特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~   作:ゼフィガルド

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第25幕:迷宮城の白銀姫「拮抗勝負はおよしなさって!!! ライトニングストームとハーピィの羽箒も!!」

 白磁の乙女(アリアドネ)達を撃破したアル達は廊下を進んでいた。先程までは油断すれば罠が飛んで来ていたというのに、今は嫌に静かだった。

 

「いう必要も無いと思うけれど、この先に城主さんがいると思う」

 

 モルモラットの声は抑揚を抑えた物であったが、尻尾から髪の毛まで全身が逆毛立っていた。もはや、疑う必要も無いだろう。ここまで辿り着いた来賓に、これ以上の細工は要らないと踏んでのことか。

 

「モルモラット。俺は勝てると思うか?」

「多分、無理だと思う。この先にいる相手は、シュライグさん位に強いと思う」

 

 鉄獣戦線最強の男に等しい力を持つ存在がこの先にいる。となれば、このメンバーで勝てる見込みは少ないと考えていた。

 ドランシアは満身創痍であり、フェリジットやモルモラットは白兵戦を得意としていない。ならば、望みがあるとすればアル位なのだが。

 

「アル。竜化、使えそう?」

「分からない。ただ、使えそうな気はする」

 

 アルは胸元を開けさせ、自身の体に施された聖痕が脈動している様子をフェリジットに見せつけていた。

 この城は出来るだけ無事に確保したいのだが、相手がシュライグレベルの強さを持っているなら、多少の損壊もやむを得ないと。フェリジット達は意を決して進んだ。

 永遠に続くかと思われた廊下は思いの外短く、豪奢な扉の前には大剣を構えた魔神像が、侵入者達を睨みつけていた。

 

「アル。フェリジットと先に行け。ここは私に任せろ」

「分かった」

 

 先程、共に戦った仲間として必要以上の気遣いは不要だとして、フェリジットと一緒に先んじて扉を開けた。彼らが部屋に進んだのを見計らった様に、魔神像は大剣を振り被った。

 

「ドランシア! 来るよ!」

「やっぱり! 戦いはこういった大ぶりな物が良い!」

 

 先程受けたダメージを感じさせない程の胆力で迎え撃つ。互いの獲物がぶつかり合い、火花を散らす剣戟は、この先に待ち受ける激闘を彩るには丁度良い前座とも言えた。

 

~~

 

 ドラグマの中枢部分には美人が多い。エクレシアは聖女に相応しい容姿の持ち主であったし、フルルドリスの凛とした佇まいは教導騎士団のみならず国民達を虜にするほどだ。

 鉄獣戦線にも美人と呼べる物は多い。フェリジットはおめかしなどには興味が無いが、野性的な雰囲気も合わさって魅力的であるし、ドランシアの刺々しさもまた人を惹き付ける何かがあると思っていた。

 

「お待ちしておりました」

 

 だが、今。目の前にいる女性はどの類の美人でもないと考えた。

 今まで見て来た者達が持って生まれた魅力を磨き上げた者達だったとすれば、目の前にいる姫は、幾人もの芸術家や美術家達が美を突き詰めた末に産みだした奇跡的な造形物の様にすら感じられた。

 

「貴方がラビュリンスか?」

「はい。ここまで辿り着いたのは、貴方達で二人目です」

 

 所作の一つ一つが美しいと感じられた。傍に控えている執事は主の魅力を損なわないように振舞っており、周囲の調度品も彼女の引き立て役にしか過ぎないと思えるほどだった。

 

「ここまで辿り着いたんだから、私達のお願いも聞いて貰えるかしら?」

「地下に幽閉した囚人の解放と鉄獣戦線との同盟。と言った所でしょうか」

「話が早くて助かる。この城、罠塗れってこと以外は住み心地も良さそうだしね」

 

 広さも住み心地も申し分ない。何より、帰って来る場所があればより組織的な行動が行えるようになる。

 

「囚人達の解放については良いでしょう。ここまでお越しになられた客人の頼みですから。世話をするのも手間でしたから……アリアス」

「姫。こちらに」

 

 アリアスが持って来たのは白銀の戦斧だった。ラビュリンスの身の丈ほどもあるが、彼女は軽々しく振り回していた。

 

「ですが、私の城は獣小屋ではありません。餌を食らい、惰眠を貪る畜生を迎え入れるつもりはありません。私にそうでないことを証明して下さりますか?」

 

 フェリジットの全身が泡立つ。ラビュリンスの声に込められた冷徹な殺意に吞み込まれていた。獣人としての生存本能が逃走を促す中、アルが一歩出た。

 

「貴方がどれだけ高貴な存在かは分からない。だが、俺の仲間を侮辱する真似は止めて欲しい」

「ならば、私と戯れなさい。竜の子よ」

 

 2人が駆け出す。ラビュリンスが振り回す白銀の戦斧は周囲の石壁や調度品を引き裂き、まるで暴風の様に室内で暴れ狂っていた。

 対するアルも正面から受け止めるのは危険と判断したのか、暴れ狂っている彼女の得物を適宜捌いていた。離れた場所から見ているフェリジットは息を飲んでいた。

 

「(滅茶苦茶強いじゃん!?)」

 

