特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~   作:ゼフィガルド

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第4幕:豪雨の結界像「私は何も悪いことはしていません。建っていただけです」

「被害状況を報告しろ!!」

 

 アディンは歯噛みしていた。捕らえた獣人達の多くは解放され、テオやフルルドリス達が交戦した獣人達の捕縛も敵わなかった。

 こうなった原因としては、自分が万全を期そうとして囚人達の警備を強化したことにある。ということは自覚せざるを得なかった。

 しかも、現場の者達からシュライグやルガルの様な幹部が居たという話を聞かなかったことからも、あり得ない敵を想像して敵側に情報を渡したと言っても差支えの無い指示を下していた。と言っても過言ではない。

 

「アディン様。今回は予想外だったのです。まさか、並み居る騎士達を打ち倒す様な戦力を向こうが持っているとは思わなかったのです。あの腕前は、フラクトール。いえ、ルガルに迫るものがあったとの話です」

「慰めはいらん。失態は働きで取り戻す」

 

 部下からの言葉も身に入らない様で、如何に彼が自分を責めているかが分かるようだった。剣呑な空気に誰もが口を閉ざす中、場違いとも言える穏やかな空気を纏った大男が現れた。

 

「アディン、自らを責めるのはお止めなさい」

「ま、マクシムス様!」

 

 この場に居た誰もが跪いた。光輝なる神の代理者であり、ドラグマの最高指導者。滅多に人前に姿を見せない彼がこの場に姿を現したことは、今回の事態の大きさを物語っていた。

 騎士達は冷や汗を流していた。邪教徒達を逃した自分達を罰しに来たのか。堪らずアディンが声を上げた。

 

「彼らが邪教徒達を逃したのは私が至らなかった故! どうか、罰は私だけにお留め下さい!」

「罰する? 何を言うのですか。貴方は見事に皆を支え、邪教徒達を相手に犠牲者を出さなかった。褒めこそすれど、責める謂れはありません。気に病むのでしたら、天啓の働きをお見せなさい」

 

 アディンを含めこの場に居た騎士達は衝撃を受けていた。

 責める所か自分達の身を案じ、挽回の機会さえ与えてくれるマクシムスの寛大さに、皆が震えていた。

 

「お任せください! この天啓のアディン! 必ずや、獣人共を蹴散らして見せます!」

「頼りにしていますよ」

 

 騎士だけではなく作業に当たっていた信徒まで喜びに打ち震える中、鉄獣戦線の迎撃に当たっていたテオ達も帰って来た。彼らはマクシムスの姿を見るや慌てて跪いた。

 

「マクシムス様。この様な所まで足をお運びになられて……」

「身を削って戦った者達を労うことは当然のことです。テオ、エクレシアは何処に居ますか?」

「エクレシア様は、その……」

 

 少し躊躇った後、テオは部下に目配せをした。すると彼は部屋の外へと行った。数分後、件の人物であるエクレシアは相棒のパキケファロと共に姿を現した。……背後に1人の少年と1機の人形を引き連れて。

 

「エクレシア、帰投しました」

「おかえりなさい、無事でよかった。エクレシア、後ろに連れて来た2人について話を聞いても良いですか?」

 

 テオからすれば自分達を攻撃して来た奴らを連れて来ること事態が信じられない話だったが、聖女である彼女が連れて来ているなら文句を言う訳にも行かない。

 

「こちらの機械人形の方はいつの間にか部屋にあった物です。急に起き上がって動くようになりました。名前はインスペクト・ボーダーと言うそうです」

「マスターはエクレシアと認識しております」

 

 鋼鉄の体を持つ彼は怪訝な目で見られていた。

 教導騎士団の聖具や奇跡に対抗する物質として、鉄獣戦線の者達が武器として用いていることを知っているからだ。奴らの置き土産ではないか、何故。エクレシアに付いているのか。疑問が渦巻いた。

 

「そして、こちらが上空に開いたホールから落ちて来た少年で。その時の衝撃で記憶がないそうです」

「すみません。自分の名前も憶えていないんです」

 

