日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第五十八話『国産』 急

 銀座上空の戦いは愈(いよ)々(いよ)大詰めだ。

 防衛側の機体は岬(さき)守(もり)航(わたる)の駆る超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヤマトイワレヒコと豊(とよ)中(なか)大(たい)洋(よう)の駆る壱(いつ)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)、侵攻側の機体は輪(わ)田(だ)衛(ひろ)士(あきら)の駆る特(とつ)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・ツハヤムスビと遠隔操縦される二機の弐(に)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)と、開戦当初とは逆に侵攻側の方が数的有利となっていた。

 

 戦況は悪い。

 侵攻を食い止めるには何よりも先(ま)ずツハヤムスビを墜(お)とさなければならないが、カムヤマトイワレヒコの光線銃を直撃させても威力が足りず装甲を破れなかった。

 つまり、現状では防衛側には敵を斃(たお)す手段が無い。

 この状況を打破する為(ため)にはカムヤマトイワレヒコの特殊な回路を作動させなければならない。

 

「くっ! 岬(さき)守(もり)さん、日(ひの)神(かみ)回(かい)路(ろ)の発動はまだか! このままでは俺(おれ)も保(も)たない……!」

 

 豊(とよ)中(なか)は二機の弐(に)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)を相手取り、追い詰められていた。

 今まで一機を相手にも苦戦していたのだから無理も無い。

 そして、豊(とよ)中(なか)には航(わたる)が虎の子の切り札を発動させられない理由も身に染みて解(わか)っていた。

 輪(わ)田(だ)と戦いながらでは、回路発動に必要な深度まで自身の内部に意識を向けられないのだ。

 

「勝つ為には先ず敵の注意を惹(ひ)かなければならないということか。つまり俺(おれ)がなんとかしないと……!」

 

 豊(とよ)中(なか)は意を決して壱(いつ)級(きゆう)を、接近していた弐(に)級(きゆう)へと向かわせた。

 形(なり)振(ふ)り構(かま)わぬ体当たりを敢行し、捨て身で活路を開こうとした。

 操縦士の技量がどうあれ、機体の大きさで勝る壱(いつ)級(きゆう)が一回り小さい弐(に)級(きゆう)と衝突すれば、弐(に)級(きゆう)の側が弾(はじ)き飛(と)ばされるのは道理だ。

 この時、二機の弐(に)級(きゆう)の位置関係は離れた位置でツハヤムスビと戦っていたカムヤマトイワレヒコと一直線上に並んだ。

 

『今だ!』

 

 カムヤマトイワレヒコの光線砲が二機の弐(に)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)を同時に貫いた。

 豊(とよ)中(なか)は航(わたる)の操縦能力ならこの隙を逃さないであろうと信じており、その目(もく)論(ろ)見(み)が実を結んだのだ。

 だがこれは大きなリスクの伴う賭けだった。

 二機の弐(に)級(きゆう)を撃墜した瞬間、カムヤマトイワレヒコもまた背中の飛行具に敵機の光線砲を掠(かす)らせてしまい、再び一部を損壊してしまった。

 

「岬(さき)守(もり)さん、すまん! 大丈夫か!」

『問題無いですよ。寧(むし)ろ、ここまで狙い通りです』

 

 カムヤマトイワレヒコは確かに飛行具を損壊した。

 それも二度に亘(わた)って、である。

 しかし、抑(そもそ)も一度目の損壊で航(わたる)は機体の平衡を取るのが困難な状態に陥っていた。

 今回、再び飛行具を一部失うことで、寧ろ左右の揚力が均衡して機体の平衡が幾分か回復したのだ。

 

『隙を見せれば狙ってくると解っていた。それを利用させて貰(もら)った』

『成程な、美(み)事(ごと)なものだ。だがこの私(わたし)を虚(こ)仮(け)にしてくれた代償は高く付くぞ』

 

 何はともあれ、輪(わ)田(だ)は弐(に)級(きゆう)の全てを喪(うしな)った。

 この場はツハヤムスビ一機撃破すれば良い。

 後から追い付くという彼の部下の超(ちよう)級(きゆう)部隊が合流する前に決着を付けるのだ。

 

「岬(さき)守(もり)さん、此(こ)方(ちら)でなんとか敵を揺動してみる。その隙に日(ひの)神(かみ)回(かい)路(ろ)を発動させてくれ」

『いや、それよりももっと良いやり方があります』

「何?」

『その壱(いつ)級(きゆう)の光線砲で僕(ぼく)を撃ってください』

 

