特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~ 作:ゼフィガルド
「ふむ。どうしましょうか」
教導国家ドラグマの長であるマクシムスは、大砂海ゴールド・ゴルゴンダの様子をモニタ越しに眺めていた。アルが竜へと変身した様子にリリーサーとディヴァイナーは多少の驚きを見せていた。
「やはり、全身に聖痕を表す位だから。凄い力を秘めているとは思っていたけれど……」
「竜化。の能力も持っているなんて」
竜。ドラグマにおいては非常に神聖な生物とされており、守護獣としても国民に広く知られている。聖女の傍に付けている彼の存在が竜であることが知られれば、伝説の再来として国は湧き立つことだろう。
「そして、その血脈を継ぐ竜人である我々こそ。教導国家ドラグマの唯一の盟友であるべきと考えている」
ドラグマ内でも限られた物しか立ち入れない空間に居たのは、邪教徒とされているハズの獣人であった。
身にまとった黒衣から出ている尻尾は鱗に覆われている。彼は決して爬虫類や両生類などの獣人ではない。
「龍淵氏。私もその通りだと思います。でしたら、盟友である私の頼みごとを聞き届けてくれると嬉しいのですが」
「良いだろう。幸いにも場所が良い。あの大砂海は我が大公の懐だからな」
兜の隙間から除く眼光は鋭く、油断ならない物だった。野望と欲望が渦巻く彼らを見ながら、ディヴァイナーはリリーサーに耳打ちをした。
「(その割には、こんな状況になっても大公さん出て来ないよね。なんでだろう?)」
「(コラ。ディヴァイナーちゃん。出て来たくても出ることのできない状況なのかもしれないでしょう)」
アルやエクレシアが異種族と相対した時など、正に出て来て欲しいタイミングだったし、今も力の暴走をしている彼を止める為に現れて欲しいのだが……一向に出番の気配が見えないことに、ディヴァイナーは訝しんでいた。
~~
「うぅ……」
自分の体が揺れている。エクレシアは呆けた頭で状況の確認を始めた。
目の前には見慣れたパキケファロの後頭部。槌も無ければ、月鏡の盾も無い。そして、今に至るまでの状況を思い出した。
「パキケファロ! アル君は!?」
言葉の意味が分かるのか。パキケファロは自分が来た道を振り返っていた。遠方で何かが起きているらしい。
彼女は荷物の中に在った双眼鏡を覗き込んだ。すると、スプリガンズの巨大船が1頭の竜と激闘を繰り広げていた。
「あの竜は……、まさか。ホールから!? それに。アル君は!?」
彼が自分達を置いて逃げたとは考えづらい。だとすれば、あの竜に襲われたかあるいは捕まったか。いずれにせよ、彼女の中に逃げるという選択肢は無かった。故に、パキケファロの表情は悲壮な物になっていた。
「パキケファロ! 助けに行きますよ!」
多分、この聖女は自分が拒否しても1人で突っ込んでいくだろう。身を護る月鏡の盾も無いとすれば、死ぬために行く様な物だ。
だとすれば、何かがあった時の為に自分も居た方が良い。パキケファロと言う生物が生存本能で動いているかどうかは定かでないにしても、短くない時間を共に過ごして来た少女の願いを叶えるべく、再び戦場へと走っていく。……そんな彼女達に1機と1羽が随伴して来た。
「ちょっと。向こうで何が起きているの!?」
ピーピーと喚き立てているのは、鳥人のターコイズ・ワーブラーだ。そんな彼女を落ち着かせようとするのは、足止めを食らっていたインスペクト・ボーダーだ。
「見た所、ホールから何かが出現したと思っても良さそうですね。マスター。状況の説明をお願いします」
「分かりました」
エクレシアは1機と1羽に先程までの話をしつつ、戦場の中心地へと駆け付けようとしていた。
~~
獣人達の耳を劈かんとする咆哮が響く。突如として現れた『灰燼竜バスタード』は、スプリガンズ達の母艦『エクスブロウラー』に攻撃を仕掛けていた。
赤熱した爪牙が船体を引き裂いて行く。負けじとスプリガンズ達も応戦し、エクスブロウラーから大量のミサイルや実弾が発射されるが、撃退までには至っていない。むしろ、怒りで攻勢を増したのかマストを叩き折っていた。
「早くアイツを何とかしろ! じゃないと、俺達の帰る家が無くなっちまう!」
スプリガンズの一員、『バンガー』も悲鳴を上げながら、自身の体から大量の小型ミサイルを発射していた。同乗者であるマシンナーズ・アンクラスペアも狙撃銃を打ち込んでいるが、まるで効果が無い。
「艦の放棄をお勧めします」
「バカ言うんじゃねぇ! 第一、放棄した所でアイツが攻撃の手を緩めるとは限らねぇだろ!!」
キャプテンのサルガスとしてはあり得ない選択だった。そもそも、艦を放棄した所で暴れるのを止めるという保証は何処にもなかった。
船上がパニックに落ちっている中、船外に出ていたロッキー達はコチラに向かって来る存在に気付いた。
「皆さん! 一体、何があったんですか!? あの竜は!?」
「惚けるんじゃねぇ! アルの野郎が変身して、あんなことになったんだよ!」
「あの竜が、アル君!?」
エクレシアの質問に対しケラスが怒声混じりに答えた。彼女は耳を疑った。
