日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第六十三話『高御產巢日』 破

 為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)には機体に悪影響を及ぼす波動を相(そう)殺(さい)する機能が備わっている。

 これは人型の形状のまま超音速の飛行を可能にするだけでなく、レーダーなどによる探知も完全に防いでしまう。

 この機能に因(よ)って、為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の探知は視覚や聴覚、或(ある)いは触覚などといった人間の五感、更にはそれらを超えた第六感に頼らざるを得ない。

 

 それ故、為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)同士の戦いでは侵攻側の上陸を防ぐことが非常に難しい。

 感覚では、余程優れた能力が無い限り敵機の正確な位置を割り出し辛(づら)いからだ。

 これは緒戦に於(お)いて、日本国は首都東京に大いなる災いを齎(もたら)した。

 

『せやけど、今はその探知の精度が上がっとる。なんでやと思いますか、岬(さき)守(もり)さん?』

 

 日本国と皇(こう)國(こく)に挟まれた海「皇(こう)海(かい)」上を飛行しつつ、超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヤマトイワレヒコ内の航(わたる)は同行する自衛隊の川(かわ)西(にし)一(かず)徳(のり)三佐に関西弁で問い掛けられた。

 

「探知員の人数を増やしたから……ですか?」

『それもあります。一人一人の感知した位置情報は曖昧でも、そのデータが多ければ推定はより正確になりますからね』

「つまり、もっと他に理由がある、と?」

『はい。ずばり最大の改善は探知の拠点を増やしたことです』

 

 そこにこそ、今回航(わたる)と川(かわ)西(にし)隊の七名が防衛に出撃した最大の理由があった。

 

『梅(うめ)田(だ)一佐は上と掛け合うて、太平洋側の離島に存在する防衛基地のうち三箇所に神(しん)為(い)を身に付けた自衛官を派遣し、皇(こう)國(こく)から飛来しよる敵機の情報を先行して感知する態勢を整えました。その三拠点とは奄(あま)美(み)大(おお)島(しま)、父島、そして硫黄島です。南鳥島は皇(こう)國(こく)から近過ぎるっちゅうことで断念しています』

 

 航(わたる)は背筋に冷たいものが拡(ひろ)がる気持ちがした。

 今回、敵が迫っているという硫黄島はどうやら敵機の襲来を探知する重要拠点らしい。

 此(こ)処(こ)が敵に占領されるという意味は重大だった。

 

『もし、敵が硫黄島に上陸し、基地を占領してしもうたら、敵機探知能力に重大な支障を来す。しかもそれだけやなく、最悪なんは敵がその事実、離島の基地を探知の拠点にしていることを知ってまう可能性が高いことです。そうなってまうと、敵は他の離島を積極的に狙ってくるでしょう。つまり、今のレベルの攻勢を防ぐことは出来なくなる。本土はあっちゅう間に敵機によって蹂(じゆう)躙(りん)されてまうでしょう』

 

 梅(うめ)田(だ)健(けん)次(じ)郎(ろう)一佐としては、考えられる戦力を可能な限り投入して、何としてでも硫黄島上陸の前に敵機を撃破したい状況だった。

 

「させませんよ、そんなこと」

『よっしゃ、その意気や。そして安心してください。貴方(あなた)のことは絶対に死なせません』

 

 航(わたる)は自分に言い聞かせる様に宣言した。

 今まで全員を生還させている川(かわ)西(にし)三佐の言葉も頼もしい。

 だが航(わたる)の言葉は不安の表れでもあった。

 

(この感覚……ヤバい奴(やつ)が来ているかも知れない)

 

 朧(おぼろ)気(げ)ながら、航(わたる)は敵機の中に一際大きな存在感を気取っていた。

 過去の嫌な経験が複数絡み合い、まだ見ぬ彼方(かなた)から異様な不気味さを受信していた。

 為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)そのものの気配は数日前に戦った特(とつ)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・ツハヤムスビと似る。

 その内部からは、嘗(かつ)て帰国直前に戦った皇族、第三皇女・狛(こま)乃(の)神(かみ)嵐(らん)花(か)を思わせる威圧感が認められる。

 

(この桁違いの神(しん)為(い)……まさか……)

 

 航(わたる)は二日前、早(さ)辺(え)子(こ)との交戦中に言われたことを思い出した。

 次は皇族軍人である第二皇子・鯱(しやち)乃(の)神(かみ)那(な)智(ち)が相手になると、確かに早(さ)辺(え)子(こ)はそう言っていた。

 疑惑が確信に変わっていく。

 どうやら早くも予告の時が来たのだ。

 

「とはいえ、やるしかない」

 

 航(わたる)は揺るがない、揺らぐ訳にはいかなかった。

 手に汗握る緊張と死闘の覚悟を胸に、航(わたる)は川(かわ)西(にし)隊の壱(いつ)級(きゆう)十機と共に硫黄島へ向かった。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 一方、極(きよつ)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・タカミムスビに搭乗した鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は、友軍として超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・ミロクサーヌ零(れい)式(しき)を二十機引き連れて硫黄島へ向かっていた。

