特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~ 作:ゼフィガルド
「自由だ―!!」
幽閉されていた獣人達は解放され、その多くは鉄獣戦線に加わっていた。
改めて、ラビュリンスに認められたアルであったが、鉄獣戦線全体が認められた訳ではないのかと言う懸念はあった。
「ラビュリンス。その、鉄獣戦線の者達についてだが」
「この城を拠点としたいのですよね。構いませんわ。ただし、食料などは自給して下さいませ」
言質を取れたので胸を撫で下ろしていた。流石に食料まであやかろうとするのは卑しすぎると思っていたからだ。
だが、ホッとしたのも束の間。ラビュリンスの傍に控えていた執事のアリアスが、一歩前へと出た。
「客人達の滞在中は罠を取り外していますが、少しの衝動で起動することがあるのでお気を付けください。有体に言えば、粗相はなさらない様に」
アル1人ならどうにでも出来るが、獣人達全員に通達して守ってくれるかどうかについては自身が無かった。ラビュリンスの部屋にある水晶には大広間や廊下の映像が映し出されていたが。
『屋根だー!』
『室内だー!』
あまりに喜びの敷居が低かった。迷い込んだネズミを見るかのような微笑ましさと軽蔑感を出しつつ、アルはバツが悪そうに視線を彷徨わせていた。
「それで。アルさん、貴方達の当面の目的は? やはり、話にあったドラグマの打倒ですか?」
改めて、ラビュリンスから問われた。実際の目的はそんなに単純ではない。
力を蓄え、ドラグマを打倒したとして。その後はどうするつもりだろうか? 鉄獣戦線の者達が代りに国家を建設するつもりだろうか。ホールの危機もある手前、そんな悠長なことをしている余裕はない。フェリジットが答えた。
「今の所の目的は、ラビュリンスみたいにホールから出て来た実力者達と同盟を結びつつ。ドラグマと対等な関係を築くことだよ。……皮肉だけれど、私達を脅かしているホールは、ドラグマにとっても脅威だろうからね」
「お互いに戦えばただで済まない程の力を見せつけるという訳ですね。まぁ、私も何時ドラグマに併呑されるか分からない以上。貴方達と友人でいられる選択肢は取るつもりです」
ラビュリンスとしてもいつまでも独立を保っていられると思う程、状況を楽観視していなかった。
今の所、ドラグマへの帰属は従うという方針で行っている。対等でない以上、自分達の生殺与奪が誰かの掌の上にあり続けるというのは、非常に不健全な状態だ。
「俺達はホールから現れた勢力と同盟を結んでいく、と言うのが今後の方針になる訳か」
「その通り。私達の古巣で騒ぎが起きている所は珍しくないしね。そうだ、ラビュリンス。この二つに見覚えはある?」
フェリジットが机の上に2枚の写真を並べた。片方は砂漠で見たLLよりも動物的な鳥達が牧歌的に飛び回っている光景が映し出されていた。
その写真に対しては、ラビュリンスも興味を示さなかったが、もう1枚の写真は手に取ってまじまじと見つめていた。アリアスも覗き込んでいた。
「姫。これは、黄金卿の城では?」
「ですね。アイツもこちらに来ていたのですか」
「知り合いか?」
手掛かりがあるのは喜ばしいことだが、ラビュリンス達は眉間に皺を寄せていた。恐らく、良い感情を抱く相手ではないのだろう。
「彼は呪われし都エルドラドを治める主なのですが、どうにもソリが合わないのです。アイツは自分の所に侵入して来た連中を遺さず食い散らかす、ウツボカズラみたいな奴ですから。下品な男です」
「それって、この城と違うの?」
フェリジットが何気なく放った言葉はラビュリンスの堪忍袋を甚く刺激したらしく、ズカズカと近付いて来た。
「全然違います!! 私の城は入って来た者達がキチンと行動を選ぶだけの猶予を与えています! つまり、本人達の勇気と知恵次第では突破できるように作ってあるのです! 対して、アイツの都は入り込んだら抵抗の余地すら許さず食い尽くすという、餓鬼の様な作りになっているのです!」
どう違うんだ? と、アルは言いかけたが口を噤んだ。どう考えても火に油を注ぐ結果になりかねないからだ。猛口撃を受けたフェリジットは両耳をペタリと伏せていた。
「分かった、分かった。危険だって言うのは分かったから」
