邪神ちゃんを守ろうとするが逆に守られる話   作:赤い靴

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6話

 

 6月28日 晴れ 誓約解除まであと20日

 

 今の俺には懸念する要因が2つある。

 1つ目は、法国と相対するまで20しかない事だ。師グレイとの稽古も有り、基礎は固まって来たが…まだまだだ。

 そして2つ目。コッチが『今』重要事項なのだ。()たる7月11日はアルドラの誕生日だ。

 今までは孤児院全体で盛り上げていたが、今や違う。

 孤児院時代、ずっと木刀を振っていた俺に女心など分かるはずも無く、プレゼントの全てをマリナに頼っていた弊害が訪れた。

 どうすればいいのだろうか? 悩み過ぎて、かえって冷静になって来た。

 とりあえず明日の俺に任せて今日は寝よう。

 

 

 

 6月29日 晴れ 誓約解除まであと19日

 

 今日はグレイから体術を徹底的に叩きこまれた。その所為で身体のアチコチが痛かったが、不死鳥(フェニックス)の祝福のお陰で、そのダメージは完全に治っている。

 料理の腕も奪いつつあり、また彼は「まずはバランスが大事。しっかり野菜や果物を入れる事」と何度も言っていた。なんでも戦いにおいて精神状況は重要だようで「より良い食事は精神を安定させる。戦線において頭が回らない者はすぐに死ぬ」とのこと。

 亡きフェブール神父も食事は大切だと説いていた。まぁ今回の場合、過程は全くもって異なるが…

 そして今日一日、稽古に熱中するあまりアルドラへのプレゼントを忘れていた。

 明日考えよう……

 

 

 

 7月1日 晴れ 誓約解除まであと17日

 

 7月となった。こうして熟睡できるのもあと少しなのかもしれない。

 今日はグレイとアルドラと共に、近くの街の冒険者組合に行き『忌み者』と蔑視されるゴブリン・オーガの討伐に向かった。

 俺とアルドラの実戦と言う事だったが、グレイは嘘を付いていた。

 忌み者の討伐は、多少苦戦したが(アルドラは余裕だったと言っていた。悔しい)無事に達成する事が出来た。で、その帰り道の事だった。

 グレイは茂みに腕を伸ばし、炎の魔法を唱えた。巨大な火柱が一瞬で立ち、近くに居た俺たちの肌も焼けるような強烈な火力だった。そしてその燃え尽きた茂みには、真っ黒な人形のようなもの……つまりは焼死したヒトが3人居た。

 なんでも、ずっと俺たちに付いてきた斥候……法国の回し者だそうで、彼らをまとめて始末する為に大胆な行動に出たと言う。

 誓約書には『危害を与えない』と書いてあったが、グレイ曰く「いかにも法国(やつら)がやりそうな手口だ。抜け穴があり過ぎるんだ」と警鐘を鳴らした。

 それでも物理的な危害は守られているようで、あと17日は安眠できるそうだ。

 もう一度…肝に銘じるように書こう。

 こうして熟睡できるのもあと少しなのかもしれない。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 7月5日──

 

 法国との誓約が13日と迫る中、俺はグレイから放出される魔法の猛攻に耐えていた。

 雨の様に降りかかる氷の短剣、電光石火の如く俺の隙を貫く雷の槍、虫の甲殻に似た特徴の素早いゴーレムの一振り、そして──

 

 グレイ……彼自身の卓越された幾千万の武器による応答。

 彼の間合いに近寄れば創造魔法によって造られたショートソードやダガーの小回りの良い武器を手にし、かといって距離を取れば斧槍(ハルバード)、大剣、槍、投げナイフが襲う。

 百人力とは誇張なしに、正に彼の事で、弓をとれば名手となり、大盾をとれば山となる。針剣をとれば熟練の暗殺者の様に華麗に舞い、魔導書と直剣を組み合わせれば魔術学院、その騎士を彷彿とさせた。

 

 つまり彼は単身でありながら、百の顔を持つ男だと……俺は感じた。

 一体、どんな壮絶な戦いを経て習得したモノなのだろうか? 