 

「来たな、『金(こん)色(じき)の機体』、岬(さき)守(もり)航(わたる)!」

 

 皇族特有の強大な神(しん)為(い)を持つ鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は、次元の違う感知能力で遥(はる)か遠方から迎撃に向かって来る敵の正体を正確に見抜いた。

 航(わたる)がこれ程までの敵の正体を朧気に感じる程度であったのに対し、如(い)何(か)に鯱(しやち)乃(の)神(かみ)の神(しん)為(い)が規格外か解(わか)る。

 

「総員、戦闘準備。二五〇秒後に敵機と遭遇する。敵は超(ちよう)級(きゆう)『金(こん)色(じき)の機体』と壱(いつ)級(きゆう)十機。一時の方向に旋回し迎え撃つ」

『了解しました』

 

 特別機一機と超(ちよう)級(きゆう)二十機が一時の方向に向きを変えた。

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は敵の位置すらも正確に見抜いている。

 更に、双方の戦力差は日本国側に圧倒的に不利であった。

 

『殿下、意見具申いたします』

「囃(はや)子(し)中尉、どうした」

『どうやら殿下は金(こん)色(じき)の機体との一騎打ちを御所望とお見受けします。この場は二手に分かれ、分隊は方向転換し本土への上陸を目指すのは如何でしょう。敵壱(いつ)級(きゆう)のうち何機かは誘(おび)き寄(よ)せられるでしょう』

「駄目だ。気持ちは有難いが任務の成功が最優先だ」

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)とて、輪(わ)田(だ)を超える為(ため)にも輪(わ)田(だ)が一人で対(たい)峙(じ)し斃(たお)せなかった「金(こん)色(じき)の機体」と一人で戦いたい想(おも)いは否めない。

 しかし、彼は同時にそんな私情を軍人としての任務に優先する男ではなかった。

 だが彼を取り巻く状況は普段と少し違う。

 

『行かせてやれば良いではありませんか、殿下』

『輪(わ)田(だ)隊の奴ら、今更になって怖(お)じ気(け)付(づ)いたんですよ』

『金(こん)色(じき)の機体には輪(わ)田(だ)少佐だけでなくこいつらの仲間も為(な)す術(すべ)無くやられた訳ですからね』

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)の部下である鯱(しやち)乃(の)神(かみ)隊の華族軍人達が元輪(わ)田(だ)隊の兵達を侮辱し始めたのだ。

 売り言葉に買い言葉で、元輪(わ)田(だ)隊も反論する。

 

『寧(むし)ろお前らに雑魚(ざこ)を譲ってやろうというのが解らねえのかよ』

『俺(おれ)達が金(こん)色(じき)の機体をお前らに譲る訳ねえだろ』

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は頭を悩ませた。

 すぐにでも戦闘は開始されるというのに、味方内で不和を起こしている場合ではない。

 

「仕方が無い……囃(はや)子(し)中尉、君(きみ)が言い出したことだ、元輪(わ)田(だ)隊は君(きみ)の進言通り本土へ向かえ。目標へは鯱(しやち)乃(の)神(かみ)隊のみで向かう」

『……承知しました』

 

 囃(はや)子(し)を始めとした元輪(わ)田(だ)隊の十機が更に方向を変えて離脱した。

 

(私(わたし)は何をやっているんだ……。輪(わ)田(だ)への対抗意識が部下に伝(でん)播(ぱ)して隊内の不和を招き、「金(こん)色(じき)の機体」への執着を看破されて指揮に支障を来してしまうとは……)

 

 ここから先、鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は元々の己の部下のみで戦いに挑むことになる。

 だが隊内の精神状態としては元輪(わ)田(だ)隊の面々と共にしたことで悪くなっている。

 これは上層部の采配ミスと言えよう。

 

(まあ過ぎたことを悔やんでも仕方が無い。要は私(わたし)が「金(こん)色(じき)の機体」を斃(たお)せば良いのだ)

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は決戦に備えて気を引きしめ、前方に注意を向けて様子を探る。

 すでに衝突まで一分も無いだろう。

 愈(いよ)々(いよ)、彼にとって待ちに待った試練の時が訪れるのだ。

 

 しかし、すぐに鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は二つの違和感を察知した。

 まず、前方の敵機部隊の動きがおかしい。

 それに、その遥か先からもう一部隊飛来している。

 

「囃(はや)子(し)中尉、其(そ)方(ちら)の前方から新手が近付いている。おそらくは超(ちよう)級(きゆう)七機」

『承知しました。お任せください、横(よこ)槍(やり)は決して入れさせません』

「いや、それだけではない。どうやら一機、其(そ)方(ちら)に誘き寄せられている」

『僅(わず)か一機ですか。作戦通りですが、舐(な)められたものですね』

「いや、違う!」

 