 先程のモルモラットの評価は正しかった。ラビュリンスの強さはシュライグに肉薄する程の物がある。故に分かってしまう。アルでは勝てないと。

 援護をするべきかと迷っていると背後に気配を感じた。振り向けば、モノクルを装着したアリアスが居た。

 

「おやめなさい。余計なことをすれば不興を買うだけです」

 

 動き回る2人に狙いを付けるのは至難の技だ。自分に出来ることは何もないのか。フェリジットが下唇を噛んでいると、そっと目の前にティーカップが置かれた。中は琥珀色の液体で満ちている。

 

「何の真似?」

「変な物は入っていません。姫様にとっての余興なのですから、私達もオーディエンスとして適切な態度で見守るだけです」

 

 匂いを嗅いでみれば、心の険が取れる様な気さえした。そっと舌を付けて味わってみれば馥郁たる香りが全身を通り抜けていく気がした。

 とてもではないが鉄獣戦線ではこんな嗜好品を楽しんでいる余裕など滅多に訪れないだろう。同時に気になった、こんな物を取りそろえる彼女達が何者かということに。

 

「貴方達は一体何者なの?」

「我らは白銀の城に住まう者達。それ以上に語ることもありません」

 

 何の説明にもなっていなかった。アル達の戦いを見れば、拮抗は崩れ始めていた。ラビュリンスの猛攻が捌き切れなくなっていた。

 

「この程度ですか! ホラ!」

 

 振り被った銀戦斧の刃がアルを切り裂いた。瞬間、彼が装着していた鉤爪から黒色の光が漏れ、それに呼応するように彼の体を走る聖痕が光を放っていた。

 

「まだだ!」

「キャッ!?」

 

 アルがラビュリンスに向ってタックルを放つと。2人の体が光に包まれ、輪郭が混じり合う。フェリジットも話に聞いていた竜化と呼ばれる現象だ。

 

「(あ。でも、ここでラビュリンスって人を内側に引き込めたなら、勝負は貰ったも同然では?)」

 

 自分の中に相手を取り込んでしまえば、勝負はこちらの物に。と考えていたフェリジットの楽観的な希望を裏切る様に、膨張する光の中から人影が飛び出ていた。

 

「まさか、貴方にコチラの姿をお披露目することになるとは」

 

 先程まではドレスで着飾っていたが、光の中から脱した彼女は白銀のプレートメイルに身を包んでいた。武器も戦斧ではなく、二振りの細身の剣となっていた。

 一方、アルも変化を終えていた。現れたのは、白銀の甲殻を纏う灰燼竜バスタード……ではなく、全身を覆う剛毛と強靭な四肢を持つ、獣の様な竜。痕喰竜ブリガンドへと変貌していた。

 

「これが新たな力か。行くぞ!!」

「来なさい!」

 

 石床を踏み砕きながら、ブリガンドは暴風の様な一撃を放った。

 対するラビュリンスの戦い方は先程と一変していた。手にした細身の剣を巧みに操り、ブリガンドの剛毛を断ち切りながら筋肉質の表皮を切り刻んでいた。

 だが、変質したアルの体表の強靭さと再生力はすさまじい物だった。切り付けられた端から、傷が塞がっていた。

 

「うぉおおおお!」

「なるほど。人外を相手にするというのも一興ですわ」

 

 ラビュリンスの余裕は崩れない。傷をつけるのが無理だと悟った彼女は、両手に構えた細身剣を凄まじい速度で動かして、ブリガンドの頭部に生えている角を断ち切っていた。

 切り飛ばされた端から新たな角が生えて来るが、彼女は意にも留めないでブリガンドの全身の毛、爪、角を切り飛ばしていた。ボロボロと床に落ちては、生え続ける。幾度も続ける。……次第に変化が訪れていた。

 

「アルの動きが」

「決して無から有が生まれる訳ではありません。幾ら変質したとは言え、彼が生物である以上。限界はあります」

 

 ブリガンドの動きは鈍くなっていた。徐々に再生も遅れ始めていた。延々と暴れていた疲労と再生に費やしたエネルギーで限界を迎えようとしていた。

 だが、恐るべきはラビュリンスの観察眼だった。未知の相手に消耗戦を挑み、最後まで敢行する彼女の胆力は並大抵の物では無かった。

 

「クソッ!」

「これで終わりです」

 

 背中に生やした翼が断ち切られ、頭部の角も切り飛ばされた。力を失い地面に伏すと同時に、ブリガンドの巨体は縮小してアルの姿へと戻っていた。

 体力を使い過ぎて立つことも出来ない中、視線だけはラビュリンスへと向けられていた。その瞳に諦観などは見当たらなかった。

 

「大したものだ。まさか、捌かれるとは思わなかった」

「力任せなだけでは乗り越えられない物もありましてよ。ですが、久しぶりに楽しめました。客人改め、アル様。ラビュリンスは貴方を歓迎します」

 

 俯せになりながら、アルは差し出された彼女の手を取った。アリアスも感慨深げに頷く中、フェリジットが首を傾げていた。

 

「アル様。……だけ?」

「はい。貴方はただ見ていただけですからね」

 

 当然と言えば当然なのだが、彼が認められただけでは鉄獣戦線が拠点にするという話はどうなるのだろうか? ……流石に勝負を終えたばかりの2人に言い出す気にもなれず、フェリジットは暫く彼らを見守っていた。

 

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