 ホールから出現した。という話を聞くに獣人ではないのだろうが、純粋な人間とも言い難い存在だった。

 何一つとして素性の分からない証言であり、この場にいる誰もが怪しい。という感想を抱く程であったが、マクシムスは深く頷いていた。特に、少年の顔については何かを確かめるように見つめていた。

 

「あの。何か?」

「いえ、邪教徒かどうかを確認していたのです。御安心なさい。彼は私達と同じ人間です。ドラグマは貴方達を歓迎いたします」

 

 先程まで疑念が渦巻いていたが、マクシムスの宣言と共に拍手が送られた。すると、嘘の様に空気は温かく優しい物になっていた。これにはエクレシアも笑顔になっていた。

 

「でしたら、まずは神の恩寵を授かる所からですね!」

「お待ちなさい。彼も色々とあって疲れていることでしょう。エクレシア、暫く彼らの面倒を見て上げなさい。私はこれからするべきことがありますので」

「分かりました!」

 

 迷うことなく、彼女は答えた。マクシムスが去り、残されたテオとアディンが少年へと駆け寄った。最初にアディンが詰め寄った。

 

「もしも、マクシムス様のお言葉が無ければ私達の所へと引っ張る所だったがな、間違っても彼女に手を出そうなど疚しいことは考えるなよ」

「手を出す。何故だ?」

「彼女の清らかさに心を惹かれる奴は多いってことだ。本当を言うなら、俺が面倒を見てやりてぇよ。仮にでもウチの奴らを殴り倒す位には強ぇんだからな」

 

 テオは直情的な男の様に見えて、先程の戦いでも周りをよく見ていた。少年が騎士を殴り倒す所もしっかりと目撃していた。2人の質問の意図が分からず困惑していると、エクレシアが彼の手を取った。

 

「やっと落ち着いた所なんですから。2人共、そんな詰め寄らないで。まず、お部屋にご案内しますよ。えっと……名前が無いと困りますね。なんて、呼べばいいですか?」

 

 そう言われても少年も自分のことが殆ど分からない。何とか思い出そうと閉ざされた記憶の中身を見ようと唸った所、辛うじて出て来たのは。

 

「……アル」

「アル。っていうんですか? じゃあ、アル君。よろしくお願いしますね!」

「あ。あぁ。よろしく。それと、色々と助けてくれたこと。感謝する」

 

 2人の和やかなやり取りを見て、先程まで立ち込めていた剣呑な空気は影も形も無くすほど、穏やかな物になっていた。

 

~~

 

 教導国家ドラグマから少し離れた場所。

 結果的に言えば、今回の作戦は同胞を解放しただけではなく、ホールから出現したと思しき者達まで仲間に引き込むことが出来たのだから、大成功と言っても良い戦果だった。立役者であるナーベルは皆から称賛を受けていた。

 

「やるじゃねぇか! 居なくなったと思ったら、単身でそんな活躍をしていやがったぁな!」

「違う。僕じゃなくて、彼が協力してくれたからだよ」

 

 ケラスに背中をバシバシと叩かれながらも、ナーベルが指差した先には赤毛の少年が居た。獣人ではないが人間でもない空気を放っており、フェリジットは彼のことを観察していた。

 

「どうして、ナーベルを助けてくれたの?」

「彼を助けるつもりは無かった。ただ、ドラグマが嫌いなだけ」

 

 考え方自体は不自然な物ではない。人間以外を等しく差別している教導国家は、どの種族からも嫌われている。

 だが、やはり彼と言う存在自体は不自然だった。何故、ナーベルが向かった先に居たのか。迷うことなく施設内に存在していた要所の破壊活動を行えたのか。これらを鑑みるに、フェリジットは彼が間者であると考えていた。

 

「(ドラグマに被害を出したのも、ナーベルを助けたのも。私達を信じさせるため。と考えれば、辻褄は合う)」

 

