前から死ぬ事を決められ、生まれてからずっと役目を説かれてきた故か、自分の命を低く見る。

 

わたしが、みんなをまもるよ。だから、こわがらないで

 

 自分の死が、本気で世界を救うと信じて。自分の死を望む世界を守ろうとして。

 なんて哀れだ。なんて愚かだ。どうして、お前は生きようとしない。

 

ならお前等、生きてくれと言ったのかよ?

 

 違う。違った。だって、自分達は、一度も言っていないんだ。その言葉を、言わなきゃならない、その言葉を………!

 

 

 

「私より、誰かが死ぬのが嫌なの!」

 

 その声は、少女の声にかき消される。

 

「本気だよ。本音だよ。ベルテーンの外を見て、生きてる人を見て、この世界が、終わるなんて嫌だよう!」

 

 そう生きてきたのは、彼女も否定しない。根強くその価値観は染み付いている。その上で、彼女は自分を犠牲に世界を救う可能性を上げられると聞いた。

 

「だから、ごめんね。本当に、本当に大好きだよ………!」

「待っ……!」

 

 能力値(アビリティ)が成長していない身でも、恩恵を賜った眷族。様々な種を混ぜられても、ベースは獣人。

 

 素早い動きで駆けていくタルヴィ。慌てて追おうとするリダリ達の前にモンスターの『触手』が立ち塞がる。

 

 なまじ知恵をつけた沼の王は、百を超える目で見ていた。それが今回の甘露な贄である事を。今の自分に、これまでの毒など効かぬこと。

 故に彼女だけ誘い込む。己の喉元へと。

 

「────!!」

 

 叫んでいる。嘆いている。そんな彼等を嘲笑いながら、沼の王は『敵』へと意識を向けた。

 

 

 

 沼の王の肉体は、巨獣の足ごと腐肉でリリウスを包み込む。そのまま飲み込むつもりだろう。と、肉塊に蠢く目が見開かれ、爆ぜる。

 

「オオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 【獣王化身(ベヘモット・アヴァターラ)】。この世の汎ゆる毒より凶悪な、大地を殺す毒が噴き出す。

 

「キケン!」「キケン!」「コイツ」「オイ」「シクナイ!!」「マズイ!」「イヤダ!」「タベタクナイ!」

 

 沼の王は毒に汚染された部位を即座に切り捨て、過剰回復により増殖させた肉で押しのける。

 これは違う。彼等が待ち望む極上の甘露ではない。ただの毒だ。

 

「チッ」

 

 再生速度と毒の侵食は拮抗している。無限湧きのポーション………まずはそこと切り離さない事には毒は無意味。

 

「【■■(■■■■)】」

「シャアアアアア!!」

 

 音速と雷速の同時攻撃を回避し、炎を叩き付ける。リンドヴルムには回避され、灰色の女には掻き消される。

 

「【其は光。其は熱。其は炎の化身】」

 

 リリウスが纏う炎の熱量が上がる。迫っていた触手が触れる前に燃えた。

 

「【天則(リタ)を犯す者を焼き尽くせ。穢れた大地を炎で包み、新たな世界の礎となせ】」

「【シヴァラナ】」

 

 獄炎を纏い、駆け抜ける。触れる全てを焼き尽くす。

 炭化した肉を捨て物量で抑えようとするも、大地が溶けるほどの高熱は水蒸気爆発を起こしながら沼地を蹂躙する。

 

「そこか──」

 

 魔力の流れ、再生速度の違いを観察し、中心点を見つける。

 

 

 

 

「あれを使う意味はあったのか? まだ早すぎると言ったのはお前だろう」

「あったさ。これも、私の計画の一つ。何、たとえ計画通りにいかなくても、それはそれでいずれオラリオの戦力を半壊させるだけの力はある」

「不完全なあれでも、使いようはあるということか」

 

 

 

「【月を喰らい太陽を飲め暴食の化身】」

 

 リリウスに見つかったことを悟ったのか、勢いが増す『悪夢』にモンスター、沼の王の触手。しかし、止められない。

 

「【首となっても歯を突き立てろ。肉親(だいしょう)を糧に我が身は千の姿を得る。貪り喰らえ、千変(かて)の傷を喰らい我が傷に、我が牙を以て汝に傷を】」

 

 餓獣の大顎が開かれる。万物万象喰らう、防御不能の絶牙。沼の王の魔石ごと喰らおうと迫る。

 

 

「【ラーフ・シュールパナーカー】」

 

 

 下界に於いて、火力はともかく、殺傷力という点で見れば間違いなく最強の魔法。防ぐ術は存在しない。

 だが、命を守る術なら一つだけ。

 

「────ごえ!?」

 

 それはあくまで、一口と言うこと。ベヒーモス・オルタナティブの前半身や神の鎧すら食い千切れる巨大な大顎。腹は底なし。されど、大顎は巨大なだけ。

 

 『悪夢』を通しリリウスの記憶を読んだ沼の王は、己の肉体を増幅させながらリリウスの口へと突っ込んだ。

 

「キ、ヒ………ハハ! アハハハハハハハ!!」

 

 沼の底から、何かが迫り上がってくる。否、沼の王の肉が増殖しながら形を変えていくのだ。

 

「オマエ、タベテクル。デモ、タベルノ、オレ!」

 

 それは巨大な女の姿をしていた。その眼窩からは、カエルの卵の様に眼窩に対して小さな目玉が敷き詰められ零れ落ちる。

 髪を象るそれも、腐肉の触手。造形だけなら美しいが故に、より一層悍ましい美醜の巨人。

 

 精霊の匂いが濃くなった。

 

 

 

 

「沼の王、なんて名前は些か威厳がないな。あの国は戦うことをやめた怠惰な民の国。ふむ………彼の最初の主神の故郷に因んで、堕落の女妖(アプサラス)と名付けよう」

 

 

 

「ゼンブ、ゼンブ、ケガレテシマエ。アハハハハ!!」

 

 


 

 

歪んだ精霊『アプサラス』

沼の王の変異体。

精霊の分身(デミ・スピリット)と違い、その身を支配するのはモンスターの意思。

上半身だけだが、70M(メドル)はある超巨体。

美しい女の像の目をくり抜いてカエルの卵でも押し込んで、腐肉で編んだ糸を頭からぶっかけたような美醜の巨人。

綺麗なもの、幸せそうな奴等が嫌い。

 

没案

『エキドナ』

没理由 怪物をたくさん生み出すからこれだ、と思ったけど酒カスの言うように国を堕落させた部分を強く出したくなったから。

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