特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~   作:ゼフィガルド

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第15幕:ヴィシュダ「ちょっと素材になったり、カードを手札に戻しただけです」

「どうした、アル。浮かない顔をして」

 

 任務失敗した翌日のことである。アルは、配られたカチカチのパンをスープに浸して柔らかくしながら食していると。偶々、同席したテオから声を掛けられた。

 教導騎士団の実働部隊の隊長格でありながらも、まるで自分のことを弟のように慕ってくれる彼にならと思い、打ち明けた。

 

「先日の任務で少し。……テオ、もしもの話だけれど。ある日、急に自分の丈に会わない程の力を手に入れたらどうする?」

 

 アディンや皆からも多少の話は聞いていた。テオに浮かんだ聖痕はかなり強力な物であるらしく、故に。こうして隊長に収まっていると。

 アルがこの様に切り出す。ということは、先日の任務でハプニングがあったのだろう。テオが具体的な話を聞き出そうとしなかったのは、ドラグマの教義に触れる可能性もあったが、苦い経験を話させようとしない気遣いもあったのだろう。

 

「そうだな。俺なら、調子にのるな。きっと、暴れている邪教徒共を成敗して、ドラグマの下で改宗させようと躍起になっているだろうな」

 

 変に仮定を取り付けない辺り、似たような経験があったのかもしれない。

 相槌を打ちながら発するべき言葉が思い浮かばないときは、敢えて固いパンを頬張って口の中を埋めた。

 

「でも、いつの間にか目的は二の次になっちまうんだ。やっぱり、誰かに勝てる。上回れるって言うのは本当に気持ちが良いからな」

 

 ほんの一瞬であるが、明朗快活を体現した男の横顔が嗜虐に歪んで見えた。彼の変貌ぶりにアルは多少驚いたが、直ぐに元の表情に戻った。

 

「実績も箔も付いたら、いつの間にか隊長も任されるようになっていて最高だった。部下や皆も俺のことを慕っていた。もしも、叙事詩なら傲慢になって多数から反感を買って……ってのが、定番だけれど、俺はそんな馬鹿な真似はしなかった。キチンと部下とは節度ある付き合いもしていた」

 

 当時の残滓とも言える様なドヤ顔が浮かべていた。実際、そんな状況で節度を守れるというだけ大した物だろう。

 

「なにか転落イベントは?」

「何、期待しているんだよ。……って、言いたいけれど。無い訳じゃないんだよな。ある日のことだ。俺はいつもの様に邪教徒の制圧とかにも向かっていたんだが、とんでもなく強ぇやつと会った。まるで歯が立たなかった」

 

 別段珍しいこととは思わなかった。エクレシアも数々の討伐任務を成功させていたが、先日の一件では装備品を奪われた末に撃破されていたのだから。

 

「その時だ。他の奴らはどうしたと思う?」

「テオを守るために立ち向かった。とかか?」

「そう思うだろ? 実際は殆どの奴が逃げ出しやがった」

 

 そうならないようにと警戒した立ち回りをしていたらしいが、結局は定番のコースを辿ったらしい。

 

「実は嫌われていたとか?」

「一瞬、俺もそれを過ったんだがよ。その後の部下の悲鳴がよ『隊長がやられた。俺達じゃ敵わない!』だったんだよ」

 

 嫌われていた訳ではない。むしろ、頼りにすらされていただろう。いや、頼りにされ過ぎていたのだろう。

 力は本人だけではなく、周りの認識すらも変えてしまう。テオは強く模範的であろうとした為、周りの者達から戦う気概を奪ってしまっていたのだろう。

 

「だから、そうならないように俺は力を手に入れたら使い方を考えるね。例え、本人が謙虚なまま善意で力を振るおうと、周りの印象や考え方は変わっちまう」

 

 アルも小さく息を呑んでいた。もしも、テオが力を手に入れて傲慢になって見放された……と言う、話を聞いていたら。そうはならないようにと言う自戒だけで終わっていただろう。

 だが、そう意識したとしても周りの印象や考え方まで変えてしまう。までは、考えが及ばなかった。未だに引き出し方が分からない力であるが、心に止めておきたくはあった。

 

「ありがとう。参考にする」

「良いんだよ。にしても、お前。凄いな。あのクソ固いパン噛み砕いたのか?」

 

 言われた後に気付いた。自分は、あの石の様に固いパンを噛み砕いていたのかと。元に戻った様で変化は起きているのかもしれない。

 彼は食器を下げると、先日の報告の続きをするべくマクシムスの下へと赴くことにした。

 

~~

 

 先にエクレシアも来ていた。彼女だけではなく、こういった場には珍しくインスペクト・ボーダーまで来ていた。

 マクシムスの傍にはリリーサーとディヴァイナー。そして、見慣れない者が1人。だが、何処となく既視感を覚える見た目はしていた。

 アル達よりも巨漢であり、背中には1本の黄金色の刀剣を担いでいた。目を引かれたのは、彼の股の間から見える大きな尻尾。

 