 この時、既に鯱(しやち)乃(の)神(かみ)隊は敵影を目視で確認していた。

 それは相手側にとっても同じだろう。

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)が先んじて受け取った違和感を部下達も知ることとなっている。

 

『おい、金(こん)色(じき)の機体の姿が無いぞ!』

『どういうことだ? 壱(いつ)級(きゆう)十機だけで我々の相手をする気か?』

『舐めおって!』

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)隊のうち七機が命令を待たずに速度を上げた。

 経験の薄い操縦士が駆る格下の機体相手とあって、勝ちを確信して意気揚々と突っ込んでいったと行った様子だ。

 三機だけは冷静に鯱(しやち)乃(の)神(かみ)に続いている。

 

「汎用機では『金(こん)色(じき)の機体』は荷が重い。何も出来ずに殲(せん)滅(めつ)されかねんな。枚(ひら)辻(つじ)少尉、この場は任せる。私(わたし)は囃(はや)子(し)達の後を追う!」

『わ、解りました!』

 

 激突まで残り十数秒といった状況下で、鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は自機「極(きよつ)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・タカミムスビ」の進路を急旋回させた。

 

「何を考えている『金(こん)色(じき)の機体』、岬(さき)守(もり)航(わたる)! この私(わたし)に恐れを成したか! それとも、壱(いつ)級(きゆう)で充分などと愚弄しているのか!」

 

 斯(か)くして、硫黄島近隣の上空では壱(いつ)級(きゆう)十機と超(ちよう)級(きゆう)十機が火花を散らそうとしていた。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 

 一方、自衛隊側ではギリギリで敵が動いてくれたことに川(かわ)西(にし)三佐が一人安(あん)堵(ど)していた。

 

「どうにか上(う)手(ま)いこと行ったみたいやな。みんな、あとは今まで通り、死なんように回避重視で隙を窺(うかが)って気張りや!」

『はい!』

 

 結論から言うと、土壇場で航(わたる)にこのような指示を出したのは川(かわ)西(にし)だった。

 まず、敵が二手に分かれたことを察知したのは航(わたる)であった。

 その情報を受けた川(かわ)西(にし)は、同時に新型試作機を受け取った豊(とよ)中(なか)隊や池(いけ)田(だ)隊が追い掛けてきたという情報を掴(つか)んだ。

 これを受け、一つの賭けに出たのだ。

 

 日本国にとって真に最悪の事態とは、別れた敵部隊の一部が本土、それも東京に上陸してしまうことである。

 カムヤマトイワレヒコが島(とう)嶼(しよ)防衛に出ている状態で上陸を許してしまうと銀座の時以上の被害になりかねない。

 頼みの綱は後から出撃した新型試作機七機だが、本土に向かった十機に対して数的不利という不安要素は否めない。

 

 そこで、川(かわ)西(にし)は敢(あ)えてカムヤマトイワレヒコを本土に向かった分隊の追撃に向かわせた。

 そうして、絶対に防がなくてはならない分隊の進行に対して前後から挟み撃ちする形を取った。

 更に、もう一つの目(もく)論(ろ)見(み)は、敵のうち様子の違う大型一機を残る敵部隊から引き離すことだ。

 敵がカムヤマトイワレヒコを警戒していない筈(はず)が無く、妙な動きがあれば放っておかないだろうという算段は付いていた。

 

(ま、追ってくれんかったら俺(おれ)らは一巻の終わりやったけどな。それに十機対十機でも壱(いつ)級(きゆう)と超(ちよう)級(きゆう)やと不利なんは変わらへん。しかし俺(おれ)らさえ持(も)ち堪(こた)えたら、まずは敵の分隊を新型と超(ちよう)級(きゆう)で挟み撃ち、続いてあのごっつい特別機を各個撃破して合流してもらえるっちゅう訳や。で、持ち堪えるんやったら俺(おれ)らの得意分野やで)

 

 硫黄島の東約七十キロの上空で、自衛隊機壱(いつ)級(きゆう)十機と皇(こう)國(こく)機超(ちよう)級(きゆう)十機が既に戦闘を開始していた。

 しかし、自衛隊側からは殆(ほとん)ど攻撃していない。

 只管(ひたすら)に回避に専念している。

 

「良し、ええで。このまま奴らを硫黄島にだけは行かせるな」

『了解です、川(かわ)西(にし)三佐!』

 

 そんな遣(や)り取(と)りの最中、早速痺(しび)れを切らした敵超(ちよう)級(きゆう)のうち二機が急旋回して硫黄島へと進路を取った。

 自衛隊機はそれを見逃さず、空(す)かさず狙撃。

 二機は迂(う)闊(かつ)にも敵に後を見せ、あっさりと撃墜されてしまった。

 

「よっしゃよっしゃ。いつもどおり、この調子で我慢比べや」

 

 斯くして、日本戦争の行く末を占う重要な一戦「硫黄島防衛戦」の火蓋が切られた。

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