特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~ 作:ゼフィガルド
多少のトラブルはありつつ、アルの初任務は無事に終わった。
業務の引継ぎ方も学び、ポッカリと時間も空いた。エクレシアは自分よりも遥かに多忙である為、会いに行くことは難しい。
では、空いた時間を過ごせるほど懇意な人間は居ない。なので、今後の活動も考えて街中を回ろうとも考えていたが、ハタと気付いた。
「(金を持っていないな)」
教導騎士団に所属して日が浅い彼には、給金は未だ支払われていない。無心すれば借りることも出来たかもしれないが、そこまでする気も無かった。
ならば、自分達が所属している場所を知るために内部を見て回ろうと考えた時、ふと。彼はマクシムスの言葉を思い出していた。
「(俺以外にも、ホールから来た奴らもいるんだよな?)」
自分が見たのは言葉を交わすのも困難な者達ばかりだったが、言葉を話せる者達は協力してくれている。と言っていた。
「(帰還の手掛かりがあるかどうかは分からないが、同じ様な境遇の者達とは会っておきたいな)」
暫くは訓練に励んでいたが、初任務を無事に収めたことにより幾らか心に余裕も出来ていた。肉体を鍛える以外にも知見を拡げることもまた必要なことだと思い、彼は施設内の探索を始めた。
~~
「ホールから来た者か?」
「あぁ。きっと、俺以外にも似た様な奴らが居たと思うから。話がしてみたくて」
彼が真っ先に尋ねたのはアディンだった。戦いの時は騎士達のサポートに徹する彼は、高い情報処理能力を活かしてドラグマ内の業務全般を支えている。故に、アルと似た様な境遇にいる者達に付いても詳しかった。
「まず、マクシムス様に仕えている『宣告者の神巫(デクレアラー・ディヴァイナー)』がそうだな。彼女は元の世界でも神事に身を捧げていたらしく、こちらでも重用されている。多忙である為、会うことは難しいだろう」
「そうか。他に会えそうな者は?」
「会えそうな人間となると少ないのだ。ホールから来た者達は未知の力や豊富な知識を持つ者も多く、ドラグマ内でも重要な役職に就いていることが多い。だが、会えなくはないぞ。例えば、貴様の後ろにいる婦人」
クルリと振り返った時、アルは固まってしまった。
全身紫色の肌。ムチムチの肉体は我がままボディと言う言葉では到底誤魔化せない。もはや、傲慢とも言える質量を持っていた。
よく見れば胸の所に膨らみがあることから、辛うじて女性と認識できた。だが、容姿は人間から掛け離れており、獣人と言うよりかは悪魔。に近い様に思えた。
「あら! 可愛い子がいるじゃない! この子が噂のニュービーちゃんね!」
問答無用でハグされた。エクレシアに近付いた時は良い匂いがするのだが、こっちは良い臭いがした。多分、昼飯に食ったであろう香草焼きの物だ。
彼女の豊満……、いや傲慢な腹と胸に包まれて中身が絞り出されそうになる中、見かねたアディンが注意した。
「リリーサー殿、スキンシップはその辺で。アルも困っています」
「ごめんねぇ。若くてイキの良い子を見ると、我を忘れちゃうの」
「いや、大丈夫だ。気にしていない」
本当は色々と思うこともあったが、相手に気負わせまいとする気遣いが発揮されていた。
「本当、良い子ね! 決めたわ。これから一緒に街に出ましょう!」
「え!?」
助けを求めるようにアディンへと視線を向けたが、彼は微笑むばかりだった。そして、そっと背中を押してくれた。
「リリーサー殿もまた儀式や奇跡に関する造詣が深く、ホールから来た者でありながらドラグマのことについては大変詳しい。良かったな。彼女に案内しても在れれば、貴様も知りたいことを知れるだろう」
「あら、そう言うこと! いいタイミングね。おばさんが色々と教えてあげるわ」
アルは無言で抗議の視線を投げかけたが、アディンは既に別の業務に取り掛かっていた。後で、テオを通して文句を言おう。そう、心に決めた。
~~
教導国家ドラグマは、落ちのびて来た獣人やホールから迷い込んだ者達の分かも入り混じり多様な光景が繰り広げられている。
