特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~   作:ゼフィガルド

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第30幕:黄金卿さん屋敷のドラゴンメイド

「エルドリッチ。厄介な客人が来たわ」

「知っておる。この金鏡で見ておったわ」

 

 バンシーから報告されるまでも無く、既にアル達の侵入は知られていた。

 エリドリクシルに呑まれた亡者達に襲い掛からせようとしていたが、誰一人として動けずにいた。この様な経験はエルドリッチとしても始めて……と言う訳では無さそうだった。ハスキーが尋ねる。

 

「ご主人様。何か心当たりが?」

「ウム。以前、自らのことを『虚無魔人(ヴァニティ・デビル)』と名乗る男を居候させておったことがあってな。奴が居た頃の状況とよく似ている」

「その方は何処かに行かれたのですか?」

「いつの間にかふらりと消えていた。正直言って、邪魔だったからな。消える少し前は、我らが全員で揃った後に力場を築いて貰うだけになっていたが」

 

 そんな邪魔だった存在と似たような力を持つ者が居るということは厄介極まりない。このままでは、最奥部まで何の邪魔も無く来られてしまう。

 

「例のアレを使うなら気を付けた方が良い。連中の中に控えている力場(フィールド)を破壊したり、トラップを潰せる奴がいるみたいだから。アンデットワールドも壊されそうになったしね」

「なら、使い所は選ばんとな。誰が件の力の持ち主か分かれば話も早いのだが」

 

 一体、誰が周囲の力を封じているのか。分かり次第、早急に撃破してエルドランドに呑み込むつもりではあるが。金鏡には、エルドランドを突き進むアル達の姿が映し出されていた。

 そんな彼らの一挙手一投足を見逃さ毎とハスキーは彼らの立ち振る舞いを注視していた。

 

~~

 

「クソッたれ! なんで誰もいやがらねぇんだ!!」

 

 屈強な肉体に馬の顔面を持った不死者(アンデッド)、馬頭鬼は嘆いていた。

 いつもならばユニゾンビの掛け声と共に侵入者をもてなすというのに、今は自分一人しかいない。

 心細さから逃げ出そうとしていると、明らかに顔見知りでない侵入者と思しき者達がやって来ていた。傍らには捕縛されたユニゾンビが居た。アルが闇竜族の爪を向けながら言う。

 

「抵抗は無駄だ。大人しく我々を最奥部にまで案内しろ。……で良いのか?」

「はい! 情けない黄金卿! 亡者共は戦えず、手下は捕まって脅されて!」

 

 本当は攻略の手助けをする為では無く、痛罵を吐く為にやって来たんじゃないかと言う位に、ラビュリンスはずっと活き活きしていた。上品そうに見えて、性格はあまりよろしくないらしい。

 

「何だとこのブス!」

「人に向ってなんてことを言うんですか! 言われた側の気持ちも考えて下さい!!!」

 

 対する馬頭鬼の罵倒はあまりに幼稚なレベルだったが、エクレシアがマジレスしていた。……そもそも、最初に煽ったのは自分達側なのだが。

 

「なぁ、ジョン。俺達こんな奴らに攻め込まれているのか?」

「諦めろ、相棒。今までの中で一番頭が悪くて、強い奴らだ」

 

 このエルドランドに侵入を試みた者達は少なくない。屈強な冒険者、狡猾な盗掘者、聡明な魔術師、多数の軍隊。最近になって獰猛な獣人達も来たが、アンデッド達に呑まれて黄金像へと作り替えられていた。

 

「アル! やっておしまい!」

 

 自分のことを友人では無く召使か何かだと思っているかもしれないという疑念が過りながらも、アルは向って来る馬頭鬼と相対した。

 身の丈もある斧が振るわれたが、彼はひらりと避けた後。巨体を蹴り飛ばした。何度か床にバウンドした後、馬頭鬼は痙攣して動かなくなっていた。

 

「畜生! 馬頭鬼!!」

「アイツ。見掛け倒しだからなぁ……」

 

 ジョンが悔しがる一方、ドゥが冷めた意見を述べていた。あまりに容易く撃破出来たからか、ラビュリンスは笑いが止まらないと言った有様だった。

 

