特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~ 作:ゼフィガルド
竜化の副産物とでも言えるのか。翌日には、アルの体調は全快しており、問題なく動けるようになっていた。騎士団での厳格な生活リズムに則り、早々に目を覚まして外に出れば、丁度シュライグが降りて来た。
「体調は大丈夫なのか?」
「問題ない。少なくとも不調を感じる所は無い」
「回復が早いな。仕事が出来るようなら手伝って欲しいことがある。付いて来い」
アルが付いて行った先では、ドデカイ鍋によく分からない具材が只管にぶち込まれていた。料理と言うには冒涜的な光景だった。
彼が記憶している限りでは、質素と節約が美徳とされているドラグマでも味付けには多少のこだわりが見られたが、そんな物は一切存在していない光景だった。鍋を回している獣人は汗だくだった。
「おぉ、来てくれたか。交代してくれ」
巨大なおたまを渡された後、先程までかき混ぜて居た獣人は木の根元で倒れるように寝込んでいた。……何故、こんなにへばっているのだろうか?
「シュライグ。これはどういうことなんだ?」
「基本的に、俺達獣人は火を取り扱うのが苦手なんだ。加えて、毛が多い奴は炊事に当たれない」
戦闘などの極限状況はさておき、日常的には火に触れるということは避けたいのだろう。獣人の中でも毛深い者達は体毛が混入してしまう故、こういった炊事は特定の獣人達に負担が行きやすいというのは想像できた。
その点、アルは火を苦手としておらず。頭髪を除けば、毛も非常に少ない。調理係としては、この上ない適役だった。ただ、問題があるとすれば。
「理屈は分かったが。このスープはその……」
「体を温め、栄養を供給するだけの物だ。全員が食える物だけを入れている」
ドラグマでは見たことが無い類の野菜や肉が浮かんでいる。恐る恐るスープを掬って飲んでみるが、控え目に言って不味かった。
かと言って、自分では味を改善することが出来ない。調味料も無ければ塩も無いので素材の味だけで勝負することになる。
「(早速だが、後悔して来た)」
しかし、この糧食が鉄獣戦線の原動力となるのだから手を抜く訳にはいかない。アルは具材や鍋の底が焦げ付かないように調理に当たっていた。
やがて、他の獣人達も起き出して各々が容器を持って鍋の前へとやって来る。皆の顔は辟易していた。隣で配布されているカチカチパンを受け取り、作業的に胃へと流し込んで行く。
「食事を楽しむ。とか、そう言った習慣は無いのだろうか?」
「無い」
シュライグは硬化したパンをスープに浸して、柔らかくした物を齧っていた。
生活レベルは食事に現れるとは言うが、ここまで顕著だとは思わなかった。多種多様の獣人が入り混じりながらも、同じ組織で行動しなければならない。となったら、基本的な行動である食事に関して贅沢をする余裕も無いのだろう。
「せめて、塩とかは」
「そんな物は無い」
暫く配膳をしていると、ようやく誰も並ばなくなったので一息入れて自分も食事を取ることにした。自然的で芳醇な香り……なんて物がする訳も無く、むしろ多少臭う気さえもした。渡された配給のパンを噛み砕こうとした時、シュライグに止められた。
「やめろ。それで、欠けた歯から虫歯になったら行軍に関わって来る」
「すまない」
ドラグマでも言われたことがあったが、アレは自分を心配してのことではなく、自分が怪我をしたりした時に動けなくなるリスクを避ける為だったのだろう。
だが、ドラグマとの交戦が入って居たり、他種族との衝突もあるだろうし、何よりホールと言う災害級の出来事もある。そう言った場合に負った怪我などはどうしているのだろうか?