 

「あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

 

 俺は腹部に深々と刺さる投げナイフを、雄たけびと刃に絡まる肉と共に引き抜いた。

 とても…とてもいやらしい事に()()()が付いていた為、2度失敗し、3度目に成功した。

 その後、その投げナイフを溶かし尽くさんとばかりに炎が纏い、腹部の傷を回復させた。

 

「回復速度が随分と早くなったな。やはり祝福は酷使による酷使…それが一番、()()()()()()()()

 

 そう嬉々として、まるで子供が新しい玩具をプレゼントされたようにグレイは言った。

 アルドラとの稽古で気づいてはいたが、彼は相当の戦闘狂だ。それ故、グレイの『目』はとても良く、些細な事ですら理解しアドバイスを貰える。

 こうして俺をボロボロの状態まで傷つけるのも『不死鳥(フェニックス)の祝福』を短期間で最大限活かせるように、と彼の意向なのだ。「とにかく時間が惜しい」グレイが何度も言っていた。

 確かにこの無茶苦茶な稽古は、最善策では無いのかもしれない。

 だが最高率だと実感できる。確実に…昨日よりも強くなっているから…!! 

 

 俺は亡き師匠の形見である聖剣を強く握りしめ、グレイの元に駆け寄った。

「あああぁああ!!!」と自分を鼓舞するように声を上げる。たとえ今は敵わないと思っていても、気持ちは負けたくはない。

 俺にはアルドラとマリナの様な魔法の才能は無いし、レイクの様に生まれ持ったフィジカルも無い。だからこそ、泥臭く前に進むしかないんだ。

 

「いいねいいね。やはり男児とは…こうではないと!」

 グレイは創造魔法で長槍(パイク)を数秒で具現化し、左腕には手のひら大サイズの丸盾(バックラー)をベルトで装着する。現在の戦、その前線でみられる兵士を模した装備だろうか。

 長槍(パイク)はその名の通り長い槍で、中遠距離では最高のアドバンテージを誇る武器だ。だが、彼の装備した丸盾(バックラー)だけが異彩を放っていた。

 

 まるで近距離戦闘を誘っているような気が……

 

 暗雲が立ち込み不安が募るが行くしかない。

 行く手は阻むゴーレム、その核である文字が掘られた部位を適格に聖剣で破壊し、聖剣に赤い炎を纏わせた。

 十分、距離が近くなったタイミングでグレイは、その槍を素早く刺しこんだ。それを間一髪、剣で打ち払い事なきを得た。しかしグレイの攻撃は終わらない。

 弾かれた槍先は天井に上がったが、彼の剛腕によって鞭のように叩き下ろした。しなる槍を聖剣と自身の全力の力で受け止めると、足元の地面にヒビが入った。筋肉が悲鳴を上げている。

 

「よく反応し、耐えた。ではこれはどうかな?」

 

 槍を引き身を小さく縮込めたグレイは左足を前に出し、張り詰めた筋肉を解放するかのように地面スレスレから槍を下手投げした。

 うねり突き進む一槍は大矢のようで、聖剣で弾いたものの衝撃を受け止められず、大きくバランスを崩した。

 しかも宙に浮いた長槍(パイク)はヒビがパキパキと瞬時に入っていき、終いにはガラスのように細かく割れ落ちた。

 

 目を守るために瞼を閉じたのが悪かったのか。その一瞬の油断を彼は許しはしなかった。

 俺の手首と襟を掴む手が現れた。その手の持ち主は目を開けなくとも分かっている。

 

「魔法で創造した道具を信用しない方が良い。その術者にとっては追加効果を何重にも仕込める武器だからな」

 

 そういってグレイは、俺を容易に、軽々と背負い投げした。

「ガハッッ!?」

 背中が地面に衝突し肺の空気が一気に吐き出される。

 痛みは勿論、敗北感が俺を襲うが、それすら彼の、

「今回の模擬戦は良かった。しっかり反応できるようになってるね」

 との称賛によって洗い流された。

 褒め上手というか……飴と鞭の塩梅を理解しているというか……改めて何者なんだこのヒトは…

 

 目を開けるとグレイの伸ばされた手がそこにあった。

「あぁ」

 俺は手を伸ばし、

「その盾は…使わないで終わったな……」

 と、指を差した。

 

