特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~ 作:ゼフィガルド
「ドランシア姉さん。本当に、鉄獣戦線と組んで良かったんでヤンス?」
十二獣。彼らはホールを通じてやって来た獣人達であり、各々の手には身長ほどもある武器が握られている。
この集団の中でも一際小柄な少年がリーダー格と思しき女性に尋ねていた。だが、彼の質問に答えたのは粘着質な雰囲気を纏う青年だった。
「ワイルドボウ。既にこの世界については、ある程度の調べが付いているだろう? ドラグマに服従するのはあり得ない。飼い殺しにされるだけだ」
「私もヴァイパーの言う通りだと思う。何より、この御神体が我々以外の手に渡れば、周囲への悪影響は計り知れない」
巻き角と竜人を彷彿とさせる剛健な尾を生やしたリーダー格の女性。ドランシアは、ヴァイパーの意見に賛同していた。
「なんで、こんなに急に事態が騒がしくなったんだろうね。今までは、鉄獣もドラグマも小競り合いを続けていた位だったのにね」
「ドラグマの方で変化があったんだってよ。概ね、ホール関係のことだと、フラクトールが言っていた。って、モルモラット? 俺、この間説明したよな?」
「ごめん。寝てた」
ワイルドボウと同じく小柄な少女。鼠を彷彿とさせる彼女は、突っ掛かって来た青年、サラブレードに対して軽口を叩いていた。
事の重大さを把握していないモルモラットに皆が溜息を吐いている中、1人だけカラカラと笑っている男が居た。
「良いじゃねぇか。こんな時だからこそ、お前みたいに笑っているのが丁度良い。思い詰めた所で碌なことになりゃしねぇ」
「でしょ!」
「ブルホーン兄さん。相変わらずですね」
彼らの中でも特に大柄な男。ブルホーンの楽観ぶりに、犬型の獣人であるライカは耳と尻尾をペタリと伏せていた。
出来れば、自主性は守りたいがこれ以上独立を保っているのも困難だろう。ならば、横のつながりを強くするしかない。ということで、十二獣は今回の提案を飲むことにした。
反抗勢力である鉄寿戦線と組むということは、自分達もドラグマと敵対するということであるが、服従する訳にはいかなかった。
今後の付き合い方については十分に話し合う必要がある。と考えていた矢先のことである。真っ先に声を上げたのは、モルモラットだった。
「皆! 上!」
小動物の血が入っている彼女は危機感地能力が非常に高い。
彼女に言われた通り、空を見上げてみれば黒い靄で形作られた長い蛇の様な存在が自分達を睨んでいた。その背中から、2人の男が降りて来た。
片方は何の変哲もない色黒の少年だったが、もう片方はドランシアと似通った容姿をしていた。
「お初にお目に掛かる。俺の名は龍淵。単刀直入に言おう。鉄獣戦線などに付かず、ドラグマに付け」
どうやら、鉄獣戦線は一足遅かったらしい。だが、相手はたった2人。角を立てずに去って貰うのが賢明と考えたのか、ヴァイパーが前に出た。
「ご足労いただき、ありがとうございます。ですが、我々は自主性を重んじる集団であり、どの勢力と組むかなどは」
「欺瞞は良い。アル、例の品を解放させろ」
「分かった」
龍淵があるに命じると、彼は懐から小さな包みを取り出して開封した。
瞬間のことである。ドランシア、ブルホーン、ワイルドボウ、ライカが態勢を崩した。残された者達が困惑する中、サラブレードが声を上げた。
「おい! 何をしやがった!?」
「さぁな。……さて、俺達は平和主義者なのだ。争うなんて真似は止めてじっくりと話し合おう。我々、ドラグマと共に歩んで行く未来を」
「ふざけんな!」
サラブレードが切り掛かるが、龍淵は容易く防いでいた。
その隙にモルモラットは戦場から逃げ出し、ヴァイパーが皆に駆け寄ろうとする中、アルが立ちはだかった。
「手荒な真似をするつもりはない。だが、お前達が鉄獣戦線に付くとなれば、争いは激しくなるんだ。断念して貰いたい」
「こんなことをする相手の提案を飲むとでも!」
ヴァイパーが手にしていた鞭が躍る。蛇の様に複雑な軌道を描きながら、アルを打ち据えようとしたが、空中でバラバラになっていた。
刃物らしい物は見えなかったのに。一瞬、生まれた思考の隙間を突くようにして、アルは肉薄してヴァイパーを締め落していた。
「ヴァイパー! よくも!」
唯一、残った戦闘員であるサラブレードとアルが対峙した。
態勢を崩して地に伏している面々は動けずにいた分、思考を走らせていた。ドランシアは、今までの流れを整理していた。
「(まず、龍淵と言う男。守備に関しては優れている様だが、攻勢に出なかったことから攻撃の方は不得手なのだろう。一方、あのアルと呼ばれた少年は強いな。サラブレードでは勝てないだろう。何とかして、我々が助力しなければならないというのに)」
不思議なことに体に力が全く入らなかった。一体、何処に原因があるのかと思い返せば、龍淵と言う男が少年に命じて何かを取り出させた瞬間のことだった。
「(少年が包から取り出した、あの像。アレが表に出た瞬間、我々の力が削がれたとすれば、やはりアレが原因なのだろうな。だが、どうやって破壊すれば?)」