 豊(とよ)中(なか)は耳を疑った。

 何故(なぜ)カムヤマトイワレヒコを、共に戦う航(わたる)を撃たなければならないのか。

 航(わたる)は自棄(やけ)になって正気を失ったのか。

 

「何を言っているんだ?」

『説明は出来ません。兎(と)に角(かく)やってみてください。ただ、カムヤマトイワレヒコが墜ちないギリギリの威力でお願いしますよ』

 

 豊(とよ)中(なか)は考える。

 墜ちない威力で撃てということは自暴自棄の懇願ではないのだろうが、随分と突拍子もない提案だ。

 だが、これまでの戦いで航(わたる)の大胆な発想力は見せて貰った。

 何か狙いがあるのなら、その言葉に賭けてみるのも悪くないだろう。

 

「解った、やってみよう!」

 

 豊(とよ)中(なか)は壱(いつ)級(きゆう)の手をカムヤマトイワレヒコに向け、光線砲の照準を合わせた。

 一応、カムヤマトイワレヒコの搭乗経験なら自分にもある。

 引き出した性能は充分から程遠いが、それでも耐久力は熟知しているつもりだ。

 破壊しないギリギリの威力で狙えというなら、やれないこともないだろう。

 

 だが、敵もこちらの行動を態(わざ)々(わざ)待ってくれたりはしない。

 ツハヤムスビは三(み)度(たび)胸の前で腕を交差し、背中の翼の様な装備を拡(ひろ)げた。

 

『そんなに撃たれたいのなら私(わたし)が撃ってやろうか? 仲間諸(もろ)共(とも)な』

 

 ツハヤムスビは翼の砲口から無数の光線砲を発射し、航(わたる)と豊(とよ)中(なか)を撃ち墜とそうとする。

 カムヤマトイワレヒコは躱(かわ)し切れずに何発か被弾し、装甲の一部を破壊された。

 そして豊(とよ)中(なか)の壱(いつ)級(きゆう)もまた胴部への直撃を喰(く)らい、機体の維持が出来なくなった。

 

『豊(とよ)中(なか)さん!』

「駄目だ、これは墜ちる……!」

 

 最(も)早(はや)操縦室を射出しなければ豊(とよ)中(なか)は助からない。

 しかし、彼には未(いま)だ仕事が残されている。

 それをやり遂げるまで終わる訳には行かなかった。

 

「せめて一発、最後の任務を遂(すい)行(こう)してから……!」

 

 豊(とよ)中(なか)は光線砲を発射した。

 光の筋がカムヤマトイワレヒコを直撃し、爆煙を上げる。

 

『そこまでして同士討ちを? 何を企(たくら)んでいる?』

 

 輪(わ)田(だ)が訝(いぶか)しんだその時、カムヤマトイワレヒコを包んでいた煙が眩(まばゆ)い金色の光で粉々に引き裂かれた。

 どうやら機体が激しく発光したらしい。

 

『ぬぅっ……!?』

「日(ひの)神(かみ)回(かい)路(ろ)、発動したか。俺(おれ)の役目はここまでだ。脱出させてもらおう。見せてくれ、日本の底力を。メイド・イン・ジャパンはまだ死んでなんかいないってことを証明してくれ……!」

 

 豊(とよ)中(なか)は機体から自身の操縦室を射出させ、落下傘を拡げた。

 

『これは……凄(すご)い! 機体の力が今まで以上に漲(みなぎ)ってくるのが分かる!』

 

 日(ひの)神(かみ)回(かい)路(ろ)を発動させて、航(わたる)は手にした力に興奮しているようだ。

 そんな彼に、戦線を離脱した豊(とよ)中(なか)は必要な情報を通信する。

 

「日(ひの)神(かみ)回(かい)路(ろ)は神(しん)為(い)を大きく消耗し、長時間発動を維持することは出来ない。しかしその代わり、カムヤマトイワレヒコの機体性能を全て大幅に向上させる。一体感も、機動力も、耐久力も。中でも二つの兵装、切断ユニットと光線砲の破壊力の上昇は特に大きく、回路発動下でのそれらは特殊な通称が付けられている」

 