「あぁ、これかい? これはね」

 グレイは盾が付く左腕を目線まで上げると言った。

 

「ただのブラフさ」

「……。卑怯だな…」

「勝ち負けに卑怯なんざ無いさ。生き死にが懸かっているんだ。使える手は全て使わないと相手にも申し訳ないだろう? その点、アルドラはしっかりしてるよ。容赦も加減も何一つない。……恐ろしいね」

 

 あははは、と淡白に笑いグレイは続けた。

 

「ま、ウィルも良い感じに仕上がって来た。けれどね、まだまだ甘いというか……アルドラと一線を画す所があってね…」

「含みのある言い方だな…。何? 言ってよグレイ」

「あぁ、じゃあ言わせてもらうが……」

 

 いつまで人間のフリをしてるんだい? 

 

 

 ◇◇

 

 

 ──『不死鳥(フェニックス)の祝福』がある以上、常人離れした再生力があるというのに、何故ヒトと同じように行動するんだ? 

 ──腹に刺さった投げナイフにしてもそうだ。移動に支障が無いのなら敢えてそのままで、有事の際に、第二の武器として扱っても良かったのではないか? 

 ──僕の攻撃に反応して聖剣でいなせたのは良い。だが余りにも保身になり過ぎている。時には腕ぐらいは犠牲にしても良いぞ。けれど頭部、脳と目は守れよ? 

 

「あの法国の聖竜騎士…不滅の兄弟を倒せる程の力量を付けたいのだろう? ならば、なお更のお話さ。ヒトを捨てろ」

「ヒトを…捨てる……」

「あぁ、その通り。だけど、ヒトとしての癖を捨て去るのは難しい。例えばね……飛んでくる矢に対し顔を()()()()守るの行動は最もな例だ。そういった反射を場数を踏んで脳ミソで判断できるようにする。そしてその判断を、一般的なヒトが考えるものとは逸脱した解を実行する。……うん、僕が説明してるんだけど、訳わかんなくなっちゃったね」

 

 グレイは頭を掻きながら苦笑いをした。

 しかしそれでも彼の言いたい事な何となく分かる気がする。

 

「つまりは……到底人間には再現できない、俺にしか出来ない行動を──相手がアッと驚く戦術を考え組みこめ…って事だろ?」

「おぉ簡潔になった。ソウ言う事だ! …理解が早い弟子は助かるよ」

「まぁ孤児院では小さな子の子守りをしていたから……。その辺は多少得意なんだよ」

「僕の語彙力はその程度、って事か……。知りたくは無かったよ……」

 

 顔に両手を当て。屈み、ハァと深いため息を出すグレイを見た俺は、

「と、ところでさ」

 と、話を変えた。料理や身の回りの生活、そして稽古までお世話になっている現師匠である彼を悲しまさせたくない。

 だからこそ俺は、グレイがさっき語った事を思い出し、疑問を伝える事とした。

 

「その……さっき言っていた『無意識の行動』どか『脳ミソ』どか……。思わず顔を守るのは脳の判断じゃ無いのか?」

 

 孤児院の教育では、人の行動は頭の中の脳が判断している……と書かれてあった。

 そうなれば、この事は矛盾している。場合によっては、闇だらけのグレイの素性が少しだけ明るみになるのかもしれない。

 そう期待して俺は、灰色髪の男の解答を待った。そして──

 

「うん、違うね。その例を筆頭に、やかんどかの熱いものに触り手を引っ込めた。これもそうだね。心当たりは?」

「別に無いっすね…。やかんは熱い物だと分かった上で触っていたので」

「つまんな」

 

 なんだよ「つまんな」って!? 急にディスられた。

 あーあ、気遣いなんてしなければ良かった。

 

「じゃあウィル。カエルは捌いたこと有るか?」

「なんでカエルに……。無いですね、魚なら沢山ありますがね」

「つまry…

「いーじゃんか別に!! …すんません、取り乱しましたー」

「……。じゃあ話を進めようか」

 

 そう言ってグレイは、細い棒のようなものを創造し、地面に模様を書いて行った。

 その模様は時間が経つにつれ鮮明となり、どうやらカエルのようだった。しかしこのカエル…頭部が無い? 

