特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~   作:ゼフィガルド

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第5幕:インスペクト・ボーダー「私は何も悪いことはしていません。立っていただけです」

「アル君。起きて下さい」

 

 教導騎士達が使う宿舎でアルは目を覚ました。簡易ベッドの傍には修道服姿のエクレシアとパキケファロが立っていた。昨日は教団内の最低限の案内をされた後、直ぐに寝てしまったことを思い出していた。

 訳も分からないまま放り出されて、争いに巻き込まれた疲労は想像以上の物だったらしい。起き上がってもスッキリとした気分にはならなかった。

 

「おはよう。えっと、エクレシア。で良かったか?」

「はい、大丈夫ですよ。では、着替えて下さい」

 

 信徒達が身に着けている衣服へと着替えるが、採寸された訳ではないので少しブカブカしていた。脱ぎ捨てた黒いマントと衣服をベッドの上に置き、彼女の後を付いて行く。

 男女問わず人々が行き交い何かしらの仕事をしているのは分かったが、全員が共通して、身体の何処かに模様の様な物を刻んでいるのが気になった。

 

「エクレシア。皆の体に描かれている模様は一体なんだ?」

「アレは聖痕と言います。マクシムス様が皆に授けた奇跡で、病気に掛かり難くなったり、とても力持ちになったり、頭が良くなったりもするんですよ。ほら、私もここに」

 

 彼女が自らの前髪を掻き分けると聖痕が現れた。今まで擦れ違って来た者達の大半は四肢の何処かにあったが、額に刻まれている者は他に居なかった。

 

「君のは少し珍しい場所にあるんだな」

「実は、額に聖痕が出たのは史上初めてだそうです。マクシムス様が大変驚いていました。そのお祝いに、パキケファロを預けてくれたんです」

「パキケファロ。コイツのことか」

 

 彼女の傍に付いている奇妙な生物に手を差し出すと、その上に手を乗せて来た。見た目は兎も角として愛嬌はあるらしい。

 

「はい。それから、私は彼とずっと一緒なんです。仕事をしたり、ご飯を食べたり、戦場に出向いたり、糧食を頂いたり、報告をまとめたり、お姉さまと一緒にコッソリと夜食を頂いたりしている時も」

「食っている回数が多いな」

「力が要りますからね。えぇ」

 

 自らの失言に気付いたのか、彼女は誤魔化す様に微笑んでいた。

 ただ、少し不思議に思った。先日は獣人と言う人間以外の種族と矛を交えていたというのに、どうしてこの人間とは到底思えない生物と懇意なのだろうかと。いや、そもそも。この世界の住民なのかと。

 

「パキケファロはこの世界の何処かに仲間達が住んでいたりはするのか?」

「いえ。彼もアル君と同じくホールから出て来たそうです。ですが、マクシムス様は彼に惜しみのない愛情を注ぎ、信頼されるようになったのです。別の世界から来たとしても、誠心誠意を込めて接すれば分かり合えると思っているんです」

 

 眩しい程の笑顔。言っていることは理想的だったが、アルは引っ掛かっていた。

 どうして、この世界の住民とすら分かり合えないのに、他所の世界の者達と分かり合えると思っているんだろうか? と。しかし、口に出す真似はしなかった。

 

「そうだな。そうだと良いな」

「はい!」

 

 相槌を打ちながら向かった先は書庫だった。パキケファロは外で待たされた。

 信徒達が忙しく図書を整理していた。擦れ違うたびにエクレシアは皆に挨拶を交わし、笑顔を振りまいていた。このドラグマ内で如何に彼女が慕われているかと言うことが分かった。

 

「ここに案内したのは」

 

 理由を聞く前に、エクレシアは淀みない足取りで幾つか本を取って来た。

 ページを捲る手付きも慣れた物であり、彼女が幾度となくこれらの書物に目を通して来たことが分かる所作だった。そして、声量を絞って話しかけて来た。

 

「アル君。さっきの話をしている時、こう思いませんでしたか? 他所の世界の子とも分かり合えるのに。どうして、この世界の他種族とは分かり得ないのだと」

 

 しっかりと自分の考えは見抜かれていた。天真爛漫な様に見えて、シッカリと頭も回るらしい。図星と言わんばかりに、彼は静かに頷いた。

 

「実は思っていた」

「正直に言ってくれて嬉しいです。それには理由があるんです。この深淵と言う大陸が辿って来た歴史が」

 

 悪戯っぽく笑う彼女を可憐だと思いながら、アルは開かれたページを見た。

 書かれている文字はまるで分からないが、挿絵には獣人と思しき者達が人間達を虐げている様子が描かれていた。

 

「この世界は沢山の獣人や精霊が存在していました。彼らは力持ちだったり、足が速かったり、空を飛べたりしました。でも、皆自分達が一番だと主張するばかりで手を取り合うことはありませんでした」

 

 子供に言い聞かせる様なトーンでの話し方もまた慣れた物であり、今までに彼女が幾度も読み聞かせをして来たことが分かる話し方だった。

 出来事を列挙するだけではなく、複雑すぎない位に組み立てられているのでスッと頭に入って来た。

 

「その中で。私達人間は非力で、足も遅く、空を飛ぶことも出来ませんでした。獣人達は私達を虐めました。しかし、我々は彼らと違い手を取り合い支え合って来ました」

 

