特殊召喚がメタられた烙印世界 ~おい、EXデッキから召喚させろよ~   作:ゼフィガルド

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第9幕:ハッシャシーン「マジで何もしていません」

 リリーサーも大量の服を買い込んで満足したのか、アルを含めた3人に街案内をしていた。ただの世話好きのおばちゃんかと思いきや、教団内でも重要なポストに居ることもあり、豊富な知識を持っていた。

 

「私達がいるのは街の中心部ね。ここにいる者達は聖痕を刻まれた、敬虔な信徒達よ。そして、門を挟んで郊外となっているの」

「郊外と内側の違いは?」

「アル君も警備をしていたから分かると思うけれど、追放された獣人や小競り合いに疲れた者達が落ちのびて来ることがあるの。彼らは素性や帰属意識が認められるまでは、この内部に入れないの」

 

 多少差別的な物を感じもしたが、先の一件でロクでもない獣人を見た手前、アルも必要な措置だとは考えていた。

 

「それらを示す方法は?」

「地道に働いて信頼を得る事ね。郊外の方にも警備や店はあるし、外よりもずっと安全に暮らせるからね」

 

 改めて、自分がここに落ちて来たこと。エクレシアや皆に拾われた幸運に感謝していた。万が一、外に落ちていたら。どうなっていたことだろうか?

 

「外には獣人がいるから。ですか?」

 

 小柄な鳥人の少年。ナーベルがリリーサーに問うていた。彼女はにっこりと笑顔を浮かべながら言った。

 

「その通りよ。私も何度か邪教徒との戦いに赴いたけれど、彼らの生態は下卑たる物だったわ。弱者を虐げ、強者だけが生き延びる。彼らが力を持てば、野蛮な世界が広がるだけ。だから、私達はマクシムス様の下で全てを慈しむ教義を拡げなければならないの」

 

 何一つとして疑っていない様だった。アルベルは微笑み、ナーベルは少し俯き、アルは首を傾げていた。

 

「俺は街中にいる獣人と……ナーベル以外を見ていないから何とも言えないが。鉄獣戦線などは少し様子が違った様に思えたが」

「私は彼らを憐れだと思っているの。追放された者達こそドラグマに来るべきだと思うの。そして、他の矮小で卑しい獣人共の報いを受けさせるべきよ」

 

 その先にある未来を浮かべて、アルは曖昧に相槌を打つだけだった。

 暫く、彼らは行動を共にしていた。食事を取ったり、演劇を見たりと。深淵と言う大陸における文化と言う贅を堪能し尽くした。

 やがて、満足も行ったのか。ナーベルに変わりアルベルがリリーサー達に礼を言った。

 

「ありがとうございます。リリーサー婦人。貴方のお陰で有意義な時間を過ごせました。また、お会いしたいですね」

「あらヤダ。何時でも会いに来て頂戴!」

「アル。君ともまた会いたいな」

「お、おぅ」

 

 リリーサー達と分かれたアルベルは迷うことなく何処かへと向かっていた。

 着いた先には小さな家が一軒。慣れた手つきで解錠して中に入ると、家内には必要最低限な物が置いてあるだけだった。

 2人が真っ先にやったことは……とりあえず、買って貰った服を脱いで簡素な部屋着に着替える事だった。

 

「はぁ。疲れた……」

 

 飄々としているアルベルが溜息を吐いた。リリーサーと言う女性の押しの強さには辟易するばかりだった。

 

「アルベル君。家まで持っているなんて。一体、どうやって?」

「ちょっとしたコネがあるんだよ。さて、ナーベル。君が今後、この街で活動していく上では聖痕を刻む必要があるんだけれど」

「どうやって?」

 

 街中で見た獣人達も体の各所に刻まれていた。しかし、それらはマクシムスや仰々しい手続きが無いと刻めない物だと考えていた。

 

「先に言っておく。この聖痕って言うのは、本当は碌でもない物なんだ」

「どういうこと?」

 

 アルベルが袖を捲る。露わになった腕に刻まれていた聖痕がうねり、腕部の皮膚がうろこ状へと変貌していく。先日の突入騒動の際にも見た物だ。

 

「これはマクシムスが施した『烙印』と呼ばれる物で、ホールを繋ぐ物なんだ。僕は制御出来ているから良いけれど、大抵の者達は制御できていない。それでも、漏れだした力による恩恵はあるけれど」

「制御出来ないと。どうなるの?」

「化け物になる。獣人ですらない、何かに」

 

 もしや、彼はこの国の根幹とも言える部分を知っているのではないか?