 

「その顔は気づいているようだね? そうだとも、このカエルには頭部が無い。いや、頭部は僕が切断し、下あごに針金を通し吊り下げている図…になるね」

 

「ココが下あご」「コレが吊り上げている柱ね」と、トントンと指した。

 一体この先に、何の過程の果てに否定の解があるのだろうか……

 

「キミは言った。思わず顔を守るのは脳の判断だと。しかし今のカエルには脳が無い。ではこの状態、カエルの足に針でツンツンとチョッカイを出したらどうなるのだろうか?」

「それは……」

 

 想像する。脳の無いカエル、針、その反応を。

 ……。少し気分が悪くなってきた。

 

「ははは、どうやら気味の悪い思考実験となったね。では回答を……と言ってはみたものの、もう出ているね。だって僕がネタバレしたのだから」

「じゃあ…足は動くって事ですね…?」

「そうだ。これが無意識の反応…反射って言うんだよ」

「反射……」

 

 聞いたことが無い知識だった。

 ……ん? だとすると…グレイの言っている事……それが何となく繋がって来た。

 

「そう! もう分かったねウィル? キミが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

「それは…」

 

『別に無いっすね…。やかんは熱い物だと分かった上で触っていたので』

 

「まさか…アルドラは最初からこう考えていたなんて…」

「そうだね。この座学が無くとも彼女は最初から実行していたんだよね。本当に逸材だよ。キミも……最初から腕の一本二本などくれてやる、と言うぐらいの意気込みで戦うといい。だってウィル、キミはさ……」

 

 ──その驚異的な祝福を持って生まれた時点で、人間という枠から逸脱しているのだから

 

 その最後にグレイは

「実に勿体ない」

 と、付け足した。

 

 

 ◇◇

 

 

「グレイさーん! ウィルとの稽古は終わったー? 次々! 私も稽古したいです!!」

「おぉ良いぞ。熱心な弟子は好きだ。…という事でウィルくん、危ないから下がってなさいさ」

「……はい」

 

 俺は無邪気に跳ねるアルドラを見、ログハウスの方に聖剣を持って向かった。

 いつもはボンヤリと二人の稽古を見ていたが、今は違う。先ほどのグレイとの座学が俺をそうさせた。

 グレイが。アルドラが。何を思って戦っているのか……その一般的には狂気に近い得体の知れないモノを我が物にするために。

 

「では如何する? また今回も僕の腕、脚2つまたは首一つ。それでアルドラの勝利。逆に僕は、キミの腕、脚を5つ切り落とせば勝利。どう?」

「いいよー!! ずっっっと夢の中でグレイさんを殺す為にイメージトレーニングしてたんだ!! 試したいワザも沢山あるの!!」

「キミが良く言う睡眠学習ってやつだね? …うんうん、イメトレは大切だ。自身がどう動きたいか、それが脳内に無ければ臨機応変に戦えないからね」

 

 そう言い終わり、二人は武器を構えた。

 グレイはショートソードの二刀流。その対面のアルドラは触手のビリーちゃんを展開し、吸血鬼……いや死神の如く、血で作ったドス黒い鎌を持っていた。

 稽古……いや戦闘開始の合図は無く、アルドラが一早く動いた。

 

 そこからは何時もの如く怒涛の死闘であった。

 アルドラの腕が、脚が切り落とされても悲鳴一つ上げず、ただただ敵であるグレイを見据えていた。

 当然の様に欠損した部位は回復していき、また、自身の間合いに入る為に左腕を彼に捧げた。剣を振り切った彼にビリーちゃんが攻撃を挟むが、巧みにいなされていく。

 それでもアルドラは前進した。師グレイの首を落とす為に……

 

「……」

 

 俺は思わず黙ってしまった。息を呑んだ。これが…この姿勢が俺に足りないモノだと。

 執念と言うべきか。死んでも勝つ、死んでも貫き通す、という意地。

 

『ほう貴様。なかなか良い筋がある男では無いか──』

 

