特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~ 作:ゼフィガルド
マクシムスから話を聞いたエクレシアは自室に戻った後、溜息を吐いていた。
皆の手前、感情的な振る舞いは避けていたが、やはりアルのことが気になっていた。流石に命の恩人とも言える相手を粗雑に扱う程、獣人達が畜生で無いことは信じたかった。
「(マクシムス様は干渉するべきでないと言っていますが、やはり気になりますね。仮に鉄獣戦線の皆さんが悪意なく歓迎していたとしても、アル君が生活に適応できるか。……そもそも、獣人の皆さんがどんな風に生活しているかをあまり考えたことがありませんでしたね)」
ドラグマに住まう獣人達も多いが、彼らの生活は人間に合わせた物であることが多い。種族的に食せない物などはあるし、嫌がる行為もあるが大きく違うことは少ない。
ただ、ドラグマの外にある獣人達がどの様に過ごしているのかは分かった物ではない。どうやって、安定して食料を供給しているのか。
「マスター。悩んでいますね?」
彼女の悩みを察したのか、部屋内で待機していたインスペクト・ボーダーが起動していた。相棒枠に割って入ろうとする彼を疎んでか、パキケファロが威嚇する姿勢を見せるが、エクレシアは彼の頭を撫でて宥めていた。
「はい。アル君は彼らの生活に適応できているのかと。少ない食事。ひょっとしたら、虫や毒とかを食べさせられているんじゃないかと思って」
「えらい、ステレオタイプな考え方ですね」
ステレオと言う言葉の意味は分からなかったが、恐らくは偏見的な意味だという風に受け取った。
「でも。私、ドラグマの外にいる他種族のことは殆ど知らなくて」
「だったら、知ればいいのですよ。ドラグマにも沢山の獣人の方がいらっしゃるんですよね?」
「はい。でも、彼らの基本生活は私達と殆ど変わらないでしょうし。何より、昔のことを思い出したくないという方も多いですから」
ドラグマ内に住まう獣人達は国家の外にいる者達を嫌悪する方向が強い。
未だに対立を続けている彼らに賛同をすれば、自分の立場が悪くなるということもあるだろう。また、ここまで落ちのびて来た者達は元の帰属団体に何かしらの遺恨があることが多い。故に、彼らは外に居た頃を振り返りたがらない。
「確かにドラグマ中心部に住んでいる方達はそうかもしれません。しかし、郊外に住んでいる方達はまだ、外での生活を色濃く残しているかもしれません」
郊外。ドラグマは獣人達をも受け入れているが、直ぐに街の中心部へと案内される訳ではない。
まず、ドラグマの外周部分とも言える場所に住み、そこでの働きや行いを評価され、始めて聖痕を施される。そうして、やっと正式な国民として認められるのだ。
「確かに。彼らはまだドラグマの生活に馴染み切っていない人達です。ですが、私が郊外に立ち入れるのでしょうか?」
街の中心部ほど整備されている環境ではないので、荒れている部分も多い。
警備の物が巡回しているので、ドラグマの外よりはマシと言えるかもしれない。しかし、その様な場所に聖女が立ち入ることは難しいと思えた。
「でしたら、交渉をしてみましょう。昨今はホールの影響で外にも獣人達が増えています。彼らが徒党を組んで、反抗しやすい状況を崩す為にもドラグマが如何に平等であるかを喧伝する為の慰問。ということでどうでしょうか?」
「それは良い案です!」
それならば業務の一環としても認められるかもしれない。勿論、1人で行く訳には行かないので、誰かしらに付き添って貰う形にはなるだろうが。
早速、彼女はマクシムスの下へと趣いてインスペクト・ボーダーからの提案を我が物の様に話して見せた。快諾……されることは無く、少しばかり言い辛そうにしていたので、傍に控えていたリリーサーが口を開いた。
「なるほど、面白い宣伝活動だと思うわ。郊外にいる子達のやる気にも繋がると思うしね。でも、パフォーマンスになって却って顰蹙を買う可能性も高いんじゃない?」
リリーサーの指摘を受けてエクレシアは言葉に詰まった。聖女の慰問と言えば聞こえは良いが、ドラグマの意向を示すという意味も多分に含まれている。