彼が? 何故? 様々な疑問が過ったが、目の前の者達が嘘を吐いている様にも見えない以上、恐らくは事実なのだろう。
そもそも、自分はアルと言う少年のことを殆ど知らないし、彼も自身のことを殆ど知らない。目の前の巨大船を襲っているのが彼の意思なのかすら分からない。だが、やるべきことは決まっていた。
「ならば、彼を止めます」
「どうやって? あの化け物に?」
キットの疑問は最もだ。あの巨大船ですら太刀打ちできていないというのに、自分達がどうにか出来るとは思っていなかった。
「まさか、2人だけの友情とか。そんな感じのでド派手に!?」
「いえ、先程。吹き飛ばされたという月鏡の盾を拾って来ました。これさえあれば、何とかなります」
ロッキーの機体に満ちた眼差しは、インスペクト・ボーダーの淡々とした発言によって切り捨てられていた。だが、流石に盾1枚で怪物をどうにか出来ると思えるほど、彼らは楽観的では無かった。
「私達の母艦に単機で立ち向かっている相手を。君1人でどうにか出来るとは思えない。ここは落ち着いて……」
「出来ます」
エクレシアは言い切った。あまりの迷いの無さにマシンナーズ・ギアフレームだけではなく、他の者達も息を呑んでいた。そして、改めて思い出していた。
聖女。ドラグマの象徴であり、幾度となくホールから現れた脅威を鎮め、敵対して来た者達を打ち払って来た存在。
「インスペクト・ボーダーさん。足替わりをお願いできますか?」
「承知ました」
彼女は月鏡の盾を背負うと、インスペクト・ボーダーと共に目標へと向かう。
バスタードの攻撃によりエクスブロウラーは半壊していた。赤熱した爪牙に加えて、体内で有り余る熱が余波として吐き出されていたこともあった為だ。
放たれた熱波が内部のミサイルや弾薬などを誘爆させ、中も外も地獄めいたことになっていた。
「アル君!」
爆音と怒号が聴覚を支配する中。僅かに聞こえた声にバスタードは振り返った。月鏡の盾を構えたエクレシアがインスペクト・ボーダーと共に突っ込んで来ていた。彼女達が搭乗している反重力ボードは黄金色の光に包まれていた。
「スキャン完了。ボードの強度が対象の脅威を上回りました。突破します」
バスタードはエクスブロウラーから直ぐに対象を切り替えていた。
目の前のボロボロの船は既に脅威ではない。自分に迫り来る彼女達の方がはるかに危険だと判断して、赤熱した爪を振るい、あるいは熱波を浴びせた。
しかし、インスペクト・ボーダーの巧みな操縦により物理攻撃は当たらず、熱波もエクレシアが手にしていた月鏡の盾による加護で防がれていた。
どの攻撃にも怯まず、恐れず。彼女達が乗る反重力ボードはスピードを増し、接近し……白銀の甲殻に覆われた動体を貫いた。
悲鳴を上げバスタードは崩れ落ちていく。巨大な輪郭はボロボロと崩れ落ちて行った。竜の崩れ落ちた場所へと向かえば、散乱したパーツと胸を抑えて蹲るアルの姿があった。
「アル君!」
急いで彼に駆け寄った所で、彼女達は囲まれた。
離れた場所に居たパキケファロも再び気絶させられ、縛り上げられていた。スプリガンズや鉄獣戦線関係者達も殺気立っていた。
「流石に俺達の船をあんなことにしてくれた手前、どう落とし前を付ける気だ?」
サルガスが皆を代表して言った。不慮の事故。等と、言い訳が通じるはずもない。脱出しようにもパキケファロが捕縛されている為、どうしようもない。そもそも、アルも危うい状況だ。
だが、状況的に見ても過失があるのはこちら。とも言い難い。勧告に従わず、戦うことを選んだのは本人達だ。そんな道理が通じる訳もない。降参するしかないと考えていた矢先、地面が揺れた。
「カカカカカ!! ド派手と言う割には、損失を求める辺り。随分と小さい奴らだな!!」
地面から現れたのは人型の上半身に巨大な蛇の様な下半身持つ怪物だった。
誰もが、その威容に囚われて思考が凍り付く中。怪物の腹には幾つもの穴が生まれて、エクレシアを始めとしたドラグマ関係者達だけが吸い込まれて行った。
犯人たちを逃がさまいとスプリガンズ達は手持ちの火器をぶっ放すが、怪物には到底通じていなかった。サルガスが声を荒げた。
「蛇野郎!! テメェ、一体何処のモンだ!!」
「俺か? 俺は、そこの霊峰で大公をやっている者だ。相剣大公 魚腸だ! 覚えておけ!!」
必要な物だけを腹に収めた後、魚腸は砂の中へと潜って行った。
後には、半壊した探索艦エクスブロウラーとバラバラになったマシンナーズ・フォートレスの遺骸が……。
「私は生きているぞ」
「フォートレス殿ォ!」
マシンナーズ・ギアフレームが散乱していたパーツの中から頭部を拾い上げていた。彼は喜んでいたが、頭部だけで会話を続けるフォートレスは不気味と言う外なかった。
「ひとまず、エクスブロウラーが修理できるか確認してみよう」
キットは戦闘用兼作業用メカであるベアブルムを動かしながら、半壊したエクスブロウラーへと向かった。
結果だけを見れば、エクレシア達は鉄獣戦線のみならずスプリガンズ達の行動まで阻害することに成功していたが、砂漠の民である彼らまで敵に回すことになっていた。