特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~ 作:ゼフィガルド
ドラグマと言う国家の外殻部分。今も増築が続けられており、現場監督の指示の下。獣人達が建築作業に当たっていた。屈強な獣人達は建築材料の運搬などに当り、そうでない者達は別作業に従事している。
だが、奴隷的と言う訳ではない。獣人達は適宜休憩を取り、食事をしつつ談笑に興じている。種族が違う獣人達が和気藹々としている様子を見るに、ここもまたドラグマの庇護下にあると思えるような物だった。
「郊外。って言うから、もっと荒れているかと思っていたけれど」
「ルールに従ったら生きられるって言うなら、大人しく従った方が賢いからね」
ナーベルが予想していた様子とは違ったが、アルベルの言うことは道理だった。そもそも、外の世界は種族内のルールに従った所で安寧も明日も約束される訳ではないのだから。
2人が納得していると。忽然とエクレシアが姿を消していた。何処に行ったのかを探してみれば、先の作業現場で配膳を手伝っていた。
「お疲れ様です!」
「おぉ、嬢ちゃん。ありがとうよ。見ない顔だな?」
あまりの自然体にナーベル達は元から働いていたんじゃないかと言う錯覚を覚えていた。そして、彼女は極自然に会話を続けていた。
「はい。つい、先日やって来たばかりなので。分からないことばかりですが、今後。よろしくお願いします」
「そうかい。分からないことがあったら何でも聞けよ!」
狼型の獣人が大口を開けて笑っていたので、エクレシアも彼に合わせるように上品になり過ぎない程度に、可愛らしく笑っていた。
「ここの人達は皆さん、仲が良いんですね。私が見て来た集団は争ったりすることが多かったですから」
「しゃあねぇよ。もう、外は生き残りを掛けて皆が必死だからな」
「生き残りって?」
アルベル達も会話に加わり、尋ねた。ナーベルも鉄獣戦線に居た所を思い出すが、確かに遭遇する団体の大半はいがみ合っていたと憶えている。
「嬢ちゃん達は何も遭ってないのか? だったら、運が良い。今のご時勢、クソッたれのホールのせいで何処にも安全な場所がねぇんだから」
「色々な場所で凄いのが現れているんですよね?」
そこから出て来る脅威達と戦い続けたエクレシアだからこそ、ホールが周辺環境に多大な影響を及ぼすということは知っていた。だが、具体的にどの様な影響が出るかまでは分かっていなかった。
狼型の獣人が言ったことを皮切りに、他の獣人達も苦労を聞いて欲しいのか口々に言い始めた。最初に口を開いたのは鳥人族の青年だった。
「俺の所なんてよ。獣人でもない鳥の野郎が来たんだ。追い出してやろうとしたら、黒白の訳の分からない二足歩行のチビ鳥にぶん殴られた。リーダーもあっと言う間に伸されて、占領されちまってよ」
「アンタなんて分かりやすいから良いでしょ。私なんてもっと意味不明よ? 泥棒野郎を追い出して、安泰。って思っていたら、ワケが分からないクソデカい建物がホールから落ちて来たし!」
「そんな物も落ちて来るんですね……」
「(泥棒野郎?)」
エクレシアが苦笑いを浮かべて、山猫型の獣人に相槌を打っている中、ナーベルは聞き覚えのあるフレーズに引っ掛かっていた。そして、直ぐに推測が浮かんだが飲み込んだ。
「その建物をモノにしてやろうとか。そう言うのは無かったんですか?」
「皆で一緒に突っ込んだよ。そしたらさ! 急に打ち上げられるし! どっかに飛ばされるし! でっかい飾りが落ちて来るし! 何より最悪だったのは、私達をバカにしているみたいな高笑いが延々と響いているの! ヤバいと思って1人逃げて来たんだけれどさ!」
アルベルが促したことにより、ヤマネコ型の女性は愚痴を吐きまくっていた。
どうやらホールの影響と言うのは相当にデカいらしい。そもそも、シュライグ達が使っている得物もホールからの恩恵によって生まれた国で作られたものであるらしいし、一つの勢力が丸ごと転移されてくるというのも珍しくないのかもしれない。