 孤児院が焼失した日の事、聖竜騎士のアルバートが俺に言った言葉を思い出す。

 そうだ。あの時俺は、死んでもアルドラを守ると意地を張った。恥ずかしいが失敗で終わってしまったが、腐っても聖竜騎士である彼を唸らせた。

 

「あははは……。強くなれる答えは最初から有っただなんて……時間の掛け過ぎだよ、俺は…」

 

 俺は小さく呟いた。灯台下暗しとはこの事か、とため息を吐いて。

 

「うぇぇん! ウィル~交代~!! ダメだよあの人強すぎるよ~!!」

 と、半ば泣きながら、それも触手のビリーちゃんに慰められるように頭をポンポンとされるアルドラがやって来た。

 ……。グズるアルドラも可愛いと思ってしまうのは、男児としては仕方のない事だろうか…

 つうかビリーちゃん、そこ変わって貰ってもいいですかね? 俺も頭を撫でたいよ……

 

「いいね……吸血鬼、その最上位種としての威厳が現れてきた。だが…まだ幼いね。僕を倒せるまでもう少しだガンバレ」

「絶対に嘘! 負ける気なんて無い癖に…!!」

「まぁまぁ…そんな事ないさ」

 

 そう言ってアルドラは、俺の背後に回り、その影からグレイを睨んだ。俺の肩に置かれた少女の手は小さく、しかし力強く握っていた。

「悪いアルドラ」

 と、俺は肩に触れる手をゆっくり退けグレイの方に視線を送る。

 

「グレイ…もう一回模擬戦頼めるか?」

「…いいとも、なんか…ああ。良い目になったねウィルくん」

 

 そして俺は聖剣を力強く握りしめた。

 背中に居るアルドラを守る為、法国に行ってしまったマリナとレイクを取り戻す為。

 あぁ、最初から自分を犠牲に出来る100の理由があるでは無いか。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 7月10日──

 

 残りの期間が8日となった今、俺とアルドラは最終調整としてグレイに師を取って貰っている。

 今日と今日とで稽古に励む……ハズだった。

 

「だああぁああぁああ!?!?」

 

 アルドラの揺れる髪を見て思い出した。

 誕生日プレゼント、その計画や物品すら考えていない事に…!! 

 

「どうした少年? こんな早朝から元気が良いね。つくづく感心するよ」

「何かキライな食べ物でも入ってたの? ウィル」

 

 朝食のサラダに手を付けていたアルドラと、お茶を飲んでいたグレイが不思議そうな顔を浮かべて言った。

「いや! 何でもないんだ…本当に」

 そう苦し紛れに言うしか俺の選択肢は無かった。

 どうして前日に思い出したのだろうか!? くそっ……俺の計画性の無さに腹が立つ。

 

 そして苦悩している間も時間は流れ、食器の洗い物が終わると同時に、書斎にてグレイの元に駆けた。

 本当は、この人には言いたくは無かったが…俺のセンスが壊滅的過ぎる。あの時の…不滅の兄弟の弟のような女子ウケの良い事は一切知らない。

 苦悩し、回りまわって俺は、その昔にブイブイ言わせていたと言う、自称モテ男の彼にアドバイスを貰いに来たのだが……

 

「ほー、それで何か? アルドラへの誕生日プレゼントをな……。遅過ぎね?」

「分かってる……分かってるよ。だからこれ以上、イジメないでくれ……」

「見事メンタルブレイクされてるねー。キミ、夏休みの宿題は最期までやらないタイプだな?」

「……」

 

 ここ最近、稽古に集中するが余り完全に忘れていた。

 何のために日記を付けていたんだ!? 片隅にでも『アルドラの誕生日まで○○日』とでも書いておけば良かった。

 ……いや、アルドラに見られた際の精神ダメージが余りにも高すぎる。……かと言って今回の件は俺の完全なミスだ……

 

「──と、言う事で何か貰えないか…? アルドラが喜びそうな物は…」

「菓子でも作ればいい。僕からレシピを盗んだのだろう?」

「あー、でもキッチンで作ればバレないか?」

「別にバレても問題は無いのでは? …アルドラは聡明だからな。もう察しが付いているのではないか? こうして食後に『個人的な相談がしたい』と踏み込んだ時からさ」

「あ……」

「つくづくキミと言う男は……」

 