 マクシムスからすれば、この事実を知られるのは不都合と言う外ない。だが、彼の言うことが真実であるという保証もない。

 

「じゃあ、待っておけば。ドラグマは壊滅するってこと?」

「それがそうでもない。本来はかなり不安定なハズなのに、マクシムスはかなり安定させている。恐らく、前に見た結界像の役目も大きいと思う」

 

 リーダーを始めとして強者達の力を封じる物。自分達の目的はこれらを破壊するということもあるのだろうが、おいそれと手を出せる場所にない。

 

「潜入、調査、工作。やることが多いよね」

「気長に行けばいい。あ、そうだ。君にも聖痕を刻んでおかないと怪しまれるから。腕を出して」

 

 ジュッ。と、多少の痛みと共にナーベルの腕にも聖痕こと烙印が刻まれた。体が幾らか軽くなった様な気がした。

 

「大丈夫なの?」

「これは僕がコントロールしている物だからね。明日からはもっと忙しくなるよ。住民票とかも色々と取らないといけないし」

 

 どうして、そんなに詳しいんだろう? と思いながらも、ナーベルは今日1日の出来事を整理していた。

 敵対していた人間達の街。そこには繁栄が溢れていて、豊かな生活があった。自分を助けてくれた鉄獣戦線(トライブリケード)の皆には恩義を感じているが、彼らとの生活は概ね獣に多少の文化的な要素が生えた程度だった。

 

「(そりゃ、確かにドラグマは邪教徒として獣人や精霊達を弾圧しているけれどさ)」

 

 仮に獣人達がドラグマを打ち破ったとして、後に待っている生活を考えた。

 今まで争っていたが共通の敵を前に手を取り合い、やがて和解して……。と言うことを信じられる程、ナーゲルは楽観的では無かった。集団を追われた経験は、本人の傷となっている。

 

「(でも、鉄獣戦線(トライブリケード)の皆は否定したくないし。あ、矛盾はしないか。他の獣人は兎も角、シュライグさんや皆さえ無事なら。いや、でも烙印って言うので何があるかは分からないし……)」

 

 信じ切ることは出来ないが、どちらがマシだと考える。もっと深く知るために、ナーゲルはこの潜入に力を入れることを決意した。

 

~~

 

「ヒィハハハハハ! アル! お前、その恰好なんだよ!」

 

 例のファッションで帰って来たアルを見掛けたテオは早速爆笑していた。本人は恥ずかしがったりすることも無く、疑問符を浮かべているだけだった。

 

「変なのか?」

「ヤバいって。お前、ヤバいって! まぁ、アディンから話は聞いていたけれどよ。リリーサーさん。お前みたいな奴に目が無いからな」

 

 ポンポンと肩を叩かれた。他の信徒達も横目で見ては噴き出したり、必死に笑いを堪えたりと。今の自分は相当奇異に映っているらしい。

 

「だけど。色々と案内して貰えて楽しかった。良い人だった」

「その素直さは良いと思うぜ。ただ、教団内ではいつもの服でいろよ?」

 

 流石に目立ち過ぎるということで宿舎に戻ろうとした所で、ドスドスと重い足取りと共にパキケファロがこちらに向かって来るのが見えた。当然、そこには彼女も居る訳で。

 

「アル君! 変わった格好をしていますね。何かの儀式ですか?」

「いや、リリーサーさんに服を買って貰ったんだ。……似合うか?」

「似合っていません! ちゃんと自分で選びましょう!」

 

 聖女の断罪の刃はアルの尊厳を一刀両断していた。

 なるほど、テオが笑い飛ばしてくれていたのは優しさだったのかと。エクレシアの厳しくもある優しさを受け、とりあえず教団の制服を着る為に部屋へと戻った。

 

~~

 

 ご機嫌で帰宅したリリーサーはマクシムスの下へと赴いていた。彼の隣では、ホールからやって来た少女『宣告の神巫(デクレアラー・ディヴァイナー)』が祈りを捧げている。

 

「マクシムス様。鉄獣の子達が入り込んでいるけれど、放っておいていいのかしら?」

「構いませんよ。むしろ、たんまり餌付けして上げなさい。獣は餌をくれる者に懐きますからね」

「分かりました。では……」

 

 ディヴァイナーの隣に立ち、リリーサーも祈りを捧げ始めた。

 マクシムスが見守る中、教導騎士団の暗部とも言える『ハッシャシーン』を束ねる長が、音も無く表れていた。

 

「マクシムス様。鉄獣戦線の者達が、先日。解放した者達を引き連れて、大砂海へと向かっていますが。よろしいのですか?」

「その先にある場所へと向かわれると厄介ですね。エクレシアと……彼を向かわせるとしましょうか。獣人と違って彼らは招き入れる訳にはいきませんからね」

 

 理由は分かっている。大砂海を越えた先にある鉄の国からもたらされる力は、聖痕や聖具とは非常に相性が悪い。

 ハッシャシーンは部下に命じ直ぐに報告へと向かわせた。そこから直ぐにでも立ち去っても良かったが、彼はマクシムスに問うた。

 

「マクシムス様。貴方は随分とお変わりになられた。以前ならば、獣人を受け入れるなどあり得ませんでしたが。一体、どういったお心の変化が?」

「天啓が降りたのですよ。ホールを通してね。邪教徒を滅ぼすよりも、彼らにも広く教義を広め、信徒として迎え入れるべきだと。時期を前後して、ホールの出現も大量に増えたのですから、これは世界が私を推して下さっているのです」

 

 ハッシャシーンが覚えている限り、マクシムスの方針変更とホールが頻発しだした時期は似通っている。それと同時に、ドラグマは目覚ましい発展を遂げた。

 

「流石の慧眼です」

「貴方も良く仕えなさい。今は体も重いでしょうがね」

 

 そして、マクシムスを始めとした教導騎士団の強者達の力が削がれた時期も前後していた。ハッシャシーンは音も無く立ち去り、マクシムスは直ぐに視線をリリーサー達が執り行う儀式の方へと向けた。

 

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