特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~ 作:ゼフィガルド
アルの全身に聖痕が浮き出たという話は一部の物だけに知らされていた。これに対して、疑問に思ったのはテオだった。
「どうして、マクシムス様は皆に報せないんだ?」
「慎重を期してのことだろう。ドラグマの歴史を顧みても、ここまでの聖痕を出した者はいない。故に、何が起きるか分からない。安全と信頼を得てから公表すべきとお考えになられたのだろう」
アルがホールから落ちて来た存在ということもあり、未知数な部分も多い。
自分達が呼ばれたのは、今後の彼に関する指導や教育を協議する為だろうと、アディンは考えていた。
当の本人はと言えば、同じ様に四肢に聖痕を持つフルルドリスから質問攻めにあっていた。
「痛む所は無いか? 違和感やいつもと違った所は無いか?」
「いや、特には」
「そうか。何かあったら、直ぐに私達に言ってくれ。テオ、暫くはお前に預ける。現場で叩き上げる腕は、お前が一番だ」
淡々としていたが、気遣いは十分に感じられた。フルルドリスから指名を受けたテオは意気揚々と頷き、不躾にアルと肩を組んだ。
「よっしゃ。まず、訓練と実戦から行くか。見た所、体つきは悪くねぇしな。何かしていたのか?」
「分からない。あまり、自分のことは覚えていなくて」
アルの全身は筋肉質と言う程ではないが、無駄な肉は付いていなかった。背格好はエクレシアと同じ位だったが、まだまだ成長の余地はあることだろう。
「テオ。あまり、無茶はさせるなよ」
「分かっているって。じゃあ、早速行くか!」
テオがアルを引き連れて訓練所へと向かって行く中、フルルドリスは僅かながら微笑んでいた。
「アイツ。弟が欲しいと言っていたからな」
「そうですね。無神経に見えて、奴も結構気を使っているんですよ」
既に妹分としてエクレシアはいるが、聖女である前に1人の少女として気を使う部分は多々あった。故に、遠慮なく接することのできる年下の同性と言う存在は、以前から欲していたのだろう。
……ふと、アディンは周りを観察した。聖具である魔導書を使っても、周囲に反応はないことを確認してから、チラリと彼女に視線をやった。
「アディン。ハッシャシーンの動きはどうだ?」
「マクシムス様は彼を遠ざけている節があります。……我々も時間の問題かと」
「早く使い物になって欲しいな」
テオの朗らかな様子とは打って変わって、フルルドリス達が送る視線には切実な物が含まれていた。そんな彼女達を音も無く、気配も無く観察する存在が居た。
『ハッシャシーン』。敬虔なる信徒達の中でも更に信心深い者達だけを集めて作られた集団であり、彼らを取りまとめる存在にも同じ名前を冠していた。
彼女達の会話を聞き届けたハッシャシーンは、音も無く痕跡も無く。この場から姿を消していた。
~~
そして、数日が経った。テオや皆から指導と訓練を受けつつ、アルは戦いの術を学んでいた。
また、彼の朴訥な人柄は皆からも歓迎されていた。小柄な体躯に似合わぬ膂力や覚えた技術で先輩騎士達とも手合わせが行えるようになった中、テオから指示が出た。
「アル。そろそろ、お前も表に出るべきだ。と言っても、邪教徒と戦いに行く訳じぇねぇ。まず、最初に検問の仕事からだ。偶にごねて暴れる奴もいるから、そう言う奴が居たら止めてくれ。何、腕の立つ奴らも付ける」
「分かった」
ドラグマに訪れるのは人間だけではなく、住処を追われた獣人等が訪れる場合もある。闘争などで敗れた場合や力関係で迫害された場合もあるが、中には罪を犯して、駆け込んで来る不届き者もいる。
そう言った者達に対して、ドラグマは決して門戸を開かない。粛清すべき邪教徒として扱われる。
「獣人共には情がねぇからな。その点、マクシムス様は教えと聖痕を受け入れる者に対しては寛容だ。アル、街を見てみろよ」
