特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~   作:ゼフィガルド

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第28幕:ハングリーバーガー「そろそろ、私もリメイクしませんか?」

「エクレシア様。上空に反応を確認。これは……」

 

 インスペクト・ボーダーに促された空を見上げると、翡翠色の巨大な鳥獣の姿が見えた。エクレシアがかつて捕縛し、鉄獣戦線の者達に奪取された王神鳥シムルグである。

 

「鉄獣戦線の人達も来ているんですね。彼らが制圧するつもりで向かっているかどうかは分かりませんが。ボーダー! 偵察に向って下さい」

「了解しました」

 

 反重力ボードの高度が上がって行き、件の存在へと向って行く。

 シムルグもまたボーダーの存在に気付いたのか、威嚇する様に鳴き声を上げていた。彼の背中に乗っていたアルが声を上げた。

 

「待て。アレは、ボーダーだ!」

「ボーダー。っつぅと、アレか? ドラグマの聖女が連れているって言う。てことは、奴らも近くにいるのか!?」

「あら。早速、ドラグマの方とお知り合いになれそうですね」

 

 ルガルが驚き、ラビュリンスが暢気に述べている間にシムルグは迎撃の為に旋風を巻き起こしていた。

 しかし、インスペクト・ボーダーは荒れ狂う風の中を巧みに進んで行き、接近して来た。そして、アルと視線があった。

 

「おや。アル様、貴方もいらっしゃったのですね」

「ギェエエエエエエエ!」

 

 旋風で駄目だと悟ったのか。シムルグは巨体を活かして、翼でボーダーを叩き落していた。

 

「ボーダー!?」

「ご心配なく! また、後ほど!」

 

 墜落しながらも務めて主人に気遣おうとする従者の鑑と言えた。

 また、後ほど。と言っていたので、彼らが向かう場所はきっと同じなのだろう。やがて、目的地が見えて来た。上空からも分かる位に周辺は異様な様相を呈していた。

 

「うわ。アンデットワールドを展開していますね。本気で迎撃してくるつもりですよ」

「なんだそれは?」

「奴らの有利なフィールドが展開されているということです」

 

 ラビュリンスがゲンナリしていると。こちらでも異変が起き始めていた。

 徐々にシムルグの高度が下がり始め、ルガルが獣の様に這い蹲っていた。彼は歯を食いしばりながら叫んだ。

 

「畜生! まただ! ドラグマの野郎!! 何をしやがった!!」

「(多分、エクレシアの仕業だな)」

 

 ボーダーが居たということは、彼女もいるに違いない。ドラグマは本気で制圧しようとしている。間もなく、徐々に力を失って行った王神鳥は目的地付近の森に軟着陸した。

 アルは直ぐに全員のコンディションを確認した。シムルグとルガルは動けそうにない。ラビュリンスの方はと言えば。

 

「動けない程。ではありませんが、少しばかり誰かから力を貰わないと難しそうですね」

「動けるだけマシか。ということは、今回は殆ど俺一人で」

「待て。何か来るぞ」

 

 例え、全身が脱力していても聴覚は健常だったらしく、ルガルの耳はこちらに近付いて来る存在を捉えていた。大方予想は着いていた。

 岩石で出来た二足歩行の生物の背中には1人の少女が乗っていて、傍らには先程迎撃したハズの人形が居る。

 

「アル君も来ていたんですね」

「エクレシア……」

 

 なし崩し的に鉄獣戦線に身を寄せてから、あまり日は経っていないハズだというのに、久しぶりの様に思えた。

 エクレシアが駆け寄って来て、再会を喜ぶかと思いきや。彼女は両の手でアルを抱え上げていた。

 

「やっぱり。体重が軽くなっていますね。やっぱりと言うか、鉄獣戦線では碌にご飯も食べられていないでしょう」

 

 ゴソゴソと彼女は背負っていたバッグから包を取り出していた。

 中から出て来たのは丹精込めたサンドイッチ……なんて生温い物じゃない。バックラーとして使えるんじゃないかと言う位に分厚く重厚なチョコレートだった。表面にはドライフルーツやアーモンドなど、獣人ぶっ殺す要素が盛り沢山に詰まったハイパーカロリースイーツがあった。

 

「エクレシア。その。気持ちは嬉しいが」

「足りないカロリー大補給の逸品です。間違っても獣人の皆さんには食べさせないで下さいね。死んじゃいますから」

「この娘。可愛らしい顔して、まるでオブラートに包むって言葉を知りませんね」

 

 天真爛漫に物騒な言動をするエクレシアをラビュリンスが訝しんでいた。そんな彼女達をルガルが睨みつけていた。

 

「テメェら。アルをどうするつもりだ?」

「別にどうも? 私達は鉄獣戦線の皆さんを征伐したい訳でも無ければ、裁きを下したい訳でもありません。私達が望むのはただ平穏だけです。だから、アル君を通して理解を深めての恭順を願っています」

 

 エクレシアの傲慢ながらも敵対心の無い説法に、アルは眉間に皺を寄せていた。行っていることは間違ってはいないかもしれないが……。

 

「エクレシア。もしもだが、マクシムス様がその。将来的に獣人の皆を差別したり、隔離したりするつもりだった場合は。どうするんだ?」

「おかしなことを言いますね。アル君もドラグマの生活は知っているでしょう? 獣人の皆さんと人々が手を取り合い、支え合っている。郊外には都市部に入れない獣人の方達も居ますが、いずれ彼らも正式な同胞となります。この生活を態々覆す理由が何処にあるんですか?」