 カムヤマトイワレヒコは刹那にしてツハヤムスビに肉薄し、切断ユニットの刃を振るった。

 宛(さなが)ら、金色の眩い光を放つ聖剣の様だ。

 ツハヤムスビも自身の切断ユニットで受け止めようとしたが、刃が交わった瞬間にツハヤムスビのそれは罅(ひび)割(わ)れて砕け散ってしまった。

 

『何!? 莫(ば)迦(か)な!』

 

 輪(わ)田(だ)は驚(きよう)愕(がく)しながらカムヤマトイワレヒコから距離を取ろうとする。

 しかし、その際に航(わたる)からの追撃を受けて飛行具を大きく損傷した。

 

「日(ひの)神(かみ)回(かい)路(ろ)発動下に於(お)ける金色の切断ユニット『韴(ふつの)靈(みたまの)劔(つるぎ)』は地上最強の剣、どんな頑強な装甲も打ち破る!」

 

 今度はツハヤムスビが機体の安定を失った。

 それでも、輪(わ)田(だ)は持ち前の操縦技術で立て直してくるだろう。

 その前に航(わたる)は次の行動に出た。

 腕の砲口で、一時的に逃れようとするツハヤムスビに照準を合わせた。

 

「そしてもう一つ、日(ひの)神(かみ)回(かい)路(ろ)発動下に於ける光線砲は『金(きん)鵄(し)砲(ほう)』と呼ばれ、立ちはだかる全ての敵を圧倒的な光の威力で捻(ね)じ伏(ふ)せる!」

 

 カムヤマトイワレヒコの腕の砲口から凄(すさ)まじい光の奔流が放たれ、ツハヤムスビを呑(の)み込(こ)んだ。

 そしてツハヤムスビは激しい轟(ごう)音(おん)と共に爆発四散、脅威の機体は銀座の空から跡形も無く消え去った。

 

「やった……か……」

 

 緩やかに下降する中で、豊(とよ)中(なか)は安(あん)堵(ど)して胸を撫(な)で下(お)ろした。

 結局自衛隊機は残らず撃墜はされたものの、彼を初めとして何人かは生き残っている。

 しかし、直後に緊迫した航(わたる)の声が豊(とよ)中(なか)の元に届いた。

 

『まだ終わってない! あいつ、脱出しやがった!』

「なんだと!?」

 

 再び緊張が走った。

 周囲に意識を向けると、確かに壱(いつ)級(きゆう)のものとは異なる球状の操縦室「直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)」が一つ、銀座の空を緩やかに降下している。

 どうやらカムヤマトイワレヒコの「金(きん)鵄(し)砲(ほう)」で狙われた際、さっさと機体に見切りを付けて脱出していたようだ。

 輪(わ)田(だ)は引き際の見極めに掛けても超一流の操縦士だった。

 

 そして、ツハヤムスビを斃したカムヤマトイワレヒコの発光は収まっていた。

 日(ひの)神(かみ)回(かい)路(ろ)は維持出来なくなり、通常の状態に戻ったのだ。

 同時に、南の空から数機の敵影が確認された。

 輪(わ)田(だ)の部下の駆る超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・ミロクサーヌ零(れい)式(しき)が今追い付いてきたのだ。

 

「こちら豊(とよ)中(なか)隊。銀座上空にて敵機撃墜。操縦士は操縦室と共に脱出降下。直ちに確保に……」

『駄目だ!』

 

 輪(わ)田(だ)の身柄拘束を要請しようとした豊(とよ)中(なか)だったが、航(わたる)の制止が入った。

 

『皇(こう)國(こく)の敵は生身でも化物みたいに強いんです! 警察や普通の自衛官じゃ捕まえるどころかみんな殺される!』

「じゃあどうするんだ! 奴(やつ)が市街地に降り立ったら国民が危ない!」

『僕(ぼく)に心当たりがある。根(ね)尾(お)さんに連絡して、対処出来る神(しん)為(い)の使い手を向かわせて貰います。それから、僕(ぼく)の方は敵の援軍を迎え撃ちに行きます』

 

 カムヤマトイワレヒコは南の空へと飛んで行った。

 豊(とよ)中(なか)達自衛官の見守る中、敵の直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)が不気味な存在感と共に東京の街中へと降下していく。

 銀座防衛戦は第二の局面を迎えようとしていた。




次回更新予定:4月16日(水)
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