「お前らはまだ逃げる暇があったし抵抗の余地があったから良いだろ。こっちなんてよ。帰って来たら、拠点が黄金漬けになっていたんだぞ。マジで意味が分からねぇよ……」
「黄金漬けと言うのは?」
「遠目で見ただけだから分からねぇけれどよ。全部が金になっていたんだ。近付いて確かめようとも思わなかったよ」
正に、ホールがホールと言う脅威であることを体現したかのような現象も起きていることをエクレシアとしては認識せざるを得なかった。
話聞く限り、外の世界は相当にホールから出現する脅威に脅かされているらしい。だとしたら、鉄獣戦線も何時までも対立している余裕があるのかと言われたら、疑問を浮かべる所だった。
「皆さん、ここに来るまで大変な思いをされていたんですね……。何か、ここの生活で困った事とかありませんか?」
「今の所は。って言いたいけれど、やっぱり何時働けなくなるかとか心配だよ。用済みになって、外に出されたら今度こそ生きていけねぇ」
ここに居る者達は等しく怯えていた。……エクレシアとしてはアルの生活を知るために、彼らの生活事情を知りたかっただけなのだが、思ったよりも違う情報を得る事となっていた。
「やはり、ドラグマに頼るのが一番ですよね」
「そうだよ。自分達の種族なんかに拘る必用もねぇ。自由なんて物に碌な価値はありゃしねぇんだからな。さ、休憩終わりだ。また働くぞ」
休憩を終えた獣人達が作業に戻って行く。アルベルには彼らが鎖付きの首輪を誇らしげにしている様に思えた。
「なんか。思ったことよりも違ったことを知れましたね」
「思った以上に。この世界はホールの脅威に脅かされ……ドラグマに依存させられる様な環境が整っている様だ」
獣人達は自らのコミュニティを形成するのが非常に難しくなっており、中にはホールの勢力と上手いこと手を組んだ者達もいるかもしれないが、基本的には排除と小競り合いでやって来た者達に同盟と言う考えは難しいだろう。
そう言った者達が蹴散らされ、追い出されたとして。他の勢力に合流できるかと言われたら、これも難しいだろう。国家単位のコミュニティを築いていなければ、新参者を受け入れる余裕がある集団。と言うのはかなり限られてくる。
「だから、皆。誰かを追い出したり、いじめたりしてまで作っていた社会を放り出しているんだね」
ナーベルの声には苛立ちが混じっていた。自分の恩人を追い出してまで維持したコミュニティをあっさりと捨てて、敵対していたドラグマに跪いている者がいたからだ。……あのヤマネコの獣人が率先して追い出した訳でないにせよ。
「やっぱり。今は種族の垣根や遺恨を捨てて、ドラグマの下で纏まるべきだと思いますね。きっと、マクシムス様もそれを望まれているでしょう」
エクレシアが決意を新たにする中、ナーベルの胸中には様々な思いが巡っていた。
「(確かに。マクシムスって人は獣人達を狩り尽くそうとか、そこまで強硬な考えは持っていないかもしれないし、従属すれば保護されるかもしれないけれど)」
だが、獣人達としてもこれまで歴史を紡いできた誇りがある。自分達の自由と自主性を投げ出した先にいるのは、果たして自分なのだろうかと考える。
きっと、野を駆け回り、空を飛び回るということも無くなる。ドラグマに命じられたことを毎日繰り返して、日々の糧を得て、ドラグマから提供された普遍的で皆にとっても理解される趣味に興じる。
「そして、皆がドラグマ国民になるってことだよね」
「はい。そうして、皆が同じ景色を見るんです。素敵だと思いませんか?」
彼女はそんな未来を何一つとして疑っていない。
ナーベルは鳥人族として生まれ、体の虚弱さから追放されてしまったが、鉄獣戦線の中で見た各種族の文化や特徴なども覚えていただけに。これらを漂白しかねない。されど、抵抗できない未来が迫りつつあるのを実感せざるを得なかった。