ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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番外編 何処にでもある不幸な話

 Lv.2になった。この派閥では、最高位。それでも小人族(パルゥム)というだけで舐めてくる輩はいるので、そういう時は力で黙らせる。

 

 上がりたての、最弱種族。

 Lv.1の集団に囲まれるのもそこそこ危険。それでも返り討ちにした。

 

 手を出せば必ず噛みついて来る獣が、こちらを噛み殺せるだけの力を手にした。【ソーマ・ファミリア】で彼に積極的に関わる者は殆ど居なくなった。

 腹は減るが、それは何かを食っていればいい。

 これで彼奴を、今度こそ守ってやれる。近くにいれば必ず危険にさらしてしまうから距離を取るしかなかったたった1人の……

 

「■様………」

 

 瞬間、集まる視線。

 

「──────」

 

 ああ、これは駄目だ。今手を取ればこいつは………でも、じゃあ、どうすれば?

 連れて行く。死なせるだけ。これ以上強くなることを諦める? そんな事をしてもすぐに元の生活に戻るだけ。今こうしてLv.2になっても、死にやすさは何も変わっていないのに?

 

 強くならなきゃならない。腹を満たすために金がいる。ダンジョンに潜るにはこいつはやはり邪魔で、だがおいていったら………。

 

 どうする? どうすれば? 此奴が自分にとって何の価値もないと示さなくては、どうやって?

 

「■様………?」

 

 彼は、聡明だった。同時に、より広い視野を持つほど世界を知らず………世界を知れず、常に襲う飢餓は冷静な判断力を奪った。だから、間違いとも正解とも言えない選択肢を選ぶ。

 

「ぐえ………!」

 

 ■を蹴り飛ばす。Lv.2の力だ。加減しても、小人族(パルゥム)の体など簡単に吹き飛ぶ。

 

「??? え? ………■様?」

 

 ゲホゲホと咳き込んだ後、困惑の目を向ける■。縋ってこようと立ち上がる■に対する対応を、どう接するかを、周りの連中が、団長が、見逃さぬように見つめている。

 

 だから、立ち上がれぬように踏みつけた。

 

 

 

 

 強くならなくてはならない。全てを奪われるだけだから。

 誰よりも強くならなくてはならない。より強い者が現れたら奪われるから。

 

 奪われる。そう、奪われる。奪われないために、守る為に力を求めたはずだった。なのに、どうして? どうして自分はあんな………!

 

「ソーマ! 酒だ、酒を寄こせ!」

「………………」

 

 主神室に入り神酒(ソーマ)を腹に流し込む。呑むというより無理矢理腹に収めようとするその飲み方では小さな口の端から酒が零れ落ち、ソーマは何処か悲しそうだった。

 

「クソ!」

 

 腹にたまらない。リリウスは窓から出ていった。

 

 

 

 ■を守りたかったはずなのに、力が足りない。

 ■を守る為には力がいるのに、守れない。

 もっと力を、もっと強く、誰も手を出さないぐらいに、出されても返り討ちにできるだけの力を。

 

 強くならなきゃ■を守れない。■を守っていては強くなれない。

 守るため、なのに、なんで自分は■を傷つけて。

 誰かに■を守ってもらう? 誰に?

 誰も守ってくれないだろう。誰もこちらなんて見ないだろう。

 

 ■に読み聞かせた物語の英雄なんて、何処にもいないのだから。

 

「………誰か、俺を……僕達を………彼奴だけでも………助けて………」

 

 路地裏で呟かれた小さな声は、大通りから聞こえる大きな悲鳴にかき消された。都市の憲兵が、正義の派閥が、勇者に率いられた英傑達が走り去る足音を聞きながら、目を向けられない路地裏から小さな影が移動する。

 

「…………腹減ったな」

 

 スキルのせいでずっと飢えている。またモンスターを食いにダンジョンに向かわなくては。強くならなくては。

 

 

 

