ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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蠍の毒針

学区編は子供多いから季節のイベントもやるんだろうな。聖夜祭とかやりてえな。リリウス一度も体験してないし。

 

 


 

 

 エルソスの遺跡に向かうに伴い、蠍の強さが上がっていく。本体に近いからか、連携力も上がっている。

 リリウスは飛んできた毒針を歯で受け止めながら前衛の防御型を踏み砕く。

 

 空を飛ぶ蠍は居ないので、スパルナの偵察が有効ではあるが枯れた森も葉がなかった枯れ木から、唐突に命を終わらせたまま形を残したかのように黒ずんだ幹と葉の木も増えてきた。

 

 森が完全に死んでいる。これもアンタレス復活が近い証拠だろうか。スパルナが見てきた結果、まだ遺跡は壊れていないようだが。

 

「数は増えてきたな」

「リリウスばっかり狙うようになったわよね〜。情報は共有されてるみたいね」

 

 蠍に襲われないようシャバラ達に護衛されてるアフロディーテが言うように、蠍の狙いがリリウスに集中している。この中で唯一の脅威と判断されているのだろう。

 

「餌が向こうから来る分には文句ねえが」

 

 バリボリと蠍の甲殻を噛み砕くリリウス。五М(メドル)はあったこの蠍は、かなり強かった。

 再生能力に特化したこの個体は自身の甲殻の破片を飛ばしてきたり、砕けた破片が月の光を浴び質量を増しウダイオスを思わせる質量攻撃をしてきた。

 

 他にも速度特化で鋏が明らかに噛み合わない片側だけが伸びた個体は、槍使い二人を同時に相手しているかの如き………。

 

 推定Lv.は5。他の個体より遥かに強く、故にこそ個体数が少ないのが【アルテミス・ファミリア】にとっての幸運だったろう。

 

「天気も味方してるしな」

 

 現在は一雨来そうな曇天。星は勿論、月の明かりすら遮られた純黒の空。

 月の光による回復も強化も出来ないだろう。出産に関しては知らないが。

 

「……………」

 

 と、森の奥からパキパキと何かを砕く音が聞こえた。

 

「………ああ、そういうやり方もありか」

 

 同族を殺し、魔石を喰らっていた蠍が振り返る。遠距離に特化した蠍が放つ毒針が、音を置き去りに迫る。

 

 リリウスは毒針を裏拳で殴り逸らし、木の陰に隠れていた別の蠍の頭部を破壊する。

 

「急ぐぞ。精鋭ばかり残ったら、神を守りながら進むのも面倒になる」

 

 スパルナに蠍の少ないルートを探らせ、黒い森を駆ける。

 

 

 

 やがて森を抜け、濁った池が姿を現す。その池の中央に存在する巨大な遺跡がエルソスの遺跡だろう。弓を構えた女神像………いや、恐らくはアルテミスに類する精霊。

 

「キシャアアアアア!」

「ギュイイイ!!」

「邪魔だ」

 

 襲いかかってくる蠍を氷が閉じ込め、そのまま砕いた。

 沼の王を喰って、囚われていた精霊を取り込んでから調子がいい。とはいえ、あまり精霊の力を多用すると曲がりなりにも精霊の力を宿す蠍達に気付かれる。

 

 この先は控えた方が良いだろう。

 

「お前等、矢を貸せ」

「どうするの?」

 

 ランテが疑問に思う中、リリウスは鏃を舐めた。

 

「ええ!?」

「俺は毒を出せるんだよ。Lv.4程度までなら動きを封じられるだろ」

 

 Lv.3なら、まあ死ぬかも知れない。そう聞いて恐る恐る矢を受け取るランテ。しかし少しでも下駄を履かねば役に立たないのも事実。

 

「スパルナ。お前は外で待機だ。倒せそうな雑魚なら、倒して経験を積んでおけ」

「キュイ!」

 

 一同は遺跡へ入る。

 月も星も隠れ、ただでさえ暗い夜闇の中明かりなどない建造物に入ったが、中は意外と明るかった。

 月光の如き冷たく神聖な光が遺跡の壁や天井を走っている。

 

「封印の光だ。アンタレスが、まだ封じられている証ではあるが」

「こうして蠍共が出てきてる以上時間の問題だな。これが封印の扉か?」

 

 遺跡の外で襲ってきたくせに、遺跡の中では襲ってこない。恐らく封印を解かせるつもりなのだろう。

 

「………行こう」

 

 アルテミスが封印の一部を解き、扉が開く。中に入ると、異臭がした。

 

「……………これは」

 