 椅子に座りはぁ、と目元のクマを摩るグレイは

「ではアレだ……。アクセサリーはどうだ? 指輪…は早いか。ピアスでも首飾りでもラペルピンでも……多少値は張るが良いと思うぞ」

 と、言った。

 

「ピアス、首飾り……あっ!」

 

 そういえばアルドラが毎日つけていたネックレスが、孤児院の一件から着けていない事を思い出した。

 彼女はただただ「無くした」と言っていたが……たしか母の最期のプレゼントだと聞いてはいる。

 ……あぁそうだな。その大切な『代わり』なんて当然出来やしないが、多少の穴を埋める事は出来るか…

 

「なにか浮かんだようだね? ……、そうさね、じゃあ明日の稽古は無しにしようか。街にでも彼女とデートでも行ってくればいい」

「デ!? …なんだよグレイ、遠回しに」

「僕も君たちが留守の内にプレゼントを仕上げようとね。そういう事だから当日は、夕方まで帰ってくんなよ」

「プレゼント…?」

「あぁ、楽しみに待っておけ」

 

 

 ◇◇

 

 

 翌日。

 

 来たる7月11日が訪れた。

 

 グレイとの企みもあり、今日この日は休みを貰いアルドラと街へ出かけた。

 法国の斥候の存在もよぎったが、グレイ曰く『あんだけ燃えせば下手に手は出さんよ』との事で、彼から大銀貨を数十枚貰い、こうしてスイーツ専門店に居る。

 

 鼻を刺激するは、ケーキのスポンジの焼けた香り、生クリームの香り、果物の熟れた香り。

 つまりは甘ったるい空間の中、アルドラは目を輝かせながら皿に乗った小さなカップケーキやタルト、マカロン、シュークリームを眺めていた。

 この手に疎い俺が、どうやってこの店を選べたかと言うと……あの兄弟のお陰だ。……まさか居ねぇよな??? 

 

「ウィルどうしたの? そんなに周りを見渡して」

「いやぁあ、何でも無いよ。あのリンゴのタルト……美味しそうだなって」

「えへへぇ、じゃあコレ食べ終わったら買って食べよー?」

「ああ、そうしよう」

 

 よかった…あの兄弟は居ないみたいだ。不意のエンカウントなんざすれば、俺の心が持たない。

 そんな思いもアルドラには届かず、彼女はパクパクとスイーツを口に入れては「ん~!」と歓喜の悲鳴を上げている。触手のビリーちゃんも、ご主人がご満悦ともあり小さく先端を出し、踊る様にうねっている。

 見ず知らずの人間がビリーちゃんを見れば腰を抜かすのだろうが……幸いな事に、店内の客はスイーツに視線がいき、コチラを見ている暇は無い様だ。

 

 そんなこんなで時間は流れていく。

 一通りの商品は食べ終わりひと段落着いた。ここで俺は、昨日稽古を抜け出して買いに行った物を取り出した。

 丁寧に包装された長方形の箱をアルドラに「はい、誕生日おめでとう」

 と、手渡した。

 

「孤児院で何時もつけてたヤツ…失くしたんだよね? その代わりなんて出来はしないと思うけど、喜んでくれたら嬉しいな……」

「ウィル……。開けても良い?」

「勿論」

 

 赤い瞳の少女は、その包装を綺麗に開け、箱を開いた。

 その中には、小さくも堂々と光は反射する深紅の宝石が輝いていた。

 

「ルビーの、ネックレス?」

「あぁ、ルビーは7月の誕生石らしくてさ…。しかもその赤色は、今のアルドラにヒッタリだと思って…」

「ステキ、ありがとうウィル! ……ずっと大切にするよ!!」

「そう言ってくれて嬉しいよ。じゃあ、第二陣といきますか。お金はまだタンマリあるし」

「いいね! 賛成!!」

 

 

 ◇◇

 

 

 夕方、あの池の畔に建つログハウスには、グレイが夕食を作って待っていた。

「どうせ甘ったるいモノしか食ってこなかったんだろう?」

 と言う彼の名推理は的中し、酸味の効いたミネストローネと焼きたてのバゲットに加え、数種類の小さなチーズが用意されていた。

 胃もたれとは、この事を言うのか……と後悔していたにも掛からわず、彼のお手製スープの香りが意を刺激する。

 