「エクレシア、アル。彼は魚腸の同志であす。今後、長い付き合いになるでしょうから挨拶をしておきなさい」

「魚腸殿から話は聞いている。俺は龍淵と言う。以後、お見知りおきを」

 

 放たれる威圧感にアルは気圧されていた。今まで出会って来た誰とも違う。胸が詰まる様な、息苦しくなるような感覚があった。

 エクレシア達も挨拶を交わした後、マクシムスに昨日の説明を始めた。鉄獣戦線がスプリガンズと手を組んでいたこと。彼らもまたホールから来た者達の力を取り入れていること。そして、アルが竜化して暴れ回り、魚腸に救われたこと。

 

「ホールから現れたこと、聖痕が全身に浮き上がったこと。これら全てのことは偶然ではありません」

「偶然でないとすれば一体?」

 

 マクシムスはアルの下まで歩み寄った後、彼の両肩に手を置いた。

 

「決まっています。エクレシアに出た聖痕とは対になる聖痕の持ち主。そして、あの日の出会いも鑑みれば、間違いはありません。アル、君は守護竜の生まれ変わりなのです」

 

 あまりに突拍子の無いことを告げられ、飲み込むのに暫く時間が掛かった。代わりに、エクレシアが声を上げた。

 

「守護竜。とは、初代聖女であるクエム様の下に降りたという?」

「はい。ドラグマの今日に至るまでの発展を導いてくれた存在。きっと、今も大陸が荒れているのを見て、再び我々に力をお貸し下さったに違いありません。故に、貴方は力の出し方を学ばなければなりません」

「一体、どうやって?」

「戦うのです。邪教徒と。今回の竜化もスプリガンズと言う廃品荒らし共と戦うことによって覚醒しました。ドラグマに仕えようとする心が、貴方の力を解放させるのです」

 

 両手に置かれた手に力が込められ、咄嗟に身を引いた。マクシムスも自分がやった事に気付いたのか、一歩下がった。

 

「マクシムス様。戦って力を解放させるべきとは?」

「テオにも通知しています。貴方は今後、外部の邪教徒の改宗部隊へと所属していただきます。必ず、任務の際はこれを身に付けていて下さい」

 

 マクシムスから手渡されたのは掌に収まる小さな像だった。黒紫色で何処となく禍々しい雰囲気を放っている。

 

「これは。結界像、ですか?」

「はい。きっと、あなたのことを守ってくれるでしょう。そして、万が一に備えて。貴方の作戦には龍淵殿が同行してくれます」

「貴様が暴れ出したとして、抑えられる存在が居るとすれば俺位だ。何処へと向かえば良い?」

 

 マクシムスが操作をすると壁面のモニタに映像が映し出された。獣人達の群れが何処かへと向かっている。彼らを率いているのは鉄獣戦線のリーダーであるシュライグだった。

 

「彼らはとある場所へと向かおうとしています」

 

 モニタの映像が切り替わる。すると、そこには別の獣人達が運営しているキャンプがあった。中でも目を引いたのは、街の中央に鎮座している巨大なご神体と思しき……巨大な機体だった。

 

「何だこれは。スプリガンズ達よりもはるかに大きいが」

「最終決戦兵器だと言っていました。アル。君に任務を言い渡します。鉄獣戦線が合流しようとしている獣人集団へと向かい、危険物の排除と彼らの合流阻止をお願いします」

「マクシムス様! 私も……」

「駄目です。貴方は顔が割れていますから」

 

 彼女の提案は突っぱねられた。エクレシア程の有名人にもなれば情報が共有されている可能性があった。

 その点、アルにはいくらか知り合いがいるにしても顔が広く知れ渡っているということは無いだろう。

 

「良かったじゃないか。例の竜化が使えれば、随分と簡単な任務だぞ」

「俺は破壊をばら撒きたい訳じゃない」

 

 先程までのテオとの会話を思い出した。今回の任務で竜化の有効性が示されてしまえば、自分は破壊と暴力の象徴として見なされるだろうと。

 

「その通りです。貴方は破壊をばら撒かないために学ばなければなりません。必要な状況で、必要なことが出来るかを。今回の任務で見せて下さい」

「マクシムス様。そう言うことではなく」

「さっさと行くぞ」

 

 無理矢理話を断ち切られた。表に出れば、そこには信じがたい物があった。

 黒く、禍々しい靄の様な物が、宙に浮いていた。自分達程度なら軽く載せられる程に長い胴体は、先日に見た魚腸を彷彿とさせた。

 

「ヴィシュダ。向かうぞ」

 

 龍淵に腕を掴まれ、ヴィシュダと呼ばれた存在の背中に乗ると直ぐに飛び立った。インスペクト・ボーダーに勝るとも劣らぬとも速さで空を駆ける。

 

「龍淵。彼も霊峰の仲間なのか?」

「いや、コイツはホールから落ちて来た存在だ。ただ、我々と似通っているから、こうして手を組んでいる訳だ」

 

 淀んで空の上をグングン進んで行く。果たして、自分は向う先で何をするというのだろうか? 自分が何かをしなくとも、龍淵やヴィシュダが何とかしてくれそうな気がしつつも。彼らは空路を進んでいた。

 

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