 遺跡の壁や天井を覆う折り重なった木の根や肉の管にも見える肉の塊。各所に存在する球体が、先端を4つに開く。

 

「うえ、生まれた!?」

「卵か。だがこの程度………」

 

 生まれたての、よくてLv.2程度のモンスター。数が揃ったところで…………。

 

「!!」

 

 通路の奥から光線が飛んできた。Lv.7のリリウスの皮膚に火傷を負わせるレベルの威力。生まれたての蠍がそちらへ向かって走り、巨大な鋏に掴まれる。

 

「魔法特化の砲台か……」

 

 体を支える足は強靭。されど尾や体は痩躯で、代わりに目が巨大な蠍。生まれたての兄弟を喰らい、魔石を取り込む。

 

「ギィアアアアアア!!」

 

 蠍の目が紫に輝く。先程よりも濃密な魔力の気配。が、その目に矢が突き刺さる。

 

「キィ!?」

「ギギャ!?」

「ギイイイ!」

 

 魔力が暴発し、近くにいた生まれたての蠍ごと焼き払う。

 

「雑魚は無視しろ!」

「は、はい!」

 

 アルテミスの言葉に直ぐ様駆け出す【アルテミス・ファミリア】の乙女達。アフロディーテはシュヤーマに乗り付いていく。

 

「ねぇ〜アルテミス。扉開けたんだし神々(私達)帰ったほうがいいんじゃないかしら?」

「やめとけ、下手に離れると狙いが分散する。あまり俺から離れるな」

「あら、今のは中々格好良かったわよ」

 

 流石ねリリウス、と何故か誇らしげなアフロディーテ。一同は遺跡の地下、広大な鍾乳洞を削って整えられた通路を進んでいく。

 

 

 産卵所から離れたからか、それとも中央に行くほど封印が強くなるからか、蠍の数も減ってきた。代わりに質が上がる。差し詰め近衛兵とでも言おうか。

 

 歴戦の証の傷を持つ強化種。死の七日間の強化兵と比べても遜色ない、Lv.5でも中堅から上位のスペック。しかもモンスターのくせに理性吹っ飛んでいたあの兵士よりもまともな連携を取る。

 

「だがそれだけだ」

 

 それでも、Lv.7は伊達ではない。Lv.6ならいざ知らず、何よりもリリウスは基本的にソロで潜る多対一を得意とする冒険者。

 

 攻撃を逸らし、誘発し、同士討ちさせる。

 

「私達もういらなくないですか?」

「言うな………」

 

 エルフの団員の言葉に、レトゥーサは反論出来なかった。ふとリリウスの背中をみる。

 ゼウスとヘラが黒竜に敗北し、死の七日間で【暴食】と【静寂】が討たれ、世界に3人しかいない最強の英雄。

 

「あれが、最強」

「ゼウスとヘラには及ばないがな。あの二人のどちらかでもいりゃ、遺跡ごと吹っ飛ばせたろうが」

「それ封印もふっとばされるじゃない」

 

 と、進んでいく一同。リリウスは近衛兵の死骸を食いながら目を細める。

 記憶によぎるのはベヒーモスの子供が産んでいた【超大型竜巻】の中の個体を思い出す。

 

 雑兵ばかりの中で、間違いなく世界を滅ぼす怪物の分身と呼ぶに相応しい強さ。アンタレスも、同じような規格外個体を造っているのだろうか?

 

「………抜けたな」

 

 と、一同が辿り着いたのは遺跡の最奥。広い空間の天井には巨大な穴が空き、壁には脈動する肉の管が伸びていた。

 

 その中央、円形に掘られた溝の中に閉じ込められているのは漆黒の蠍。

 通常の蠍の頭と呼べる部分からは人の上半身にも見えなくもない体が生え、その背中からも4本の腕が生えて蠍の部分も含めれば計8つの鋏を持っている。

 

 尾の形も通常の蠍と異なり、大顎を持つ巨大な昆虫系モンスターのような見た目をしている。

 

「…………?」

 

 魔力の波濤に【アルテミス・ファミリア】達が怯える中、リリウスは首を傾げる。これまでのサソリ型の中で桁違いに強い。ここに来る途中見た遺跡の壁画なども考えればあれがアンタレスなのだろうが、この違和感は………。

 

「オオオオオオオオオッ!!」

「っ!!」

 

 アンタレスの単眼がリリウスを捉えると、咆哮を上げ光線を放つ。

 これまでの砲撃型のどれと比べても比較にならぬ絶大な威力。

 

「ドゥルガー!」

「ヤマ」

 