「さあさあ、早くお食べ。食後、僕からのプレゼントがあるからね」

 

 ◇

 

 まぁ実に俺は単純な人間なんだな、と思わせられた。

 グレイの『プレゼント』と言う単語に引っ張られ過ぎて、味わう事には味わったが、手早く済ませてしまったのだ。

 一方アルドラはゆっくり食べていて

「おいし~」

 と、足を微かに動かしていた。

 

「ま、せっかちなウィルくんが食べ終わったって事で。アルドラには悪いが、進まさせて貰うよ?」

「いいよー」

「オッケー。じゃあコレを……」

 

 グレイは書斎に向かい2つの衣装の仮仕立て……マネキンを持ってコンと置いた。

 その後、再び書斎に戻った彼は、腕に衣服らしき物を掛けてやって来た。バサリと良い音を立て衣装を広げ、マネキンに着させていく。

 皮製品のロングコート。黒色ベースに赤がチラつく一着と、コチラも黒メインで青が見える一着。

 

「僕からキミ達への旅装束さ。二人とも高い回復能力があるから、鎖帷子(チェインメイル)は必要ないと踏んでね、機動性に特化し、なおかつ最高品の皮で仕立てたよ。コッチの赤色が有るのがアルドラに。ドレスをイメージして作ったよ。戦う際、ふんわりと舞うハズだ」

「このエロジジイが」

「へへっ」

 

 俺の文句も上の空らしい。

 グレイは鼻歌を歌うように続けた。

 

「で、残ったのがウィルのだ。亡き聖剣アルベールの若いころの正装を再現してやった。明日、それを着て墓参りでもしてやってくれ。喜ぶぞ」

「……。ああ、そうする」

 

 脈絡もなく、突然グレイは俺の師匠の話をしてくれる。

 とても、とても嬉しい反面、また彼も亡くなるのだと思うと切なくなる。

 まるで死ぬ前に、戦友の姿を自慢するように見えてしまう。一つでも多く、思い出した記憶を語っているようで……

 

「ねぇグレイさん」

 アルドラは夕食を終え、彼に質問した。

「最高品の皮って何? 希少な鹿なの?」

「それはね~」

 グレイは楽しそうに指を立て振り、

「キミ達も良く知っている存在だよ? ……恐怖、飢餓、狂気の象徴。永い永い年月、全ての生物を苦しめた最強のドラゴン。……古竜の死骸から剥ぎ取った『翼膜』さ」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 7月12日 曇り 誓約解除まであと6日

 

 グレイが倒れた。

 手も足も灰の様にボロボロと……

 かつて彼が言った『死』の一言を思い出した。

 

 この丸一日、アルドラと交代で看病したが目を覚ますことは無かった。

 けれど呼吸はしている。

 

 明日、グレイが目覚める事を祈る。

 

 

 




お疲れさまでした。

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本文、カエルのナンタラについては『神経反射 カエル』と調べれば動画が沢山出てきますので、ある程度のグロ耐性があれば興味深いモノだと思います。当然、頭部は有りませんので注意です。
個人的に色々調べまして、様々な反射が知れて面白かったです。

最期に紹介して終えます。ここまで読んで頂きありがとうございます!!

レイク・カラッド・アーケバス 16歳 男

・貧民街出身。体つきが良く、孤児院に入る前は、その地域のガキ大将だった。
・赤色の髪、爽やかな性格が彼の特徴。
・貧民街から見上げる美しい城に憧れを持っており、幼い時から聖騎士に入団する事が夢だった。なお現在は、その夢はかなっており、アルドラ・ウィルの為に剣技を高めている。
・脳筋。しかし重要な盤面では冴える。
・一に肉、二に肉、三に肉で四に菓子。
・ウィルとは本気で喧嘩した仲。最終的には彼の正義心を自身にも取り入れ、孤児院でのイジメや陰湿な嫌がらせを解決していた。勿論、筋肉で
・5月に誕生日を迎えた。生ハムの原木を神父にねだったが断られた過去を持つ。

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