 

 アルは言葉に詰まった。実際、現状のドラグマの生活は帰属した獣人達に支えられている部分も多く、冷遇をした際は国家としての機能に支障を来す部分もある。

 だから、絶対に獣人達を冷遇することも無ければ差別することも無い。と言う固定観念は非常に危うく感じられたが、論理的に否定できる要素が無かった。

 

「じゃあ、なんだ。俺達は正しいお前らに従ってりゃいいのか?」

 

 アルの代りに声を上げたのはルガルだった。地に伏せながらも、眼光は依然として鋭いままだった。

 

「従うというのは語弊がありますね。私達は皆さんがよりよい生活をできるように導いているんですよ。例えばですけれど」

 

 エクレシアはルガルへと近づいた。攻撃されることを恐れてもいないのか、彼女は悠々とバッグを漁ってサンドイッチを取り出していた。

 だが、それはルガルが知っている物では無かった。パンとパンの間にはハンバーグや瑞々しい野菜が挟まれ、スパイスや調味料も使われているのか。明らかに嗜好品の域にある代物であった。

 

「最近、ドラグマにやって来たホール出身の人が作ってくれた『ハンバーガー』って言う品物なんですけれど。今、静かに流行り出しているんですよ」

「誰がドラグマの施しなんて!」

「じゃあ、私が貰います」

 

 ルガルに差し出された物を、ラビュリンスが横から奪っていた。

 上品な振る舞いからは予想も出来ないような大口を開けて食している。咀嚼されている間に漂う臭いが、人狼である彼の嗅覚を苛むレベルで刺激していた。

 

「おほ。うめっ、うめっ」

「これを作るには綺麗なパンを作って、肉を育て、野菜やスパイスを栽培し、味付けや調理を研究しないと生み出せない物なんですよ。これも皆が手を取り合ったからこそ、生まれた代物です」

 

 暗に。鉄獣戦線の様な根無し草の者達には作り出せない物だと揶揄している。この文化的豊かさこそ、ドラグマと獣人の差だと馬鹿にされている様に思えた。

 

「エクレシア。豊かさだけが正しさじゃない。お互いの在り方を尊重する。と言う風では駄目なのだろうか?」

「駄目です。だって、お互いの在り方を尊重するなら。あの森に広がっている黄金の都だって、彼らなりの在り方なのでしょう?」

 

 アルは言葉に詰まった。鉄獣戦線の者達と過ごして来て、彼らがどうして自主性を保ちたいかと言うこともある程度は分かって来ていたからだ。

 だが、文明的な豊かさを押し付けられた時。彼らは絶対にドラグマには勝てない。それだけが在り方ではないと思っていたにせよ。

 

「そうですね。彼は絶対に自分が間違っているとは思いませんよ。自分の存在こそが絶対的に正しいと思っています」

 

 ハンバーガーを食し終えたラビュリンスは、アルが持っていたバックラーチョコを齧りながら言った。何かしらの主になると遠慮を忘れてしまうらしい。

 

「ほら。今、アル君が見ている鉄獣戦線は穏健かもしれません。けれど、ドラグマを支配したり、人間を虐げたいと思う者達が権力を握ったら? マクシムス様が差別したり、迫害したりするより。そっちの方がよっぽど可能性が高くありませんか?」

 

 戦闘能力だけではなく舌戦においても聖女は強かった。恐らく、既にドラグマ内でも似たような押し問答は繰り返されて来たのだろう。彼女の思想は強固であった。

 

「そう言われると。俺もまだ鉄獣戦線の皆を知っている訳では無いから、何とも言えないが。君の理詰めは何処か恐ろしい物がある」

「お互いに納得しようって考えているだけなんですけれど……」

 

 決して、相手を言い負かそうとしている訳ではないという雰囲気は伝わって来た。彼らが話している間も暇なのか、ラビュリンスはずっとチョコレートを齧っていた所、インスペクト・ボーダーに尋ねられていた。

 

「所で。貴方様は一体?」

「私、アル様のご友人であるラビュリンスと申します。以後、お見知りおきを」

「これはご丁寧にどうも。……それと、あの黄金領域について何かご存じの様ですが」

「あそこの主と知り合いなのです。ちょっと迷惑だから、懲らしめようと思って同伴してましてよ」

 

 彼女達の会話を聞いていて、アル達は本来の目的を思い出していた。

 正しさの議論は後でやればいい。自分達は周囲を侵食する黄金の都と主を止めに来たのだった。

 

「問答はまた後にして。今は、互いに目的を果たしに行きましょうか。獣人の方は無理でも、ラビュリンスさんは付いて来れそうですし」

「少ししんどいですけれどね。まぁ、知識だけでも役に立てるとは思いますわ」

 

 エクレシアの隣にはいつものメンツ。図らずしも、久々にドラグマスタイルで任務に挑むことになった。

 

「ルガル。大丈夫か?」

「クソ。なさけねぇ。自分で立候補しておきながら……調子が戻ったらすぐに行く。お前達は先に行け」

「かしこまりました」

 

 力が抜けたルガルとシムルグを安全な場所に避難させた後、アル達は黄金の都に向けて歩を進め始めた。

 

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