 殺して食って、食って、殺して。殺されかけ食って。

 飢えを一時的に満たせたかと思えばまた飢えて食って。

 

 食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って飢えを満たす。

 

 まだレベルが低いからかスキルによる回復効果だけでは足りないこともある。露天商から薬を買おうとする。と…………

 

「お待ち下さい。そのポーションは、明らかに値と釣り合っていません」

 

 銀色が在った。艷やかな銀の髪をした女がそこにいた。

 背は低いが、同族ではなくヒューマン。彼女は露天商を睨みつけながらいう。

 

「っ! おいおい、嬢ちゃん。変な言いがかりはよしてもらおう。俺の薬が素人に見分けられるって?」

「素人ではありません。これでも【ディアンケヒト・ファミリア】の薬剤師ですので」

「!?」

 

 たしか、質は高いがその分高い上級冒険者御用達と言っても良い派閥だったか。逆に安い庶民の味方の【ミアハ・ファミリア】と並ぶ二大医療系派閥。

 

「それは水を混ぜて薄めていますね? 薄めずとも、その値段で売るには価格が高すぎます」

「っ! う、うるせえ! てめぇらが材料を独占するから、俺達がこうして金を稼ぐしかねえんだろうが!!」

「確かに我々が多く買っているのは否定しません。ですが、独占もしていなければ相応の値段も提示しています。ましてや、人の命に関わるものの品質を落とす理由にもならない」

 

 医療従事者としての誇りだろうか?

 少女は自分の倍以上ある男に一切ひかない。男の方は、そんな態度に顔を真っ赤にして殴りかかる。

 

「五月蝿えんだよクソガキ!!」

「!!」

 

 目を閉じる少女。しかし、衝撃は来ない。恐る恐る目を開けると、リリウスが男の拳を片手で受け止めていた。

 

「おい女」

「は、はい………?」

「助けてやるから、薬寄こせ」

「…………それは出来かねます」

「ああ?」

「薬は、必要な方が対価を払い受け取るもの。身の安全のために渡しては、その方々の苦労を無視する事になります」

「………………」

「ごちゃごちゃくっちゃべってんじゃねえ!」

 

 男は、拳を受け止められたという光景がステイタスの差を表すという事実を認識できないほど頭が弱かったらしい。

 リリウスはそのまま蹴り飛ばした。

 

「何の騒ぎだ!?」

「彼奴等!」

「ちっ! 薬強盗か? いや、あのチビ………【ディアンケヒト】の!?」

「バレたのか!?」

「生かして返すな!」

 

 Lv.1ばかりだが、2も混じっている。全員ぶち殺してやってもいいが後ろの女は………

 

「へ? きゃあ!?」

 

 リリウスは少女を抱えると壁を駆け上がる。逃がすなという声が聞こえたが、遅い。

 肩に短剣が突き刺さったが気にせず屋根の上を駆けた。

 

 

 

「医療行為には金を取るんじゃなかったのか?」

「派閥の活動では、です。これは個人的なものなので」

 

 回復魔法。短剣の傷も、破傷風を引き起こしかねなかった雑菌も纏めて癒した。便利。

 

「ですが貴方の体、明らかに治療せず放置した傷跡が多すぎます!」

「冒険者だからな」

「だとしても! どうしてそこまでするのですか? どんな目的があろうと、自分の身を第一に考えなければ…………」

 

 どうして? そういえば、どうして強くなりたかったんだか。腹が減った。そう、腹が減って………

 

「強くなるためだ。じゃなきゃ、腹も満たせねえ」

 

 それだけだ。それだけだよ。

 

 

 

 

 

 

 それだけ、だったか?

そろそろ100話。皆が読みたい情報の暴力は?

  • 英雄邂逅(ベル君との出会い)
  • 英雄堕落(アイズ達の前で異端児かばう)
  • リリと勇者の会話(18階層)
  • リリとアキの会話(異端児逃がすあたり)
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