「やっぱり。自分の領域に永続的に罠を張り続けるだけの男では、ここら辺が限界でしょうねぇ。適宜発動させるギミックも無ければ、設計思想も無い。アル? 私の迷宮城と今。どちらの方が攻略は難しかったですか?」

「……それは、貴方の方だが」

「そうでしょう? もはや、どちらが優れているかは言うまでもありません」

 

 現在、これだけ攻略が易化しているのはエクレシア達がいるお陰であり、自分達だけで攻略しようとすれば呑み込まれていただろうことは想像できた。

 しかし、これだけ上機嫌でいる相手に水を差すのも悪いと思ったのか、アルは言葉を呑み込んだまま進むことにした。

 

~~

 

 エルドランドの敷地は広い。白銀の迷宮上の様に手入れされている訳では無く、自らの領地を示すようにして全てを黄金で呑み込んでいた。

 建っている黄金像も飲み込まれた者達なのだろう。いずれも恐怖で目が見開き、あるいは絶望していた。

 

「この人達は元に戻るんでしょうか?」

 

 エクレシアは彼らに憐憫の視線を向けていた。生きているのか、死んでいるのかさえ分からない。もしも、この状態でも生きているとしたら。どれだけ長い時間、何も出来ない苦痛に苛まれているのかと考えて、胸を痛めていた。

 

「彼の意思次第でしょうね。周囲への浸食を止めることも考えれば、彼との相対は避けられません。ですが、この調子ならばスムーズに行けそうですわ」

 

 現在、拍子抜けするほどに攻略は上手く行っている。

 アル達だけでは間違いなく苦戦していただろうが、エクレシアが引き攣れている者達の封殺能力はあまりに強力だった。

 しかし、アルの中には引っ掛かる物があった。まるで、彼女が敷く布陣がこれからの大陸の未来を表している様にも感じられたからだ。

 

「アル君?」

 

 相手の能力を封じ、戦う機会を奪い、一方的に制圧して支配する。

 その際、彼らが抱いた不満や憤りは文化的な豊かさで磨り潰される。一番、悪質なのは、そうして反論の余地を封じることが善意でなされていることだ。

 

「いや、何でもない。早く、皆を解放しよう」

 

 だから、危うさを覚えようとも勧告する理由が見当たらない。

 少なくとも、自分達にとって悪い話ではない。だが、自分の手で解放したかったルガルにしてみれば、一体どんな思いを抱く所だろうか。

 黄金に染まった敷地を抜ける。すると、煌びやかで豪奢。ともすれば、少し下品とさえ感じられる黄金の城が佇んでいた。

 

「本当に品の無い城ですね。城主の虚栄心が透けて見える様です」

 

 ラビュリンスが悪態を吐きながらも先頭を歩く。城内に仕掛けられた罠を警戒してのことであり、アル達も後に続いた。

 先程までの陰鬱な空気とは打って変わって、城内には多数の眩い黄金像が建っていた。鎧に身を固め、手に長槍と盾を持った黄金像は今にも動き出しそうであり、恐らく犠牲者であることも容易に想像できた。

 

「教団では見ない装備だ。この像達もホールを通ってやって来たのか?」

「そうそう。バカな王国が、黄金に惹かれて大量の軍隊を送って来たんだけれど、全員が調度品に早変わりって所さ」

「確か。王国があったのは、数百年前か? 散々、俺達も警告はしたけれど、それでも攻めて来たんだ。自業自得だよ」

 

 捕虜として連れて来られているユニゾンビ達が丁寧に解説をしていた。

 アルは、既に彼らの魂がこの世にないことを祈った。そうでなければ、あまりにも残酷な仕打ちだったから。

 

「ちょっと待って下さい。貴方達、黄金卿と付き合いが長いんですよね。私のことを知らなかったんですか?」

「いや、俺達門番だし。そんなエルドリッチ様の付き合いについてとかも聞かないし」

「そもそも、そんな恐れ多いこと出来ないよ」

 

 勝手に敵愾心を抱いている自分が馬鹿みたいに思えた。彼らからある程度の事情を聴きながら進んでいると、1人の少女がラビュリンス達を出迎えた。

 萌黄色の髪をツインリングでまとめた編み目からは深緑の角が生えていた。彼女のメイド服は、全体的に裾が詰められて露出箇所が増えていたが、不思議と下品な感じは無かった。むしろ、彼女の可愛らしさを引き立てていた。ただ一つ、人間とは明らかに異なっていたのは床へと竜の尾が垂れていたことだ。