 リリウスの言葉に直ぐ様ドゥルガーが盾を生み出す。カーリーが死の神より授けられし盾を模倣した大精霊の盾がモンスターの一撃を防ぐ。

 

「…………………」

「どうした、主様?」

「………シャバラ、シュヤーマ」

「わふ!」

「ばう!」

「【アルテミス・ファミリア】」

「は〜い!」

「ああ!」

「アンタレスは俺が相手する。他を頼む」

 

 と、天井に空いた大穴から大量の蠍が落ちてくる。

 先程の近衛兵を凌駕する、Lv.6にも迫る個体すらいる。

 

 そもそもあの近衛兵達がアンタレスから離れていたのは、新たな世代の近衛兵に劣るから、その役目を奪われたからだったのだろう。

 

「キイイイイ!」

「ギシャアアア!!」

 

 やはり狙いはリリウス1人。他は脅威にも思っていない。アフロディーテはさっさと物陰に隠れた。

 

「ほらアルテミス、純粋な武神ならともかく、狩猟の女神にはもう出番なんてないわよ。あんたも隠れなさい」

「しかし!」

「足引っ張るだけよ。小娘みたいな我儘言うんじゃないわよ」

「……………」

 

 眷族に戦わせて自分が、と言いたげなアルテミスも、しかし大人しく従った。自分が意地を張っても眷族達の足を引っ張るだけと理解しているのだろう。

 

「今は子供達の戦いを目に焼きつけなさい。それが、下界において神々ができる最良よ」

 

 

 

 甲殻は硬いが、隙間は脆い。速度特化は可動域を確保するためにその隙間が広く、防御型や砲撃型は逆に動きを犠牲に隙間を減らしている。

 

 並の冒険者パーティーでは相手出来ないだろうが、彼女達は【アルテミス・ファミリア】。オラリオが迷宮の侵攻から下界を守る砦ならば、彼女達は下界に溢れる災厄を払う守護者。

 

 正確無比な矢が甲殻の隙間に突き刺さる。動きが固まったところを、短剣が切り裂き魔剣が焼く。

 浅く斬られただけの個体も、猟犬の牙や爪がその傷を広げていく。

 

 

 

 

「オオオオオオ!」

 

 アンタレスが蠍の体の大鋏を振るう。殺意の乗った一撃は、第一級冒険者であろうと屠る威力を内包していた。

 だが、遅い。

 

 躱して足場代わりに駆け上がりついでに関節部から鋏を切り落としておく。体に張り付かれたアンタレスは上半身の鋏を振るう。

 

 大鋏より威力の劣る一撃を、片足で砕き腹を殴りつける。

 

「──────!!」

 

 甲殻を砕き、内部の肉を掴む。そのまま精霊の炎を流し込み暴発させる。

 

「キュオオオオ!!」

「!!」

 

 アンタレスの叫びと共に【アルテミス・ファミリア】と戦っていた近衛兵の一体が尾を向け毒針を放つ。

 頭部を狙った毒針は、リリウスの歯で受け取められた。

 

 針を噛み砕き塗られた毒ごと飲み込むリリウスはアンタレスから離れる。小型、されど強い個体が穴から降ってきたからだ。

 

 大きさは1М(メドル)もない。大きさも硬さも捨てた………ここまで来ると暗殺特化とも言うべき個体。

 だが、弱い。多少すばしっこいだけの蠍を噛み砕く。

 

「………やっぱり違うな」

 

 リリウスはアンタレスの体を両断した。轟音を立て地面に落ちるアンタレスの上半身。尾は形だけモンスターのようだが、脳から切り離されても自由に動けるわけではないようだ。

 

 神経節の多い虫型だけあり、ジタバタ暴れているが脅威にもならない。

 

「アンタレスを、あんなに簡単に…………」

「…………リリウス?」

 

 アルテミスが驚愕する中、アフロディーテは何かを探すように首を左右に動かすリリウスを見て首を傾げる。

 

 探す? 何を?