 おとぎ話向けに柔らかい表現が使われているが、実際はどうだったか。

 人間同士も全員が協力したとは思い難かったが、少なくとも他種族よりは結束が強かっただろうことは予想できた。そうしなければ滅ぶからだ。

 

「極北へと逃げて来た人々でしたが、獣人達の暴虐は留まることを知りません。あわや彼らに滅ぼされるかと思った時、1人の敬虔な少女が願ったのです。この世界に神がいるなら、どうか我々をお助け下さい。と」

 

 エクレシアの語りに合わせて開かれたページには、天から現れた2匹の竜が人々を守る様にして獣人達に立ちはだかっていた。

 

「彼女の願いは届きました。現れた2匹の守護竜は獣人達を退け、自らの力を宿した『教導枢機テトラドラグマ』を残しました。そして、最初に祈りを捧げた少女は『聖女』と呼ばれ、彼女を支える『大神祇官(マクシムス)』と共に教導国家ドラグマを繁栄させて行きました。……と言う歴史があるんですよ」

「この国の歴史は分かったが、どうして他種族とは分かり合えないんだ?」

 

 国家の歴史は分かったし、獣人達が血気盛んだった話も聞いた。過去の怨恨が尾を引いているとしても、当時の人間達が今も生きているとは思い難い。

 

「実は獣人達は今も変わっていないのです。こちらの書物は現在の獣人達を書き記した物です」

 

 相変わらず書いている文字は読めないが、挿絵は変わっていた。

 描かれた物ではなく。まるで、目の前で見て来た風景を切り取ったかのような絵が載せられていた。

 

「なんというか。絵の雰囲気が変わったな」

「なんでも、シャシン? と言うらしいです。ホール由来の技術だそうです」

 

 そこには他種族で争っている光景が大量に載せられていた。種族間だけではなく、種族内ですら迫害が起きている光景も収められていた。

 例えば、人狼の青年が襲い掛かられていたり、片翼しかない鳥人の少年が苛められていたり、妹と思しきヤマネコの少女を抱えた女性が追いかけられていたりと。争いの絶えない様子は伝わって来た。

 

「本当に憐れだったのは彼らだったのです。何時までも争いを止められない彼らを止め、真なる平和を願う様に改宗するべく。私達は活動に励んでいるんです」

 

 自分達がしていることに一点の曇りもないと言わんばかりに胸を張る彼女に対して、アルは書物に載せられた写真に疑問を抱いていた。

 

「エクレシア。この写真に乗っている獣人達は……助けられたのか?」

「いえ、助けられなかったそうです。命からがら、この光景を収めて来たのだとか」

「そうか、それともう一つ。獣人達が争っている。と言う割には、この間の鉄獣戦線(トライブリケード)だったか? 彼らは結託している様に見えたが……」

 

 獣人達の争いが身内に向くことがあるというのも、恐らく事実だろう。

 だが、先日相対した彼らは協力し合っている様に見えた。今まで聞いた説明とは相反する物だった。

 

「それが分からないのです。ドラグマに従い聖痕を刻めば、誰もが手を取り合える世界へと向かえるというのに」

 

 彼女には一切疑っている様子が無かったが、アルは素直に信じることは出来なかった。何故なら、自分はまだ何も知らないからだ。

 

「きっと、彼らにも理由があるのだろう。……他にも教えて欲しいことがある。このホールについて。話を聞かせて貰えないだろうか?」

「あ、すいません。ホールに関しては人々を不安に陥らせない為にも。一般には情報が開陳されていないんです」

 

 ホールから何が落ちて来るかを詳細に知れば恐怖に陥る物も居ると判断されてのことだろうが、それなら尚更正しい知識を身に着けた方が良いのでは? と考えた。何より、自分もそこから落ちて来た身なのだから。

 

「どうしても。駄目か?」

「困りましたね……」

 

 彼女は少し悩むような素振りを見せ、それでも首を横に振ろうとした。

 すると、彼らの話を聞いていたのか。1人の大男が近付いて来た。周りの者達は姿勢を正し、エクレシアもまた椅子から立ち上って礼をしていた。そんな彼女達に大男。マクシムスは声を掛けた。

 

「エクレシア。早速、彼を案内してくれているようですね」

「はい。マクシムス様。ちょうど、ドラグマの歴史と獣人達について話していたのです」

「素晴らしい。私達を知るために必要なことをキチンと把握している」

 

 体躯に似合わぬ優しい声色と柔和な態度は、不思議なことにアルから警戒心を奪い取っていた。少し呆けた表情をしていると、目の前にマクシムスが立っていた。

 

「アル君。行儀は悪いと思うが、君達の話は少し聞かせて貰っていた。ホールに興味があるんだね?」

「は。はい! 俺が何処から来たのか知りたくて……」

「残念ながらホールのことは話せない。こればかりは君を贔屓にする訳には行かないからね。……ただ、その代わりと言っては何だが。ホールから落ちて来た物を君にも見せよう。ついて来なさい」

 

 少し驚いた様な表情をしたエクレシアを傍目に。マクシムスは歩き始めた。彼の後を付いて行きながら、アルはコッソリ尋ねた。

 

「ホールから落ちて来た物って?」

「ドラグマでも非常に秘匿性の高い情報です。聖女や上位職の人間しか入れない程の場所なのですが」

 

 何故、自分を案内してくれるのだろうか? ……マクシムスが自分に興味を持っているのは明らかであり、それが一層。アルが疑念を深める理由となりながら、彼は歩を進めていた。

 

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