特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~ 作:ゼフィガルド
「それで。貴方は逃げ帰って来た訳ですか?」
ヴィシュダと共に戦場を脱した龍淵が報告をした所、マクシムスからは冷ややかな反応が返って来た。
「随分な物言いだな。あの場に残ることに何の得がある? 奴が取った行動の方が異常だ」
彼の言い分は、ドラグマが掲げている教義に照らし合わせれば真っ当である。
あのまま行けば、こちらは痛手を負うことも無く。十二獣はおろか鉄獣戦線の者達まで排除することが出来たかもしれないというのに、アルは彼らを守ろうとしたのだ。
「異常? いいえ。彼こそ、ドラグマの大義を体現した素晴らしい信徒です。教義に背いた者達にさえ平和を恵む、慈しみに溢れた姿。この大陸をまとめる上では欠かせない物です」
「大した博愛主義だ。結果として、奴は囚われた。十二獣は鉄獣戦線と合流し、得体のしれない化け物の残骸を回収する機会まで与えた。何一つとして、得る物が無かったではないか。奴をどうする?」
むしろ、アルが捕まったことを考えれば失った物の方が大きかったとさえ言えるだろう。彼を見捨てるのか、奪還するのか。
もしも、交渉の様な軟弱な対応を選ぶというのなら今後の付き合い方も考えねばならない。マクシムスが口を開いた。
「心配は要りません。彼は戻って来ますよ」
「何か策が?」
「運命です」
耳を疑う発言だった。何一つとして根拠もないというのに、マクシムスはまるで疑っていない。この男が信仰心だけで動いている狂信者と言う訳でないことは、龍淵もよく知っている。
「ならば、その運命とやらに期待させて貰うか」
皮肉交じりに言ったが、マクシムスは優しく頷くだけだった。壁面のモニタには、件の現場が映しだされていた。
~~
「うぅ……」
この世界に来てから、よく意識が飛ぶようになった。ただし、今回は直前まで何をしていたか憶えていたので、混乱は少なかった。
「起きた?」
隣を見れば、猫耳を生やした獣人の女性が居た。無警戒な様に見えて、何時でも飛び跳ねて距離を取れるような態勢を取っている。
どうやら、ここは天幕の中であるらしい。自分は簡易ベッドの上に寝かされているらしい。起き上がろうとしたが、全身に力が入らない。
「無理しない方が良いよ。アル君だったっけ? シュライグから聞いたけれど、胴体ぶち抜かれていたんだもん。暫くは動けないんじゃないかな?」
その割には外傷や治療痕は見当たらなかった。竜化した際に負った傷は、人間状態になれば全てが無かったことになる。訳でないことを実感させられていた。
「貴方は?」
「私? フェリジット。ゴールド・ゴルゴンダでの話は妹から聞いているよ」
そう言えば、おぼろげな記憶しかないが。スプリガンズ達の中にいた獣人の少女とよく似ている様な気がした。
自分のことも話そうと思っていたが、先程名前を呼ばれたことを思い出していた。ならば、尋ねるべきことがあるとすれば。
「俺をどうするつもりだ?」
自らの処遇についてだろう。シュライグや十二獣達に助太刀はしたが、本来は敵対している者同士。ドラグマがして来たことを鑑みれば……ある程度の覚悟は必要だろう。
「どうもしないよ。別に君を取引材料に使ったりとか、見せしめとかにしたりするつもりはないし。第一、周りの子達が許さないだろうしね」
「何故?」
「君はドランシアや十二獣、シュライグを守ってくれたでしょ? ……ここに居たのがあの聖女ならば、話も違っていたけれどね。」
エクレシアと共に来ていなくて良かったと、内心胸を撫でおろしていた。
それと、同時に僅かばかりの喜びもこみ上げていた。ドラグマに所属しているからと言って、全ての獣人達と敵対しなければならない。ということは無かったのだから。
「そうか。貴方達が無事だったなら、良かった」
「これからどうするの? ドラグマに戻る?」
出来るならそうしようと考えていた。しかし、自分はヴィシュダに乗ってここまで連れて来られただけなので、戻り方が分からなかった。
「実は、ドラグマへの戻り方が分からないんだ。俺を連れて来た奴が先に逃げたから」
「薄情な奴だね。かと言って、私達が君をドラグマに送り届ける義理はないし」
恩義は感じているが、そこまでするつもりはない。当然のことだった。
彼女達も長らくここに留まることは無いだろう。ひょっとしたら、迎えが来るかもしれないが期待は出来ない。
「そうか。仕方ない話だ」
「……ねぇ。それならさ。暫く、私達に付いて来ない? アル君。ドラグマの外に広がる世界のこと。あんまり知らないでしょ?」
フェリジットからの提案にアルは面食らっていた。ドラグマの外の世界については資料などでしか知らない。生の知識を得に行くということで、魅力的な提案ではあったが。
「良いのか? 俺はドラグマに所属しているんだぞ」
「君は特別だって。それに、もしも戻ることになっても。話が通じる子が居たら、色々と融通も利くかもしれないしね」
人情だけではなく、キチンと政治的な意味も含んでいるとなればアルも受け入れることに抵抗は無かった。
「そう言うことなら、そちらの提案に堪えさせて貰う。よろしく、頼む」
「そんな堅苦しくなくても大丈夫だから。じゃあ、これからよろしくね」
起き上がって握手することは出来なかったので、そっと手を握られた。
エクレシアといるときの様な感覚とは別に。まるで包み込まれる様な温かさを前に、アルの意識は微睡の中に落ちて行った。
~~
「アル君が?」
エクレシア達を呼び出したマクシムスは、アルが獣人達に力を貸した後、捕まったであろうということを告げた。報告を受けたテオが立ち上がる。
「だったら、こうしちゃいられねぇ。マクシムス様! 救出部隊を結成しましょう! 俺も行きます!」
「落ち着け、テオ。こちらの動きを知られれば、向こうを刺激してしまう。マクシムス様、何かお考えがあって呼び出したのですよね?」
彼を諫めながら、アディンが問うた。マクシムスはゆっくりと頷いた。
「はい。まず、この事態を公言しないこと。余計な混乱を招きかねませんから。それと、この件に関しては手を出さないことです」
むしろ、何もしない。と言う選択肢にテオ達は耳を疑った。彼らが衝撃を受けている中、エクレシアが口を開く。
「よろしければ、マクシムス様のお考えをお聞かせ願いますか」
「アルは非常に瑞々しい感性を持っています。貴方達のドラグマに対する帰属意識は大変嬉しく思いますが、考え方が偏っている可能性は否めません。故に、彼には橋渡し役になって欲しいのです」
「まあ! アル君には打って付けですね!」
エクレシアの瞳には一切の曇りが無かった。ただ、テオとアディンだけが眉間に皺を寄せていた。
「(なんで、そんな無垢に喜べるんだ? アルの身に何が起きるか心配じゃないのか? 虐待されている可能性だってあるんだぞ)」
「(前から思っていたが、どうにもエクレシア嬢はマクシムス様の考えに賛同しすぎる傾向がある)」
彼女の迷うこと無き信心深さはドラグマ内でも経緯を抱かれる物ではあったが、同時に1人の少女としての感性が奪い去られている様にも思えた。
アルを助けに行かない理由として述べられた建前は十分な様に思える中、エクレシアから遠ざける様な意図を感じずにはいられなかった。
「(一体、何を企んでいるんだ?)」
そして、先程から一言も発していないフルルドリスはマクシムスを睨みつける様な視線を送り、まるで疑うことを知らない妹分に対しては憐憫の視線をも向けていた。