 

「ようこそ、エルドランドへ。白銀の主様と付き人の皆さん。本日は、私達ドラゴンメイドが皆さまをおもてなし致します。私、ドラゴンメイド・パルラと申します」

「パーラーメイドですか。あの男にしては、随分と洒落た物を雇いましたね」

「……パーラーメイド?」

「お出迎えを担当するメイドさんです」

 

 アルが聞き慣れない単語の説明をエクレシアに求めた所、直ぐに返って来た。

 散々、来客者を潰そうとする出迎えがあったというのに。ある程度の場所まで来れば制式に歓迎しようとする心得は、城主共有の物かもしれない。

 

「では、手始めに!」

 

 広間に設置されていた黄金像の一つが動いた。襤褸をまとった貧相な男を象った像の手から、周囲を覆い尽くす程の波動が放たれた。

 全員が身を守る動作を取ったが、特段何も変化は起きていなかった。ラビュリンスが声を張り上げた。

 

「皆さま! 能力が封じられております!」

 

 戦闘態勢に入ったパルラの肉体が膨れ上がっていく。間もなくして、彼女の髪色と同じ体表を持つドラゴン『ルフト』が現れていた。

 

「まず、散々。暴れてくれた貴方から!」

 

 彼女は真っ先にアルへと襲い掛かった。竜族を模した爪で反撃を試みるが、本物を相手に紛い物が通じ分けるも無く、地面に叩き伏せられた。

 

「アル君!」

 

 エクレシアが月鏡の盾を構え、援護に入ろうとすると。アルが装着していた闇竜族の爪が妖しく輝いた。

 

「うぉおおおお!」

 

 ルフトの一撃により、全身に傷を負い、額から血を流しながらもアルは立ち上った。そして、追い詰められた彼に漂う雰囲気についてはエクレシアもラビュリンスも知っている。これは竜化の兆候であると。

 

「え? ちょっと!?」

 

 ルフトも想像していなかったのか、アルに組み付かれた瞬間。光が二人を包んだ。輪郭があやふやになり、膨れ上がっていく。

 全てを破砕する破壊の化身である灰燼竜バスタードか。あるいは全てを喰らい尽くさんとする獣の如き痕喰竜ブリガンドへと変貌するのか。光が晴れた先に現れたのは、どちらでも無かった。

 

「なんだ、この姿は……」

 

 今までの竜の姿はいずれも獣に近しい物であった。しかし、今回は違った。

 スラリと伸びた全身は人型に近しく、ルフトと同じ体表を持ち、背には一対の翼。今までの物と違い、気品と理性を色濃く残していた。

 

「こっちこそ意味わかんないし! アンタ何なの!? それに、これ。ハスキーさんと同じ姿をしているし!」

「ハスキー? 君の上司か?」

 

 奇妙な光景だった。どうやら、融合した相手の意識も強く残っているらしく、自らの失言に気付いて閉口した。

 傍目には延々と独り言を呟く奇妙な竜が居るばかりだった。幸いなのは、喋る者次第で声が全く変わる所だったが、不気味であることは違いなかった。

 

「うわー! 捕まっちゃったよ! 誰か助けて―!!」

 

 意思はあるが、肉体の自由は無いらしく。アルが延々と助けを求めている様に見えた。ラビュリンスはこれまた笑い声をあげ、釣られてユニゾンビもヤジを飛ばしていた。

 

「随分と下品な喋り方になりましたね。こういう時こそ、余裕を見せるべきでは?」

「おぅ、小僧やるなー! あんな若い嬢ちゃんと合体するとは!」

「本当の意味で合体だもんなー!」

「好き勝手に言うな! くたばり損ない!!」

 

 パルラが堪らず叫んでいたが、同じ口でアルは尋ねた。

 

「何故、彼らはあんなに興奮しているんだ?」

「知らないなら、知らないままで良いから! あぁ。もう、こんな形で捕縛されるとは思わなかった! 折角、結界波まで使ったのに!」

 

 パルラの思惑は兎も角として、最初の歓迎は突破できたらしい。思いもよらぬ力を手にしたアル達は、自分達の力が戻るまで小休憩を入れた後、先に進むことにした。

 

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