 彼の破壊工作の意味があったのか、フェリジットは集中力と思考能力を取り戻していた。現在、追手が居ないか上空から偵察しているシュライグも同様だった。

 

「フェリジット。仲間も増えましたが、これからどうしますか?」

 

 フルルドリスに付けられた傷を庇いながら、フラクトールは彼女に問いかけた。

 解放のみならず戦力となる者達も増えたのは有難い。だが、依然としてドラグマが脅威であることには変わりなく、彼らの横暴を止める為にはいずれ雌雄を決する必要もあると考えていた。

 

「この世界で平穏を取り戻したければ、マクシムスを倒さないといけない。でも、教導国家には幾つもの脅威があるし、時間を置けば確実に強化される」

「何か知っているの?」

「ホール。ドラグマの最高指導者であるマクシムスはホールをある程度コントロールできる。と、僕は踏んでいる」

 

 ホール。この世界において破滅と栄光を齎す物として広く知られている。

 ある場所はホールに飲み込まれて土地も人も消え去った。しかし、ある場所ではホールから出現したテクノロジーによって繁栄がもたらされた。鉄獣で用いられている、武器も融通して貰ったりしている。

 そう言うことならばドラグマの発展もある程度納得できる。ホールによって得られる恩恵をコントロールできるなら、繁栄も約束された物だろう。ただ、信じるには余りにも突拍子の無い話題であるし、何よりも。

 

「どうして、貴方はそんなことを知っているの?」

 

 フェリジットが最も引っ掛かっていた所はここだった。ドラグマからのスパイにしては身内のことを話し過ぎるし、彼がマクシムスに対して抱いている敵意も本物の様に思えた。

 だが、これだけ獣人や他種族を弾圧して来た男の情報をどうして入手出来ているのか。彼女はそこが引っ掛かっていた。

 

「例えば。僕もホールから出現して、その中でマクシムスの所業を見ていたから。と言ったら、どう思う?」

「義憤でも抱いたの?」

「いや、至極個人的な恨み。本当なら暫くは静観しているつもりだったけれど、ここ最近。事情が変わったんだ――あの男、少し先の未来を見れるようになったのか、行動を急に変え始めるようになった」

 

 その言葉にフェリジットを始めとした獣人達が凍り付いたが、このことにルガルが異議を申し立てた。

 

「待てよ。じゃあ、ドラグマの最高指導者は俺達が攻め込んで来るのも捕まえた奴らが解放されるのも分かっていて見逃していたってことか? じゃあ、とんだ間抜けじゃねぇか!」

 

 彼の言う通り。もしも、未来が見えるというのなら今回の対応はお粗末に過ぎた物だった。何せ、捕虜の殆どは解放された挙句、鉄獣戦線に新たな戦力まで増強させていたのだから。

 

「そっちの問題は兎も角として。……本命はしっかりと手に入れた可能性はある」

「その本命って言うのは?」

「分からない。今の所、可能性があるとすれば。ナーベルも見たという色黒の少年だと思う」

 

 果たして、それは捕まえた獣人達を差し出しても手に入れる価値のあった物なのか? それだけの価値を持つ少年だったとしたら、自分達は途轍もない失敗を犯したのではないか? そんな予感が過った。

 

「なら、早めにやらねぇとな。フェリジット、キット達にも連絡を取ってくれ。そっちにも被害が及ぶ前に」

「分かった」

 

 ルガルの意見にはフェリジットも同意を示し、直ぐに連絡を入れた。

 その傍ら、フラクトールやケラスが解放した人員を確認している中、ナーベルは少年へと近づいた。

 

「そう言えば、君の名前は?」

「僕? アルベルって言うんだ。普通だろ? ナーベル、これからよろしく」

 

 特段変わった名前の様には思えなかった。だが、彼の素性の怪しさも鑑みて本当のことを言っているかどうかは非常に怪しい物だった。

 本当に味方かどうかすら怪しいが自分を助けてくれたことには変わりないので、ナーベルは差し出された手を握った。

 

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