先程の像は何処へとやられたのか? アルは取り出した後、何処かへと仕舞っていた。つまり、勝てなくとも破壊さえすれば。
「サラ! ソイツは倒せなくてもいい! さっき、ソイツが取り出していた像を破壊しろ! そうすれば、何とかなる!」
「分かった!」
だが、白兵戦はアルの有利で進んでいる。振るう大剣は弾かれ、胴体に目掛けた攻撃を避け続けてはいるが、完璧には回避し切れず。負った傷でジワジワと動きが鈍っている。
だが、サラブレードの目は諦めていなかった。徐々に体力を削られつつも、油断をした所で、懐へと飛び込めば……と考えていた中でのことである。
「龍淵! コイツを預ける!」
「分かった」
動きが鈍っていた。だから、アルが重要物を龍淵へと投げ渡す瞬間を阻止できなかった。地に伏せていた者達の目が驚愕に見開かれ、サラブレードにも動揺が走ったのを、アルは見逃さなかった。
一瞬の内に回り込んで、関節を極めた。堪らず武器を取り落とし、組み伏せられた所で、口と鼻に何かが沁み込んだ布を押し当てられた。
「これ以上、暴れないでくれ」
「うぅ、くそ……」
全身から力が抜けるような甘い香りだった。間もなくして、サラブレードの意識は落ち、この場の制圧が完了した。
「上出来だ。1匹逃したが、構わん。ヴィシュダ。この者達を全員乗せて、ドラグマへと戻るぞ。それから、このデカブツもだ」
龍淵が明治、ヴィシュダが降りようとした時のことである。一迅の風が、黒い靄の掛かった巨体を吹き飛ばしていた。
地に伏せていた者達の驚愕は歓喜の物へと変わり、龍淵が舌打ちをした。空からは、鉄獣戦線最強の男が自分達を見下ろしていた。
「どうして、俺だけが無事だったかは分からないが。ドラグマ。これ以上、貴様らの好きにはさせんぞ」
凶鳥のシュライグ。ドラグマに幾度も煮え湯を飲ませた男の攻撃にはまるで、迷いが無かった。上空からの銃撃は、正確無比に彼らに放たれていた。
防御や回避行動を取ろうとすれば、一気に降下して銃撃を叩き込んで来る。龍淵も防ごうとしたが、あまりの勢いに態勢が崩された所で強烈な蹴りが叩き込まれた。
「グハッ!?」
「龍淵!?」
シュライグの一撃を受けた拍子に、彼へと預けていた結界像が砕け散った。
態勢を崩していた者達が立ち上がり、皆が倒れていたサラブレードとヴァイパーの下へと近寄って、目を覚まさせていた。
「形勢逆転ね」
「先程は油断しましたが、万全な状態ならば問題ありません。私がサポートに徹する以上、貴方達に勝ち目はありませんから」
ヴァイパーや皆からの激励を受けたドランシアが武器を構えて近付いて来る。一転して、アル達は不利な状況へと追い込まれた。だが、これに近しい状況は、先日も体験したばかりだ。近くへと転がって来た、結界像の残骸を砕いた。
前回と違って、ある程度の状況を確認した上で行う為、何も分からないということは無かった。自分の内側から沸き上がって来る声に耳を傾けた。
「(強い奴が良い)」
あの時、ゴールド・ゴルゴンダで飲み込んだ相手は強い奴だった。だとすれば、龍淵を打ち負かした男を飲み込んでも行けるはずだ。
上着を脱ぎ棄てた。全身に浮かび上がった聖痕がブスブスと音を立てている。誰かを吞み込みたくて堪らない。そう言っている様だった。
「止まれ!」
ドランシアは得物に力を籠めと破壊しようとするが、ピシャっと顔に何かが掛かった。見れば、倒れていた龍淵の手から液体の入った杯をぶつけられていた。すると、どうだろうか。獲物に込めていた力は掻き消えていた。
「お前でも良いか」
「な!?」
上半身裸のアルがドランシアへと組み付くと、2人の姿が光の中へと消える。急速な勢いで輪郭が膨れ上がった後、光が収まると。そこには灰燼竜バスタードの姿があった。
先日、ゴールド・ゴルゴンダで見せた物と同じだが、今回は一点だけ違うことがあった。
「これが俺の力か」
今回はアルにも意識があった。未だに熱病にうなされている様に、ハッキリとしない部分はあったが、前回よりはかなり意識が残って居た。
「本当に竜だったとはな。お前は、その力で何を求める?」
「平和だ」
「ドラグマから与えられた。か?」
仮面に覆われているので表情はどの様な物かは分からなかったが、言葉には軽蔑と共に僅かながらの憐憫が入り混じっている様に思えた。
「俺には他の世界が分からない。だが、お前達が反旗を翻すから争いが起こるのは分かる。大人しくしろ!」
「お前の力は俺には届かない」
赤熱した爪や牙を振るうが、凶鳥を捉えるに至らない。周囲を焼く熱波もシュライグは風の動きを読んでいるが如く、ギリギリで避けて、直ぐに反転をして銃撃を放って来た。
白銀の甲殻が穿たれ、翼を砕かれる。体格差など物ともしない実力差があった。十二獣達も呆気にとられる中、集落の中央にある御神体は僅かながらに振動していた。
人型を模して造られている巨大な機体のツインアイに光が灯る。上空での力の奔流だけではなく、その周囲に生じる空間の変調。即ち、ホールの出現も含めて観察をしていた。