「今の所は、それで良しとしましょうか。なので、向かうのは止した方が良いと思います。私と違って、彼――黄金卿エルドリッチには慈悲はありませんから」
想像以上に危険な相手がいるらしい。ならば、そちらは後回しにしようかと皆が考えている中、バタンと扉が開かれた。入って来たのは、ルガルだった。
「ルガル。アンタ、もうここに到着したの。丁度良かった、次に交渉に行く場所の話をしていてさ」
「頼む。そのエルドラドって場所にしてくれ。アレが出現した場所は……俺が追い出された連中が拠点にしていた所なんだ」
ラビュリンスの件と言い、鉄獣戦線の幹部達がかつて住処としていた場所が悉くホールの出現場所になっていることは何かしらの運命を感じずにはいられなかった。
~~
「私に。出陣を?」
「はい。どうにも、ホールから出現した勢力の中で一際危険な存在があるようです。近付く者全てを黄金へと変貌させる都を知っていますか?」
最近は平穏であり、アルベルやナーベルと共に郊外に住まう獣人達との交流を深めていたエクレシアはマクシムスに呼び出されていた。
郊外に居た人狼(ライカン)からも聞いた話だった。何人たりとも近付かせない魔の領域が出現していると。
「はい。非常に危険であることは聞いていましたが」
「実は、観測者からの証言によりますと。浸食の範囲は徐々に広がって来ている様です。このままでは、この大陸にとってもよろしくないことになってしまいます。エクレシア、どうかこの脅威を取り除いて貰えますか?」
「分かりました!」
様々な他種族と交流をしているが、脅威には毅然として立ち向かう態度は必要だ。早速、出向こうとする彼女にマクシムスが待ったと声を掛けた。
「今回の相手は強大な敵になるでしょう。だから、これを持って行きなさい」
マクシムスから渡されたのは1本の大剣だった。エクレシアはこれを知っている。最強の聖女と謳われるフルルドリスが使っていた神器だ。
「これは、お姉さまの?」
「精巧な複製品です。本来ほどの力はありませんが、エクレシアが持つ聖痕と共鳴させれば、疑似的にではありますがホールの力を使うことが出来ます。貴方なら、悪しき物を処罰(パニッシュメント)する能力を上手く使えると信じています」
「ありがとうございます。必ずや、ご期待に添えて見せましょう」
神器のレプリカを賜ったエクレシアは、早速パキケファロと共に件の場所へと向かった。それと入れ違いになる形でフルルドリスが入って来た。
「マクシムス様。先程、エクレシアが出て行くのが見えましたが。何故、最近は私にお声かけなさらないのですか?」
「貴方の調子が悪いということを聞いていますからね。一体何が原因なのか。しかし、仕事をしていないというのは体裁が悪いでしょう。よって、貴方には来賓のご案内をお願いしたいのです」
「来賓?」
少なくとも、そんな物は聖女がやる仕事ではない。昨今の成果を考えれば左遷にも等しい仕事の割り振りであるが、一体誰を案内させようとしているのか。
マクシムスが手招きをする。入って来たのは、同盟相手として手を結んだ竜人族の男、龍淵だった。
「この度はドラグマのご案内をしていただけるということで、足を運ばせて頂きました」
「はい。彼女はこの国にとても詳しいのです。きっと、満足いく散策をご堪能いただけると思います」
「それは喜ばしい計らいですな。我が友人のご厚意に感謝するばかりです」
「……ご案内致します」
水面下で竜人族の穏健派と連絡を取り合っていたのがバレていたのか。
そもそも、昨今は殆どマトモに動けていないことを考えるに、マクシムスが国に施している結果は他種族ではなく、自分達にも効果があるのではないかと考える様になっていた。
「(漏れているのか。揺さぶられているのか)」
この龍淵と言う男もまた胡散臭い。エクレシアの傍に寄り添うべき人物を鉄獣戦線へと置き去りにして来た下手人でもあるのだから。
実際は、彼がかたくなに撤退をしなかったからと言う報告は受けていたが、信憑性に関してはイマイチだった。
「いや、ドラグマは良い国です。文化が栄えている。この混沌とした大陸に光を導ける者がいるとすれば、マクシムスに外ならぬだろうな」
歯が浮くような世辞を聞きながら、彼女はドラグマを案内して回っていた。