基本的には教団内で訓練に明け暮れていたが、街中を見ると以外にも獣人の姿も見かけた。彼らは鉄獣戦線の者達と違い、体の何処かに聖痕を刻んでいた。彼らの会話に耳を傾けてみた。
「また、鉄獣戦線(トライブリケード)の奴らが何かやったのか? 本当に勘弁してくれよ。俺達の立場が悪くなっちまう」
「あそこにいる奴らは、同胞に恨みを持つ罪人ばかりだからね。きっと、私達の立場が悪くなって喜んでいるのよ。全く、マクシムス様を見習ってほしいわ!」
聞こえて来た会話は侮蔑に満ちた物だった。先輩達も聞こえて来た会話に便乗するように鉄獣戦線へ悪態を吐いていたが、アルは曖昧に頷くだけだった。
「(どうして、会っても居ない彼らにそこまで言えるんだ?)」
アル自身も彼らと積極的に対話をした訳ではない。ただ、自分のことを惹き込もうとしていた獣人も居たり、捕虜を解放する為に動いていたことを考えると、誰かの為に動ける者達だという気はしていた。
少なくとも。エクレシアやテオはこんな素性も分からない自分にここまで親切に接してくれているのだ。エクレシアや協議で聞いた獣人達は恐ろしい存在だったが、もしも話せるなら……と考えている内に、検問所へと来ていた。人集りも出来ており、何か騒ぎが起きている様だった。先輩騎士が状況を確認した。
「何が起きている!」
「表で指名手配されている獣人が暴れ出しまして。応戦はしているのですが」
「クッソ! やっぱり、獣か」
先輩達と一緒に向かった先には、大柄な獣人が番兵と戦っていた。
彼はアルならば対処しやすいだろうと目星をつけたのか、狙いを変えて襲い掛かって来た。
「どけ! ぶっ殺すぞ!」
「(あぁ。そうか、これが普通の獣人なのか)」
先程まで抱いていた淡い期待が裏切られた様な気がした。体内に走る感情に呼応して、聖痕が彼に力を与える。
自分よりも巨体である獣人を蹴り飛ばした。相手を蹴り上げる重さは殆ど感じず、追撃を掛ける為に跳ね上がった。跳躍所か飛翔と言わんばかりに跳び上がった。相手は驚愕に目を見開いていたが、そんなことは構いもせず地上へと叩き落していた。
盛大に砂埃が巻き上がり、件の獣人は目を回して気絶していた。瞬く間に拘束されて連行されて行った後、アルは先輩から頭を叩かれた。
「バカ野郎! 勝手に動くな! 周りに被害を出したらどうするんだ!」
「すいません。どうにかしないと、って思って」
「……まぁ。直ぐに対応できなかった俺達も悪ぃんだが。おい、検問所に集まっていた奴らも困惑しているだろうし、さっさと整理するぞ」
自分が起こしてしまった混乱の解決は自分達で行う。失態を挽回する機会を与えられたアルが、先輩達と一緒に列を整理している時のことだった。
「すみません。先程、手続きをしている最中に騒ぎが起きてしまったので、やり直しに来たのですが、何処に並べばいいですか?」
「それならこちらに……」
とまで言いかけで、アルは口を噤んだ。小柄な鳥人族の少年を連れた赤毛の少年。彼の見た目や雰囲気はあまりに自分と酷似していた。
彼はアルの全身を観察すると、舌打ちをしていた。そして、彼は耳元でささやいた。
「早く、この国を出ろ。取り返しが付かなくなる前に」
「は。え?」
全く意味が分からずいる中。彼に付いて来た小柄な鳥人族の少年が慌ててフォローを入れていた。
「すいません。彼、戯曲が好きで。誰にでもカッコいいセリフを吐きたくなる年頃なんです。……多分」
「そ、そうなのか。気を付けた方が良いぞ。変な奴と思われるからな」
彼のフォローに赤毛の少年は笑顔で返していた。ただ、鳥人族の少年は小さく悲鳴を上げていた。やがて、列の整理も進んでいくとアルが彼らに掛かりっきりになることは無く、静かに――鉄獣戦線のメンバは―ドラグマへと入り込んでいた。