 

「……………」

 

 リリウスは、アンタレスが戦いの中でも唯一体から剥がさなかった肉の管を見つける。

 細い通路に伸びたそれを目で追い、鼻を鳴らし顔をしかめる。

 

「リリウス〜? どうしたの?」

アンタレス(こいつ)は絞りカスだ」

「?」

 

 地上のモンスターが生んだモンスターは、オリジナルより弱体化する。だがそれは、オリジナルも同じこと。自らの魔石を分け与えるのだから当然だ。

 

 ベヒーモス・オルタも、繁殖せず魔石を保っていたらあんな簡単には倒せなかっただろう。

 アンタレスはそのベヒーモスと同等の古代の怪物のはずだ。リリウスを脅威とも認識していた。リリウス一人で倒せるような相手ではない。

 

「まだ生まれてねえ。先に殺す」

 

 食うことで経験値(エクセリア)に変える、ではなく食うことで経験値(エクセリア)に補正を与えるスキルを思えば、産ませて戦ったほうが得になるのだろう。だが……とアフロディーテ達を見る。

 

 ベヒーモスの同格がここまで力を失うほどに全てを懸けた個体。藪をつついて毒蛇どころか竜を出すのは、ダンジョンならともかく地上でするわけにも行かない。

 

 地面を踏み砕く程の勢いで蹴り、加速する。一閃の矢の如く通路を駆け抜け、巨大な卵をマーダで貫くリリウス。

 

「………………あ?」

 

 卵の中に詰まっていた液体で体を汚しながら、リリウスは目を見開く。マーダが受け止められていた。

 

「……オハヨウ。オマエ、ナンダ?」

 

 

 

 

「リリウスの経験値になればいいと思ったのに、思ったより弱かったわね。長年の封印で弱体化したのかしら?」

 

 アフロディーテは【アルテミス・ファミリア】にやられていく残りの近衛兵を見ながら呟く。リリウスは何やら通路の奥へと向かっていったが。と…………

 

「「「────────!!」」」

 

 悍ましい魔力が遺跡の地下を満たす。突然深い水底に沈められたかのように、絡みつく濃密な魔力。発生源すら掴めない中、アフロディーテはリリウスが向かった通路を見る。同時に、壁を吹き飛ばし通路を広げながら何かが吹き飛んでくる。

 

「リリウス!?」

「ッカ………ゲホ!」

 

 口から血を流すリリウスだ。マーダから、ピシリと音が響き小さな亀裂が走る。

 そんな己の傷も武具の損傷も無視してリリウスは土煙の奥の影を睨む。

 

 それは人のような形をしていた。

 体長は2М(メドル)程の、大型とされるモンスターよりは小柄な体躯。だがその足音が聞こえる度に、心を絶望が覆っていく。

 

 土煙から現れたのは、やはり蠍だ。人のように二足で立ち、長い五指を持った両腕と、鋏を持つ背中から生えた4本の副腕。異様に長い尾の先端は鋭い針を備えていた。

 

「ガア!」

 

 誰もが固まる中、リリウスが突進しマーダを胸………魔石を狙い突きを放つ。青白く輝く光の壁に阻まれた。

 

「………精霊の力?」

「明らかに他の奴等と桁が違うわよ」

「…………オマエハ、テキカ」

「──────!!」

 

 モンスターが人の言葉を発し、リリウスを蹴り上げる。ちょうど天井に穴が空いていたとはいえ、かなりの深さがある地下から地上まで一気に蹴り飛ばした。

 

 


 

 

アンタレスの子供毒針(シャウラ)

名前の由来は蠍座の毒針部分の星の名前。

アンタレスの力と精霊の力を受け継いだモンスター。ベヒーモス・オルタやその子供達、アンタレスが殲滅特化ならシャウラは戦闘特化の怪物。個体としての強さはLv.7を超え、8にも届く。

異端児ではなく単純に知能のクソ高いモンスター。なので人類に対する破壊衝動を持ち、止めないと国が滅びる。

神の力に対する耐性も不完全ながら母から引き継いている。

 

 

情報力の暴力ミニ

 

Q.原作開始時点でリリウスは初恋を体験していたよ。だぁれだぁれ?

A.アフロディーテ

 

Q.原作開始時点でリリウスがオラリオに連れてきた男の強さは?

A.Lv.1。ただし砂漠で万を超える恩恵持ちの軍を壊滅させた。

 

Q.オリンピアってぶっちゃけLv.4でもなんとか出来たから簡単じゃね?

A.あの時の【ヘスティア・ファミリア】はヘスティア通して天の炎の加護を受けて下駄履かせて漸く英雄に勝ったし、天の炎もヘスティアの浄化、ベルのチャージがなきゃ対処不能。

後もう作者の趣味に気付いてると思うけど、強化されるので。こりゃLv.8にもなるわと思える地獄を用意するぞ〜!

そろそろ100話。皆が読みたい情報の暴力は?

  • 英雄邂逅(ベル君との出会い)
  • 英雄堕落(アイズ達の前で異端児かばう)
  • リリと勇者の会話(18階層)
  • リリとアキの会話(異端児逃がすあたり)
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