「多少の傷なら治る。病気に関しては手の施しようが無いから、大抵の場合は離れていく」
ドラグマなら奇跡などで治療を受けられるが、彼らはそうでない。
こうして身を置いてみれば、ドラグマと圧倒的な差があることを実感せざるを得なかった。故に思ったことがある。
「シュライグ。これは決して、降伏勧告と言う訳ではない。そのことを念頭に置いて聞いて欲しい。何故、ドラグマと争うんだ?」
従属を誓うなら、獣人達にも居場所があるということはアルも知っていた。
昔は邪教徒として他種族に対しては断固とした態度を取っていたそうだが、現在は融和路線にも近い傾向を取っている。だから、ここまで抵抗を続ける彼らの魂胆が気になった。
「まず、俺達はドラグマを信用していない。今は融和路線を取っているにしても、将来的にはどうなるか分からん。ある日、急に被差別対象になるかもしれないからな」
これは、最初から受け入れられていたアルには分からないことだった。
だが、所属していた集団から差別され、追い出されたシュライグ達には実感を伴って分かることだった。
「例えばの話だが、マクシムスが急に獣人は差別対象である。と言い出すかもしれない。ということか?」
「その通りだ。もっと言えば、懐に獣人を集めている現状は最もやりやすいと言えるだろう。あるいはドラグマが発展した後、そう言った者達を差別対象に据える。と言うのも十分に考えられる。自分達の権利を放り出して従う。と言うのはそう言うことなんだ」
自分達の生殺与奪を預けるということがどれほど重いのか。今はアルも歓迎されているが、所詮は余所者であるしいざと言う時には何をされるかは分からない。
だが、鉄獣戦線に参加していてもそう言った危機感に抱かれない理由は彼らのことを信用して。と言う訳では無かった。
「だから。相手がどんな何をしてきても対応できるだけの力を見せつけねばならない。と、そう言うことか?」
「そうだ。このまま下ったとしたら何が起きるか分からない。最低は対等な関係になることだ。それに向こうが手出しをしてこないなら別に良い。俺達は俺達で勢力を築くだけだ」
積極的にドラグマが討伐してこないなら。とも考えたが、先日の件では龍淵が襲撃を掛けていたことから、決して敵対していないとは言い難いのだろう。
「だとしたら。これからどうするつもりだ?」
「まずは仲間を増やしたい。今回は十二獣とアーゼウスと言う心強い仲間を得た。今回の様にホールから来た仲間を引き込んで行きたいとは考えている。そして、同時にホールからの脅威で苦しんでいる仲間達も」
ホールからの襲撃についてはドラグマでも各所で対応しているが、追い付いていない部分はあるのだろう。外に住まう者達はいつやって来るか分からない脅威に怯え続けている。
「行く宛ては?」
「いくつかな。十二獣達が一番接触し易かったが、次に向かおうと考えているのはここだ」
シュライグの肩に乗っていたメカモズが地面に映像を投射し始めた。そこには、白銀の城が映し出されていた。ドラグマ外に在るには相応しくない造形物にアルが首を傾げた所で、補足を入れた。
「これもホールから出て来た物であるらしい。だが、スプリガンズ達の話を聞いていれば、この規模の物もあり得なくはないだろう。それに、俺達は巨大質量が出て来るのを見ていただろう?」
ティ・フォンと呼ばれる機体がこの世界にやって来た瞬間も見ているのだ。白の一つや二つが降りて来ても不思議ではない。
「この建築物については何か分かっていることがあるのか?」
「……フェリジットの奴が知っている。詳しくは彼女から聞いてくれ。それと、スープの調理。助かった」
今更だが、アルが起きてから諸々の事情説明にずっと付き合ってくれていたのだ。寝床に行こうとする彼に感謝の言葉を投げつつ。拠点内で色々な獣人から話を聞いて、フェリジットのようやくフェリジットの下に辿り着いた。
「アル君、さっきはスープありがとうね。いや、調理に当たれる人が少なくて困っていたんだよね」
「アレ位で良いなら、安い物だ。……俺達が次に向かう場所について、シュライグが貴方から聞いてくれと」
自分が知る限りでは明朗快活なフェリジットが少しばかり口籠った。少し考えた後、口を開いた。
「実は、あの建物がある場所って。私と妹が追い出される前に住んでいた拠点があった場所なんだよね。だから、そのコミュニティに居た子から城がどんな風になっていたか聞いているんだよ」
「どうなっているんだ?」
「なんでも。罠だらけの建物ってことらしいよ」
罠。ということは設置している者が居るわけで。ならば、あの城には主とも言える存在が住んでいるのだろう。
「だったら、手出しをするのは避けた方が良いのでは?」
「手出しはしないよ。協力を求めるだけ。まぁ、素直に応じてくれないなら十二獣の皆に協力して貰うつもりだけど」
いざとなれば、アーゼウスで吹っ飛ばすつもりなのだろうか。やっていることが蛮族としか言いようがないが、あくまで最終手段ということで考えておこう。
「突入するメンバーは決まっているのか?」
「その件について、アルにも声を掛けようと思っていたの。普通の子じゃ無理そうだから。でも、嫌なら嫌って言って。モチベーションが無い子を連れて行っても足手まといにしかならないから」
シュライグは口数少なく穏やかな印象を受けたが、フェリジットは昨日の会話からも分かる様に、いうことはしっかりと言う女性だった。だが、アルにとっては口にしてくれる方がずっと助かる。
「俺も行こう。単純にどんな所か。誰がいるのかが気になる。先に言うと、ドラグマの偵察的にも意味がある」
「オッケ。そう言うことなら、こっちでも遠慮なく起用できる。君の実力が役に立つのは事実だしね。さて、メンバーを見繕うがてらに色々と紹介するから、付いて来て!」
フェリジットに腕を引かれて、アルは鉄獣戦線のメンバー達と顔合わせをして行くことになる。元から居た者、先日の脱走事件で加わった者。
ドラグマ内では起こり得ない会合と体験を刻み込むようにして、アルは彼らと積極的な交流に努めた。