鉄獣戦線から工作員として潜入していたアルベルとナーベルも日常に溶け込む為に支度をしていた。真っ先に探すべきは居住場所だった。
「獣人達は……聖痕が刻まれるまでは、街の中心部には出入りできないみたいだね」
ナーベルも覚悟していたが、恭順しても区別は避けられないらしい。
未だに共住する為の建物が作られているらしく、入居できない者達はテントなどの簡易居住の中で暮らしていた。
これでは内部の様子を探るのに相当な時間が掛かってしまう。早速、壁が立ちはだかった。アルベルの方へと視線を向けると、彼は特に思い悩んでいる様子は無かった。
「ナーベル。早く行くよ?」
「え? さっきの話……」
街の中心部へと続く門を潜ろうとする彼を引き留めようとするまでも無く、番兵達によって引き止められていた。
「止まれ。聖痕と通行証を見せろ」
先程、街に入ったばかりの自分達がそんな物を持っている訳がない。今後の活動を考えれば目立つことは避けたいと願っていたナーベルは顔を覆っていたが、アルベルは何の躊躇いも無く袖を捲った。
「これで良いですか?」
「ふむ、聖痕が刻まれているか。ならば、通行証を見せろ」
「こちらに」
極、当たり前のようにアルベルの腕には聖痕と思しき模様が刻まれていた。そして、手には二人分の通行証。
番兵達も確認は取っていたが、厳密な物では無く。ナーベルも含めて易々と通された。
「(アルベル君。どうやって?)」
「(ちょっと、僕とドラグマには縁があってね)」
始めて会った時も、収容所の近くにいたことを考えれば関係者であることは察していたが、何処まで踏み込んだ存在なのかと気になった。
街の中心へと繋がる門を通り抜けた先に広がる光景を見て、ナーベルは言葉を失っていた。
「いらっしゃい! 今朝、採れたばかりの新鮮な野菜ですよー!」
そこには、文明があった。時折、鉄獣戦線に融通される様な科学兵器と言う文化ではなく。集団で築き、運用される社会基盤があった。獣人達も小規模ながら社会を築いているが、ここまで大規模で絢爛豪華な物は無かった。
瑞々しい野菜や果実が並べられた市場があった。店先では香ばしく焼き上げられた料理に舌鼓を打つ家族が居た。また別に目を凝らせば、趣向を凝らした衣服を試着している少年と婦人が居た。
「アル君は体型が良いから何でも似合うわ! このチェックシャツなんてとっても可愛らしいと思うわ!」
「ミャァ」
果たして、彼らは買物を楽しんでいると言えるのだろうか? まるで、全てを諦めた猫めいて力ない鳴き声を上げて、少年は着せ替え人形と化していた。
「ブホッ」
「アルベル君?」
先程まで、まるで道化師の様に巧みに番兵を欺いていたアルベルは噴き出していた。ジィっと顔を見ると、憐れな着せ替え人形と彼の顔はよく似ていた。
「アイツ何してんだ……」
「知り合い?」
ナーベルの質問にはまるで答えず、着せ替え光景を眺めていた。
色々な次元からの文化が混ざっていることもあって、多種多様な服がある中。どうして、こんな糞ダサい服装をチョイスするのか。だが、服を選んでいる婦人のセンスが可愛らしいと判断しているのだから仕方ない。
「こっちのパンツなんて生地も良く伸びて動きやすいと思うの。それから、男の子だし黒系のアクセサリーも買って」
もしかして、あのおばさんに買われたのだろうか。されるがままにデコレーションされる、自分とよく似た雰囲気の少年を見てアルベルは憤っていた。
ただ、そんなに視線を向けていれば向こう側も気付く。ふくよかな体に似合わない俊敏さでアルベル達の背後へと回り込むと、優しく微笑んだ。
「あら。貴方達も小汚い恰好をしているわね。今日の私はとても機嫌が良いの。貴方達の服も選んじゃうからね」
「いや、あのご厚意は嬉しく思うのですが!」
ナーベルが遠慮したが、リリーサーは決めたことを覆すつもりは無かったらしい。ここら辺はドラグマで長いことやっているが故の傲慢でもあったのだろう。先程、別れたばかりの彼らは望まぬ再会を果たしていた。
「まぁ! 双子かしら? お揃いで統一しても工夫が無いから、対になる様に選んで……」
店にとっては上客である為、店主も微笑むばかりだった。唯一、少年3人だけは悲壮な顔をしていた。