郊外にいる獣人達を見捨てないという意味があるにしても。仰々しく行えば、ドラグマの権威を振りかざしている。と言う風にも受け取られかねない。
「(それに。もっと言えば獣人の皆さんの生活を知るのが目的なのに、あまり仰々しくなったら、彼ら個人と接するのが難しくなりますね……)」
それらしい理由を付けてしまったら、今度は格式を重んじる必要が出て来る。そうなると、彼らの生活を知るという目的が果たせなくなる。
マクシムスが口籠ったのはここが原因だろう。正直、彼女の提案に労力を割くメリットが少ない。と言いたいのだろう。皆が口籠った所で、恐る恐る手を挙げたのは意外な人物だった。
「だったら、個人調査と言う形でどうでしょうか?」
宣告の神巫(デクレアラー・ディヴァイナー)が控え目に提案していた。普段は滅多に口を開かない彼女が自分から言い出したことに、マクシムスも多少の驚きを見せていた。
「ディヴァイナー。それは、貴方の意見ですか? それとも。神託でしょうか?」
「神託です。仰々しくやればただの宣伝ですが、彼女の意思で行ったとすれば、これはドラグマの慈悲の表れになるかと思います」
ドラグマと言う国家の意思ではなく、彼女自身が行ったとすれば。聖女の偶像化はより強固な物になるだろう。上手く行けば、他種族たちの帰属意識はより強くなるかもしれない。
「ふむ。貴方の口添えもあるのなら一考に値しますね。ただ、流石に彼女だけに向かわせる訳にはいきませんね。獣人の護衛を付けるので、テオに見繕って貰いましょうか」
「マクシムス様。それなら、私に考えがあるわ。遣いをやって欲しい家宅があるの」
リリーサーの手配が住むまでの間、エクレシアは郊外へと向かうのに相応しい恰好をするべく、潜入用の衣装を見繕うこととなった。
無理かと思っていた話がまとまることになった要因を作ってくれたディヴァイナーに礼を言うと、彼女は静かに頷いた。
「これもきっと、必要なことだから」
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「あの。僕達に何の用が……」
リリーサーに連れて来られたナーベルとアルベルは困惑する外なかった。
彼らは街の中心部に住まう者達であり、獣人でもあり、なおかつエクレシアと年も近い者達であるが、騎士団などに所属している訳ではない。
「ごめんねぇ~。この子が、郊外の様子を見に行きたいっていうから! 貴方達、最近戻って来たばかりでしょう? だから、郊外を見て回る相手として自然だし、一緒に付いて行って上げて欲しいの! アル君の知り合いである貴方達にしか頼めないことなの!」
エクレシアもナーベルやアルベル達のことは知っていた。もしも、彼らが同行してくれるなら、心強くもあるが。
「良いよ。外ならぬアル君の友人の頼みだからね。僕も付き合うよ」
「ありがとう~! 助かるわ!」
感謝の意を表したいのか、自分の欲望なのかは定かでないにしても、リリーサーは豊満すぎるボディでアルベルをハグしていた。
「でも、もしも。何かがあった時、僕達じゃエクレシアさんを守るのは難しいんじゃ」
ナーベルの心配は最もだ。郊外は治安も良くは無く、エクレシアの様な美少女が闊歩していれば、何かしらの犯罪に巻き込まれる可能性さえある。
「大丈夫ですよ。ほら、月鏡の盾も背負っていますし」
郊外に潜むのに相応しい衣装を着て、荷物を持ち運ぶようなリュックを背負っているが、中にはキラキラと輝く月鏡の盾が収納されていた。
「なら、安心だ。むしろ、僕達が絡まれたとしても助けてもらえるかもね」
リリーサーの拘束から解除されたアルベルはシットリしている様な気もした。
街中に住むようになってから、ナーベルとアルベルの衣装は簡素な物に変わっていたこともあり、潜入用に新たに調達する必要も無さそうだった。
「はい! 2人が酷い目に遭ったら、バリバリ助けちゃいますよ!」
「潜入なんだから、騒ぎは起こさない方が良いんじゃ…・…」
ナーベルがボソッと注意を入れたが、エクレシアの活気の前では掻き消されるばかりだった。かくして、ドラグマに住まう3人の少年少女は最も身近な外部へと向かうこととなった。